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222 密議

■密議■




横畑基地のエプロンには、司令官、大使、藤岡、ベルナールたちが並び、合衆国大統領の到着を待っていた。


ぴ、ぴ、ぴ、ぴ、ぴーーーん。

アンダーソン中尉の時計が、大統領到着予定時刻を知らせた。


「補佐官、そろそろ、大統領の到着時間です」

サマンサ・アンダーソン中尉が、ヨハンセンに耳打ちした。


「・・・」

「彼女は、きみの秘書かね?」

大使は司令官に耳打ちした。


「イエス。なにか、お伝えすることでも?」

司令官は涼しい顔だった。


「いや・・・」


サムは制服でかなり女性らしさを制限されてはいたが、健康的な淡い褐色の肌は張っていて、こちらもMLGメンバーが、十分、はっと驚くくらいの美人だった。


「もう、時間がありません。大統領が到着しますので、みなさん、滑走路脇のエプロンにお集まりを。その後、すぐに首相とのエルフィア人会見の特設会議場に移りましょう」

ヨハンセンは時計を見て言った。


「最後に、もうひとつ・・・」

「なんでしょうか?」

「エルフィア人というのは、そのぉ、本当に、われわれと同じ、人間なのですか?」


「ええ。DNA構造を含め、われわれと寸分違わず人間です。それとも、「宇宙戦争」に出てくるタコのような方が、異星人らしいというのでしょうか?」


「いや、けっこう。お答えいただき、ありがとう」

「どういたしまして」


「特別機を目視で確認しました」

司令官に、報告が来た。


「到着のようです」

司令官はEU大統領と藤岡に告げた。


「どこに機がいるんですか?あなたは見えるんですか?」

藤岡は目を細めたが、目に滲みるような青空意外確認できなかった。


「お、あれですね?」

EU大統領のベルナールは目に手をかざして、34滑走路の先にポツンと浮かんでいる影を確認した。


「ウイ、ムッシュウ」

アンダーソン中尉がにこやかに答えた。


「見えるんですか、ムッシュウ?」

藤岡はびっくりした。


「わたしより,ご年配のあなたが・・・」

「もちろんですよ。見えないんですか、あれが?」

ベルナールは笑顔で藤岡にきいた。


「残念ながら・・・」


「EU特産のアントシアニン強化ブルーベリーでも、お試しになったらいかがですか?効きますよ。目が弱ってしまったら、人生を楽しめませんからね、ムッシュウ・フジオカ」


ぱちっ。

「ということです」

ベルナールは脇にいる美貌のアンダーソン中尉を振り向いて、素早く片目をつむった。


「まぁ・・・。うふふ」


--- ^_^ わっはっは! ---




「マイク・リマ・ゴルフ001、2000(MLG航空001便、高度2000フィートを保て)」

「ラジャー、マイク・リマ・ゴルフ001、2000(MLG航空001便、了解。高度2000フィートを保ちます)」


「いよいよだ」

機長が副操縦士を見て、最終着陸に備えるよう指示した。


「イエス、サー」


ピー、ピー、ピー。

「アテンション、500(警告。地上まで500フィート)」

「地上まで500フィートを切りました」


地上までの高度を知らせるシステム・アナウンスとともに、地上接近を知らせる警告音がコックピットに響いた。


ピー、ピー、ピー。

「アテンション。300(警告。地上まで300フィート)」

「高度300フィート」


「15度引き起こし」

「ラジャー、機首を15度引き起こし」


ピー、ピー、ピー。

「アテンション。200、170、150、120、100、80、50・・・(警告。地上まで、200、170、150、120、100、80、50フィート・・・)」


「着地するぞ!」


ぐぉーーー。

ごとん。


「タッチダウン(着地)!」


ごとごとごとーーー。

ごごごごーーー。


その瞬間機内は着陸の衝撃で震えた。


「スラスト・リバーサー(逆噴射作動)」

「スラスト・リバーサー(逆噴射作動します)」


ぱか。

かくん。

機長の指示を副操縦士が復唱し、逆噴射レバーを入れた。


「マックスパワー(全力噴射)」

「ラジャー。マックスパワー(了解。全力噴射)」


ぐぉーーー。

がたがたがた・・・・。

逆噴射のものすごい音がし、主翼にあるスポイラーが一斉に立って、特別機の揚力を消し去った。


ぐぉーーー。

ごとごと・・・。

特別機は一気に時速100キロ以下まで速度を下げた。


ひゅーーーん。

しゅわ、しゅわ・・・。

しゅわん、しゅわん・・・。

エンジンがアイドリングに近くまで回転数が落ちた。


「MLG105、エプロンまで、先導いたします」

フォローミー・カー(先導車)から、呼びかけが来た。


「MLG105、ラジャー」

特別機は滑走路34を離れて、フォローミー・カーの後を追って、エプロンに向かい、タキシングを始めた。


しゅわん、しゅわん・・・。


「ハロー、ヨコタ。マイク・リマ・ゴルフ001」

「マイク・リマ・ゴルフ001、コンニチワ」

横田の管制は日本語で答えた。




ぱしゃ、ぱしゃ、ぱしゃ・・・。

滑走路34の橋では、航空機ファンたちのカメラのものすごい連写音が、数秒間続いた。


「おい、なんだ、ありゃ?」

「空軍の787VIP仕様機じゃないか?知らない機種だぞ・・・」


「でも、政府機塗装じゃないぞ・・・」

「民間機かなぁ?」


「知るか!わかってるのは、超レアショットだってことさ」


あっという間に、目の前を通り過ぎた機体に、航空機ファンたちは、胸を躍らせた。


「ひょっとして・・・」

「間違いない。日本への初飛来だ」


「撮ったか?」

「バッチリ!」

「やったぜ!」

「ああ、スクープだ!」


一人がさっそくスマホで友人を呼び出した。


「あ、マサキか?」


「どうだった、うわさ?」

「ビンゴ。すっげぇぞぉ!787の軍用VIP仕様だ。こんなのだれも知らねぇよ!」




しゅわーん、しゅわーん。


大統領特別機がフォローミー・カーの先導を受けて、タキシィウェイからエプロンに入ってきた。マーシャラーが、大統領特別機のコクピットに向かって両手を広げ、停止の合図をした。


