220 横畑
「あは。アンニフィルドです。さぁて、これからは、エルフィア娘たちは地球の首脳たちと会うことになりそうね。いよいよ、コンタクトがレベル3の段階に来たってことよ。因みに、コンタクティー本人とだけ会ってるのは、レベル1。家族や親しい友人まで会ってるというのは、レベル2よ。わかったぁ?」
■横畑■
ばたんっ。
和人たちの4LDKの社員寮前に、外交官ナンバーの黒塗りの外車が3台止まった。先頭車両中からは例の2人組みが出てきた。
ぴんぽーん。
「はい、宇都宮です」
「オレだ、和人」
「ああ、連絡通りだね。入っていいよ。ジョバンニ」
「早かったわね、坊や」
クリステアがジョバンニに目配せした。
「イエス、マム」
一同はリビングに通された。
「こちらは、中日大使のワイズマンです」
ジョ-ンズが紹介した。
「ようこそ、エルフィア大使館へ」
アンニフィルドがおどけた口調で言った。
「この方がエルフィア人で・・・」
ワイズマンは初めて見るエルフィア人に緊張した。
「あの、NGC4535、「失われた銀河」から来られたというのは・・・」
「リーエス、本当です」
「信じられません。その、あなた方は、まるで地球人類というか・・・、街中ですれ違ってっても、だれも気づきませんよ・・・」
「基本的には、まったくといっていいほど変わりませんわ」
「好みはあるけどね」
「うるさいわねぇ、和人」
ぱし。
アンニフィルドの裏拳が、和人の額に軽く決まった。
「痛て・・・」
ワイズマンは、ユティスたちが、地球の女性とまったく同じ格好をしているのにも触れた。
「その、服というか、ドレスというか・・・」
「これ?」
クリステアは自分の服をつまんで見せた。
「はい・・・」
「国分寺に、金座のブティックで買ってもらったの。あは」
アンニフィルドがにこにこしながら言った。
「そうでしたか・・・」
「とにかく、ようこそ、いらしてくださいました、大使」
ユティスが柔らかな声で言った。
「こちらこそ」
にこっ。
ユティスが微笑んだ。
「光栄です」
ワイズマンも、ようやく初期の緊張が解け、にっこり微笑むと握手を求めてきた。
「こちらは、エルフィアのクリステアとアンニフィルド。わたしとジョバンニと同じくSSです」
「えっ?こんな美しい方たちが、SSなんですか・・・」
ワイズマンはびっくりしたように、大きく目を見開いて言った。
「実力は、われわれ以上ですよ。ジョバンニは、一瞬で、苦もなく武装解除されました」
ジョーンズはにたにたしながら、ワイズマンに報告を思い出させた。
「なるほど・・・。で、大使は、どの方で?」
「わたくしでしょうか?」
すす・・・。
アンニフィルドとクリステアの間の愛らしくも美しい女性が、ワイズマン前に進み出てた。
「ユティスと申します」
「こ、これは・・・、んん、失礼。その・・・、お美しい」
ワイズマンは、ユティスと握手しながら嬉しそうに話した。
「合衆国大統領の訪問の件ですが、具体的になりまして・・・」
ユティスはにっこり微笑んだ。
「それは、光栄ですこと。お請けいたしますわ」
「有難い!」
ワイズマンはほっと胸をなでおろした。
「ご連絡はいってるかと思いますが、今日の午後2時に横畑基地内に特設会議場を設営いたしました。本来なら、ここに大統領が、お伺いすべきところなのですが・・・」
「リーエス、承知しておりますわ。大統領も大変なお役目。わざわざ、地球を半周してまで、日本まで起こしいただけるんですもの。セキュリティや最高機密ということを考えますと、わたくしどもが、あなた方の横畑基地までお伺いすることには、まったく抵抗はありません」
「ありがとうございます。このような一方的なお願いにお応えいただき、心より感謝いたします」
ワイズマンは喜んだ。
「それで、大統領は、いつご到着で?」
「あと3時間で到着いたします」
「じゃあ、それまでに行けばいいのね?」
クリステアが確認した。
「余裕ね」
アンニフィルドも続いた。
「でも、ここからですと、数十キロありますし、道路事情とか考えますと、すぐにでも出ないと・・・」
ワイズマンは腕時計を見て、時間を気にした。
