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021 受注

■受注■




和人は事務所に戻ると、急いで自分のPCを立ち上げた。


(見積の出し値の端数をだ・・・)

(切り上げないでくださいね。うふ)


--- ^_^ わっはっは! ---


傍からユティスが囁いた。


(わー、ジョークになってないよ。ユティス、かんべんして)


和人は金額を訂正すると何度もチェックした。最後にプリントして、もう一度確かめた。


(大丈夫かな?)

(リーエス(はい))

ユティスは頷いた。


すたすた・・・。

和人は社判をもらいに俊介に見積書を持っていった。


「これです」

ぱん。

「さぁ、行ってこい!」

常務の俊介は見積書に社判を押して和人に手渡した。


「リーエス」

「んっ?」


(しまった。エルフィア語を使っちゃった)


--- ^_^ わっはっは! ---


俊介は少し怪訝な顔をしたが、すぐに明るい表情に戻った。




「さて、もう一度鬼怒川部長のところに行くとしよう」

「リーエス(はい)」


すーーー。

ユティスは車のドアをすり抜けて助手席に座った。


「あは、精神体はホントに便利だね?」

「リーエス(はい)・・・」

「なぁに?」


すぅ・・・。

ユティスは和人の左手に自分の右手をそっと重ねようとしたが、すり抜けてしまった。


「そうではない場合もありますわ・・・」

ユティスは少し悲しげに言った。


「ごめん。なにか気に障った?」

「ナナン(いいえ)。わたくしこそ申し訳ありませんでした・・・」

「ん・・・?」


和人はそれ以上きくのを止めた。

「じゃ、行こうか」

「リーエス(はい)」




「和人?」

真紀が出て行こうとする和人を呼び止めた。


「なんでしょうか?」

「あなたの学校にリクルート相談に行く件だけど、先生のOK取れたかしら?」

「はい。真紀さんの訪問を伝えてあります」


「わたしだけじゃなくて、あなたも行くのよ」

「オレもですか?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「もちろんよ。初回なんだから顔繋ぎが必要だわ」

「それも、そうですね」


「しっかりなさいよぉ?」

「は、はい・・・」


(うふふ。和人さん、真紀社長さんに随分と気に入られていますわね?)

(こき使い易いからじゃない?)


--- ^_^ わっはっは! ---


(まぁ!)


(冗談だよ)

(うふふ)


にっこり。

ユティスの笑顔に、和人は悪い気はしなかった。


「えへへへ」

「和人、隣の机見て、なにを独りでにやけてんの?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「え?あ、はい・・・」


「さっさと、見積書、届けてきなさい」

「リーエス」


「ん?」

「リーエス?」


ぱっ。

事務所のみんなが一斉に和人を振り返った。


--- ^_^ わっはっは! ---


(やばい。なんか、エルフィア語が出ちゃうようになったぞ・・・)

(ナナン。良い傾向ですわ!)


--- ^_^ わっはっは! ---




和人は見積書を携えて鬼怒川部長のところに急いだ。


「やぁ、宇都宮さん。さすがですね。メールでよかったのに、早速持ってきてくれたんだ。ありがとう」


「これでよろしいのでしょうか?」

鬼怒川は封筒から見積書を取り出しチェックした。


ぴらぴら・・・。

「うん。完璧だよ」

「それじゃ、わたしは・・・」


「あっ、ちょっと待って!」

鬼怒川が和人を呼び止めた。


「あのぉ、なにか?」


「水戸くん、宇都宮さんにアイスコーヒー」

「はぁーーーい!」


「今日は、ちょっと暑いよね。少しは休んでいってよ」

「はあ・・・」


かちゃ。

鬼怒川は和人をソファに座らせて、ドアから出て行こうとした。


「ちょいと、ボクは失敬するよ。稟議書にこいつを挟まなきゃ。すぐ戻ってくるから、絶対に帰っちゃだめだよ」

「リーエス」


「はあ・・・?」


--- ^_^ わっはっは! ---


(ユティス!)


ぺこっ。


(んふ。ごめんなさい。和人さんと一緒にお仕事しているんで、なにかお手伝いしたい気になってしまいます)

(えへへ。それはどうも・・・。助かるよ)


(わたくし、和人さんのお役に立ちたいのです)

(うん。嬉しいよ・・・)


「どうぞ」

水戸がアイスコーヒーを持ってきた。


「ありがとうございます」

「どうぞ、ごゆっくりなさって」

「はい」


(これはなんという飲み物ですの、和人さん?)

