表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
216/408

216 混合

■混合■




ホテル・エクセラント・プランセスには上客用にテニスコートが2面あった。そこに瀬令奈と烏山、和人、ユティス、他瀬令奈のマネージャーとSS二人が揃った。


「よく逃げずにきたわねぇ・・・」

瀬令奈は既に戦闘体制に入っていた。


「バカ面、見るのが楽しみでさぁ」

アンニフィルドが正面からそれを受けた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「なんですってぇ!このドデカウサギ!」

「言ったわねぇ、腐臭菜っ葉!」


「きぃーーー!」


瀬令奈とアンニフィルドは、また、口汚く罵り合いを始めた。


「止めろ、二人とも!なんて、みっともないんだ!」

烏山が二人の間に入って、それを止めさせた。


「ふん、こてんぱんにしてあげるわ!」

「止めろ、瀬令奈!」


「だって、あの女!」

「あれは、あっちの作戦だよ。きみを怒らせて、冷静な判断力を奪おうって戦略さ。わからないのかぁ?」


「違うったら!あれは本気に挑戦よ、あたしへの・・・」


「いいから、さっさと始めましょうよ」

クリステアが静かに二人を促した。




勝負の時が来た。


「じゃ、審判をお願いしたいんだけど」

瀬令奈のマネージャーは主審を努めることになった。


「じゃ、ライン審判は、そっち側で・・・」

「いいわよ。わたしたちがするわ」

SSの二人がすることになった。


たったった・・・。

SSたちはそれぞれのベースライン後ろに散っていった。




「いよいよだね」

和人はだんだん緊張してきた。この試合に負ければ、いっさい芸能活動はしないという約束だった。


「勝てば?なんだったけ?」

「わたしたちには一切手出しはしないこと」

クリステアが答えた。


すっす・・・。

不安そうな和人に、ユティスがすぐ目の前まで近づいた。


にっこり。

「はい、気持ちが落ち着くおまじない」

ユティスは微笑むと、そのまま目をつむって、和人のほほにキスをした。


ちゅ。

「あっ!」

和人は驚いて顔をユティスに向けた。


ちゅ。

ユティスはためらうことなく、すぐさま、もう一度、今度は和人の唇に自分の唇を重ねた。


「お久しぶりです・・・。うふ」


--- ^_^ わっはっは! ---


(和人さん、大好き。大好き。大好き!)


和人の頭の中で、ユティスの言葉が鐘のように何度も鳴り響いた。ユティスのテニス姿は最高に可愛かった。


「あ、あ、あ、あーーー、あいつらぁーーーっ。あたしの目の前で、一度ならず二度もいちゃついてくれちゃって!絶対に許さないわ!」


--- ^_^ わっはっは! ---


早くも瀬令奈は頭に血が上っていた。




(はあーーーっ、これは始める前から勝負が決まってるじゃないか・・・)

烏山は、一気にモチベーションが下がって、ため息をついた。


(こっちはペアの気持ちはバラバラで、頭に血が上ったおバカがいきり立ってるというのに、相手はお互いを信頼しきって、息もぴったり、アツアツムードの恋人同士、以心伝心の理想のペア・・・)


「この勝負、今からでも止めた方がいい。恥をかくだけだ、瀬令奈」

烏山は言った。


「ふざけないでよ!わたしをだれだと思っているの。インターハイ優勝。大沢理香の元パートナーよ。素人相手に負けるわけがないじゃないの!」

瀬令奈は烏山にかみついた。


(やっぱりか・・・。しょうがないな。こいつも、長くないぜ)


「瀬令奈さんのサービスから」

瀬令奈のサービスで、ゲームが始まった。


「はっ!」

どかーーーん。

「フォルト!」


きっ!


「はぁっ!」

どかーーーん。

「フォルト!」


「ち・・・」

瀬令奈のファーストサービスはさすがに速かったが、ダブルフォルトを連発して、あっという間にラブ・フォーティになった。


「ドンマイ、瀬令奈!」

烏山のフォローを、瀬令奈は馬鹿にされたと思い拒絶した。


「うるさいわね、ジョージ!」

「ああ、そうかい」


(ほれ、みたことか。早速、一人相撲を始めやがって。コイツがパートナーを信頼することなんか絶対にないな・・・)

烏山は舌打ちした。


「はいっ!」


ぱん。

ぎゅうんっ。


さすがに、ここはスピンサーブで瀬令奈は入れてきた。


ぱこーーーん。

ユティスはなんなく相手コートの奥深くへリターンを返した。


「ナイス・リターン!」

それを見た和人は低い姿勢のままネットにつめた。

だっだ・・・。


瀬令奈が追いつき、ユティスのバックをねらった。

ばーーーん!


