216 混合
■混合■
ホテル・エクセラント・プランセスには上客用にテニスコートが2面あった。そこに瀬令奈と烏山、和人、ユティス、他瀬令奈のマネージャーとSS二人が揃った。
「よく逃げずにきたわねぇ・・・」
瀬令奈は既に戦闘体制に入っていた。
「バカ面、見るのが楽しみでさぁ」
アンニフィルドが正面からそれを受けた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「なんですってぇ!このドデカウサギ!」
「言ったわねぇ、腐臭菜っ葉!」
「きぃーーー!」
瀬令奈とアンニフィルドは、また、口汚く罵り合いを始めた。
「止めろ、二人とも!なんて、みっともないんだ!」
烏山が二人の間に入って、それを止めさせた。
「ふん、こてんぱんにしてあげるわ!」
「止めろ、瀬令奈!」
「だって、あの女!」
「あれは、あっちの作戦だよ。きみを怒らせて、冷静な判断力を奪おうって戦略さ。わからないのかぁ?」
「違うったら!あれは本気に挑戦よ、あたしへの・・・」
「いいから、さっさと始めましょうよ」
クリステアが静かに二人を促した。
勝負の時が来た。
「じゃ、審判をお願いしたいんだけど」
瀬令奈のマネージャーは主審を努めることになった。
「じゃ、ライン審判は、そっち側で・・・」
「いいわよ。わたしたちがするわ」
SSの二人がすることになった。
たったった・・・。
SSたちはそれぞれのベースライン後ろに散っていった。
「いよいよだね」
和人はだんだん緊張してきた。この試合に負ければ、いっさい芸能活動はしないという約束だった。
「勝てば?なんだったけ?」
「わたしたちには一切手出しはしないこと」
クリステアが答えた。
すっす・・・。
不安そうな和人に、ユティスがすぐ目の前まで近づいた。
にっこり。
「はい、気持ちが落ち着くおまじない」
ユティスは微笑むと、そのまま目をつむって、和人のほほにキスをした。
ちゅ。
「あっ!」
和人は驚いて顔をユティスに向けた。
ちゅ。
ユティスはためらうことなく、すぐさま、もう一度、今度は和人の唇に自分の唇を重ねた。
「お久しぶりです・・・。うふ」
--- ^_^ わっはっは! ---
(和人さん、大好き。大好き。大好き!)
和人の頭の中で、ユティスの言葉が鐘のように何度も鳴り響いた。ユティスのテニス姿は最高に可愛かった。
「あ、あ、あ、あーーー、あいつらぁーーーっ。あたしの目の前で、一度ならず二度もいちゃついてくれちゃって!絶対に許さないわ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
早くも瀬令奈は頭に血が上っていた。
(はあーーーっ、これは始める前から勝負が決まってるじゃないか・・・)
烏山は、一気にモチベーションが下がって、ため息をついた。
(こっちはペアの気持ちはバラバラで、頭に血が上ったおバカがいきり立ってるというのに、相手はお互いを信頼しきって、息もぴったり、アツアツムードの恋人同士、以心伝心の理想のペア・・・)
「この勝負、今からでも止めた方がいい。恥をかくだけだ、瀬令奈」
烏山は言った。
「ふざけないでよ!わたしをだれだと思っているの。インターハイ優勝。大沢理香の元パートナーよ。素人相手に負けるわけがないじゃないの!」
瀬令奈は烏山にかみついた。
(やっぱりか・・・。しょうがないな。こいつも、長くないぜ)
「瀬令奈さんのサービスから」
瀬令奈のサービスで、ゲームが始まった。
「はっ!」
どかーーーん。
「フォルト!」
きっ!
「はぁっ!」
どかーーーん。
「フォルト!」
「ち・・・」
瀬令奈のファーストサービスはさすがに速かったが、ダブルフォルトを連発して、あっという間にラブ・フォーティになった。
「ドンマイ、瀬令奈!」
烏山のフォローを、瀬令奈は馬鹿にされたと思い拒絶した。
「うるさいわね、ジョージ!」
「ああ、そうかい」
(ほれ、みたことか。早速、一人相撲を始めやがって。コイツがパートナーを信頼することなんか絶対にないな・・・)
烏山は舌打ちした。
「はいっ!」
ぱん。
ぎゅうんっ。
さすがに、ここはスピンサーブで瀬令奈は入れてきた。
ぱこーーーん。
ユティスはなんなく相手コートの奥深くへリターンを返した。
「ナイス・リターン!」
それを見た和人は低い姿勢のままネットにつめた。
だっだ・・・。
瀬令奈が追いつき、ユティスのバックをねらった。
ばーーーん!
