231 対策
■対策■
クリステアの提案を聞いて、俊介は二宮を呼んだ。
「おい、二宮。明日の午後、すべて予定をキャンセルできるか?」
「夜もですか?」
ぴきっ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「おまえの夜のスケジュールを埋めてくれる女がいるのか、アホ!」
しゅん。
「イザベルちゃんとのデートが・・・」
「わーーーった。情けない声を出すな。そんなには、かからん。6時までだ」
「OKっすが、ラブリー・エンタープライズの件、午前中に客先へ用件を確認しに行っときたいんっすけど・・・」
「ラブリーの件なぁ・・・」
にまぁ・・・。
「常務、行きたいんでしょう?」
「バ、バカ言え!」
「一人じゃ、無理っすよぉ。マーケティング・エンジニアが要ります」
「今、出せそうなのは、石橋くらいしか、おらんが・・・。あいつは、A社の件で忙しそうだからなぁ・・・。うーーーむ・・・」
「というより、石橋に頼むと、真紀さんがうるさく言いませんか?」
「萌えと言った途端、平手打ちが飛んで来ること間違いないな・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「誰かいないんすっかぁ・・・?」
「うーーーむ。弱った・・・。なんで、ウチには女性エンジニアしかおらんのだ?」
つかつか・・・。
「こら、俊介!今、女をバカにしたでしょ?」
それを目ざとく聞きつけた、アンニフィルドが二人のそばにやって来た。
「そんなことしてないぞぉ」
「どうして、女じゃダメなのよ?たかだか、マーケティング・エンジニアぐらいでさ」
「待てよ、アンニフィルド。きみが頭を突っ込んでくると、ロクなことにならん」
「まぁ!言ったわね!」
「じゃ、きみが二宮と行ってくるか、ラブリーに?」
にたにた・・・。
俊介が意味ありげに笑った。
「アンニフィルド、ホント?」
二宮も俊介に倣った。
にたぁ・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
ぞくっ・・・。
「なによ、二人して、そのいやらしい目つきは?」
「なぁーーーんも」
「アンニフィルド、明日の午前、時間空いてる?」
「わたしを行かせる気、俊介?」
「地球文明の調査には、もってこいの機会だぜ」
「だったら、ユティスが適任じゃない?」
「ユティスは、ダメ、ダメ。和人に殺される」
二宮が慌てて否定した。
「どうしてよ?」
「ユティスはエンジニアじゃない」
「あ、そう・・・」
「行ってくれるの?」
「ま、仕事と割り切れば、なんてことないさ。向こうだって女性スタッフを何人も抱えてるんだし・・・」
俊介が二宮の肩を持った。
「わかったわよ。いやらしいことしたら、ぶっ殺すからね、二宮!」
「しませんってば」
「じゃ、ラブリーの件、午後までに終らせるように」
ぱち。
俊介は二宮にウィンクした。
「うーーーす」
「明日の件、姉貴はオレが説得する」
「じゃ、結構です。で、午後はどこに?」
「国際展示場の見本市に行って欲しいんだ」
「国際展示場っすか?」
「ああ。ラブリーから直接行っていいぞ。そこで、Z国通商部を視察して欲しい。それ以外は自由に回ってしていい」
「なにをするんですか、Z国のブースで?」
「実は、エルフィアからの依頼だ」
にたーーー。
「ふーん。アンニフィルドっすか・・・?」
二宮の反撃が始まった。
--- ^_^ わっはっは! ---
「どうでもいい、そんなこと!」
「怪しいっすねぇーーー」
「うるさい。ユティスを狙おうとしている輩が、エルフィアとコンタクトしている節があるんだよ」
「ふむふむ。理由は、なんでっすか?」
「ユティスたちとは別の、エルフィア内部の地球支援反対派の企みらしいんだ」
「それで?」
「そいつらが、Z国とコンタクトしている証拠を掴みたい」
「なんで、アンニフィルドたちがしないんですか?」
「彼女たちが、正面切ったら、聞き出せないだろ?」
「それは、オレも同じじゃないっすか。既に、ヤツらは、オレがセレアムの人間で、和人の先輩で、ユティスの友人で、イザベルちゃんの恋人だってことくらい知ってますよ」
「イザベルについては、訂正が必要だな」
--- ^_^ わっはっは! ---
「いや、そうなれればいいなぁーーーっ、ていうお友達で・・・」
「うむ。それでだ。事情を知ってて、しかも、和人やユティスたちではない」
「なんで、それが重要なんで?」
「知らん。とにかく、頼んだぞ」
「うーっす。常務の点数稼ぎ、行ってきまぁーーーす」
--- ^_^ わっはっは! ---
がたっ。
二宮は自分の席に戻ろうとした。
