218 母親
「はぁい、アンニフィルドです。二宮が強盗のナイフで大怪我しちゃったけど、順調に回復してきてるわ。それで、二宮の親御さんも田舎から看病にきてるんだけど、なにやら、問題が発生したらしいの。どうなることやら・・・。えへ、知ってるけど、読んでくれなきゃ教えてあげなぁーい」
■母親■
「先生、いったい、どれくらいやっちゃいけないんっすかぁ?」
二宮は担当医にきいた。
「最低2ヶ月、場合によったら、3ヶ月」
「そ、そんなに・・・」
一気に二宮は落ち込んだ。
「そんぐらい、酒は飲んじゃだめだよ、きみぃ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あ・・・。あの・・・。稽古のことなんすけど、先生」
二宮は訂正を申し出た。
「慶子・・・?あーあー、あの見舞いに来てたハーフの女の子のことかな?」
ドクターは意味ありげににやりと笑った。
「・・・そっちは、なおさらダメだ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ち、違います!」
「いや、激しいことはダメダメ。最低3ヶ月!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「先生、だから、カラテの稽古だっていってるでしょう」
「わかっとるよ。冗談だ」
(ヤブ医者め!)
「なんか言ったかね?」
「いいえ、なんにも」
「来週には抜糸できるだろう。行っていいよ」
「リーエス」
「んっ・・・?」
「うふふ」
ドクターの後ろで、看護婦が二人くすくす笑っていた。
「二宮さん。大丈夫ですか?」
若い看護婦が、二宮の車椅子を押しながら微笑んだ。
「天の川銀河一の大ヤブ医者だ」
「先生、二宮さんを気に入ってますよ。あんなに冗談を言うときは、決まって患者さんに特別な親しみを感じてる時だけなんです」
「そうなんすかぁ?」
「ええ、そうですとも。二宮さん、自分の命も顧みず恋人を守ったんですもの。うらやましい!」
「こ、恋人って・・・?」
「あら、違うんですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そう思いたいけど・・・」
「だって、キッスしたんでしょ。彼女」
「えー、なんで知ってるんですか、あなたが!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「だって、病院中のウワサですよ」
「うそ・・・!」
「だって、あの時、ナースコール押したままだったとか・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あの時って?」
「二宮さんのところにお見舞いに来られたでしょ、彼女?えーと、イザベラさんとかいった・・・」
「イザベルちゃん?」
「そうそう。二宮さん、『なんで、キッスなんてしたんだ?』なんて、おっしゃったじゃないですかぁ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「げっ!それじゃぁ、ナースセンターに、まる聞こえだったってこと?」
「はい!放送されちゃいましたぁ」
--- ^_^ わっはっは! ---
二宮の看病には、九州から母親が駆けつけていた。二宮は、三週間入院していた。やっと退院した二宮は、まず、会社より先に道場に向かった。
「あり・・・。こういう場合、まず、最初に会社に挨拶すべきとこなんだろうなぁ・・・。まぁ、いいや、足が自然に向いた方からすれば・・・」
ーーー ^_^ わっはっは! ---
イザベルが道場を止めるといってから、イザベルは二宮には会っていなかった。師範たちの話だと、道場は止めてはいないらいしいが、稽古には出ていなかった。
そんな中、二宮の病室にユティスたちが見舞いに来ていた。
とんとん。
「はい、どなたですか?」
中から二宮が答えた。
「ユティスですわ」
「あー、入っていいよ。鍵かけてないから」
「はい」
きぃ・・・。
「こんにちわ・・・」
にっこり。
「はーっ、いつ見ても可愛いね、ユティス」
「ありがとうございます」
「先輩、大丈夫ですか」
「あ、和人、いつ見ても面白い顔だね」
--- ^_^ わっはっは! ---
「なんですか、失礼な」
「うふふふ、二宮さんの冗談ですわ」
