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225 文明

■文明■




ユティスの話が終わると、大統領がエルフィア娘たちの安全保障について申し出た。


「ところで、あなたさまたちは、日米両国の国籍をもうお持ちです。われわれは、お三方について、地球での安全を保障いたします」

大統領が言った。


「それは、光栄ですこと。歓迎いただき、心より感謝申しあげます」


「それで・・・」

大統領か言いかけたので、ユティスは待った。


「それで、地球におけるエルフィアの当座の活動はいかようなものでしょうか?」


にっこり。

ユティスは再び話はじめた。


「少し期間が過ぎましたが、2年間、予備調査を行います。文明レベルの把握と惑星全体への浸透度とその影響の確認。これをまず行うのです」

ユティスはそこでひとまず間を取った。


「それは、どのようなもので?」

藤岡首相が心配そうに言った。


「まぁ、首相。試験なんかではありませんわ。みなさまが、平和的意思がゼロというのなら、話は別ですけど・・・。うふ」

ユティスは愉快そうに笑って続けた。


「文明といういのは、特定の人々だけに貢献するのでは、意味がありません。広く一般にあまねく享受されて、はじめて文明と言えるのです。ですから、ごくごく普通の人々と一緒になり、その生活状況を、その生活領域に入って、どうなっているのかを調査させていただいていますわ。それが、今の地球の文明レベルということになりませんか?」


「なるほど・・・」

「そういわれれば、そうだ」


「NASAやJAXAの最先端の研究成果を、日常生活で普通に利用できるようになるまでは、まだまだ特殊な状況を出ていないということだ」

「賛成だな」


「そうなると、地球はカテゴリー2とはいえ、レベルは0か1か・・・」

「卑屈になる必要はございませんわ」

ユティスは優しく言った。


「カテゴリー2と1の間には、極めて厚い壁があります。それを、地球は乗り越えたのですから。みなさんは、賞賛に値しますわ」


「どういうことで?」


「自星を脱出できる理論だけでは、カテゴリー2とは判定されません。実際に、異世界に訪れるか、そこに探査機を送り込むことができる、テクノロジーを確立していることが、カテゴリー2の定義です。言い換えると、自星を外から観察することのできた世界です」


「なるほど・・・」

「SF小説だけでは、文明とは言えんからな」

「同感です」

「だが、たかだか半世紀くらいしか経ってはおらんぞ」


「いいえ、大切なのは、カテゴリー2を経験してきた時間でも、レベルの位置でもありません。地球がカテゴリー1の壁を打ち破り、すでにカテゴリー2に入った、という事実そのもの、それこそが大切なのです」


「どうして、それが大切なのでしょうか?」


「自星を脱出するテクノロジーがあり、実際そうできるということ、一つは、否応なく、外から自分たちの世界を客観的に見つめることになるということです。それによって、自世界が、いかに奇跡的に存在しえたかを、初めて実感することになります」


「同感です」

「わたしもだ」


「もう一つは、望むと望まざるに係わらず、他世界への干渉をすることになる、ということです。他世界に生命があるないに係わらず、自分たちの都合でそれを勝手に蹂躙することは許されません。例えば、資源開発と称して、他の世界を、自分たちの所有物として扱うことは、結局、カテゴリー1的な精神を克服できていない、ということになります」


「ふむ・・・」


「目の前に現れた新たなる処女地。カテゴリー2の世界の扱いを、カテゴリー3以上の世界は、静かに見守っています。カテゴリー2の世界に、最初に課せられる試練です。自分たちの価値観に、その正当性への疑問が投げかけられることになります。その結果、自分たちの価値観は大きく揺さぶられ、人々の心や精神は不安定になります」


「いや、そういうことだ・・・」

「わかる」


「地球もそうではありませんか?温室効果ガス、環境ホルモン、そのようなことをお察しし、地球全体への影響問題を提起している方々は、少なくはないのではありませんか?また、ご自身の衛星に、自国の領土としての線引きを、しようとなっさってはいませんか?」


「・・・」

「・・・」

大統領と首相は沈黙した。


「それを思いとどまり、カテゴリー3的な、愛と善の精神に基づく決定をなさる。指導的な立場にある方々が、それらを認めることは、とても勇気のいることです。そういう試練に対し、人類を正しい道に導くことができる指導者がいれば別ですが、そうでない場合は・・・」


