228 肉親
■肉親■
各国は、さっさとユティスたちに自国の住民権まで認め、IDを発行した合衆国と日本に出し抜かれた格好になった。
「ブレーキングニュースをお伝えします」
世界中のメディアがエルフィアと合衆国・日本・EU連合による横畑合意をトップで伝えた。
「まるで、SF映画だなぁ・・・」
俊介は社員たちと、エルフィア娘たちが白い光に包まれて、横畑基地の大会議室に転送されたビデオを事務所の応接室のテレビで見ていた。
「すっごくキレイです・・・」
石橋は夢見るように言った。
「昨日、日本、合衆国、EUの首脳による、地球外地生体エルフィア人とが極秘会見を行いました」
ニュース番組はこれで持ちきりだった。
街頭のテレビもそれを映し、通行人は立ち止まってなにごとかと見入っていた。
「エルフィアだってぇ?」
「知ってるよ。あれだろ?あれ。歌手の4人組」
「そうかぁ、それそれ。。彼女たち、異星から来たエルフィア人だって設定のユニットでしょ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「違うったら、設定じゃなくて、本当にそうなの!」
「うっそぉ・・・?」
「だから、マジ本当だってば!」
「会見場所は明らかにされていませんが、専門家によると、日本国内の合衆国基地の一つではないかとのことです。軍用機ファンが、当日見慣れない最新鋭機を横畑基地で撮影したとの情報があり、合衆国大統領がそれに乗って飛来した可能性もあるということです」
「なんか、すごいことになってるな・・・」
「知的生命体って、人間じゃんか・・・」
「会見内容は、エルフィアが地球の文明促進推進を支援するための基本合意となっており、第一段階として、地球の文明レベルを調査する予備調査をごく少数のスタッフにて、既に、この日本において行われています」
「おいおい、どうなってるんだぁ?」
「知るかよ。宇宙人が日本にいるんだとよぉ」
「女だっていうじゃないか?」
「ああ」
「可愛いのかなぁ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「北本さんは、宇宙生物学の権威でいらっしゃいますが、どうでしょうか?太陽系内の微生物がどうかと言っている段階で、いきなり宇宙人。しかも地球人の文明を支援するために来たというんですが・・・。北本さん、この発表の信憑性はいかがでしょうかねぇ?」
アナウンサーは視聴率を稼ごうとばかり、専門家のユニークな意見を引き出そうとしていた。
「まぁ、出所が合衆国国務省ですから、信憑性としては非常に高いと思います。ビデオも非常に鮮明で、トリック的なことは一切ないと思います」
「それで、宇宙人ってのは、本当に存在しえるんでしょうか?」
「まぁ、こうしてわれわれ地球人がいますからねぇ。この大宇宙の星の数を考えれば、いないわけがない、というのが科学者の間の常識です」
「しかし、地球人とまったく変らない感じがするんですが、その顔は覆面で、その下に本当の姿が隠されている、ということは考えられないんでしょうか?」
「いえ、彼女たちの表情はごく自然で、人工的ななにかで顔を作ったり、われわれ地球人に似せてるとかは、見られませんね」
「そこでなんです・・・。北本さんもご存知かと思いますが、現在、ポピュラーミュージック界に『エルフィア』という3人の女性と1人の男性の4人組ユニットが話題をさらっていますが、どうやら、このエルフィア人とは彼女たちのようでなんす」
テレビは会見のビデオに写った彼女たちを、ひとりひとりアップにしていった。
「真ん中の背の低いダークブロンドでポニーテールなのが、ユティスさん。左端のスーパーロングのホワイトブロンドがアンニフィルドさん。右端のショートヘアがクリステアさん。真ん中のユティスさんの側の男性が、宇都宮和人さんです」
アンアウンサーは、『エルフィア』の歌っているところのビデオも併せて流した。
「この二つのビデオを比較するとわかるんですが、同一人物だと思いませんか?」
「いや、それは正しいと思います」
ニュースは世界中を駆け巡った。
EUは、ベルナール大統領がシェンゲン条約の下、EU域内のフリーパスをすぐに承認した。
しかし、今後、エルフィアとまず交渉できるとしたら、日本に優先権があるのは明らかだった。大田原の作戦勝ちだった。Z国諜報部は地団太を踏んだ。
大田原太郎こと、セレアム名、トアロ・オータワラーは、孫たちの会社のシステム室にいた。エルフィアの支援でハイパートランスポンダーの復旧が実現したことで、今日はセレアム本星との交信を50年ぶりにすることになっていたのだ。
「わたくしたちは、お外でお待ちしていますわ」
株式会社セレアムのシステム室前で、ユティスはトアロと国分寺姉弟に遠慮して、優しく微笑んだ。