(コーヒーと言ってね、コーヒーの豆を煎って、挽いて、その粉に熱湯をかけてエキスを取り出したものさ)


(熱湯・・・?これは熱くはありませんわ・・・)

(あはは。夏には、それを冷やして、氷を入れて飲み易くするのさ)


(なにか、とってもいい香りがしますね)

(うん。だけど、そのままじゃすっごく苦いんで、砂糖やミルクを入れるのさ。そうすれば、ずっと飲み易くなるんだ)


(そうですか・・・)

(リーエス)


くーーーん。


(はぁ・・・。とてもいい香りがしますわ・・・)

ユティスはコーヒーに興味深々だった。


(温かいままの方がもっといい匂いがするんだけどね)

(地球では、みなさんステキな飲み物をお召し上がりなんですね?)

(そうだね)


にこっ。


(コーヒーは、どなたとお飲みすればよろしんですか?)

(え?)

(こんなステキな飲み物を、お一人で飲むのではもったいないですわ)


にこっ。


--- ^_^ わっはっは! ---


(それもそっかぁ。うーんとねぇ、仲のいい友人同士とかと一緒にね!)


(友人同士とか、他には?)

(家族とか・・・)


(他には?)

(夫婦とか・・・)


(他には?)

(えーと、カップルとか・・・)


(カップル?)

(それはだね・・・)


にこにこ・・・。


ユティスの悪戯っぽい質問に、和人はだんだん追い込まれていった。


(例えば・・・、んふ?)


にっこり。

ユティスは和人を見つめて微笑んだ。


--- ^_^ わっはっは! ---




とんとん。


「入りますよ」

「あ、はい・・・」


かちゃ。

ドアが開いて、鬼怒川が入ってきた。


「やぁ、待たせたね。はい、これ」


さっ。


「あっ、鬼怒川部長」

「こ、これ・・・」


鬼怒川は、社封筒から発注書を取り出して、和人に確認させた。

ささっ・・・。


「これって・・・?」

「あ、注文書、要らないのかなぁ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


鬼怒川は発注書を封筒にしまいながら言った。


「こ、困ります!」

「あははは、冗談だよ。さっきの仕返し」


ほっ。


「それにしても、宇都宮さん。ウラ声、可愛いですね。宴会の余興練習でもしてんですか?一瞬、女の子がいるのかと思いました」


(げげーーーっ)


--- ^_^ わっはっは! ---


「ち、違います・・・。で、それ、午後に役員会で承認って、おっしゃられてたんじゃ?」


和人はとっさに話題を変えた。


「あー、あれね。急遽、社長が出かけちゃって役員会は中止。で、案件発注をどうするかって、経理部長が社長にきいたら、『おまえらが決めたことを長々聞かされて、オレがうんと言うだけなら、そんな会議止めちまえ』って。『判子押すから、さっさと書類持ってこい』ってね・・・」


「なんとまぁ・・・」

「オーナー社長ってのはそんなもんさ。えらく気が短く決断が早い」


「あらあら、エルドそっくりですわ!」

ユティスが囁いた。


「だれに、そっくりだって?」

鬼怒川がびっくりしたように和人を見つめた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「あははは・・・。うちの社長と常務も同じです」

「あ、そっかぁ。じゃ、あとはよろしく頼むよ」

鬼怒川は頭を振った。


(やっぱり、ちゃんと男の声だ。どうかしちゃったのかなぁ・・・。さっきもそうだったんだけど、頭の中で、宇都宮さんの声が女の子ように聞こえてしてしょうがない・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


ちらちら・・・。

鬼怒川はしきりに和人を気にした。


「はい。アルダリーム・ジェ・デーリア(どうも本当にありがとうございます)」


(ユティス!)

(んふ?)


「はいっ?」

鬼怒川はきょとんとした。


ぺこり。

「じゃあ。失礼します」

その隙に数とは席を立ち、お辞儀をした。


(大成功ですわね。うふふふ)

(あははは)


ぺこり。

今度は、ユティスが突然頭を下げた。


(和人さん、ごめんなさい)

和人は自分の左のソファーに目を移した。


「どうしたの、宇都宮さん?」


--- ^_^ わっはっは! ---


鬼怒川はなにかあるのかと思いそのソファーを見たが、なんにも見えなかった。


(呼び出しです。エルフィアに戻らないといけません)

ユティスは心底申し訳なさそうに話した。


(時間なのかい?)

(リーエス(ええ)。精神体では連続してそんなに長くはこちらにいることができないのです。またすぐにお会いできますわ)


(うん・・・)

和人はがっかりした。


(しょうがないよ。今度はいつ会えるのかな?)

