221 三国
■三国■
「ヨコハタ・コントロール。マイク・リマ・ゴルフ001、ユージング・ランウェイ34。メインテイン6000(こちら横畑管制。MLG001便、34滑走路を使用せよ。高度6000フィートを維持せよ)」
副操縦士が横畑基地と連絡し着陸許可を取った。
「マイク・リマ・ゴルフ001、ユージング・ランウェイ34、ラジャー。メインテイン6000(こちらMLG001便。34滑走路を使用、了解。高度6000フィートを維持します)」
ごぉーーー。
「大佐、着陸まで、あとどれくらいだね?」
「10分ほどで着陸します」
「意外に速かったな」
「グアムまで、スーパーソニックXC200ですから」
「来年度は、10機分は予算化せねばならんな」
「よろしくお願いいます、大統領」
「わっはっは」
「最終進入コースに入りますので、そろそろお席にお戻りください、大統領」
「わかった」
「大尉、目的地の天候は?」
「今日の横田は快晴。気温24度。視界は200キロで、極めて良好です」
「最高のフライト日和だな」
「イエス、サー」
「マイク・リマ・ゴルフ001、ファイナル・アプローチ・コース、ランウェイ34(MLG001便、最終進入コース、滑走路34を使用せよ)」
横畑基地の管制が、着陸コースを指示してきた。
「ラジャー。マイク・リマ・ゴルフ001、ランウェイ34(MLG001便、了解。最終進入コース、滑走路34を使用します)」
副操縦士の大尉が即座に返答した。
「見えたぞ、あれだ」
大統領が目の前のスクリーンを指した。
「イエス、サー。滑走路確認」
「フラップ25度」
「フラップ25度」
機長の指示をコパイ(副操縦士)が声を出して復唱した。
「ランディングギア、ダウン」
「ランディングギア、ダウン」
ごとごとごと・・・。
ごぉーーー。
がくん。
機長の指示で着陸装置が降ろされると、空気抵抗で速度が下がり、大統領特別機は前のめりになり、機内にも空気を切る音が広がった。
藤岡首相が横畑基地を訪れていることは、政府でも極秘であった。
「藤岡首相、横畑に到着しました」
「うむ。予定通り、大統領到着の30分前だな」
横畑基地の正門で黒塗りのリムジンが、横畑基地の守衛と会話した。護衛の兵士も普段より大幅に増員されていれた。
「いかにもVIPが来ると言わんばかりだな」
「藤岡首相のためでしょう」
「バカを言うな。大統領に決まっている」
--- ^_^ わっはっは! --
守衛の一人が藤岡首相一行の先頭の車に近づいた。
かつかつかつ・・・。
後ろには黒眼鏡のダークスーツの男が数人いた。
「あいつらは、国務省外交保安局の連中だな・・・?」
「そうです、首相」
「失礼します、サー。そちらは?」
「MLGの藤岡だ」
にこ。
「お待ちしておりました」
さっ。
その途端、守衛は敬礼をして、さっと道を開けた。
ぴかぁぴかぁ・・・。
奥には屋根の上に点滅する回転灯を付けた先導車が待機しており、藤岡一行の黒塗りのリムジン3台を、特設会議室がある中央ビルに案内した。
「さすがだな」
藤岡は合衆国の手際の良さに目を見張った。
「はい。なにしろ大統領直下のプロジェクトですから」
「大田原は?」
「既に到着しているはずです」
「彼の孫とかいう、あの双子の姉弟もか?」
「ええ、もちろん」
「大田原は、自身が切り札だと言ってたが・・・」
「大統領と交渉する上でのことですか?」
「そうらしい。最後は、彼に任すしかないかもしれん」
ユティス、アンニフィルド、クリステアの3人は、エルフィア大使館ことセレアムの社員寮で、エルフィアの正装に着替えていた。
「それで、お化粧しているの?」
和人はユティスたちをかわるがわる眺めた。
「変?」
アンニフィルドは和人に答えた。
「ちっとも変じゃないよ。確かに唇は艶っぽく見えるし、目も魅力的だし、ほんのりと芳しい香りがするしね。けど・・・」
「けど、なんなの?」
「ま、そのぉ・・・」
和人はたちまちうろたえた。
「キッスしたいの?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「だーーーっ!すっごくきれいだ。でもね、すっぴん。そのまんまにしか見えないよ」
3人娘は嬉しそうに微笑んだ。
にっこり。
和人はユティスたちを見つめて赤くなった。
「ははーん、わたしたちに見とれちゃってるってわけか・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
ぱち。
アンニフィルドがウィンクした。
どっきん・・・。
「うん。最高にきれいだよ、みんな。化粧なんかしなくても、スーパーモデルだ・・・」
和人は正直に言った。
「うふふ。和人さんに、そうおっしゃっていただくと、とっても嬉しいですわ」
ぴとっ。
ユティスは本当に嬉しそうに微笑むと、和人に寄り添った。
「嬉しいこと言ってくれるわね、和人」
クリステアも笑った。
「あーん。わたしは、和人じゃなくて、俊介に言ってもらいたい!」
