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223 天女

■天女■




ゆらーーーっ。


大会議室の空気がかすかに揺れ、会議机の真ん中のスペースの空中で、空気がゆっくりと淡い光を帯びたかと思うと、あっと言う間に目もくらむような眩しく光った。


ぴかーーーっ。

白い光の中には、徐々に人影が浮かんできた。


ぶわーん。

一同は、息を呑んで、席から身を乗り出していた。


ぱぁーーー。


「・・・」


徐々に4人の影がはっきりすると、次の瞬間白い光は消え、そこには寄り添うように白い服の4人が現れた。


ぱっ。


エルフィア人の3人の女性は、白と淡い水色と、そして黄色を基調とした、エルフィアの正装をしており、ゆらゆらと淡い虹色の光を放ち、優しい微笑を湛え、清楚で、天使のように美しかった。


「おお・・・!」

一同は雷に打たれたように震え感動した。


「大天使ガブリエルとミカエルの再来だ・・・」

「いや、天使セラフィムだ・・・」

「ああ・・・!」

「はぁーーー・・・・」


「・・・」

「・・・」


しーーーん・・・。

会議場は、驚きと感動の呻き声の後、静寂に包まれた。


「転送を完了いたしました」

アンデフロル・デュメーラの柔らかい声が、静かに会議場に響いた。


「ああ・・・」

「こ、これは・・・」


両大統領も首相も声が出なかった。


しーーーん。

4人は、じっと動かずそこに立ち、かすかに微笑むようにして、一同を見つめていた。


「・・・」

一同は緊張の中にも、大いに感動していた。


「あ・・・」

「あの・・・」

「ハ・・・」

「ふぅ・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」


さらに、数十秒が経ち、やっとベルナール大統領が声を出した。


「ハ・・・ロー、メドモアゼル・・・」

ベルナール大統領の挨拶に、ユティスたちはゆっくりと膝を曲げて、優雅に礼をした。


「こんにちは・・・、地球のみなさん・・・」

にっこり。


透き通るような柔らかい声で、ユティスは第一声を発し、ベルナール大統領に応え、例えようのない優しさに溢れて、微笑んだ。


「よ・・・、ようこそ・・・。地球へ・・・」

ベルナール大統領は、やっとそれだけ言うと、大きくため息をついた。


「はぁ・・・。信じられん・・・」

合衆国大統領も、やっと声を発した。


がたっ。

ふらふら・・・。


合衆国大統領は、ゆっくりと自分席を発つと、4人の立つ中央にふらふらと歩み寄った。アンニフィルドとクリステアは、ユティスと和人を真ん中に置き、アンニフィルドが左側に、クリステアが右側に立った。ユティスが左手で和人の右手を取った。


「アステラム・ベネル・ローミア」

ユティスはにっこり笑って、和人と合わせ膝を曲げて会釈すると、続けてSS二人が同じように会釈した。


すぅーーー。

アンニフィルドは手のひらを上にして左手を斜めに高く掲げた。


すぅーーー。

クリステアも同時に右手をアンニフィルドと同じく、鏡のように対称にして、斜めに高く掲げた。


すぅーーー。

ユティスと和人は手を握ったまま前方にゆっくりと優雅に両手を掲げた。


「オーレリアン・デュール・ディア・アルティーア・・・」


ユティスが、ゆっくりと魂に響くような清らかな声で歌い始めると、他の3人がハーモニーをつけた。歌は会議場を満たしていった。


ぽわーーーん。


やがて、4人の体の周りに淡い虹色の光が、強くなり、きらきら、瞬いていた。それは、今や、さながら後光のように広がっていった。


きらきらきら・・・。


「おお・・・!」


4人の絶妙のハーモニーに、会議場の人間は、魂を揺り動かされるような感覚になり、幸福感に満たされ、うめきにもにた感動の声を出した。


「おお・・・!」


一同は、言葉こそわからなかったが、その意味するところは、不思議と通じていた。


「なんなんだ・・・、これは・・・」


「アーーー・リーーーエーーース」


4人が歌い終えると、ユティスがこの上ない笑顔で、優しく語りかけた。

にっこり。


「ここにお集まりのあなた方のため、地球の人々のため、そして、地球のすべての命あるもののため、すべてを愛でる善なるものより、永久の幸を願い、お祈りの歌を捧げました・・・」


「ああ、なんということだ・・・」


ふらふら・・・。

合衆国大統領は、夢うつつで、引き寄せられるようにして、ユティスの前に行くと、そこに片足でひざまづいた。


さっ。

「ああ、あなたは・・・」

合衆国大統領は感動に声が震え、目が潤んでいた。


「わ、わたしは、わたしは・・・」


ユティスは前に進むと、ひざを曲げて、ひざまづいている合衆国大統領を優しく抱きしめ、ゆっくりと立ち上がらせた。


にこっ。

「わたくしたちに、ひざまづく必要はありませんわ。大統領」


大統領は、目の前のユティスの優しさ溢れる笑みに、釘付けになった。


「あ、ありがとう・・・」

「わたくしどもも、あなた方と、同じ、人間です」


「あ、あなたは・・・」

「ユティスと申します。こちらは、クリステア。そして、こちらが、アンニフィルド。こちらの男性は、地球人のコンタクティー、宇都宮和人さん・・・」


きらきらきら・・・。

ユティスたちの周りには、淡い虹色の光がまとわりついていた。


「わたしは、夢を見ているのだろうか・・・。目の前にいるのは、天使なのか・・・。それとも女神・・・。なんと気高く、美しい・・・。信じられん・・・。あなた方は・・・」