「停止」

「停止しました」


「サイドブレーキ」

「サイドブレーキ」


きゅん。

特別機はほんの少しつんのめるようにして、駐機位置に止まった。


「エンジン停止」

「エンジン停止」


しゅわーん、しゅわーん。

しゅうーん。

しゅん・・・。


二つのエンジンは、静かに止まった。


「ハロー、マイク・リマ・ゴルフ001。車止め完了しました」

地上から、無線で副操縦士に報告がきた。


「コンニチワ、ヨコハタ」

大統領特別機の機長はそれに日本語応えた。




「さぁ、大統領、横畑に着きましたよ」

「うむ」


かちゃ、かちゃ・・・。

一同はシートベルトを外した。


ぶぉーーー。

ぴた。


タラップ車が、急いで左前方ドアに着き、乗務員が中からドアを開けた。


ぱしゅん。

特別機のドアが開けられた。


「ハロー」

「ハロー」


軽く挨拶が交わされ、機内に合衆国SSの二人が入っていった。

つかつか。


「ジョーンズ、ジョバンニ!」

「イエッサー」


「ミスタ・プレジデント」

「出迎えありがとう」


ひしっ。

がしっ。


機内の中で、大統領は二人と抱き合った。


「サンキュー、サー。ミスタ・プレジデント。万事良好です」

「うむ。降りるぞ」

大統領はドアに向かった。


「捧げ、筒!」

ちゃっ。


「国家吹奏!」

たたたたた・・・・。

ぱぱ、ぱんぱー、ぱーーー。


外では、空軍吹奏隊が合衆国国歌と演奏した。


ささっ。


「ハロー!」

ドアをくぐり、タラップ上で両手を広げ、姿を現した大統領に対し、一斉に拍手が起こった。


ぱちぱちぱち・・・。


「親愛なる合衆国のみなさん、ならびに日本国の友人たち、EU大統領のベルナールさん。歓迎ありがとう」


とんとんとん・・・。

大統領は手を振りながら、ゆっくりとタラップを降りていった。


「ありがとう、ミスタ藤岡」


とんっ。

ひしっ。


大統領は地上に降り立つと、まず、藤岡と抱き合った。

「大統領、ようこそ」


ひしっ。

次に、EU大統領のベルナールと頬を合わせて、抱擁を交わした。

「お目にかかれて、光栄です」

「よく、お出でくださいました」


地上には、ずらりと要人たちが大統領を待っていた。


「さぁ、すぐに会議場に案内してくれたまえ。わたしは外遊に来たのではない」


大統領は司令官を見つけるとすぐに言った。


「今日は、忘れられん日になるな」

「そうですね」

にやりと笑った大統領に、司令官はやんわりと答えた。




「そろそろ時間よ。アンデフロル・デュメーラ、わたしたちを横畑に運んでくれる?」

クリステアがエストロ5級母船に語りかけた。


「リーエス。SS・クリステア。転送先を確認済み。皆様を30秒後に転送いたします」

アンデフロル・デュメーラはすぐに応えた。


「さぁ、和人は、しっかり、わたしに掴まって」

「リーエス」

アンニフィルドがにっこり笑って、和人の右に位置を取った。


ささっ。

和人は、右手をアンニフィルドのウエストに回し、左手はユティスのウエストに回した。


ささっ。

「ユティス?」

クリステアがユティスのウエストに右手を回した。

ささっ。


「いい?」

「リーエス」


「転送、5秒前。4、3、2、1。転送」

アンデフロル・デュメーラのカウントダウンが終ると、部屋の空気が揺れた。


ゆらーーーり。


「くるわよ」

「リーエス・・・」


ぽわーーーんっ

ゆっくり4人は淡い光に包まれたと思うと、一瞬で姿を消した。


ぱっ。




「ここが会場になります」

アンダーソン中尉の案内で、大統領は会議場に入った。


「にわか仕立てにしては、ずいぶんと立派だな」

「イエス・サー」


会議場は、大企業ならどこでもあるような大きな楕円形のデスクが中心にあり、50人ばかりが座れる肘掛椅子が備わっていた。


「みなさま、ご着席できましたかな?」


合衆国大統領を中心にして、藤岡首相と、EC大統領のベルナールは、上座中央に並んで着席した。全員が着席した。


「全員揃いました」

アンダーセン中尉が手を振った。