(うふ。戻れるようになりましたら、また伺いますわ。では、失礼いたします、和人さん)


すぅ・・・。

ユティスは和人に一礼をすると、かき消すように空中に溶け込んでしまった。


「あの、宇都宮さん。さっきからお見つめのようですけど、ソファーになにか?」


--- ^_^ わっはっは! --- 


鬼怒川は不思議そうな声で和人に話した。


「え、いや、なんでもないんです。どうも、本当にありがとうございます」

「ああ、じゃ、頼みましたよ」

「はい!」




和人は本来なら意気揚々と事務所に戻ってきてもおかしくはなかったのだが、ユティスがエルフィアに戻ったことで、落胆していた。


「なんだよ、和人のヤツ。新規注文取ったにしちゃ、ぜんぜん嬉しそうにしてないじゃないか・・・」

俊介は真紀に目配せした。


「例のエルフィア人と関係ありそうね・・・」

「姉貴もそう思うか?」

「ええ。女の感よ」


「魔女の感か・・・」

「だれが魔女ですって?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ふーーーっ・・・」

「はーーーっ・・・」

和人は事務所で溜息ばかりついていた。


「和人!」

「あ・・・」


二宮が和人を呼んだが、和人は聞こえてるのか聞こえてないのか、ろくろく返事もしなかった。


「ユティス・・・」

和人は独り言を言った。


つかつか・・・。


「ユティスがどうかしたのか?」

いきなり、二宮がそばで言ったので、和人はびっくりした。


「お、脅かさないでくださいよ、先輩・・・」

「まったく上の空。気になることでもあるのか?」

「い、いや、それほどでも・・・」


「仕事じゃないな、その様子じゃ・・・」

二宮は和人を探るように覗き込んで言った。


「は、はーん。夢に出てきた子猫ちゃんか・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「な、なんですか?」

「ユティス!」


「ええ?」

「和人、おまえ、幽霊に惚れたな?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「せ、先輩!」

和人はたちまち赤くなった。


「幽霊じゃありませんてば!」

「ま、どっちみち、現実の女じゃないとしたら、和人くん、きみは・・・」


ぎょろり。

二宮は和人を目の玉をむくようにして見つめた。


「・・・」

「危ない世界に踏み込んだってわけだ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「なにが、危ない世界ですか!」

「よし、オレにまかせろ。その正体、確かめてやってもいいぞ。本当に女なら」


--- ^_^ わっはっは! ---


「いりません!」


わー、わー。

ぎゃあ、ぎゃあ。

どったん、ばったん・・・。




「あーあ、またはじまったわ」

岡本と茂木が、和人と二宮の会話にコメントした。


「なんでしょうか?」

石橋もそれに加わった。


「二宮と和人のバカ話よ」

「へたな漫才聞いているより、面白いわよ」

岡本が石橋に言った。


「すごい才能をお持ちなんですね、二人とも」

「はぁ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「しーっ!聞こえないじゃない」


--- ^_^ わっはっは! ---


「おっ、幽霊?正体?」

「なんなのさ、今度は?」

茂木が、石橋と岡本と目を合わせた。


「なにやら、ものすごく怪しげな会話よ」

「殺人事件ですか?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「違うったら、石橋」

「すみません・・・」


「どうやら、和人の夢の話らしいわね」

「どんな夢なんでしょうか・・・?」

石橋が不安そうに二人を交互に見つめた。


「そんなに気になるんだったら、和人たちに直接聞いてみれば?」

茂木が石橋に言った。


「えっ?そ、それは・・・」


さっ。

すたすた・・・。


石橋はこの二人に自分の気持ちを感づかれまいとして、すぐに自分の席に戻って行った。


「どんな夢だって?そんなの決まってるじゃない。ねぇ」

茂木は岡本と一緒に頷いた。


「どうせ、叶いっこない夢よ」


--- ^_^ わっはっは! --- 


「和人?」

「はい、真紀社長」

真紀に呼ばれ、和人は真紀の前の椅子に座った。


「今週のどっか、一晩、空いてる?」

「夜ですか?」


「ええ。ハイパートランスポンダーの件、覚えてる?」

「やっぱり、通信料、取るんですか?」


--- ^_^ わっはっは! ---


にっ。


「くれるんなら、もらってもいいわよ」

「嫌です」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ちょっと間が空いたけど、俊介と3人で話の続きがしたいの。事務所じゃなにかと邪魔が入るでしょ」

真紀は二宮の方を向いた。


「二宮さんですね?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ま、そういうことでしたら・・・」

「いいのね?」

「はい」


「じゃ、そういうことで、日取りが決まったら教えるわ」

「はい」

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