さぁーーー。

ユティスは、手のひらを上に向け、両手を広げ、ゆっくりと一同を見回した。


「わたくしどもは、あなた方が、NGC4535銀河、『失われし銀河』とお呼びになっている、エルフィア銀河からやって参りました。地球から、5400万光年は、あなた方、地球人にとっては、確かにとても遠い距離でしょう。しかし、わたくしどもは、超時空を制御することで、一瞬で移動することができます」


「超時空の制御・・・」

科学者たちはみな、理論上ではそれを理解していた。


「超時空制御による移動は、これから、地球も実現するかもしれませんが、エルフィアのテクノロジーのほんの一部にしかすぎません。エルフィアは、この大宇宙に生きる人類に、遍く、文明促進支援を、無償で行っています」


「・・・」


「地球も、カテゴリー2の文明世界に入りました。わたくしどもは、地球がさらに文明を進め、宇宙に数多ある高文明世界の仲間入りすることを、心から望んでいます。そして、それをお助けする用意がございます。もし、あなた方が、すべてを愛でる善なるものの意思を理解し、愛と善なる精神を高め、平和的で高度な文明世界を築こうと、本当にお望みなら、エルフィアは、決してこの地球を見捨てたりはいたしません。さぁ、大宇宙のコミュニティにいらして・・・」


にっこり。

ユティスが、最高の微笑みを浮かべて、そう言うと、拍手が巻き起こった。


ぱちぱち・・・。

拍手はすぐに大きな波となって、会議場を駆け巡り、それは歓声に変わった


「うわー」


「俊介・・・」

アンニフィルドは、会場に俊介の姿を見つけると、小さく叫んだ。


ふらっ。

ぴた。

アンニフィルドは、一瞬駆け寄りたくなったが、やっとのことでそれを抑えた。


「アンニフィルド・・・」

俊介はアンニフィルドの気持ちを感じ、無意識に口にした。


つんつん。

「彼女、きれいね・・・」

真紀が俊介を突ついた。


「ああ・・・」

俊介は半ば夢心地で真紀に答えた。


「アンニフィルド・・・」

俊介は、エルフィアの正装をしたアンニフィルドに、釘付けになっていた。


「藤岡首相?お会いするのは、初めてですわね?」

にっこり。

ユティスは藤岡首相の方に振り返ると微笑んだ。


「え、ええ・・・。そ、そうです・・・」

藤岡はユティスのこぼれるような笑顔に、完全にうろたえた。


「天女だ・・・」

「ありがとうございます。お褒めのお言葉を頂戴し、無常の喜びですわ。わたくしたち、ここの女性二人も、皆様に、ご紹介申し上げます」

ユティスはクリステアとアンニフィルドを見て頷いた。


超A級SSセキュリティー・サポート。クリステアです」

「クリステアと申します。お会いできまして、大変光栄にございます」

クリステアは膝を曲げて優雅に会釈した。


「そして、こちら、同じく、超A級SSセキュリティー・サポート、アンニフィルドです」

「アンニフィルドと申します。地球の皆様にお会いできましたことは、無常の喜びでございます」

ユティスの紹介にアンニフィルドも会釈して答えた。


「そして・・・」

ユティスは右手で和人の左手を握ったまま、藤岡に膝を屈めて、一礼した。


「こちらの方は、宇都宮和人さんです。地球で、最初にエルフィアにコンタクトされた方です。わたくしどもは、和人さんを通じなければ、地球のことも、こうしてお集まりいただいた皆様のことも、知る機会はなかったでしょう。わたくしどもは、これからも、和人さんをエルフィアの正規コンタクティーとして、ずっとサポートしてまいります」


「コンタクティー?」

だれかが言った。


「はい。わたくしたちと随時連絡を取り合える、地球の代表者とでもいいましょうか。とても重要な役をしていただいています・・・。エルフィアにとっては、国賓とお考えください」


「なるほど。ミスタ・カズトは、エルフィアの国賓ですか・・・」

「はい。エルフィアにとって、地球を代表された、とても大切な方です」


「では、みなさん、お席をご用意しておりますので」

大統領はユティスたちを会議場の席に案内し、4人はそこに着席した。




「あらためて・・・。ようこそ地球へ」

にこにこ。

大統領は、表情をくずして、やっと、嬉しそうな顔になった。


「お招き、ありがとうございます」

ようやく、最初の感動の波もおさまり、大統領はやっと本題を語れるようになった。


「まずは、お礼から。スーパーノバのエネルギー本流の回避をしていただいて、誠にありがとうございます。なんと言ったらいいのか、他に言葉もありません。今回のご支援、心より、深く感謝申しあげます」


