239 交代
■交代■
ホテル・ベネチアン・ベルメール東京では、明日の女子異種格闘技世界一を決めるイベント、レジーナの前夜祭が始まっていた。
わいわい・・・。
がやがや・・・。
ぴーーーっ。
マイクのハウリングが会場に響いて、ホストが壇上に上がった。
「さぁ、みなさん、宴たけなわですか、ここで、明日の夜を盛り上げてくれる選手の皆さんを紹介していきたいと思います」
ひゅーーーっ。
「いいぞぉ!」
「どうも、どうも。まずは、去年のチャンピオン、合衆国は、キャサリン・グリーン選手の登場です!」
「わぁーーーっ!」
たったった・・・。
軽快なステップで、去年のレジーナの女王、キャサリン・グリーンがホストの横に駆け上がった。
ぱちぱち・・・。
「わぁーーーっ!」
キャサリンは褐色の健康そうな顔をほころばせた。
「はぁーい!」
「わぉーーーっ!」
「キャサリン、今年も、ようこそ。きみは第一人気の大本命だけど調子はどうだい?」
きーーーんっ。
マイクがまたハウリングを起こした。
「最高よ。みんな、ぶっ飛ばしてやる!きーーーんってね!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「おおーーーっ!」
ぱちぱちぱち・・・。
「必殺の右フックでノックアウトシーンを見たいってファンは多いんですが、接近戦に持ち込むのも容易じゃないですよね?」
「バカにしてんの、あんた?」
びゅんっ。
キャサリンは右フックを寸前で止めた。
「ひゃあっ!」
ホストは思わず目をつむった。
--- ^_^ わっはっは! ---
「わはははは・・・」
会場は爆笑の渦となった。
「わ、わかりましたってば。じゃ、明日は期待してるよ、キャサリン」
「OK。OK!]
「では、続きまして、昨年の準優勝、EU代表、ニコレット・バンジ選手!」
「わぉーーーっ!」
ぱちぱちぱち・・・。
レジーナの登場選手、壇上で次々に紹介されていった。
「そろそろだぜ、ジェニー」
「わかってるわ・・・」
そこに、ホストがジェニーを手招きして、壇上に上がるよう促した。
「さて、次は、今年、初登場のZ国、ジェニー選手。さぁ、こっちに」
「どうも、Z国のジェニーです」
ぱちぱちぱち・・・。
ジェニーは、細身のすらりとした肢体を協調するドレスで、会場を魅了した。
「わぁーーーっ!」
「ナイス・ドレスですよ、ジェニー」
「キックもナイスだけどぉ?」
くるっ。
ジェニーは会場を振り返った。
「ボクで・・・、試すの?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わっはっは!」
「あっはっは!」
「いいわよ。避けれたら、キッスしてあげるわ」
「・・・」
明らかに、ジェニーはホストの好みのタイプではない様子だった。
「なによ、その沈黙!」
へらへら・・・。
「いやぁ、一応、ホストは選手との深い関係はご法度でして・・・、特に、ギャラ受け取り前には・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あっはっは!」
「わっはっは!」
会場は爆笑となった。
ホストの選手の紹介は続いた。
「次は、去年の準決勝で、おしくも敗退したラトアニアは、クリス・ニジンスカヤ選手。今年は新必殺技を引っさげてのリベンジです」
「わぁーーーっ!」
すたすた・・・。
ぺこり。
にこっ。
クリスチナな、衣裳にに似合わぬほど優雅に壇上を上がると、一礼し、参加者に最高の微笑みを送った。
「おおおおーーーっ!」
それが、逆に女性らしさを協調することになった。
ぱちぱちぱち・・・。
