232 機嫌
■機嫌■
「なぁに、あれ・・・?」
事務所の人間たちは、俊介とアンニフィルドの様子をじっと見守っていた。
「ユティス、アンニフィルドが机をへこませちゃったぞ・・・」
二宮がさして驚くでもなく言った。
「相当お怒りのようですわ」
「アンニフィルドったら、すごい馬鹿力・・・」
「て、言うより、アンニフィルド、いつから俊介の恋人になったの?」
「知らないわよ」
「えらい剣幕だけど、俊介こそ、なにかやったんじゃない、岡本?」
「茂木も、そう思う?」
「ええ」
「真紀は?」
「いなくて正解だわ。なんか、修羅場になりそう・・・」
「しかし・・・」
「また、システム室ね・・・」
「なになに・・・」
「俊介の奥の手・・・」
ひそひそ・・・。
「ふむ、ふむ」
「わぉ・・・」
「むふふ・・・。仲直りの儀式ってかぁ?」
「うん、うん。想像を思いっきり掻き立てられるわぁ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「仲直りの儀式ですか?」
ユティスが話しに加わった。
「ええ?ユティス、あなた、知ってるんじゃないの?」
「さぁ、わたくしには、検討もつきません」
「あのね、ユティス、あなたも小学校のネンネじゃないんでしょ?」
「小学校のネンネさんですかぁ?そのような方は、存じ上げませんがぁ・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あーーー、いい。とにかく、男と女がケンカした後、することと言えば?」
「お茶ですか?」
ずでで、でーーーんっ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「だーーーっ、違う!」
ぷるぷる・・・。
茂木は首を左右に振った。
「すみません。コーヒーでしょうか?」
「そうじゃないったら」
「なんで?そうなるかなぁ。ヨーロッパは日本より進んでると思ったけど・・・」
岡本は茂木に道場した。
「大人よ、ユティス。二人とも大人。わかる?」
「はい。大人ですよね、子供を作れる身体になった」
にっこり。
--- ^_^ わっはっは! ---
「そう、そう。わかってるじゃない!」
にこっ。
「システム室では、試験管とか、手術台とか、いろいろと設備が足らないと思いますが・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「はいっ?」
岡本と茂木はぶっ飛びそうになった。
「あのシステム室で、本当に子供を作れると言うんですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「できないって理由はないけど・・・」
「ムードはないわよねぇ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス・・・」
「もう、真剣に聞かないでよ、ユティス!」
「アンニフィルド、なにを、そう、ムカついているんだ?」
俊介はアンニフィルドの怒りの理由がわからなかった。
「まず、一つ。シャンパンバーやパリで、わたしの気持ちは徹底的にバレされちゃったのに、わたしには、あなたの本当の気持ちが、ぜんぜんわからない。それ、すっごく不満!」
「んなことないぞ。きみだって、オレの気持ちを読めるんだろ?それに、きみに惚れてるって言ったじゃないか?」
「昨日まではそうかもしれないけど、今日は違うかもしれないじゃない?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ほぇ?なんで、そうなるんだ?」
「毎日、言ってくれないなら、心変わりしてるってことだわ」
「そんなことがあるもんか」
「それが、二つ目。惚れてるって言ってるくせに、他の女に目移りばかりしてること!」
「してない。オレの目にはきみしか映ってない。ウソだと思うなら、覗いてみろよ」
じぃーーーっ。
俊介の瞳にはアンニフィルドが映っていた。
「そりゃ、そうよ。今、わたしがあなたの瞳を覗き込んだら、映ってるのはわたしの顔しかないじゃない」
「それも、そうだな・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「とにかく、ミニスカートのボディコンに身を包んだコンパニオン見て、ニタニタしたいんでしょ?」
「だから、それは二宮に譲ったじゃないか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「譲った?とにかく、カラオケスナックに行くのも禁止!」
「なんで?」
「みんな美人なんでしょ?」
「きみほどじゃないさ、アンニフィルド・・・」
「口だけ達者なんだから・・・。え?」
じいーーーっ。
「だから、オレにとっては、きみだけが最高だから・・・」
どきっ。
「アンニフィルド、きみほどステキな女性は、どこにもいないよ・・・」
きゅん!