「どういたしまして」

ユティスはとても優雅に会釈した。


はぁーーー。

この上なく流れるような優雅な動作に、会場から、どこからとなく、ため息が漏れた。


「テクノロジー的には、そんなに大したことではありません。それより、和人さんから、天の川銀河や地球の座標をお教えていただいたことの方が、とても重要でした。それがなければ、たとえエルフィアといえども、地球の危機に、対応が間に合うことができたかどうか・・・」


「とんでもない。オレなんかじゃないよ」

すぐに和人が否定した。


「第一、必要な天文的な情報は、すべて高根沢博士が準備していただいたんですから」

和人の弁を受け、一同は高根沢に注目した。


「は、は、は・・・」

高根沢は照れ笑いした。


「とにかく、あなた方は地球の命の恩人です。わたしどもは決してエルフィアのご恩とご好意を忘れることはありません」

藤岡がユティスたちに深く頭を下げた。


「お顔をお上げになって、藤岡首相」

にっこり。

ユティスは藤岡首相に声をかけると、優しく微笑んだ。


「みなさん、エルフィアとその支援活動、そして、みなさま方の天の川銀河について、少しだけ、お伝えしたいことがあります。これから、みなさまが見聞きすることは、わたくしたちと、みなさま方の基本的な認識を一致させるものです」


ざわざわ・・・。

一同は互いを見合わせた。


「いったい、なんのことかしら?」

「みなさま、目をお閉じになっていただけますか?」

ユティスがそういうと、一同は目を閉じてこれから起きることを待った。


「アンデフロル・デュメーラ。ご用意していただいたイメージを、お願いしますわ」

「リーエス。エージェント・ユティス」


「アンデフロ・・・?」

「もう一人、いらっしゃるんですか?」

「うふ。地球の赤道上空32000キロに待機しています、エストロ5級母船ですわ」


「静止衛星・・・?」

「いいえ。母船です。呼べば、すぐに姿を現しますわ」


「それは、どのようなもので?」

「UFO?」

「現在は、ステルス待機していますから、電磁波では、お捕らえにはなれません」


「では、まいりましょう」

「リーエス。エージェント・ユティス」


ユティスの声で、アンデフロル・デュメーラは、地上32000キロ上空から、横畑基地のごくごく一部の特定の人間、数十人の脳裏にイメージを投影した。


ぱぱっ。


「おおっ・・・!」

ユティスが全員の思考波を捕らえると、アンデフロル・デュメーラのイメージに併せて、すぐに映像と声を送った。


「これが、みなさまの地球がある天の川銀河です。エルフィアから見ると、こんな風に見えますわ」


「こ、これは・・・」

「予想通りの姿か・・・」


天の川銀河の見事なまでの棒渦状の様子に、一同はみな残らず感動の声を出した。


「この大きな第二渦状腕の、すぐ外に位置する淡い枝分かれした腕に、太陽系が位置しています。ここですわ。おわかりになりますか?」


「おおっ・・・」

「なんと素晴らしい・・・」


「エルフィアから観測できる天の川銀河の姿だ」


「次にエルフィアをご紹介します」


ユティスがそう言うと、アンデフロル・デュメーラは、次のイメージの投影に入った。


ぱあーーー。

一同は、その脳裏一杯に、NGC4535銀河の全体像を見た。


「うわぁ・・・」

「こ、これは、すごい・・・」


「エルフィア銀河は、直径10万光年以上の天の川銀河と同じく棒渦状銀河です。天の川銀河からは、乙女座銀河団方向に5400万光年ほど離れています。エルフィアの母星は、中心のバルジから約2万3千光年ほどに位置していますわ」


ぴっ。


アンデフロル・デュメーラは、ユティスの思考に併せ、エルフィアの惑星レベルのイメージをみんなに送った。


ぶわんっ。


「これが、わたくしたちの世界、エルフィアです」


その惑星は、とても青く美しかった。一見、地球のように見えたが、イメージをアップしてくると、それは地球とまったく違っていた。


「はぅ・・・」

「ほぅ・・・」


一同は、自然にあふれ、さながらパラダイスのような景色に、ため息をついた。今や、地球のいたるところにある摩天楼はおろか、ニューヨークや東京にような巨大都市もなかった。自然に囲まれたヨーロッパのニュータウンのような低層階の建物が、自然に調和し、ゆったりとした間隔で街を作っていた。


「エルフィアには、地球のような巨大都市やビルや交通網はありません。エルフィアは、財を無限に増やそうとすることに基づく世界ではありませんし、経済的な中心地を持つ必要もありません。加えて、無限にある、高次元の時空エネルギーを利用していますから、大都市など必要ないのです」


にっこり。

ユティスは、微笑んだ。


「実は、もう何万年も前ですけれど、エルフィアにも、かつて、地球のような大都市があふれていました。当時、遠い星々に、難世代もかけたエルフィアの使節団が、派遣されました。ところが、彼らはいざ戻ってみると、そのようなエルフィアの様子にすっかり落胆してしまったのです」


「落胆?」

「いったい、なぜですか?」

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