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213 開放

■開放■




「わたし、ユティスさんたちのこと、知ってました。真紀さんから本当のことを聞いたんです」


石橋はユティスに向かうと、二宮が強盗に刺された時、ユティスが治療を施したことの話をした。


「ごめん、ユティス、和人・・・」

真紀は二人に謝った。


「ナナン。どうして誤ったりするのですか?わたくしたちは、真紀さんが本当のことをおっしゃってくれたことに対して、感謝しています。ごめんさい、石橋さん。わたくしこそ、外国から来たVIPだんなんてウソを言って、事実を隠していました・・・」

ユティスは申し訳なさそうに答えた。


「ごめん。オレもなんです。石橋さん。ユティスたちの本当のことが漏れちゃったら、世界中で奪い合いが起こって、そのあげく戦争にでもなったらと思うと・・・」

和人も石橋に謝った。


「はい。わかります。そうなったら、地球はカテゴリー1と判定されてしまうんでしたよね・・・?」

「ええ・・・。エルフィアはカテゴリー1の世界には文明促進推進は行えないんです」

和人はどう話そうかと迷った。


「どうしてなんですか?」

「それはね、競争的で奪い会う精神を克服できる兆しがないからよ」

真紀がそれに答えた。


「人から言われてするんじゃ、自律的とはいえないでしょ?」

「は、はい・・・」


「地球の外から地球を眺めて、感じるものがあるの。何百人もの宇宙飛行士が言ってるように、それはまったく次元を飛び越えた感情なのよ。いずれ、石橋にもわかると思うけど。暗い宇宙にぽっかり浮かぶ青い宝石のような地球。国境も、諍い会う人間も見えないわ。そして、この地球の運命を人類が握ってしまっている。なにかを感じるでしょ?」


「はい・・・。わたしは、そんな地球を破壊したくありません。とっても大切な地球を・・・。そんなの、絶対に嫌です」


「そう。それなの。そういう気持ちがあってこそ、はじめてカテゴリー2なの。そういう気持ちのない、自分の生きている地上ばかり漁ってる人間には、いくらエルフィアが支援しようと、その意思はまったく理解されないの。そういう人間は欲しがるばかり。1を与えたら3よこせ。5与えたら100よこせ。これが支援を受ける学びの態度と呼べる?」


「いいえ・・・」


「だから、エルフィアはカテゴリー2以上にしか直接支援をしないの。カテゴリー1の人間は自ら気づくまで、自力で文明を進めなければならないわ。ユティスは地球の状況を調査に来ているのよ。カテゴリー2に相応しいのか、そうではないのか。また、その方向性はどうなのかってことを・・・」


「はい・・・」


「でも、今は、なんかとてもすっきりした気持ちですわ」

ユティスがにこにこしながら、石橋に言った。


「なにを言ってるんですか、ユティスさん。わたし、それがどのくらい重要な機密なのかくらいわかります。もし、それが漏れて・・・というより、きっとわたしのせいなんです。ユティスさんと和人さんをあんな危ない目に合わせちゃったの。わたし、時々、聞こえるんです。だれかが、わたしに命令するのが・・・。でも、次の瞬間、自分でも・・・。よく覚えてないんです。そして、スタジアムのことが起きちゃった。気が付いたら、わたし自分の家にいたんです。なにがなんだかわからないうちに・・・」


石橋はユティスの前に進んだ。


「わたしこそ、ごめんなさい。ユティスさん、和人さん、二人を危険な状況に追い込んじゃったのは、わたしなの・・・。うううう・・・」

石橋はそう言い放つと、ユティスの足元に崩れ落ちた。


すっ。

「石橋さん!」

ユティスはすぐに石橋の前で屈み込むと、彼女を助け起こして抱きしめた。


ぎゅっ。

きゅ・・・。

石橋もユティスの身体に腕を回し抱きついた。


「石橋さん、ごめんなさい。わたくしは石橋さんをリッキーさんから解放したつもりでいました。でも、それは不完全で、深層心理ではまだリッキーさんの影響下になられてたのですね。わたくし、少しも気づきませんでした。お一人でお悩みになって、お苦しみになっていられたのですね。わたくしこそ、本当にごめんなさい・・・」