「家族、水入らずで、話してきたらいいわ」
クリステアも微笑んだ。
「あら、アンニフィルド。あなたは、一緒に入ってもよろしいのでは?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「バ、バカ言わないでよ。ユティス!」
アンニフィルドは、今まで見つめていた俊介から視線を外して、赤くなった。
「わたしは、まだ、だれも・・・」
ぶちぶち・・・。
「おっ。恋人として、紹介してくれってか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
俊介が面白がった。
「ん、もう!そうなら、そうと、ちゃんと、大叔母さまに話す前に、わたしに言ってきなさいよぉ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
ちゅっ。
「行ってらっしゃい」
アンニフィルドは、俊介の頬にキスすると、足早に事務所の外に出て行った。
さっさっ・・・。
「ははははは・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
いっせいに、みんなの視線を浴びて、俊介は、照れ笑いした。
「し、幸せモンだなぁ・・・、オレは・・・」
「俊介、あなた、アンニフィルドの気持ち、まったくわかってないわねぇ・・・」
真紀が、頭を抱えた。
「頭痛い・・・。恋愛については、二宮並だわ・・・」
「はい、はい、ごちそうさま。行くわよ、アンニフィルド」
ぱっ。
クリステアは両手を広げてドアの方に歩きはじめた。
「リーエス」
ユティスと和人は、アンニフィルドとクリステアを目で追った。
「あの二人、きっと、いつものカフェでブルマンだよ」
和人が自信ありげに言った。
「ふふふ。お二人とも、和人さんに行動をお読みになられるようでしたら、超A級SSのライセンスは返上ですわね」
ユティスが楽しそうに微笑んだ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あははは。冗談、きつーーーぅ!」
「うふふ」
「じいさん、うちのシステム室は、何年ぶりだい?」
俊介がトアロに言った。
「5年ぶりかな」
ゆらり。
ぽわーっ。
「待った!精神体だ。だれか現れるぞ・・・」
「エ、エルド?」
ぽっ。
「エルドなのね・・・?」
そこには、大田原太郎と国分寺姉弟、それにエルドの精神体がいた。
「アステラム・ベネル・ロミア。はじめまして。こんにちわ」
真紀がエルフィア語で言った。
「こんにちわ」
エルドは直ぐに本題に入った。
「ここのハイパートランスポンダーが、なぜ、セレアムの呼びかけに反応しなかったのか、理由がわかったよ」
「セキュリティですな?」
エルドの精神体はトアロの前で大きく頷いた。
「うむ。トアロ。あなたのお察し通りです。セキュリティ・キーが、ある人物、そのもの、その人間の固有周波だったからです」
「では、あの宇宙機のメンバーの一人が・・・」
「現在、いないということだね?」
「つまり、その人物が、あの事故で、失われたと・・・」
「そういうことだ。お気の毒に・・・」
「では、どうして、通信が、回復したのでしょうか?」
「われわれで、セレアムに通信を取り、回避方法を尋ねてみた」
「そういうことですか・・・」
「彼らは、超時空遠隔操作で、問題箇所を発見し、通知してきた。われわれはアンデフロル・デュメーラに頼んで、すぐさま、セキュリティに関する値をデフォルトに戻した。という訳だよ」
「了解しました」
「イニシャライズが終れば、もう、すぐにでも、セレアムと連絡が取れるようになると思うが・・・」
エルドはトアロを安心させるように言った。
「それは、本当に、なんとお礼を申しあげていいか・・・」
「はっは。そんなことだったら、気にしないでいただきましょう。幸い、あなたの肉親の方に、直接、連絡が取れましたし・・・」
「肉親・・・?だれで・・・?」
「エメリア・・・」
「エ、メ、リ、ア・・・ですと?」
「ええ。あなたのお姉さま・・・、ですな?」
「はい・・・。いかにも」
「ふう・・・」
大田原は大きく息をついた。
「ハイパートランスポンダーが、交信をはじめたら、すぐにお出になってください」
「ありがとうございます。心から感謝申しあげます」
大田原はエルドに深々と頭を下げた。
「では、また後ほど」
しゅん。
そう言うと、エルドの精神体はすぅっと消えていった。
「おじいさま・・・」
「夢かな・・・」
「そんなわけないだろう?柄でもない。しっかりしてくれよ、じいさん」
ぽん。
俊介はトアロの肩を叩いた。
「そうだな、お前たちの前で、みっともないマネはできんからな」