「大使。彼女たちは、一瞬で地球上のどこでも現れることができるんです。車もヘリも必要ないんですよ」
ジョーンズがやんわりと言った。
--- ^_^ わっはっは! ---
「そんなこと言ってもだ・・・」
「お心遣いありがとうございます。でも、本当に必要ございませんわ。時間と場所さえ、お教えくだされば、そこに直接お伺いいたします」
「あー・・・、直接行くとおっしゃられても、セキュリティとか・・・」
「心配無用だ、ワイズマン」
ジョーンズが横畑基地の位置と会見場所を頭で考えた途端、エルフィアの3人にそれは伝わった。
「リーエス、ジョーンズ。現地を確認したわ。ありがとう」
ぱち。
クリステアがジョーンズにウインクした。
「イエス、マム」
「用件が済んだのなら、横畑基地に行かれた方がよろしいんでは。時間に間に合わないのは、あなたたちでなくて?」
クリステアが腕を組んだ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「そうだな」
ジョバンニがにやりと笑った。
「そういう訳で、われわれは、これで・・・」
「本当に、大丈夫なのですか?」
「アンニフィルド?」
ぱちっ。
クリステアがアンニフィルドと見合って、ウインクした。
「はい、はい。論より証拠ね。大使、お手を・・・」
「あっ・・・」
ささっ。
アンニフィルドは、ワイズマンの右手を取ると、ジョーンズのイメージした場所へジャンプした。
ぽわーーーん。
「ワイズマン大使!」
ぱっ。
ワイズマンとアンニフィルドは、淡い光に包まれたと思うと、空中に溶け込むように消え去った。
ぽわーーーっ。
そして、次の瞬間再び同じ場所が光に包まれ、アンニフィルドだけが元に戻った。
ぱっ。
「ただいま」
--- ^_^ わっはっは! ---
「お帰りなさい、アンニフィルド」
ユティスがにこにこしながら、ワイズマンの取り巻きに語りかけた。
「わわわわわーーーっ!」
「これで、大使は遅刻を免れたわね」
アンニフィルドは楽しそうに言った。
「ワ、ワイズマン大使は、・・・どこ行ったんだ?」
ちゃ。
取り巻き立ちは身構えた。
「あーら、横畑基地に決まってるでしょ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「横畑基地って・・・、ここから何十キロも離れてるんだぞ、きみ!」
「それで?」
「それでって・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あんたたちは、いったい・・・」
「ただのSSよ。ジョーンズと基本的に同じ仕事」
「で、でも・・・」
「問題はあなたたち。一刻も早く出発した方がよくなくて?」
「あ、・・・」
合衆国の一同は、SSの二人を除いて声を失っていた。
「じゃ、オレたちは、先に行くぞ」
ジョバンニは腕時計を確認すると、クリステアに言った。
「そうね。いい子だわ」
ちゅっ。
クリステアはジョバンニの首筋にキスした。
「おうっ・・・!」
--- ^_^ わっはっは! ---
ジョバンニは、電撃にも似た快感に、たちまちうろたえた。
が、彼の意識がわかるエルフィア娘たちを除いて、まさかジョバンニがクリステアにコントロールされているとは、夢にも思わなかった。もちろん、クリステアが強制などしなくても、既に、ジョバンニはクリステアの支配下にあったわけだが・・・。
「行くぞ、色男」
ぽん。
ジョーンズは笑いながら、ジョバンニの背中を叩いた。
「イエス」
ジョーンズとジョバンニはエルフィア大使館を後にした。
「さてと、わたしたち、お化粧を直す時間が、欲しいんだけど」
--- ^_^ わっはっは! ---
クリステアが、少し真顔になって言った。
「お化粧?」
「あら、レディーのたしなみですわ。うふふ」
ユティスが茶目っ気たっぷりに微笑んだ。
「そ、そういうことでしたら・・・」
「横畑基地でお会いしましょう。ねっ?」
にこ。
アンニフィルドが、目いっぱい愛想を振りまいた。
きょろきょろ・・・。
「ここは・・・?」
ワイズマンは横畑基地の大統領秘密会談の部屋に立っていた。
はっ!