「待て、二宮。クリステアが、おまえに諜報員としての準備教育をしてくれるそうだ」
「諜報員?オレに、0.07になれって言うんですか?」
「そこまでは、要求してないだろ」
「来た。来た」
クリステアは会議室で二宮を待っていた。
「何の準備だい?」
「いいから、そこに座って」
クリステアは二宮を席に座らせた。
「いい?すぐ済むから」
「うす」
「わたしの右目を見つめて・・・」
クリステアは低く気だるい声で言うと、じっと二宮を見つめた。
ぽわぁーーーっ。
二宮は、額に暖かいものを感じ、なんとも言えないぼんやりした感覚に陥った。
「な、なんなんだ・・・?」
「黙って」
「へいへい・・・」
「右目を見つめなさい」
じいーーーっ。
クリステアの右目の淡いグレイの瞳に、二宮は吸い込まれそうになった。
「二宮、これから、あなたはなにを聞かれても、正直にとぼけるのよ」
--- ^_^ わっはっは! --
「すべてに対して、トンチンカンに答えること・・・。いいわね?」
「はい・・・」
ぱんっ!
それから十秒経つと、クリステアは、両手を叩いた。
「はい、終わり」
「え、もう?」
「ええ。教育課程は、無事に修了したわ」
「なにを教えてくれたんだ?」
「ユーモアよ」
「ユーモア?」
「ええ。試しに質問してみるわね」
「ええ?」
「エルフィア人について何を知ってるの?答えなさい!」
とろーーーんっ。
二宮の目が、心なしか鈍くなった。
「おす。セレアムの社員です」
「セレアムとは、なに?」
「おす。エルフィア人のいる会社です」
「くっくっく・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「エルフィア人の会社とは、どんなところ?」
「おす。イザベルちゃんが入りたがっている宇宙一いい会社です」
「くっく。いいわよ、その調子」
--- ^_^ わっはっは! ---
「イザベルとは、だれ?」
「おす。自分の嫁さん・・・。本当は、まだです。これからプロポーズします。だれもいない時に・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あはは・・・。だれもいなけりゃ、聞かせる相手もいないんじゃない?」
クリステアは笑いを堪えてテストを続けた。
「いえ。一応、自分とイザベルちゃんはいるんです」
「じゃあ、成功を祈ってるわ、一応」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ところで、ユティスは、エルフィアのエージェントね?」
「おす。その通りです。でも、本当は和人に会いに来ただけなんです」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あはは!」
クリステアの笑い声は会議室の外に漏れていた。
かちゃ。
ドアを開けて、アンニフィルドが入ってきた。
「どうしたの?あなたたち、なにがそんなに可笑しいの?」
「おす。自分は、なにも可笑しくないです」
「そう言うあなたの顔、十分可笑しいわよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
アンニフィルドは、二宮の真面目な顔に、怪訝な表情になった。
「へへ。二宮に返答セキュリティをかけたの」
「リッキーの詰問対策?」
「リーエス。どんな質問にあっても、トンチンカンにな答えができるようになるようによ。これで、ばっちしよ。あなたも試してみたら?」
「へぇ、面白そうじゃない・・・」
アンニフィルドは二宮に向き直った。
「じゃ、質問するから、答えなさい。二宮、あなたはZ国のブースへ何をしに行くの?」
「おす。調査です」
「なんの調査?」
「おす。可愛いコンパニオンがいるかどうかです」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ぷふっ!」
クリステアは吹き出しそうになった。
「コンパニオンて、なに?」
「展示会の客引きの女の子です。大概、スタイルが良くて、ミニスカートで、髪を上げてうなじを見せたクシーな格好をしています」
「なんですって?」
「展示会には欠かせない存在です。おす」
--- ^_^ わっはっは! ---
「それ、そんなに重要なことなの?」
「おす。極めて重要です。コンパニオンの良し悪しで、来場客数が天地ほど、違ってきます。だから、明日、和人と常務が同行しないのが残念です」
--- ^_^ わっはっは! ---
「俊介も行きたがってるわけ?」
「うっす」
「くっくっく・・・」
ぴくぴく・・・。
クリステアは後ろを向いて肩を震わせた。
「あなたもスタイル良さそうですね?」