じわぁ・・・。

ユティスは石橋を抱きしめたまま、頬ずりして涙を流した。


「ううう・・・」

石橋はユティスの胸に顔を埋め、泣き続けた。


「石橋さん・・・」

ユティスは何度も石橋の頭を母親のように撫でた。


「石橋・・・」

「そうだったのね・・・」

そこにいた社員たちは、そんな二人をしばらく見守っていた。


やがて、ユティスは石橋の顔を起こすと、優しく石橋の両目にキッスした。

ちゅ。

ちゅ。

そして、彼女の涙を吸い取った。


「あ・・・」

石橋は小さく叫ぶと、大きな目を見開いて、ユティスを見つめた。


ゆらゆらぁ・・・。

ユティスの身体から黄色味を帯びた白い光が、滲み出るようにして二人を包み込んでいき、どんどん強くなっていった。



「ユティス・・・」

「白い光が・・・」

「みんな、静かにしてくれる?」


クリステアが社員たちに注意を促すと、彼女たちはあまりのことに声を失った。


「ユティス、石橋の精神を開放しようとしているの、みんな、協力して」


クリステアはアンニフィルドと一緒になって両手を横に広げ、ユティスと石橋を囲んだ。そして、社員たちがこれ以上ユティスと石橋に近づかないようにした。


「・・・」

「・・・」

ユティスと石橋は無言のままだった。


「石橋さん、今度こそは、あなたをリッキーさんから、完全に解放します。ここでお約束します。だから、ご自分を責めないでいただけますか?」


石橋の頭にユティスの暖かい言葉が響いてきた。


「ユティスさん・・・」

「ご安心ください。わたくしに気持ちをお預けください。なにも怖いものはありませんわ。さぁ、身をお委ねください・・・」


ぎゅ。

ユティスは石橋を抱きしめたまま、額と額を合わせた。


ぴかぁ・・・。

白い光は一際強くなり、部屋を明るくするほどになった。


「石橋さん、わたくしはあなたと共にいます。わたくしは、あなたの側にいます・・・」

「はい。ユティスさん・・・」


石橋は、ユティスの心が自分を抱き締めているのがわかり、とても心地良かった。


「ユティスさん、暖っかい・・・」

「石橋さん・・・」



ユティスは石橋の深層心理の中にどんどん入っていった。


「石橋さん、リッキーさんの声が聞こえてきますか?」

「リッキーさんですか・・・」

「リーエス。リッキーさんが、あなたを呼んでいる声です」

「はい・・・」


石橋は、ユティスに言われるまま、リッキーの声を探した。


「石橋可憐、われに従え。われの命ずるところに従うんだ」

と、突然、石橋はその声が聞こえてきた。


ぶるっ!