その時、和人はネット際に現れると烏山の足元にボレーを決めた。
「和人さん、ナイス、ボレー!」
ユティスが和人を応援した。
「ゲーム・ワン・バイ、ユティス・カズト・ペア」
主審を務める瀬令奈のマネージャーが言った。
「まずは1ゲームね!」
クリステアはにっこりした。
次はユティスのサービスだった。
「はいっ!」
ぱーん!
たったった。
ユティスは確実に入れて前に出た。
「ナイス・サービス!」
瀬令奈はそれを見て、ユティスのフォア側へストレートで抜こうと強烈なリターンを打ってきた。
ぱこーん!
ばしっ!
「あん!」
ユティスは届かず、ラブ・フィフティーンとなった。
「すみません、和人さん」
「ドンマイ、ドンマイ、ユティス」
「はい」
「よし、いいぞ、瀬令奈!」
烏山はなんとか瀬令奈を盛り上げようとした。
「さすが、元インターハイ優勝者だな。読みも決断も早いし、球が強烈だ。これで冷静にやられたら勝ち目はないぞ」
和人は、ユティスになるべく瀬令奈と烏山の真ん中をねらうよう、精神波で会話した。
「相手はパートナー同士信頼しあっていないから、真ん中をねらえば、お互いのせいにしてボロがでてくるはずだ」
「リーエス」
ユティスは頷きそのとおりにした。
ぱぁーーーん。
今度は瀬令奈のリターンはクロスに返ってきた。
すこーーーん。
和人は瀬令奈と烏山の間を深くねらった。
「くぅ・・・」
(届かない・・・)
烏山はボレーを諦め、瀬令奈にまかせた。
びゅーーーん。
「きゃあ!なによジョージ、あなたのボールでしょ!」
どたどたーーん。
「なに言ってんだ。あそこで横に飛んだら、脇ががら空きになって、次にそこに決められてしまうじゃないか!」
「頼りにならないわね!」
瀬令奈は怒りをあらわにした。
「かっかするなよ!」
「やっこさん、ひっかかったわ」
アンニフィルドは和人の作戦を読んで、クリステアと会話した。
ぱーーーん。
かっ。
すぽーん。
瀬令奈はもう一度クロスに返したが、そこにユティスがボレーを烏山のバック側深くに入れた。
さぁーーー。
「ナイス・ボレー!」
烏山も届かず、瀬令奈も追いつけなかった。
球はコートの外にすべるように出た。
ぶん!
「今のこそジョージでしょ!」
瀬令奈はラケットを振り回し、ジョージを責めた。
「うるさいな、わかってるよ。あーあ、ごめん、ごめん!」
「ぜんぜん、心がこもってないわね!」
「謝ったじゃないか!」
「フィフティーン・オール!」
レフェリーの瀬令奈のマネージャーがコールした。
「ユティス、いいぞ!」
和人は大きな声を出した。
「和人さん、どういたしまして!」
ゲームは互いに一進一退で進んだ。
1セットも5:5まできた。
「さぁ、このゲームを取れば1セット先取よぉ!」
アンニフィルドが二人に叫んだ。
「リーエス!」
ユティスと和人は同時に答えた。
「あーあ。返事までシンクロしちゃって・・・」
クリステアはユティスと和人を見つめて、両手を広げた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「息の合ってること。あはは」
アンニフィルドも同意した。
「まったぁ・・・。見せ付けてくれちゃって・・・」
かっか・・・。
「瀬令奈、いい加減に冷静になれよ」
「・・・」
かっかしていた瀬令奈もここまでくると、さすがにユティスたちの実力を侮れないと思うようになった。
「ジョージ、ちょっと・・・」
瀬令奈は烏山に耳打ちした。
「あいつら、なんであたしが打つところがわかんのよ?」
「知らんよ、そんなこと」
「だって、スペースに打ち込んだと思ったら、必ずどっちかがそこにいるのよ。おかげで、狙いが決められない。いまいましいったらありゃしないわ!」
「自分でしゃべってんじゃないのか、瀬令奈が。ここに打ち込みますよってさ」
「ばかなこと言わないで!」
「相手はエルフィア人だぜ」
「なんですって?」
「彼女はエルフィア人。異星人。天使だよ。忘れたのか?」
「バカバカしい!」
しかし、瀬令奈は突然ピンときた。
「待って・・・」
(そういうことか・・・。あいつら、あたしの考えたことを読めるんだ)
「わかった。ジョージ、これからはノーサインでいくわよ。いいこと、センターライン上はわたしが取るわ。それ以外は互いが守ること。隙あれば前衛になったほうがボレーにでる。いいわね!」
「OK!」
これを契機に、瀬令奈と烏山のペアは、やっと動きに連携が取れ始めていた。
「やっこさんたち、息の合うペアに戻りつつあるわ」
アンニフィルドがユティスたちに警告した。
「リーエス!」
「はっ!」
びしーーっ!