「どうも、みなさん、一年ぶりです」
「クリスーーーっ!」
「いやぁ、すごいね、きみの人気も!」
「あなた、ありがとう!」
ちゅっ。
クリスは、大声で彼女の名前を呼んだ男に、投げキッスをした。
「わぉ!」
「えへへへへ・・・」
キッスを投げられた男は、顔をぐちゃぐちゃにした。
--- ^_^ わっはっは! ---
「今年こそは、優勝を狙うんだろ、クリス?」
「もちろんよぉ!」
「わぁーーーあ!」
「しかし、きみはモデル業もこなしてるって言うけど・・・」
レジーナの選手の中では、飛び抜けて美人のクリスは、会場でも大人気だった。
「わかるぅ?」
クリスチナはジェニー・Mを見て、ウィンクした。
ぴきーーーんっ。
「あの、女ぁ・・・!」
ジェニーは初出場とは言え、実力の割には人気がなかった。
「おおーーーっ!」
ぱちぱちぱち・・・。
「モデルって、ホントなんだぁ?」
ぱっぱっ・・・。
ホストは、会場を見渡して、大袈裟にアピールした。
「あは。たまたまよ。本業はコレだから」
ぐぃーーーんっ。
クリスは、壇上に並んだ選手たちに向かって、拳を突き上げた。
ぴきっ。
ぴきっ。
ぴきーーーんっ。
「この女ぁ・・・」
「ぶっ殺してやるわ・・・」
「八つ裂きにしてやる・・・」
これ一つで、クリスは出場選手たちの反感を一手に買った。
「マム。クリスチナは、早速、敵を量産したようですね」
ジョバンニが、クリスチナのホテルで、アンデフロル・デュメーラの実況中継を見ながら感想を述べた.
「リーエス。人を怒らせる天才ね。フォローが大変だわ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ノー、マム。あれは、試合前の駆け引きです」
「そぉ?」
「イエス、マム」
「顔を合わせて、闘志を高めるのは良しとして、ジョークで頭に来るのは、致命的なミスです」
「でも、試合は明日よ」
「だからです、マム。忘れようにも、忘れない」
「なるほど。じゃ、わたしは、違う印象を与えようかな・・・」
「違う印象?」
「リーエス。恐怖よ・・・」
にやっ。
ぞくっ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「そろそろ、クリスチナと交代の時間です」
ジョバンニは時計を確認しながら言った。
「リーエス。彼女がお手洗いに入ったら、交代するわ。下に下りるわ」
「イエス・マム。オレはここに」
「頼むわよ」
ぽわーーーん
クリステアの周囲が白く光り、あっという間に、クリステアはいなくなった。
パーティー会場の丸テーブルの一つで、ホストがクリスチナと話していた。
「ちょっと、失礼」
「どこに行くんだい、クリス?」
にこっ。
「男性の入れないところよ」
にたっ。
「じゃあ・・・、オレ、今日からオカマになるってのは・・・?」
ぴきっ。
すっ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「そんなになりたいなら、すぐにでも、オカマにしてあげようかぁ・・・」
クリスは右足をおもむろに上げると、いつでも金的蹴りできるように、ほのめかした。
「やっぱり、考え直します・・・」
にやっ。
「ふふ。それがいいわ。ふふふ。じゃぁ・・・」
クリスチナは可笑しそうに言うと、お手洗いに消えていった。
ぱーんっ。
「タッチ!」
「オッケー!」
お手洗いでクリスチナとクリステアは交替した。
「それ、着けてなさいよ」
クリステアはケープと伊達眼鏡をクリスチナに渡した。
「あなたは、わたしのイメージを壊さないでよ」
にこっ。
「大丈夫、強化してあげるだけだから」
びゅっ!