ユティスはそこで止めた。

「・・・」


「どうなるのですか?」

「利己的な価値観の暴走さ」

今まで黙っていた俊介が言った。


「自滅するか、他世界を掘り尽くし、汚染するか、破壊するか、戦争になるか・・・」

藤岡首相が言った。


「あんまり嬉しい未来ではないな・・・」

大統領もポツリと言った。


「エルフィアの文明促進支援が、主にカテゴリー2に成り立ての世界に当てられている理由がそれです。わたくしたちは、文明が人々を苦しめ、滅ぼすのを、一つとして見たくはありません」


「予備調査の結果、どうなるのですか?」


「本格支援が決まれば、エルフィアからプロジェクト・チームが派遣されます。プロジェクト・チームがまず行うことは、人々の心と精神のケアです。奪い合う文明からの決別をするための準備です」


「創造し合い、与え合い、分かち合う文明ですか?」

「はい」


「うまくいくのでしょうか?」

「できない理由をいくつもあげるのは、もう、おしまいにしませんこと?」


「えっ!」

「どうすれば、そうできるかを一緒に考えましょう。そのための支援ですわ。うふ」

ユティスは優しく笑った。


「こりゃ、一本取られました」

藤岡首相が言った。


「まいりましたなぁ・・・」

大統領は頭を掻いた。


「テクノロジーの支援は、どうなるんですか?」


「テクノロジーは、奪い合う文明においては、ご自身を滅ぼすことにもなる武器とも言えます。扱い方、接し方、考え方が極めて重要になります。心と精神が成長できてないうちに、エルフィアのテクノロジーをお習いになっても、使い方を誤れば、決して幸せにはなりません。ご自身の心と精神を蝕み、すべてを滅亡へと導く加速装置になります」


「気違いに刃物・・・、か・・・」


「では、テクノロジー支援は、おあずけと?」

「いいえ、地球の精神成長の度合いに合わせて、ご支援いたします」


「奪い合う文明か・・・。なんとなくわかったような気がする・・・」


「他人のものや自由や権利を奪うということかと思ったが、他人はおろか、そうと気づかぬうちに、欲望で自分自身の心をまでも奪ってしまうというのか・・・」


「はい。その通りですわ。それこそが、なににもまして恐ろしいことです」

「そういうことなんだ・・・」


「奪い合う文明・・・、考えると、なんという恐ろしいことか。今のわれわれそのものではないか」

「本当に恐ろしいことだ・・・」


「左様。われわれは、どのようなテクノロジーに対しても、心して付き合わねばなるまいて・・・」

高根沢博士が、しんみりと言った。


「そのことにお気づきになられること。それこそが、第一のステップです」

ユティスは優しく微笑んだ。


「ご好意に甘えて、わたくしたちは、日本で、ある程度調査をさせていただきます。もちろん合衆国にも、EUにも、おじゃまする機会はあるでしょう。地球は、地域格差がとてもあるように見受けられます。とてもカテゴリー2とはいえない状況の地域も少なくないのかもしれません。もし、両国の政府から、入国許可がなければ、わたくしたちは、ここにいらっしゃる両国ですら、不法侵入者という扱いかと思います。そうなると、予備調査活動は、とても大変になるでしょう。そうはならなかったことに、わたくしたちは、心より感謝申しあげます」