瀬令奈の渾身のファーストサービスが、和人のバックへ強烈に飛んできた。
ぱーーんっ。
和人は横っ飛びでかろうじて受けたが、リターンはロブとなって相手のコートの真ん中に上がっていった。
ふらふら・・・。
「万事休すね」
アンニフィルドとクリステアは見合った。
「ユティス!」
「だめです、二人とも手を出さないでください!」
ユティスの叫び声が二人そして和人の頭にに響いた。
すくっ。
たったった・・・。
和人は素早く立ち上がるとベースラインに戻った。
(もらった!)
烏山はダイレクトでスマッシュすべく左手をあげ、ボールの下に入った。
「ユティス、下がって!」
瀬令奈はスマッシュが失敗したとき、カバーできるよう、やや後ろにさがった。
ばしゅ!
どかーーーん!
烏山はユティスの手前に思いっきり打ち込んだ。
「きゃあ!」
ユティスは悲鳴をあげると、思わずのけぞった。
ぽーーーん。
和人は大きく跳ねたボールを追いかけた。
だっだっだ・・・。
「くそぅ、絶対に取ってやる!」
「あ、追いついた、和人!」
アンニフィルドはびっくりした。
和人は後ろ向きのまま、再度ロブをあげた。
ぽわーーーん。
今度は相手コートのベースライン付近への深い滞空時間の長いロブだった。
たったった・・・。
和人はまたすぐ自分のポジションに戻っていった。
「ユティス、ボレーだ」
(またスマッシュがくるから。コートに入る前にブロックして。今度はベースラインからだから、弾道は低くなるよ。これなら、ボレーできるぞ)
そして和人はいつでもバック側に飛んでいけるよう、わざと中心やや右に位置した。
「はぁっ!」
ばしっ!
瀬令奈ははたして、思いどおりに和人のバック側を狙ってた。
さささっ。
ユティスは和人のいうとおりにネットに出た。
しゅーーん。
瀬令奈のスマッシュがやや左よりにネット20センチ上を通過した。
ぱぁん!
そしてユティスのバックボレーにひっかかった。
すぅーーーっ。
思いっきりスライス回転がかっかたボールは、低い軌道で瀬令奈と烏山の間を滑るようにして抜けていった。
ぽんぽんぽん・・・。
ころころころ・・・。
「ユティス、ナイス・ボレー!」
「やりー!」
「セット・ワン・バイ、ユティス・カズト・ペア」
その瞬間、瀬令奈は信じられないような顔をした。
「え・・・?なにが起こったというの?」
瀬令奈は烏山を見つめた。
「お前のスマッシュが、ユティスのボレーにかかったんだよ」
烏山は静かに言った。
「そ、そんな、馬鹿な・・・。信じられない・・・」
「やったぞ、ユティス。オレたちが1セット先取したんだ!」
「リーエス、和人さん」
ぱっちん。
二人はコートの中央で、互いの手を合わせた。
「よぉし、これで瀬令奈たちは焦ってくるよ」
「リーエス」
「こっちが1セットを先取したわね」
クリステアが喜んだ。
「そういえば、そろそじゃないかしら・・・?」
「なにがぁ?」
アンニフィルドが時刻を確認した。
「クリステア、身体の細胞連携による運動記憶よ。あれから24時間たったわ。そろそろ効果がでてくる頃じゃない?」
「ええ。そろそろよ」
「ユティス、体が運動記憶を定着させるころだから、思いっきり試してみて」
アンニフィルドは頭の中で、ユティスに指示を出した。
「リーエス!」
「そろそろ、きみの本気出していくか!」
和人はユティスに微笑んだ。
「リーエス!」
「3分休憩後に第2セットに入ります」
瀬令奈のマネージャーが、ネット脇の審判席に座ったまま言った。
「やったわねぇ、ユティス、和人」
ぽん。
ぽん。
アンニフィルドがコートからベンチに戻ってくると、二人の頭をぽんと叩いて出迎えた。
「いい線いってたわよぉ」
にこ。
クリステアも微笑んだ。
「でも、瀬令奈の実力はあんなもんじゃないよ。第2セットは、もっと慎重にくると思うよ」
「リーエス。和人さんのおっしゃるとおりです」
ユティスはペットボトルのミネラルウォーターを少し飲んだ。
「さぁ、汗を拭いて」
クリステアは、二人にタオルを渡した。