その時、和人はネット際に現れると烏山の足元にボレーを決めた。

「和人さん、ナイス、ボレー!」

ユティスが和人を応援した。


「ゲーム・ワン・バイ、ユティス・カズト・ペア」

主審を務める瀬令奈のマネージャーが言った。


「まずは1ゲームね!」

クリステアはにっこりした。


次はユティスのサービスだった。


「はいっ!」


ぱーん!

たったった。

ユティスは確実に入れて前に出た。


「ナイス・サービス!」


瀬令奈はそれを見て、ユティスのフォア側へストレートで抜こうと強烈なリターンを打ってきた。


ぱこーん!

ばしっ!


「あん!」

ユティスは届かず、ラブ・フィフティーンとなった。


「すみません、和人さん」

「ドンマイ、ドンマイ、ユティス」

「はい」


「よし、いいぞ、瀬令奈!」

烏山はなんとか瀬令奈を盛り上げようとした。


「さすが、元インターハイ優勝者だな。読みも決断も早いし、球が強烈だ。これで冷静にやられたら勝ち目はないぞ」


和人は、ユティスになるべく瀬令奈と烏山の真ん中をねらうよう、精神波で会話した。


「相手はパートナー同士信頼しあっていないから、真ん中をねらえば、お互いのせいにしてボロがでてくるはずだ」


「リーエス」

ユティスは頷きそのとおりにした。


ぱぁーーーん。


今度は瀬令奈のリターンはクロスに返ってきた。


すこーーーん。


和人は瀬令奈と烏山の間を深くねらった。


「くぅ・・・」

(届かない・・・)

烏山はボレーを諦め、瀬令奈にまかせた。


びゅーーーん。


「きゃあ!なによジョージ、あなたのボールでしょ!」

どたどたーーん。


「なに言ってんだ。あそこで横に飛んだら、脇ががら空きになって、次にそこに決められてしまうじゃないか!」


「頼りにならないわね!」

瀬令奈は怒りをあらわにした。


「かっかするなよ!」




「やっこさん、ひっかかったわ」


アンニフィルドは和人の作戦を読んで、クリステアと会話した。


ぱーーーん。

かっ。

すぽーん。


瀬令奈はもう一度クロスに返したが、そこにユティスがボレーを烏山のバック側深くに入れた。


さぁーーー。

「ナイス・ボレー!」

烏山も届かず、瀬令奈も追いつけなかった。


球はコートの外にすべるように出た。


ぶん!

「今のこそジョージでしょ!」

瀬令奈はラケットを振り回し、ジョージを責めた。


「うるさいな、わかってるよ。あーあ、ごめん、ごめん!」


「ぜんぜん、心がこもってないわね!」

「謝ったじゃないか!」


「フィフティーン・オール!」

レフェリーの瀬令奈のマネージャーがコールした。


「ユティス、いいぞ!」

和人は大きな声を出した。


「和人さん、どういたしまして!」




ゲームは互いに一進一退で進んだ。


1セットも5:5まできた。


「さぁ、このゲームを取れば1セット先取よぉ!」

アンニフィルドが二人に叫んだ。


「リーエス!」

ユティスと和人は同時に答えた。


「あーあ。返事までシンクロしちゃって・・・」

クリステアはユティスと和人を見つめて、両手を広げた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「息の合ってること。あはは」

アンニフィルドも同意した。




「まったぁ・・・。見せ付けてくれちゃって・・・」

かっか・・・。


「瀬令奈、いい加減に冷静になれよ」

「・・・」


かっかしていた瀬令奈もここまでくると、さすがにユティスたちの実力を侮れないと思うようになった。


「ジョージ、ちょっと・・・」

瀬令奈は烏山に耳打ちした。


「あいつら、なんであたしが打つところがわかんのよ?」

「知らんよ、そんなこと」


「だって、スペースに打ち込んだと思ったら、必ずどっちかがそこにいるのよ。おかげで、狙いが決められない。いまいましいったらありゃしないわ!」

「自分でしゃべってんじゃないのか、瀬令奈が。ここに打ち込みますよってさ」


「ばかなこと言わないで!」

「相手はエルフィア人だぜ」


「なんですって?」

「彼女はエルフィア人。異星人。天使だよ。忘れたのか?」

「バカバカしい!」


しかし、瀬令奈は突然ピンときた。

「待って・・・」


(そういうことか・・・。あいつら、あたしの考えたことを読めるんだ)


「わかった。ジョージ、これからはノーサインでいくわよ。いいこと、センターライン上はわたしが取るわ。それ以外は互いが守ること。隙あれば前衛になったほうがボレーにでる。いいわね!」


「OK!」


これを契機に、瀬令奈と烏山のペアは、やっと動きに連携が取れ始めていた。


「やっこさんたち、息の合うペアに戻りつつあるわ」

アンニフィルドがユティスたちに警告した。


「リーエス!」

「はっ!」


びしーーっ!