クリステアの左ストレートは、連戦練磨のクリスチナさえまったく見えなかった。
ふぉわっ。
クリステアのパンチでクリスチナの髪が舞った。
「・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「じゃあね」
「あ、うん・・・」
クリスチナはクリステアがとんでもない実力者であることを思い知った。
「クリス、遅かったな」
ホストは明らかにクリス・ジニンスカヤをマークしていた。
「お化粧直しには、時間がかかるのよ」
「うーーーむ・・・」
「どうしたの?」
「さっきとドレスが違うようだけど・・・?」
「そりゃ、そうよ。お化粧直しだもの」
--- ^_^ わっはっは! ---
にたっ。
「きみは、結婚披露宴の花嫁のつもりかい?」
ホストは、クリステアのすぐ横に、息がかかるくらい近寄って来た。
「あなた以外のね」
「えーーーっ、そりゃ酷い・・・!」
--- ^_^ わっはっは! ---
ぱさっ。
クリステアは、軽くその手を払うと、彼女と話したがっている人間に向き直った。
くるっ。
「そういう格好も似合ってるよ、クリス」
「どうも、ありがとう」
つかつか・・・。
「いい気にならないでよ」
ばちばちっ。
クリステアの前にジェニー・Mが立ちはだかった。
「ああ、ジェニー、お久しぶり」
「久しぶりですって?はっ!さっきは、壇上で、よくもバカにしてくれたわね!」
「なんのこと?」
「おやおや、早くも、前哨戦かい?」
「セルジ、あなたは、引っ込んでいて」
「そうそう。おっさんはどいてな。ケガするよ・・・」
ぐいっ。
ジェニーはセルジを押しのけた。
「あなた、とぼけるつもり?」
ジェニーはいまにもクリステアにつっかからんばかりだった。
「おいおい、ここで始めるつもりかい?試合は明日だぜ」
セルジはなおも二人を止めにかかった。
びゅんっ。
突然、ジェニーの上段蹴りが炸裂したかに見えた。
ぱしっ。
「ふふ、ご挨拶ね・・・」
ジェニーの足はクリステアの顔の2センチ前で止まっていた。
「指1本で止めてる・・・」
セルジはクリステアに目を見張った。
「いつのまに・・・」
そこにいた人間は、ジェニーも含め、クリステアの動きがまったく見えなかった。
がしっ。
ぐいっ。
「く・・・」
クリステアは、ジェニーの足首を掴み直すと、ゆっくりと上にあげていった。
「な、なにを・・・」
ぐいぐい・・・。
クリステアの腕は、まるで重機のように強くゆっくりと上がっていった。
「おおーーーっ」
「そこだぁ・・・」
ジェニーの足首まであるドレスが徐々にめくれていき、会場の男性たちからその後を期待する声があがった。
--- ^_^ わっはっは! ---
「く・・・」
ジェニーはまったく抵抗できなかった。
「教えてあげるわ、ダンスの仕方・・・」
ぐいぐい・・・。
ぴーーーん。
ジェニーは、最早バレリーナのように片足を真っ直ぐ天井に向けて、立ってられないほどに上げていた。
「おお・・・」
「それ、もう少し・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
ジェニーもそれに気づき、右手でドレスがこれ以上めくれないように押さえ込んだ。
「クリス、もう少しだ・・・」
「頑張れクリス・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「こいつら、なに応援してるんだぁ?」
「クリスでしょ、もちろん・・・」
その成り行きを見ていた、キャサリンたちは、あきれ返った。
--- ^_^ わっはっは! ---
ぐいっ。
「きゃあっ!」
くるくるっ。
クリステアは最上部で軽く腕を回すと、ジェニーは空中で見事に伸身で3回転し、3メートルは離れていたホストの前でひっくり返り、ホストを押し倒して、パンツ丸出しになった。
ずっでーーーんっ。
--- ^_^ わっはっは! ---
ぱっ。
ジェニーが身体を起こそうとする前に、クリステアはそこにいた。ジェニーはホストの上に乗っかかったまま、動けなかった。
「あっ・・・!」
「ふふふ。下手っぴいだこと。ウルトラE難度だけど、着地は0点だわ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ちくしょう・・・」