「そうなんだよ、こいつユーモアがわかんなくてね、ユティス」
「そんなに元気なら、心配ないです。じゃ、また。ユティス、帰ろう」
「あら、もう、お帰りになるんですか?」
「和人、バイバイ。オレ、ユティスがいてくれればいいよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ち、ちょっと、ユティス」
「わたくし、後で戻りますわ」
「ええ?」
あたふた・・・。
「あーーー。あせってやがんの、バーカ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ほんと、怒りますよ」
「じゃ、ユティスは、おまえの彼女なのか?」
「うっ。そ、それは・・・」
和人はユティスを見た。
「あの、肯定したいけど、しちゃっていいのかなぁ?」
「おバカさん、ねぇ。いいに決まってるでしょ」
アンニフィルドが言った。
「彼女って、彼女と、どうちがうんでしょうか?」
ユティスは代名詞としての意味しか知らない様子だった。
「恋人ってことよ。この場合、彼女ってのは、特別な意味になるの」
クリステアがユティスに微笑んだ。
「まぁ・・・」
ユティスは和人を見つめ頬を真っ赤にし、今にも抱きつきそうな笑顔になった。
「はいはい。そこまで!そこで、おしまいね!今日は、二宮の見舞いに来たんだから」
「そうそう、キッスするんなら、外でやんなさいよ」
クリステアとアンニフィルドが手を広げた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「わぉ!おまえたち、そこまで進んでんのか?」
二宮は入院中のできごとを少ししか、知らなかった。
「知らなかったの、二宮?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「お、おぅ。オレ、入院中だったからな。和人もユティスもちっともそんな素振りなかったし・・・」
「ディープキッス3回。ノーマルキッス多数。ちょびっとキッス毎日無数。その他、親密度の相互確認無数」
「親密殿相互確認・・・?」
「こうするのよ。アンニフィルドはベッドの枕を取って抱き締めた」
ぎゅっ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あ、なるほどぉ・・・」
「バカップル」
ぺろ。
アンニフィルドが舌を出した。
--- ^_^ わっはっは! ---
「まぁ。それは言い過ぎですわ、アンニフィルド」
ユティスは真っ赤になって後ろを向いた。
「マジかよ?まいったぜ・・・」
「そんなにしてません!」
「バカップルでもないです!」
ユティスと和人はそれを否定した。
「どうでもいいけど、1回以上したってことだよな・・・」
「先輩!」
「わははは。そうか、そうか・・・。くっそう、羨ましい・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「それは、そうと、二宮さん、おけがは大丈夫ですか?」
ユティスが和人に助け舟を出した。
「ああ。順調に回復中ってとこだな」
「痛みますか?」
「うん。まだ、体を動かすと、ズキッて、いやな痛みが走る・・・」
「じゃ、わたくしがお直しします。お腹を見せてくれますか?」
そう言って、ユティスは二宮のベッドに近寄った。
「これでいいのかい?」
にや・・・。
二宮はパジャマを一気にずらそうとした。
「こら、二宮!だれがパンツまで脱げと言ったの?」
クリステアが落ち着いて言った。
--- ^_^ わっはっは! ---
「きゃあ!」
ユティス小さく叫んで顔をそむけた。
二宮の腹は包帯でしっかり巻いてあった。ユティスは傷の上に右手をかざし、呪文のような言葉を唱えた。
「すべてを愛でる善なるものよ、二宮さん、彼の者の傷を癒し、それから生ずる一切の痛みを消したまえ」
ぽわぁーーーん。
ユティスの右手から虹色の光があふれ出てきて、二宮の腹の傷に優しく注がれていった。
すすぅーーー。
二宮はすぐに痛みが遠のくのを感じ、気分が爽快になっていった。ユティスは癒しの処置を終えると、二宮に微笑みかけた。
「いかがですか、二宮さん?」
「ありがとう。すっかり良くなったよ」
「それは、良かったですわ」
ユティスは手放しに喜んだ。
「まだ・・・、もう一箇所あるんだけど・・・」
「申し訳ございません、二宮さん。まだ、どこか痛むのでしょうか?」