「いいってことよ。リラックスしろよな」
「ああ・・・」
「ほら、始まるようよ・・・」
ぽわーーん。
ハイパートランスポンダーが、淡いピンク色に輝きはじめた。
「クリステア・・・?」
「アンニフィルド。前、いい?」
「ええ。もちろんよ」
「じゃ、遠慮なく」
クリステアはアンニフィルドの前に座った。
「なににしたの?」
「ブルマン・・・」
「じゃ、わたしも」
「あのさ・・・」
アンニフィルドは言いかけて途中で静かになった。
「・・・」
「俊介のことでしょ?」
「ええ。少しは進んでいるの?」
「パリの一件以来、ぜーんぜん」
「アンニフィルド、あなたらしくもない。ひょっとして、落ち込んでる?」
「リーエス・・・。男なんて、エルフィアにも、いくらだっているというのに、なんだって、地球人を、それも、あんなのを好きになっちゃったのかなぁ・・・」
「迷ってるの?」
「そうじゃない・・・。だけど、なんか、苛立つのよね。こっちが、真面目にアプローチしようかって時に限って、冗談で、はぐらかすんだもの・・・」
「俊介ったら、相当の照れ屋さんね」
「あいつが・・・?」
「リーエス。でなきゃ、恋のゲームを、お楽しみ中ってことかも・・・」
「どっちがよ?」
「あなたも、俊介も・・・」
「わたしが?」
「リーエス。ミイラ取りがミイラに・・・ってのは、よくある話だわ」
「とにかく、癪に障る・・・」
ちゃぷ。
アンニフィルドはコーヒーカップにスプーンを突っ込んだ。
「俊介、本当にシャイなんだと思うわ。口髭は鎧よ」
クリステアがアンニフィルドを見つめて言った。
「それを言うなら、フェリシアスじゃないの?」
「ちょっと、話を逸らさないで、真面目に聞いてよ!」
「はい、はい・・・」
「パリの時は、いい雰囲気だったんでしょ?」
「けど、ここに戻ったら、あいつ世間体ばかり気にしちゃって、アレどころか、まともにキッスもしないのよ・・・」
「相当、重症ねぇ・・・」
「わたしが?」
「リーエス。やっぱり、あなたの入院を、真紀さんに頼んでみようか?」
「入院?」
「二人のマンションによ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ダメ、ダメ、ダメ、ダメーーーッ!それこそ、職務放棄になっちゃう!」
「だって、このままじゃ、見てられないわ」
「そんなに?」
「死にそうな顔してる・・・」
「可愛そうな、アンニフィルド。このまま、恋に病んで、朽ち果てるのね・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「アンニフィルド・・・?」
「なーんちゃって、あんな男くらいで、落ち込んでられますかって!」
「そういう空元気、よけい心配だわ・・・。任務に支障が出るもの」
「そうなのよ。エルフィアに呼び戻されて、交代させられちゃうかも・・・」
「最悪のケースね、そうなると・・・」
「絶対に、嫌よ!」
「わかるわ・・・」
「地球の面白いとこもっと見たいもの!美味しいものももっと食べたい!」
「え・・・?そっちなの?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あは。変?」
「真面目に心配するんじゃなかったわ・・・」
株式会社セレアムでは、トアロと姉のエメリアの交信が始まっていた。
「お久しぶりね、トアロ・・・」
「エメリア・・・」
大田原は、そのまま涙ぐんでしまい、言葉が続けられなかった。
「・・・」
「おじいさまの、すぐ上のお姉さまね」
「大叔母さんか・・・」
「よく、ご無事で・・・。きっと、生きていると信じてたわ」
「エメリア・・・」
「トアロ・・・。無理して話さなくてもいいのよ。わたくしも、あなたの気持ちはわかってるつもりだから」
「わたしは・・・」
「ふふ・・・。まずは、聞いてくれる?」
「あ、ああ・・・」
「エルフィアの最高理事のエルドから、連絡が入って、本当にびっくりしたわ。まずは、エルフィアにびっくり。耳を疑ったわ。あのエルフィアからだなんて・・・」
「そうだな。伝説の超高文明世界だから・・・」
「ええ。それが、今度は、トアロ、あなたよ。地球と言う世界で、生きているというんですもの。もう、びっくりなんてものじゃなかったわ。しかも、そこの女性と一緒になって、子や孫までいるって言うんですもの・・・」
「驚いただろ・・・?」
「ええ。でも、不思議はないわ。あれから、もう50年にもなるものね。本当に、みんな、あなたのこと、諦めてたわ。でも、わたしは、どこかで、生きてくれてるって・・・、一縷の望みを抱いて、あなたたちと交信を続けていたの」
「ああ・・・」
「まぁ、そこにいる二人は、あなたの孫たちなの?」
エメリアは、国分寺姉弟を見つけると、にっこりと笑った。