「めっそうもない!」

すぐに藤岡首相が叫んだ。


「大使、日本と合衆国の両国は、これからも、ずっと当てにしていただいて結構ですぞ」


「ありがとうございます。大統領。両国には、入国許可どころではなく、国籍すらいただき、一国民として歓迎いただき、身に余る光栄です」

「当然のことをしたまでです」


「そちらのお二人は、シークレットサポートということですが・・・?」

国防相が防衛大臣と顔を見合わせながら口を挟んだ。


「アンニフィルドとクリステアですか?」

SSの二人はユティスに話を任せていた。


「誠にぶしつけな質問で、失礼なんですが、お許しください。女性の方がSSとは、地球の常識では・・・、これというのは?」


「オレたちが束になってかかったところで、この二人にゃ、屁でもないよ」

ジョバンニがすかさず応えた。


「やっぱり、こいつ下品」

アンニフィルドは思わずクリステアに耳打ちした。


「男ってこんなもんよ。悪気はないわ。元気でいいんじゃない?」

クリステアはこともなげに答えた。


ぱっ。

「はぁい、アンニフィルドよ。なにかご心配でも?」

アンニフィルドは一瞬で国防相の目の前に移動した。


「うわぁっと!」

国防相は、いきなり現れたアンニフィルドに、腰を抜かさんばかりに驚き、椅子から滑り落ちそうになった。


ちゅ。

「お近づきの印・・・」


にっこり。

机越しに、アンニフィルドは国防相の頬に軽くキッスをし、にっこり微笑んだ。


「あははは。言わんこっちゃない」

国防相の滑稽な態度に、ジョーンズが笑い出し、一同に笑い声が広がった。


「大丈夫ですか、国防相殿・・・」

アンニフィルドは、一応、心配して、右手を椅子から落ちそうになった国防相にかざした。


「あわわーーーっ」


ふわふわ・・・。

すとん。


国防相はふわりと浮かび、アンニフィルドの右手の通りにゆっくりと席に戻った。


「お怪我はありませんでしたか?」

アンニフィルドが最高に色っぽいウィンクを国防相に送った。


「だ、ははは、・・・な、なにも・・・。あははは」

国防相は赤くなって、コーヒーマグに手をやった。


かたっ。

「あら、コーヒーがお冷めですわ。温めてさしあげますが・・・」


アンニフィルドは、さらに国防相のカップを指差した。

じゅぅーーー。


「うわっとと・・・あちち・・・」

コーヒーカップからたちまち湯気が昇った。


ほわほわ・・・。

「お熱いうちに、お召しあがりにならないと、美味しくいただけませんわよ」

アンニフィルドは、両目を閉じて、国防相のマグカップに鼻を寄せ、コーヒーの香りを楽しんだ。


「んーーーん。いい香り・・・」

アンニフィルドは目を開けた。


「これ、ひょっとして、あの有名な・・・、ステキ!ブルーマウンテンだわ!」

「あいつ、ブルマン知ってるのか?」

俊介が真紀に耳打ちした。


「こっちに来てから、コーヒーにはまったらしいの」


「エルフィアにはないのか?」

「そうらしいわ」



「ジョバンニ」

「イエス、マム」

ジョバンニはさっとクリステアのもとにやってきた。


「アンニフィルドにブルマンを入れてくださる?」

「イエス、マム」

クリステアの一言で、ジョバンニはパントリーに消えた。



「どうなってんだ?」

大統領は、踵を返して会議場を出て行くジョバンニに、目を白黒させた。


「ジョバンニは、生え抜きのSSのはずだぞ・・・」

「首筋のキスマーク。気づきませんでしたか、大統領。クリステアの熱い想いってヤツで」

ジョーンズは笑いを押し殺した。


--- ^_^ わっはっは! ---


「もう、お二人とは親しいお友達ってわけです」

クリステアがにっこりと補足した。


すぐに、ジョバンニが、ブルマンを入れたマグカップをアンニフィルドに持ってきた。


「ありがとう、ジョバンニ」

アンニフィルドは笑顔で答えた。


「どういたしまして、マム」


「あのジョバンニが・・・」

「飼いならされた猫みたいだ・・・」

ジョバンニを知っている国防相と大統領は、目を疑った。


「みなさん、地球はとても注目されています。それは、わたくしたち、エルフィアに限りませんわ」


ユティスは、話題を変え、その一言で、会議場はさらに思わぬ急展開となった。


「どういうことで?」

「既に、他の世界が、地球に接触しているということです」


「な、なんと!」


ユティスは、大田原と国分寺の双子を見て、にっこりと微笑みかけた。3人が頷くと、ユティスは続けた。


「大田原さん、国分寺さん。みなさんに自己紹介していただけますか?」

ユティスは、にっこりと大田原に振った。


「どういうことですか、大田原さん?」

「大田原さん・・・」

高根沢博士と藤岡首相は、大田原と国分寺姉弟を代わる代わる見た。


「真紀、俊介」

「はい、おじいさま」

「ああ。じいさん」

大田原は国分寺姉弟を立たせて、一同を見渡した。


しーーーん。

一同は、大田原にただならぬものを感じて、黙りこくった。


「お察しの通り・・・」

大田原はゆっくりと話し始めた。


「わたしは、地球人ではありません・・・」


しーーーん。

大田原の放った一言は、会場を黙らせた。


「大田原さん、い、今、なんと・・・」

首相は腰を抜かさんばかりに驚いたが、高根沢は、ようやく納得がいったという感じだった。


「わたしは、地球人ではない、と申し上げたのです」


MLGのメンバーも通訳を介し、大田原の言葉を聴いて仰天した。

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