そして、石橋は身を硬くし振るわせた。




「石橋!」

真紀が石橋が大きく身を振るわせたので、思わず叫んだ。


「真紀さん、ダメ。そばに行っちゃいけない」

すぐにアンニフィルドが真紀を制した。


「今、ユティスたちに外部から刺激を与えることは止めて」

クリステアもみんなを見回すと、静かに言った。


「ごめん・・・」

真紀はSSたちに謝った。




「石橋可憐、われに従え。われの命ずるままに、われに従え・・・」

「りッキーさま・・・」

「石橋さん!」

そこに、ユティスの声が割って入ってきた。



ぴっきーーーん。


「石橋さん、わたくし、ユティスです。あなたの深層心理に巣食う暗示を突き止めましたわ」


ユティスは、石橋の脳内シナプスの気の遠くなる組み合わせから、それを特定すると、リッキーの暗示の解除に取りかかった。


「石橋さん、あなたはもう自由です。あなたをコントロールしようとする人間はもういません。あなたの意思を押さえ、あなたを従わせようとする暗示は消えました」




事務所では、アンニフィルドとクリステアが、ユティスの暗示解除を邪魔されないように気を配っていた。


「どういうことなの・・・?」

岡本はそっと真紀に耳打ちした。


「わからない。ただ、石橋はZ国のリッキーに心を操られたままだったんだわ。一度、ユティスがそれを解いたんだけど、もっと心の深いところまで、巣食ってたのよ・・・」

真紀が答えた。


「じゃ、それを、ユティスが今取り除こうとしてるの?」

「ええ。そういうこと」




ユティスは自分の額を石橋の額にくっつけたまま、光の中でしばらく口でもごもごやっていた。


「リッキーさんの暗示は、多量のシナプスに、極めて複雑に絡み合っています。アンデフロル・デュメーラ、ご支援ください」

「リーエス、エージェント・ユティス」


「アンデフロル・デュメーラ、シナプスを特定してくださる?」

「リーエス」


ぴぴ・・・。

ぴぴ・・・。

ぴっ。


「それです!」


ぴっ。


アンデフロル・デュメーラのサポートで、リッキーが仕掛けた暗示を消す作業が始められた。


ぴぴ・・・。

ぴ・・。


「これも!」


ぴぴっ。


ユティスとアンデフロル・デュメーラの作業は、えんえんと続いた。




「いったいいつまでやるのかしら・・・?」

茂木が真紀に囁いた。


「し、黙って、茂木。石橋を取り戻せるかどうかの瀬戸際なんだから」

「あ、うん。わかった・・・」



ぱくぱく・・・。

ユティスの口はなにかを唱えているようにも見えたが、一切声が聞こえなかった。


「アンデフロル・デュメーラ、それもです!」

「リーエス」


ぴっ。



ぱぁーーー。

その間、石橋は頭の中の曇りが少しずつ晴れていくような不思議な感覚を味わっていた。


「これを取り除きますわ」

「リーエス」


ぴっ。


そして、だんだんユティスの声がはっきりと聞こえてきた。


「石橋さん、もう少しです。もう少しで自由になれますわ」

「はい。ユティスさん・・・」


「あうっ!」


がくん・・・。

石橋は全身の力が抜けたようになり、ユティスにもたれかかった。


ひし。

ユティスは石橋をしっかり抱き締めたまま、ゆっくりと額を離した。


「すべてを愛でる善なるものよ、汝、石橋可憐の心を解き放ちたまえ・・・」


ぱぁーーーっ。

そして、石橋は完全に雲が取り除かれ、目の前に青空が一気に広がったように感じた。


そして、ユティスは石橋の眉間キッスすると、石橋は次第にわれに返った。


「ユティスさん・・・」

「リーエス。もう大丈夫です」


「ユティスさん・・・」

「石橋さん、もう大丈夫です。リッキーさんの暗示はすべて解除いました。もう、石橋さんは自由です。あなたの心を支配する人はいませんわ」


「うう・・・」


ぎゅ。

石橋はユティスに再び抱きつくと泣いた。


じわぁ・・・。

ぽたり・・・。

この涙は不安や恐怖から開放された反動だった。


「石橋さん。もう、大丈夫です」


さぁーーー。

さぁーーー。


ユティスは優しく何度も石橋の頭を撫で、彼女の気持ちが落ち着くのを待った。


ぱっち・・・り・・・。

やがて、石橋は十分に泣き終えると、ゆっくりと目を開けた。


にこっ・・・。

そこには、ユティスの天使のような笑顔が石橋を待っていた。


「もう、大丈夫ですわ、石橋さん」


ユティスの声は、もう頭の中で響いているのではなかった。石橋はその両耳でユティスの生の声を聞いていた。




「エージェント・ユティス、イシバシの暗示は完全に解除できました」

「アルダリーム・ジェ・デーリア(ありがとうございます)、アンデフロル・デュメーラ」

ユティスはエストロ5級母船のCPU擬似精神体に礼を言った。


「パジューレ、エージェント・ユティス」

しゅん。

アンデフロル・デュメーラは消えていった。




石橋は、事務所のど真ん中で、みんなに囲まれているのに気づいた。


「あの、あのぉ・・・、わたし・・・」

石橋は心配そうにあたりを見回した。


にっこり。

「大丈夫ですよ、石橋さん」

ユティスが微笑んで、石橋は急に幸せな気分になった。


「わたし、今、とっても・・・」

「はい。もう、リッキーさんの暗示は石橋さんにはありませんわ」


「リッキーさん・・・?」


「リーエス。石橋さんは、Z国のエスパー・エージェントであるリッキー・Jさんに催眠術を掛けれてたのです。でも、もう心配ありません。今しがた、わたくしとアンデフロル・デュメーラですべてを取り除きました。もう、恐ろしい声やご自分ではない意思が働いているようなことは、二度と起きることはありません。それに、メンタルブロックも有効にしてありますから、ご自分の意思を乗っ取られることもありません」


「ユティスさん・・・。わたし、わたし、いっぱい大変なことしちゃった・・・。みんなに迷惑をかけちゃった。あなたや、和人さんを危険な目に合わせちゃった。みんな、みんな、わたしがやっちゃったんです・・・」


ちゅ。

石橋は、またまた泣きそうになったが、ユティスはにっこり微笑むと、石橋の頬に再びキッスした。


「決してそんなことありませんわ。あれは、リッキーさんの意思です。石橋さんの意思ではありません。リッキーさんの暗示があまりに深く強かったのです。石橋さんのせいではありませんわ」

ユティスの声は石橋を安心させていった。


「でも、でも、わたし・・・」


ぶるぶる・・・。

まだ、石橋はユエィスの腕の中で震えていた。


「でも、みんな無事ですわ。うふふ」

にこっ。

ユティスが笑った。


「うふ。そうよ、石橋。もう平気だからね」

真紀も微笑んで言った。



「大丈夫よ、石橋」

「安心しなさい。もう、リッキーの声は届かないわ」

アンニフィルドとクリステアが石橋を抱き締めて、頬にキッスした。


「石橋さん」

にっこり。

和人も石橋に微笑んだ。


「和人さん・・・」

にこ。

かぁ・・・。

石橋は和人に向かって、恥ずかしそうに微笑んだ。


「よかったわね、石橋」

岡本が、石橋に言った。


「石橋、よく戻ってきたね。歓迎するわよ」

茂木も微笑んだ。


「はい・・・」

ぺこり・・・。

石橋は一言発すると、みんなに向かって頭を下げた。


「みなさん、本当にすみませんでした。ユティスさんのおかげで、自分を取り戻すことができました。本当にありがとうございます。わたし、みなさんがいなかったら・・・、ユティスさんたちがいなかったら・・・」


「いいわよ、無理しなくて。みんなわかってるから」

真紀が石橋を優しく抱き締めた。


「真紀さん・・・」

「さ、もういいかしら?」

「は、はい・・・」


「さぁ、みんな、石橋はもう大丈夫よ。だから、仕事に戻ってぇ。ほらほら」

「はぁーーーい」

「はい」


真紀は、石橋を自分の席に座らせて、その肩に手を置いた。


「みんな、ステキな仲間でしょ?」

「はい・・・」


「わたしから見ると、あなたもステキな仲間なのよ」

「はい」


そこに、ユティスがやってきた。


「和人さん大好きクラブですわ」

「え?」


--- ^_^ わっはっは! ---

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