アンニフィルドはそれでもにこにこ顔だった。
「エルフィアの女性は、自分を大切にします。あまり濃いお化粧はしませんのよ」
「そうね。中にはそういうのが好きな女性も、いるにはいるけど」
クリステアが付け加えた。
大統領特別会談の会議場のとなりでは、日米双方のプロジェクト・メンバーが顔合わせをしていた。
「大統領到着まで、あと30分です。MLG(失われし銀河作戦)のメンバーをご紹介します」
「みなさん、ようこそお集まりくださいました。わたしは、MLGリーダーを務める大統領補佐官のヨハンセンです」
「国務大臣のベイカーです」
「NASAのETIプロジェクト、チームリーダーのヴァンアレンです」
「UCバークレー校のガルシアです」
「国防省宇宙防衛局長のサンダースです」
「コーネル大のウィルソンです」
「MITのミヤタです」
「在日横田基地司令官のコールマンです」
次は日本側になった。
「内閣総理大臣顧問の大田原です」
「T大の高根沢です」
「株式会社セレアムの代表、国分寺真紀と申します」
「同じく、国分寺俊介です」
「H大の黒羽です」
「文部科学省の野崎です」
「JAXAの川治です」
「防衛省の那珂川です」
一通り挨拶が終わると、ヨハンセンがにっこり微笑んだ。
「みなさん、今日は人類史上に残る、かつてない記念日となるでしょう。それに直接係わることができることは、とてつもなく大きな光栄です。わたしをはじめ、この場のみなさんも、それを誇りに思えることでしょう」
ぱちぱち・・・。
一同はそれに拍手で応えた。
「さて、もうこの場ですから、みなさん、秘密もなにもないでしょう。ずばり申し上げます。われわれは、NGC4535銀河、われわれでいう別名「ロストギャラクシー」から来た、エルフィアの使節団3名と30分後に会見することになります。3人は、既に特定の地球人とコンタクトを取っております」
一同は話に聞き入った。
「して、彼らの目的は地球の文明の促進推進支援です。これを、もし受け入れるなら、地球文明は一気に進化するでしょう。しかし、現状は、問題が山積みです。彼らの支援を受けるには、それなりの覚悟が必要です。つまり、彼らから出た条件をクリアせねばなりません」
ヨハンセンは一同を見渡した。
「惑星の統一政府もしくは、連合政府。もしくは、それに事実上代わり得るようなもの。そういうものへの形成意思がないところには、支援が行われる可能性はとても低くなります。それと、奪い合う文明との決別。これは、どういう意味か確かめねばなりませんが、いずれにせよ、ハードルは極めて高いと言わざるをえません」
「テストに不合格になった場合は?」
「危険な世界として、時空隔離されます。つまり、太陽系以外には出られないように、地球は、時空を封鎖されるのです」
「つまり牢獄か・・・」
「ただし、観察は続けられます。彼らは、その世界が滅ぶことを望んではいません。あくまで危険が去るまでの時限的な処置と思ってください」
「何年続くのかね?」
「彼らがそう望むまで、いくらでも・・・」
「ふむ・・・」
「とにかく、地球コミュニティとしての自己努力がなく、一国の利害を代表するとか、各国がいがみ合うような状況では、地球はカテゴリー2とは認定されません」
「カテゴリー2?」
「なんだね、それは?」
「エルフィアの文明分類基準です。カテゴリー1は、自星を出るテクノロジーが未確立の世界。カテゴリー2は、自星を脱出するテクノロジーはあるが、恒星間の移動手段、つまり光速の壁を破るテクノロジーを持たない世界です。まさに、地球です。カテゴリー3は、恒星間移動を銀河内で確立した世界。カテゴリー4は、それを宇宙機なして超銀河間で行える世界。エルフィアは、まさにカテゴリー4です。カテゴリー5は・・・、あーーー、よくわかりませんが、とにかく、およそ考えられるすべてを実現してしまった世界です」
--- ^_^ わっはっは! ---
「大事なことは、エルフィアの文明促進支援は、カテゴリー2以上にしか適用されないということです。カテゴリー2については、様々な危機的状況が存在しています。それ故、彼らはカテゴリー2について、手厚い支援をしてきました」
「なぜ、カテゴリー1には、支援が適用されないのかね?」
「自星に留まっている限り、他の世界への影響力はないからでしょう。それに、あまりに文明が低いところでは、科学というものへの理解が、期待できないからでしょう。カテゴリー2は、自星を出て他の世界に足を踏み入れることのできる文明世界です」
「正しく導かれなければ、他の世界を蹂躙してしまう可能性があるということか?」
「もしくは、核戦争で自滅だな」
「それもあります」
「それで、支援を適用されるのが、カテゴリー2ということなのか」
「その通り」
「で、この集まりの趣旨は?」
「エルフィアとの確固たるパートナーシップを、合衆国と日本、そしてEUが、個別ではなく、共同して結ぶこと。われわれは、地球連合のはしくれというわけです」
「EU?]