ユティスは顔を曇らせた。
「ああ・・・」
二宮は突然、苦しそうな顔になった。
「うっ!」
「大変、どこですか?」
二宮は自分の心臓を右手で指し、ニヤッに笑った。
「重症だ。イザベルちゃんにやられた・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「まぁ!」
「これだぁ!」
「ほっときなさよ、ユティス」
クリステアがあきれ顔で言った。
「そうそう。冗談が言えるくらいなんだから」
しかし、イザベルとの一件を知っている和人は、笑うに笑えなかった。
「毎日、一緒に暮らせるおまえたちが、羨ましいよ」
二宮はもらした。
「監視が二人もついてるから、なにもできない・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
和人が、こっそり、二宮の耳元で言った。
「へっへ。ざまぁ、見ろ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「聞こえてるわよ、和人」
クリステアがアンニフィルドに目配せした。
「ふうーーーん。なんにもできない・・・。そうなんだ。だったら、守ってなんかあげないわよ」
アンニフィルドが文句を言った。
「瀬令奈とのテニスの試合に勝って、誰かさんと抱き合ってディープキスしてたのは誰なのよ?あの日のように、うちでも、そうすればいいじゃない。ぜんぜんかまわないわよ、わたしは」
クリステアはくすりと笑った。
「あたしたちがいなくても、和人は、ユティスにお子様キス以上のことなんて、できないわ」
クリステアは和人にウィンクした。
「お子様だって?」
「テニスの時だって、誰かさんがなんにもしてくれないんで、誰かさんがしかたなくそうしたんじゃなくって?」
「ほう、ついにユティスと大人のディープキッスしちゃったのか。でも自分からはできないんだよな。わかる。わかる。オレはわかるぞぉ。なにかしたくてウズウズしてんだろ?」
二宮は大笑いした。
「なに言ってるんですか!」
「和人さん・・・」
「ユティス・・・」
和人は真っ赤になって否定するが、もの言いたげなユティスに見つめられて黙り込んだ。ユティスは和人の左腕につかまると、ぴったりと和人に身を寄せてにっこり微笑んだ。
「なにかって、なんですの?」
「あ、いやぁ・・・。つまり、そのぉ・・・」
「わたくしにできることでしたら、してさしあげますわ」
「だーっ!」
和人はごまかそうと必死になるが、その時、ちょうど二宮の母親が帰ってきて、和人は救われた。
「祐樹、お友達が来てるのぉ?」
二宮の母親は、エルフィア人3人を代わる代わる見ると、にっこり微笑んだ。
「どうも、いつも息子がお世話になっています」
「いえ、こちらこそお世話になりまして」
ぺこり・・・。
真紀は母親に首を垂れた。
「どなたが、イザベルさんですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
二宮は慌てた。二宮はイザベルのことはもちろん、母親にはなにも知らせていなかった。
「おふくろ、イザベルって、だれから聞いたんだよ?」
「看護婦さんよ。毎日病室にお見舞いに来てたとか。で、イザベルさんはフランスの方でしょ?」
「お袋さんはそうだけど、親父さんは日本人だぜ」
「でも、外人さんって顔なんでしょ?」
「それは、そうかなぁ・・・」
「あの、もし・・・」
にっこり。
母親はショートヘアのクリステアを見て微笑んだ。
ぷる・・・。
クリステアはいかにもスポーティな感じがしたが、静かに首を振った。
「じゃあ、あなたかしら?」
母親はアンニフィルドを見た。
ユティスは、和人にぴったりくっついていたから、違うと思っていた。
「そうですわ、お母さま」
みんなビックリして、アンニフィルドを見た。
--- ^_^ わっはっは! ---
「と、いいたいところなんですけど、残念ですわね。違いますの」
とユティスの口調をまねして続けた。
--- ^_^ わっはっは! ---
二宮の母親は、ユーモアがわかる人間だった。しかし、彼女はユティスたちを見てびっくりしていた。
(祐樹の周りに美女が3人も。イザベルさんは、この娘さんたちじゃないというから・・・。えーーーっ。合わせると、4人なの?いったい、この子ったら、どんな生活してるのかしら?)