「そう。ありがとう!二宮、なかなかいいとこあるわよぉ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「きっと、セクシーなコンパニオン姿は、似合うと思います。試すなら自分が立ち会います。おす」
にたぁ・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
ぴきっ。
「余計なお世話よ、二宮!」
「おす。お褒めに預かり、ありがとうございます」
「バカ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あっはっは。どう、アンニフィルド、効果抜群でしょ?」
クリステアは自分がかけた二宮の催眠効果に満足した。
「ということは、俊介も、それに興味があるってことでしょ?」
「そうじゃない?」
「二宮、どうなのよ?」
アンニフィルドはさらに突っ込んだ。
「おす。もちろんです。自分よりすごいです。ミニスカのコンパニオンの後姿は、たまんないと言ってました」
--- ^_^ わっはっは! ---
ぴきっ。
「なんですって!俊介のドスケベ、わたしという恋人がありながら!」
「おす。常務に、まだ、恋人はいないはずです」
きっ。
「はいっ?いないって、どういうことーーーぉ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「おす。常務から直接聞きました」
「俊介が、自分で恋人はいないと言ったのぉ?」
「おす。ホントです。カラオケスナックの京子ちゃんには、そう言ってました」
--- ^_^ わっはっは! ---
「京子ちゃん?だれよ、その女?」
「おす。スナックの美人ホステスさんです」
「美人ホステスさん?」
「おす。自分もそうですが、酒が入れば、みんな美人に見えるんです」
--- ^_^ わっはっは! ---
「きーーー、俊介ぇーーーっ!」
ばんっ。
アンニフィルドはテーブルを拳で叩いた。
「あははは。アンニフィルドったら、マジにならないでよ。机がへこんだんだけど、困るのよねぇ、そんなことされちゃ・・・。あははは」
クリステアが笑い転げた。
「うるさいわねぇ!この際だから、彼の行動の裏を取ってやるわ!」
ばんばんばんっ!
べぎっ!
がたがた、どしーーーんっ!
アンニフィルドの強烈な拳固一発で、長テーブルが、中央から真っ二つに割れて、床の上に崩れていった。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あはは。相変わらず、一撃必殺よねぇ・・・」
クリステアが笑ってアンニフィルドの手を見つめた。
「ふん。俊介のとこに行ってくる!」
ぷりぷり・・・。
アンニフィルドが会議室から出かけたところを、クリステアが呼び止めた。
「どう、二宮の受け答え?」
「ユーモアじゃなくて、人を怒らせる真実だわ!」
--- ^_^ わっはっは! ---「
アンニフィルドは強い口調で言った。
どんどんどん・・・・
がらがらーーー。
どぉーーーんっ!
会議室で大きな音がしたので、事務所の人間はびっくりして、そっちを見た。
つかつかつか・・・。
アンニフィルドが肩を怒らせて会議室から出てきたかと思うと、俊介を目指して早足で近づいた。
「な、なんですの?」
ユティスが和人にきいた。
「あの二人、また、なんかしたなぁ・・・」
「会議室よ。なにかが壊れて、落っこちてきたようですけど・・・」
ずんずんずん・・・。
ばんっ!
アンニフィルドは俊介のデスクの前に来ると、右手で強く表面を叩いた。
べぎっ。
「げっ!」
俊介のデスクは、アンニフィルドの力に堪えきらず、そこだけへこんだ。
「俊介!」
「お、おす。なんの用だ?」
「二宮から聞いたわよ。わたしというものがありながら、方々で女の子にちょっかい出してるんですってね・・・?」
「なんだよ、藪から棒に?今は、勤務中だぞ・・・」
「わたしだって勤務中だわよ。24時間休み無しで、ユティスと和人を守んなきゃならないんだから!」
「おいおい、そんな大声だと、みんなに聞かれてしまうじゃないか」
「だから、いいんじゃない。はっきり言わせてもうらうけど、わたしがあなたの恋人だってことちゃんと宣言しなさい!浮気したら許さないんだから!」
「恋人宣言・・・?浮気・・・?なんだ、そりゃ?」
「すっとぼける気?ネタはバレてるんだからね!」
「おまえ、二宮の言うこと、真に受けるのか?」
「ウソじゃないんでしょ?」
ぐいっ。
「ちょっと、来いよ、アンニフィルド」
「ふん!」
すたすた・・・。
俊介は、席を立つと、アンニフィルドを連れて、システム室に消えた。