「誰だ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「大使!」
いきなり現れたワイズマンに、部屋にいた人間は度肝を抜かれていた。
「いつ、いらしたので?」
「いきなり、現れたように見えたぞ・・・」
「ここは、どこだ?」
ワイズマンはあたりを見回した。
るるー、るるー。
「司令官、電話が鳴っています」
「ん・・・?ありがとう」
横畑基地の司令官は自分のマイフォンをに話しかけた。
ぴっ。
「わたしだ」
「ジョーンズです。今、ワイズマン大使が、ちょうど到着した頃だと思いますが・・・」
くるり・・・。
司令官はワイズマンの方に向き直った。
「ああ。きみの言うとおりだが・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「大使には、そこが横畑だってことを、ちゃんと教えてやってください」
「どういうことだね?」
「大統領との会談に、遅刻しやしないかと、気をもんでいらしたんで」
「それなら心配ない。まだ3時間はある」
--- ^_^ わっはっは! ---
「それより、エルフィア大使たちは?」
「元気です」
「詳細は?」
「それも、ワイズマン大使に聞いてください」
「きみたちは、今、どこかね?」
「ハイウェイです。ジョバンニが運転しています」
「自覚してくれているとは思うが、くれぐれも気をつけてくれよ。今回は極秘任務だからな。つまらんスピード違反なんかで、日本のポリスに捕まりでもしたら、後片付けが面倒なことになる」
--- ^_^ わっはっは! ---
「彼らには、本件をまったく知らされていないんでな」
「アイアイサー」
ぴっ。
司令官は、マイフォンを切ると、ワイズマンに向き直り握手した。
「ようこそ、ジャック。お元気そうで」
「ありがとう、ビリー。しかし、どうしてわたしが、ここに?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「どうしてもと言われましても・・・。ヘリで来られたわけでもないでじょう?」
「確かに、わたしは、たった今までエルフィア大使館にいたんだ・・・。そして・・・」
「まさか、気がついたら、ここだったって、おっしゃられるんじゃないでしょうね?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「それが、そういうことなんだ・・・」
司令官は両手を広げ天井を見上げた後、右手をワイズマンの方に置いた。
「ま、大統領到着まで時間もあることだし、わたしの部屋で一休みでも・・・」
「ああ・・・。少し落ち着いて考えたい・・・」
ぷるぷる。
ワイズマンは首を振った。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あー、サム。大使をわたしの執務室へ」
「イエス・サー」
にこっ。
サムはワイズマンに微笑むとその左に立った。
「きみは?」
「空軍中尉のサマンサ・アンダーソン。司令官秘書です」
サムはワイズマンと並んで歩いた。
「ここへは?」
「先週、ライトパターソン空軍基地のETI(地球外知的生命体)テクノロジー研究室から赴任しました」
「ということは・・・」
「第一級防衛機密事項です」
「ええ?」
「大統領の地球外知的生命体との接触が、今日、ここで行われます」
にやっ。
「ふふふ・・・。事実を知ったのは、わたしが一番最後だったというわけか・・・」
「それは、違います。事実を知る人間は、極々一部の少数の限られた人間しかいません。それに・・・」
「それに?」
「テレポーテーションを経験されたのは、宇都宮和人以外では、大使が初めてかと・・・」
「テレポーテーション?」
「瞬間時空移動です」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わ、わたしが・・・?」
「ええ、ジョーンズから連絡がありました」
ワイズマンは口をあんぐりと開け、もう一度あたりを見回した。
「確かに、横畑だ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「さぁ、司令官の執務室に着きましたわ」
サマンサ・アンダーソンを司令官執務室のドアを開けて、ワイズマンを中に案内した。
「そちらに、おかけになられては?」
「ありがとう、中尉」
「どういたしまして」
「これは、夢なのか・・・」
「お飲み物は?」
「ああ、カフェを・・・。もちろん、ブラックで・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「かしこまりました」
サマンサは、ワイズマンに香りも高い極上のブルーマウンテンを、ウェッジウッドのマグカップに、並々と注いで出した。
かちゃ。
「どうぞ、大使」
「ありがとう、中尉」
「どういたしまして」
ずずっ。
「ふぅ・・・」
ブルーマウンテンを一口すすると、ワイズマンはため息をつき、独り言を言った。
「わたしは・・・、頭がどうにかなりそうだ・・・」
「すぐに慣れますよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
横畑基地の34滑走路のエンドでは、いつものように数人の軍用機ファンたちが、300ミリの望遠レンズを構えて、無線を聞いていた。
「今日の警備は普段にも増してやたらと厳しいな。相当、増員されてるぞ」
「ああ、オレもいつもの場所を追い出されちまったぜ」
「VIPが来るらしい」
「ほんとか?」
「短波を聞いてた仲間のうわさだよ」
「エアフォース・ワンか?」
「それは、ありえん」
「それに、知ってるか?EU大統領が、日本を私的訪問しているの?」
「ウソ?」
「残念ながら、特別便じゃなくて定期便だけどな」
「じゃ、成田か?」
「そう。だが、藤岡には、会うらしい」
「ここと関連があるのかな?」
「さぁて・・・」
「・・・ん?」
「どうした?」
「いや、聞き間違いでないなら、なにかしら変わったヤツが降りてくるぞ」
「変わったヤツ?」
「コールサインだ。マイク・リマ・ゴルフ001・・・」
「なんだ、そりゃ?」
「聞いたことないぞ」
「マイク・リマ・ゴルフなら、アルファベットで、MLGか?」
「チャーター便か、臨時便か、知らない航空会社だ。確かに変だな」
「MACの新しい民間チャーターじゃないか?」
「かもな・・・」
「後15分で降りてくるよ」
「お楽しみってことか」