彼女は首を傾げた。
くるり。
そして、母親は石橋を見た。
「まさかとは思うけど、あなたがイザベルさん?」
「い、いえ。違います、お母様」
「まぁ、お育ちがよろしいんですのね?」
「そうでもないんです。父はごくごく普通のサラリーマンですから」
「うふふ。わかしました」
母親はもう一度、二宮を見つめた。
「この祐樹がねぇ・・・。不精者で武道一直線で、女気なんてからっきしないものと思ってたましたのに・・・」
「お袋、言い過ぎだぜぇ」
二宮は、イザベルの話から一刻でも早く逃げ出したかったが、母親は大体予想していた。
「祐樹。あなたは、とにかく、イザベルさんには失礼のないようにね」
母親は息子に言った。
二宮の見舞いの帰り道、和人はワゴンに乗ったみんなに話しかけた。
「なんか、すっごくできたお母さんですね?」
「え、そうね。さすが武道家のお上さんだけあるわ」
「真紀さん、二宮さんち、武道家なんですか?」
「そうよ、ユティス。なんでも古式武道とかで、剣術や空手のような格闘術に加え、泳ぎ方なんかもあるらしいわ」
「ふうん。二宮さんて、すごんいんですね?」
石橋は感心した。
「でも、本人は次男坊らしくて、うちを継ぐ気はまったくないらしい。一応、武道家け系らしく、本人はカラテに打ち込んではいるがな」
ワゴンを運転しながら、俊介が言った。
二宮の母親は九州から来ていたが、息子の傷の治り具合にもよるが、あと1週間はいなければならないと思っていた。
「どう、祐樹?」
「まだ1週間はこんな感じだと思うな・・・。動かしてないと、身体が腐りそうだ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ども、思ったより元気そうなんで、母さんは安心したわ。この様子なら、あなたのことお友達に任せてもいいかなと思いますよ」
「お袋・・・」
ぱさっ。
二宮は読んでいた雑誌を、ベッドの脇に置いた。
「あなたの嫁御になるというイザベルさんには会ってみたいけど、どうなのかしら?」
「嫁御か、あははは・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
(はっきり恋人ってわけでもないし、オレの一言で、カラテは止めるって言ってるし、こんな状況でおふくろに言えるかよ)
「い、今は難しいかも、いろいろ大変そうで・・・」
二宮は誤魔化した。
「それはとても残念。あなたが手術の時、輸血してもらったんでしょ?」
「ああ。そうなんだ」
「では、本当に身も心も一緒になったということですね・・・」
「ちょっと待ってよ、お袋。オレの血が特殊な型だから、病院にストックされてなかったんだ。でも、イザベルちゃんが奇跡的にオレと一緒で・・・」
「とにかく、わたしはお礼がいいたいんです」
「だから、彼女、今、いろいろと忙しくてさ、オレも合ってないんだ、ここんとこ」
もう、二宮はぶっちゃけることにした。
「会っていないって、あなたの恋人なんでしょ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「だから、まだそんなに深いお付き合いじゃないんだってば・・・」
「本当はケンカしたんでしょ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「違うってば・・・」
「振られたの?」
「違うよ。と思いたいだけど・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「しゃきっとしなさい、祐樹!今回は会えないのなら仕方ないわ。でも、近いうちに、そのイザベルさんを家に連れて帰りなさい。いいわね!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「だから、恋人なんかじゃないって言ってるだろ?」
「あなた、それでいいの?」
「よくはないけど・・・」
「祐樹、あなたも26でお年頃なのよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「二宮家の男たるもの、女の一人や二人、いなくてどうします。一人で帰ってくるなら、家の敷居はまたがせませんからね」
--- ^_^ わっはっは! ---
「お袋・・・」
(どうすりゃいいんだ・・・?ハードルが2段階上がっちまったぜ・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
二宮の母親が来て、あっというまに2週間が過ぎた。二宮の母親が九州に帰る日が来て、和人たち4人は、俊介と真紀、石橋らと、また二宮の病室にやって来た。
「みなさん、不束者ですが、息子の祐樹をどうかよろしくお願いいたします」
ぺこ・・・。
母親は深々と頭を下げた。
「いえ、こちらこそ・・・」
「それじゃ、祐樹、わたしは戻りますが、ちゃんとしなさい」
「わかってるって・・・」
「二人で帰ってくるのよ」
「んもう、いいったら、その話し・・・」
「お二人でですか?」
ユティスが無邪気に発した言葉で、みなははたと気づいた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「わははは、お母様、大丈夫ですよ。春には彼女も家に入社させますんで、仕事も一緒ですよ」
「あら、常務さん、それは本当ですか?」
「ええ。二重の口説きになりますんでね」
--- ^_^ わっはっは! ---
「息子さんの頑張りによりますが、両方かゼロかです。わたしは両方そうなると確信しています。わははは」
「まぁ・・・」
「息子さんは、優秀な営業スタッフです。ユーモアのセンスもあるし、人を口説くのはお手のもの」
--- ^_^ わっはっは! ---
「私どもでしっかりと預からせてもらいますから」
「どうぞ、よろしくお願いいたします」
「じゃあね・・・。祐樹、しっかりと頑張るのよ」
「ああ、お袋・・・」
「イザベルさんか・・・。楽しみだわ。うふ」
「そっちかよぉ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
二宮は、ほとんんど自然に動けるようになっていたが、担当医の外出許可は下りなかった。
二宮の母親の空港への見送りは、国分寺たちの役目徒なった。母親は俊介のワゴンに乗り込み、空港に向かった。