瀬令奈の渾身のファーストサービスが、和人のバックへ強烈に飛んできた。


ぱーーんっ。

和人は横っ飛びでかろうじて受けたが、リターンはロブとなって相手のコートの真ん中に上がっていった。


ふらふら・・・。


「万事休すね」

アンニフィルドとクリステアは見合った。


「ユティス!」


「だめです、二人とも手を出さないでください!」

ユティスの叫び声が二人そして和人の頭にに響いた。


すくっ。

たったった・・・。

和人は素早く立ち上がるとベースラインに戻った。


(もらった!)


烏山はダイレクトでスマッシュすべく左手をあげ、ボールの下に入った。


「ユティス、下がって!」

瀬令奈はスマッシュが失敗したとき、カバーできるよう、やや後ろにさがった。


ばしゅ!

どかーーーん!

烏山はユティスの手前に思いっきり打ち込んだ。


「きゃあ!」

ユティスは悲鳴をあげると、思わずのけぞった。


ぽーーーん。

和人は大きく跳ねたボールを追いかけた。


だっだっだ・・・。


「くそぅ、絶対に取ってやる!」


「あ、追いついた、和人!」

アンニフィルドはびっくりした。


和人は後ろ向きのまま、再度ロブをあげた。

ぽわーーーん。


今度は相手コートのベースライン付近への深い滞空時間の長いロブだった。


たったった・・・。

和人はまたすぐ自分のポジションに戻っていった。


「ユティス、ボレーだ」


(またスマッシュがくるから。コートに入る前にブロックして。今度はベースラインからだから、弾道は低くなるよ。これなら、ボレーできるぞ)


そして和人はいつでもバック側に飛んでいけるよう、わざと中心やや右に位置した。


「はぁっ!」


ばしっ!

瀬令奈ははたして、思いどおりに和人のバック側を狙ってた。


さささっ。

ユティスは和人のいうとおりにネットに出た。


しゅーーん。

瀬令奈のスマッシュがやや左よりにネット20センチ上を通過した。


ぱぁん!

そしてユティスのバックボレーにひっかかった。


すぅーーーっ。

思いっきりスライス回転がかっかたボールは、低い軌道で瀬令奈と烏山の間を滑るようにして抜けていった。


ぽんぽんぽん・・・。

ころころころ・・・。


「ユティス、ナイス・ボレー!」

「やりー!」

「セット・ワン・バイ、ユティス・カズト・ペア」



その瞬間、瀬令奈は信じられないような顔をした。


「え・・・?なにが起こったというの?」

瀬令奈は烏山を見つめた。


「お前のスマッシュが、ユティスのボレーにかかったんだよ」

烏山は静かに言った。


「そ、そんな、馬鹿な・・・。信じられない・・・」




「やったぞ、ユティス。オレたちが1セット先取したんだ!」

「リーエス、和人さん」


ぱっちん。

二人はコートの中央で、互いの手を合わせた。


「よぉし、これで瀬令奈たちは焦ってくるよ」

「リーエス」




「こっちが1セットを先取したわね」

クリステアが喜んだ。


「そういえば、そろそじゃないかしら・・・?」

「なにがぁ?」

アンニフィルドが時刻を確認した。


「クリステア、身体の細胞連携による運動記憶よ。あれから24時間たったわ。そろそろ効果がでてくる頃じゃない?」

「ええ。そろそろよ」


「ユティス、体が運動記憶を定着させるころだから、思いっきり試してみて」

アンニフィルドは頭の中で、ユティスに指示を出した。

「リーエス!」


「そろそろ、きみの本気出していくか!」

和人はユティスに微笑んだ。

「リーエス!」




「3分休憩後に第2セットに入ります」

瀬令奈のマネージャーが、ネット脇の審判席に座ったまま言った。


「やったわねぇ、ユティス、和人」


ぽん。

ぽん。

アンニフィルドがコートからベンチに戻ってくると、二人の頭をぽんと叩いて出迎えた。


「いい線いってたわよぉ」

にこ。

クリステアも微笑んだ。


「でも、瀬令奈の実力はあんなもんじゃないよ。第2セットは、もっと慎重にくると思うよ」


「リーエス。和人さんのおっしゃるとおりです」

ユティスはペットボトルのミネラルウォーターを少し飲んだ。


「さぁ、汗を拭いて」

クリステアは、二人にタオルを渡した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