「うむ」

大統領はそれを確認すると、立ち上がって口火を切った。


「お集まりのみなさん。今日は人類に取って、極めて重要な意味を持った日であります。それは、5400万光年の遥か彼方から来た、エルフィア人と会見し、地球の文明促進支援のオファーを正式に請けることになるからです」


大統領は、自分の言葉にみながどう注目しているか見て、満足した。


「われわれは、地球以外にも、宇宙に生命体がいるかどうか、火星に原始生命体がいるかどうか、で大騒ぎしておりましたが、もはや、そんなことは、まったく意味をなさないくらいの現実が、今、まさにここで、起ころうとしています。宇宙には、原始生命体どころか、われわれ地球人と寸分違わぬ人間がいるのです。しかも、われわれとは比べものにならないくらいの超高文明なのです。これがどういうことなのか、わたしのような人間の分際で、理解できるものではありません。しかし、これこそが、事実なのです。この目の前に突きつけられた事実を受け入れる以外に、他になにがあるというのでしょうか?」


「・・・」

みなは大統領に聞き入っていた。


「われわれは、まったく新しい歴史の始まりにいるのです。それに、喜ばねばなりますまい。もはや、人類は、独りでもないのです。宇宙に遍く、数多の人類がいる。われわれは知ってしまったのです。なんと、すばらしいことではありませんか。わたしは、その事実を教えてくれた、エルフィア人に、地球人類を代表して、ここに歓迎の意を表しましょう。われわれ地球人類の未来に、大いなる幸があらんことを!」


ぱちぱちぱち・・・。

会議場の参加者は目一杯の拍手をした。


「ミスタ藤岡。プリーズ」

大統領は藤岡に振った。


「イエス。ミスタ・プレジデント」

にた。

藤岡は笑った。


「いや、みなさん。今日は、本当にすばらしい一日になるでしょう。人類を代表して、エルフィア人と、いや、地球外文明人に、初めて公式に両国首脳が会見し、彼女たちと、エルフィアと地球の友好関係を結ぶために、調印をするわけです。わたくしは、このような人類最初のすばらしい瞬間に立ち会えることを、誇りに思います」


わぁーーー!

ぱちぱちぱち。


「ベルナール大統領」

ベルナールは、おもむろに話し始めた。


「先のお二方の言われる通り、人類にとって、極めて重要な転換期がまいりました。合衆国と日本とEUという、地球を代表する先進国で、エルフィア人代表と会見できることは、つまり、地球代表として、初めて、地球外文明に接するということです。責任を持って、会見に臨まねばなりません。われわれは、文字通り、人類の未来を担っているのです」


「・・・」

みなは静かに聴いていた。


「ここにおられる皆さん、エルフィアの美人大使に期待と不安で、胸が苦しくなっているでしょう。わたしとて、同じです。地球人の遺伝子には、そうなるよう書き込まれておりますので。特に男性は・・・」


ちらり。

ベルナールは、またまた、アンダーソン中尉に目配せした。


「まぁ、またですか?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「わっはっは」

「あっはっは」

「わははは」


ベルナールの一言で、一同の緊張が解けた。


ぴっぴっぴ・・・。

アンダーソン注意の時計がかすかに鳴り、彼女の笑顔が消えた。


「時間です」

アンダーソン中尉は時計を確認して、一同に告げた。


「では、皆さん、もう一度、地球人として、恥ずかしくないよう、襟が曲がってないか、殿方は、ネクタイがズレてないか、身だしなみを、ご確認してください」


--- ^_^ わっはっは! ---


アンダーソン中尉の真面目腐った言い方に、一同は笑いの渦となった。


「わっはっは」

「あははは」


一同は一斉に自分のネクタイを直した。




ゆらぁーり。

突然、大会議室の空気が揺れた。


「現れるぞ・・・」

「来るわ・・・」


一同は息を呑んで、一斉に会議場の真ん中に注目した。

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