「ええ。EU大統領のベルナール氏も、まもなく到着します」
「EUもか。なにが、超秘密事項だ・・・」
「まぁ、落胆しなさんな」
「地球代表というのなら、国連では、だめなのかね?」
「だめです」
ヨハンセンは断言した。
「一部常任理事国の拒否権発動が、目に見えています。それに、地域格差がありすぎます。各国のエゴ丸出しでは、話がまとまらないでしょう。それでは、エルフィアと交渉に着くことはできません」
「サミット国では?」
「次の段階でしょう」
ヨハンセンの言葉に一同は頷いた。
「まず、エルフィアには、日米が、一国単独でなく、地球の最先端地域を代表する立場として、共同して会見を正式に申し込み、地球代表を既成事実化してしまうことが、先決だということです」
「それで、エルフィアが納得するんですか?」
「日米のエゴと捉えられるのでは?」
「それはないでしょう」
「どうして?」
「エルフィアは、この会見を拒否することもできたはずです。だが、応じてくれました」
「そうです。拒否するなら、とっくにされてますよ」
「だが、正当な理由に欠けるんでは?」
「ま、そういう議論をここでしたところで、無意味ではありませんか?」
ヨハンセンは時計を確認した。
「そうです。30分後には会見が始まるんですよ」
「それも、そうだ」
「われわれの役目について、話してほしい」
「とにかく、説明を続けてくれ」
「承知いたしました」
ヨハンセンは続けた。
「われわれは、エルフィアと地球の首脳、双方から出た質問等へのオブザーバーです。そして、大変になるのはこれからです。一国が、他の国々を出し抜いて個別にするとなると、エルフィアの条件をクリアできません。特にZ国ほか、威力的で支配的な国々から、エルフィア人たちを守るという重大な課題もあります。もちろん、現状では、一部の国を除き、他国には極秘であります」
「どこにも言わないのかね?」
「アブソリュートリ、ノー(いいえ、絶対にそんなことはありません)。本日の会見後、時間を開けずして、同盟国へは情報開示をいたします。具体的には、EU及びカナダ、オーストラリア。これらには、内密にではありますが、ある程度、事実を伝えてあります。ここにお集まりの両国首脳の会談は、電話レベルでは、何回も行われていますし、エルフィアの3人には、既に合衆国、日本の両国籍を認めてられています」
「なんですと?」
「エルフィア人の身柄の保証を、日本と合衆国とで、公式に承認したということです。地球の文明促進支援をするのに、両国内だけとはいえ、安全に自由に動き回れることは、大変重要なことです」
「では、彼らを、われわれの政府が、地球外知的生命体として、また、エルフィア人として、それを認めたことのみならず、既に、アメリカ人であり、日本人でもあることも、承認した、ということなのか?」
「イエス。しかし・・・、正しくは、彼らではなく、彼女たちです」
「彼女ら・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「イエス」
「あー、そのぉ・・・、使節団というのは、全員、女性なのかね?」
「ええ。うわさでは、3人ともスーパーモデル並みの大変な美人とか・・・」
「地球人の感覚で、ということですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「イエス。なにか、ご不満でも・・・」
「・・・」
その説明に、会場はシーンとなった。
こんこん。
静寂を破って、ドアをノックする音が、会議室に響いた。
「入りたまえ」
「イエッサー」
「司令官、EU大統領、ベルナール氏のご到着です」
「では、わたしは、お迎えに出よう」
司令官と大使は藤岡を伴って外に出た。
ぶう・・・。
黒のリムジンが1台、門から会議室のある建物まで、静かにやって来た。
ぱた。
リムジンが止まり、運転手が、後部座席のドアを開けた。
「さ、こちらへ・・・」
リムジンから、品の良い老紳士が降りてきた。
「ボン・ジュール」
「ようこそ」
早速、合衆国大使と司令官が歩み寄って抱擁を交わした。
「遠路、遥々、お越しいただき、光栄です」
「いや、実に驚きました」
「ムッシュウ・ベルナール。ようこそ」
藤岡も挨拶した。
「これは、これは、藤岡首相。こんなところで、また、お目にかかれて光栄です」
「昨晩の晩餐会以来ですな?」
「ははは。誠に、お久しぶりです」
--- ^_^ わっはっは! ---
二人もすぐに握手を交わした。
「さぁ、会場に」
「ありがとう。だが、あなた方の大統領も、もうすぐ到着の時間では?」
「ええ。そろそろです」
「それでは、エプロンに、参りましょう」
一行は、合衆国大統領を出迎えるために、それぞれの車に乗り込み、エプロンに向かった。
ぶろろろーーー。