ささっ。
ジェニーはすぐにスカートを調えた。
「パンツが見えた分、得点はプラスになるかしら?」
にこっ。
「いいぞ、満点だ。クリス!」
「ジェニー、10.0だぞぉ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
男性参加者みな大いに喜んだ。
「こ、殺し・・・」
ひゅっ。
「おっと、今日はもうベッドで大人しくしてた方がいいわよぉ」
クリステアの拳がジェニーの鼻先で止まっていた。
たらーーーっ。
「く・・・」
ジェニーは、クリステアの動きのただの一つも、見極めることができなかった。
「クリス、そのくらいにしとけよ」
セルジが心配そうに言った。
「いいわよ・・・」
たったった・・・。
「ジェニー、なにをしてる?」
そこにリッキー・Jが駆けつけて、彼女を助け起こした。
「きみ、大丈夫か?」
リッキーはジェニーの下敷きになったホストの手を取り引っ張り起こした。
「ああ、大丈夫だ・・・」
「リッキー・・・」
ジェニーはリッキーが怒っているのがわかった。
「私情に走って、わが国のイメージを貶めるんじゃない」
「ふん、覚えてらっしゃい!」
くるっ。
ジェニーは踵を返すと、出口に向かった。
「すっげぇなぁ・・・」
「格段にパワーップしたんじゃないか?」
クリステアの一連の動作に、去年の彼女を知る人間たちはびっくりした。
「ふふふ。トレーニングはまじめにしてるから」
クリステアの答えに、みんなが納得した。
「こりゃ、ダークホースどころか、本命じゃないか・・・」
「まぁ、見てて、あしたの夜をね」
クリステアはそう言うと、その場を離れていった。
「おーい、クリス!」
「セルジ、ちょっと席を外すわ。他の出場者の相手でもしてくれない?」
「情報か?」
「そう。なにか面白いものが手に入るのを期待してるわ」
「わかった。むちゃはするなよ」
「はい、はい・・・」
セルジはキャサリンたち、去年の決勝のメンバーのテーブルに向かった。
すたすた・・・。
「待ってくれよ、クリス」
「なにか用?」
「随分じゃないか・・・」
ホストはクリステアを尊敬の眼差しで見た。
くるっ。
「じゃ、お酒でも?」
「あ、うん。いいね。なにがいい?」
「一番強いヤツ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「え?」
「聞こえたでしょ?一番強いのが欲しいの、ストレートで」
「テキーラはないよ」
「40度以上ならいいわよ。一気でしたいの」
「き、きみが、一気で・・・?」
「おかしい?」
「ははは・・・。こりゃいい。気に入ったよ」
「あなたと勝負してもいいわよ」
「勝負?」
「ええ。あなたが勝ったら・・・」
「勝ったら・・・?」
「女に、最後まで言わせる気・・・?」
にこっ。
--- ^_^ わっはっは! ---
クリステアはホストにウィンクした。
「じゃ、スコッチでいいのかい?」
「そうよ。あなたが、もらってきてよ」
「あ、オッケー・・・」
ホストはドリンクサービスのコーナーに足早に向かった。
(えへ。クリスチナと交替しよ・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
クリステアは、気づかれないように伊達眼鏡を用意すると、お手洗いに向かった。
「タッチよ」
ぱしっ。
「妙なことしなかったでしょうね?」
にこっ。
「するわけないでしょ。あなたの株を上げておいてあげたわ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「どうだか・・・」
「あ・・・。そう言えば、あのオフィシャルのホスト、あなたに相当気があるみたいよ。さかにんにアプローチしてきたわ。孔雀の雄鶏よろしくね」
「ええ?」
「けっこうハンサムじゃない?」
「あんなのが趣味なの、クリステア?」
「趣味ってわけじゃないけど、オフィシャルは味方にしとくべきじゃない?」
「よしてよ」
「いい、クリス?うんと宣伝して欲しいなら、彼ほど強気味方はいないわよ」
「わかったわよぉ・・・」
「じゃあね。楽しんでらっしゃい」
「はい。はい・・・」
クリスチナはクリステアとホストの賭けは知らなかった。