ころりっ。
にこっ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ホント?」
「ホントさ。仕事上、スナックとかイベント会場には、仕方なく行くんだぜ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス。今度、そこにわたしと行ってくれる?」
すりすり・・。
「もちろんさ」
「やったぁ!」
ごろごろ、にゃん・・・。
「二宮抜きでよ・・・」
「もちろんさ・・・」
するする・・・。
ぎゅーーーぅ。
「こら、アンニフィルド、会社で抱きつくなよ。バレたら、左遷されちまうぜ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「いいじゃない。あなたは、オーナー重役なんでしょ?」
「オレはただの常務。社長は姉貴だぞ・・・」
「じゃ、自宅謹慎を希望しなさいよ、わたしと一緒に」
「なに言ってるんだ?オレたちのマンションに来るなんて、姉貴が許すわけないじゃないか。第一、きみの使命の和人たちの護衛はどうするんだ?」
「あら、自宅といったら、わたしのところに決まってるじゃない。和人もユティスも一緒よ。なにも問題ないわ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「へ?」
「うっふん・・・」
「けど、オレは寮のパスワードなんか持ってないぞ」
にこっ。
「じゃ、あげる・・・。ちゃんと忘れないで、覚えてるのよ」
「きみが決めるのかよ?」
「リーエス。『好きだよ、アンニフィルド。ちゅっ』」
「ま、待て、こらっ!なんだ、それは?」
ちゅ・・・。
アンニフィルドは本当に俊介にキッスした。
--- ^_^ わっはっは! ---
にっこにこ・・・。
すっかり機嫌を取り直したアンニフィルドは、俊介と並んで、システム室から出てきた。
「まぁ、アンニフィルドったら・・・」
「言った通りでしょ、ユティス。これこそ、俊介マジック」
--- ^_^ わっはっは! ---
「なんなんですか、岡本さん?わたくし、よくわかりません」
「怒れる乙女も、メロメロになって出てくるってことよ」
「それが、常務のマジックですか?」
和人が岡本を見た。
「その通り。中で仲直り。ちゅう(中)でちゅってね!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「・・・?」
ユティスはさっぱりわからなかった。
「ダジャレ言っても、笑いませんよ」
「おっ、和人、あなた、わたしのユーモア、洒落がわかったのねぇ。すごいじゃん。今の二宮レベルの洒落だよ」
「一応、日本人ですから・・・」
和人は岡本に遠慮がちに言った。
「謙遜しないでよぉ」
「いえ。岡本さんと違って、日本人やって、まだ23年です」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あ、それ、聞き捨てならないわねぇ。4年しか違わないって言うのにぃ。第一、女に歳のこと言うんじゃないの!」
「でも、岡本さんもみなさんも、十分お若いですよ。300歳以下には見えませんわ」
ユティスが笑顔で岡本に言った。
「300歳?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ユティス、ここは地球なんだから、SFの標準を持ってきちゃダメだよ」
「でも・・・」
「300歳てったら。人がよぼよぼのお婆ちゃんになったとして、十分に3回は生まれ変われるわねぇ・・・」
「ほら、きた。言わんこっちゃないよ、ユティス・・・。ここは地球なんだから、エルフィアや他の惑星の基準は使えないんだよ」
和人はユティスにやんわりと指摘した。
「そうですか・・・。わたくし、なんのことかよくわからなくて・・・」
ユティスは地球人の寿命がせいぜい80年ちょっとであることが、理解できなかった。
にっこり。
「いいよ。ユティス、この話はおしまい。そうですよね、岡本さん?」
じぃーーーっ。
「わかったわよ」
にこにこにこ・・・。
「はぁい、ユティス」
「リーエス、アンニフィルド」
るんるんるん・・・。
「どうでしたの、二宮さんのお仕事は?」
「どうってことないわ。それより、あなたはどうなのよ、ユティス?このまま、歳が暮れるまで、事務所で、和人といちゃついてる気?」
「まぁ、歳が暮れるまですか?」
「何日あるんだろうね?」
--- ^_^ わっはっは! ---
はっ。
「て、言うか、いちゃついてたのは、きみだろ、アンニフィルド?」
和人がアンニフィルドの陽気な声に乗ってきた。
「だって、常務のお誘いなんだもん・・・。断ったら、首になっちゃうでしょぉ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「常務さんが、アンニフィルドを首にするわけありませんわ」
ユティスが答えた。
「それもそうね」
「本当は、きみが、誘ったんじゃないのか、アンニフィルド?」
「失礼ね。エルフィア女性は、殿方にそんなことはしませんわ」
「どうだか。きみも地球に随分染まったみたいだから・・・」
むっ。
「染まりきってる上に、人まで染めようする人間に、それを言われたくないわよ!」
「なんだってぇ?」
「やる気?」
「和人さんもアンニフィルドも、お止めください」
「ごめん・・・」
アンニフィルドが先に謝った。
「きみが先に仕掛けたんだろ?」
「んもう、お止めください、和人さん!」
ユティスが久しぶりに強く言った
「ご、ごめん・・・」
「いいですか、お二人とも・・・?」
「リーエス」
「はい」
「わたくしは、エージェントとして、地球の支援に来たのです。それなのに、コンタクティーとSSがいがみ合ってどうするのですか?これでは、トルフォ理事他、反対派の方たちの思う壺ではありませんか?思い出して欲しいですわ。お二人の相性は軽く80%を軽く越えてますのよ・・・」
しゅん・・・。
「仰せの通りです・・・」
「おまけに、反対派の方たちは、Z国と情報をやりとりしようとなさっています。もし、これが事実でしたら、委員会憲章に対する重大な違反です。エルフィアの信用は、この地球だけでなく大宇宙に対しても、失われることになるのですわ」
「わかってるわよ、ユティス・・・」
「ごめん。きみが一番大変なのに、オレ・・・」
にこっ。
「では、仲直りしてください」
「仲直り?」
「もしかして、システム室に行かせる気?」
「和人とやっちゃって、いいの、ユティス?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ナナン。ここで、お互いに抱き合って、ホッペにキッスしてください」
「ええ?」
ぐいっ。
「じゃ、いくわよ、和人」
ぎゅっ。
ちゅ。
「あ・・・」
「おしまい。さ、水に流したわ」
それを見ていた社員たちは驚きを隠せなかった。
「ねぇ、見た、今のぉ・・・?」
「ええ・・・」
「ウチの会社、どうなっちゃたのぉ?」
「ホント、昼真っから、男女が抱き合っちゃって・・・」
「殴りあう方がいいのか?」
ぎょっ・・・。
俊介が岡本と茂木の間に入った。
「そっちも見てみたいものね」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あ、姉貴!」
真紀が事務所に戻っていた。
「帰ってたのかぁ・・・」
「俊介、うちは自由奔放なのがモットーだけど、うら若き乙女が何人もいるんだから、少しは考えてよ。世間一般の会社なら厳重処分もんよ」
真紀が早速文句を言った。
「オレのせいかよ?」
「アンニフィルドに責任を負わせる気?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「男らしくないわね、俊介」
岡本も発砲した。
「岡本ぉ・・・」
俊介は岡本に文句を言いかけた。
「わたしや茂木ならいざしらず、石橋だっているんだからね・・・」
「だから、避難場所にシステム室があるじゃないか」
--- ^_^ わっはっは! ---
「避難場所?なによ、それ、俊介?」
「オレは、潔白だ!なんなら、アンニフィルドに聞いてみろよ!」
「あ、そう。じゃ・・・」
すたすたすた・・・。
岡本はアンニフィルドの側に寄った。
「アンニフィルド?」
(はぁ・・・。いいなぁ、ユティス、公認の仲になれて。わたしも俊介とそういう間柄になりたいものねぇ・・・)
とろーーーん。
「なぁに?」
「俊介となにかあったぁ、システム室で?」
「俊介とぉ?」
「そう、俊介と・・・」
「なにもなかったよな、アンニフィルド?」
にこっ。
俊介がアンニフィルドに微笑んだ。
じぃ・・・っ。
どきっ。
かぁ・・・。
「俊介・・・」
ぽっ・・・。
「リーエス・・・。なにもないわ・・・。まだ、なにも・・・」
「ほれ、言った通りだろ?」
「たぶん・・・」
じぃーーーっ。
うっとり。
「たぶんって、どういうことよぉ?」
「とても残念だけど・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「黒ね・・・」
「しっかり・・・」
岡本は真紀に頷いた。
「裏切り者ーーーぉ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
俊介の叫び声に、事務所中が振り返った。