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209 政治

■政治■




大統領は藤岡首相に遠慮はしなかった。


「勘違いしないでいただきたいが、3人をよこせと言っているのではないのですよ。こちらにも招待させてもらいたい。むろん、日本が先なのは先刻承知です」


「うっ・・・」

大統領の容赦のないたたみかけで、藤岡はたじたじだった。


「ここは、ひとつ同盟国同士、協力しあうのがベストだとは思いませんかな?」


(大統領、ついにきおったな)


「そんなことを認めれば、他の国々も。互いに国籍を主張するだけでは・・・?」

「そうはならんでしょう。先手を打ちます」

大統領はすぐに答えた。


「どういう風に?」

「近々に、われわれと日本は共同声明を発表する」

「そんなことをすれば、地球が大混乱になります!」


「本当に、そうお思いですかな?」


「火星に微生物がいるかどうかで、大騒ぎしてんですぞ。5400万光年先から来た超高文明の異星人を、われわれだけで抱えていると知れると、世界中が、いったいどんなことになるか・・・」

藤岡の声はひっくり返っていた。


「地球が進歩するだけです」

「わたしが心配するのは・・・」

「Z国等で?」

「左様」


「こっちが進歩しなければ、相手に負けますぞ。それでいいので?」

「と、とんでもない。しかし、そうそう容易なものでもないでしょう。障害があれこれと」


「やっと、論点が見えてきたようですな」

藤岡には、大統領のにやりとした顔が、目の前に浮かぶようだった。


「なにを?」


「藤岡さん、どうしたら障害を克服することができ、われわれが進歩できるのか・・・。それについてだけ前向きな議論をしましょう。それ以外はお断りです」

「だ、大統領」


「ミスタ藤岡。覚悟をお決め願いたい。われわれが協調して地球の平和的文明を促進するか、日本独自でことを進めたあげく、お決まりの結論先延ばしで、Z国にエルフィアの3人も、テクノロジーも、すべて掠め取られるか・・・」


「そんなことが、許されるわけがない!」


「はぁ。因みにです。Z国のエルフィア人横取り作戦が、日本国籍の付与や、1回や2回のアプローチで終わるなんて、本気で思っておられないでしょうな?」


「む、むろんだ・・・」


「それなら安心だが、むしろ、ますます大胆かつ巧妙になると見た方が、現実的ではないですかな?」

「想定済みだ」


「それを、日本だけで防ぎきれますかな?現に、いくら極秘とはいえ、セキュリティに、警視庁の刑事レベルで3人とは、いかにも心もとない。その楽観主義的な対応には、まったく、あきれることを通り越して、感心してしまいますよ」


藤岡は、電話の向こうで大統領が薄ら笑いを浮かべている姿が、容易に想像できた。


「な、なにを言われるか!」


「Z国は、国家の威信をかけて、エルフィア人とテクノロジーをわがものにするつもりなのです。よろしいですか。国益という大義名分に合うと判断されれば、手段は問わずわがものにする。どのような非人道的な行為だろうが、すべては許される。これが、歴史が示す、Z国の一貫した姿勢です。Z国の歴史は分析しましたかな?」


「し、失礼な!」


「おっと、誤解があったなら、お詫びします、ミスタ藤岡。わたしは、同盟国の首長だと 尊敬さし上げているからこそ、本音で語り合っているのです」

「わ、わかりました・・・」

「国をあげて、断固3人の自由を守るというのが、われわれ合衆国の意思ですが・・・」


「しかし・・・」


「ミスタ、藤岡。あなたは同盟国たる一国の首相ですぞ。昨日、一昨日の話ではないんです。明日、あらためてご連絡しましょう。それまでに態度を、お決め願いたい。それから、以後、この件は・・・、コードネームで呼んでいただきたい」


「コードネーム?」

「失われし銀河計画。ミッション・ロスト・ギャラクシー、略してMLGです。では」


大統領は一歩的に話を進めると、電話を切った。




「くっそう・・・」


かちゃ。

藤岡は無念に唇を噛んだ。


「大田原を呼べ。いや、わたしが行く。車を容易しろ」

「かしこまりました、首相」

藤岡はすぐに指示を出した。


(この難題を相談できるのは、大田原太郎・・・。彼しかおらん。しかし、彼は、いったいどれほどのことを知っているのだ?首相たるこのわたし以上に、精通している。歳の程は50代・・・、いや40代に見えんこともない。とにかく、妙に若々しい。髪は白髪交じりだが、ふさふさではないか・・・。それとて、カモフラージュかもしれん。いったい、大田原とは、なにものだ・・・?)


「首相、なにか、お考えで?」

第一秘書が心配そうに尋ねた。


「うむ。ちょっとな。大田原太郎・・・。きみは、彼の経歴を知っているか?」

「政界の常識程度は・・・」


「どこの大学を出ている?」

「外国ですね。確か、コーネロ大学だったと思いますが・・・」


「ふん。ワイビーリーグか。それじゃ、真実かどうか、確かめようがない。疑わしいな」

「はい。外国では確かめようがありません」


「歳は?」

「今年、64歳のはずです」


「若々しいとは思っていたが、わしより5歳も・・・、ヤツはそんなに若いのか・・・?」

藤岡は今年69歳だった。


「ええ。あの双子の孫たちは、28歳ですから・・・」

「確か一人娘の子供だったな」

「はい・・・」


「歳が合わんのではないか?」

「そうですねぇ・・・。孫との歳の差が、36歳しかありませんから、娘は、大田原太郎が18歳の時の子で・・・」


「その娘も18歳で、双子を生んだというのか?」

「ありえないことはないですが・・・・」


「おかしい・・・。大田原太郎の素性を、もう一度、洗ってみてくれ」

「わかりました。すぐに指示を入れます」

「うむ・・・」




「大田原さん・・・」

「そろそろ、いらっしゃる頃かと踏んでおりました」


「突然の訪問、迷惑ではなかったかな?」

藤岡は愛想よく握手した。


「とんでもない。そろそろ、おいでになる頃かと。で、合衆国大統領は、なんと?」

「エルフィア人たちの合衆国の国籍を認め、日米協調を提案してきた。すべての情報は握られている。半分脅迫だ・・・」


「いや、予想通りです。心配はいりません、藤岡さん」

「大田原さん、本当ですか?」


「ええ。大統領にご同意ください。そして、共同会見のために、一刻も早く会談をセットしてください。こちらでも、あちらでも、声明場所は問いません。もちろん、エルフィアの3人も同席です」


「了解した」

「われわれには、切り札があります」


「切り札?」

「いずれ、おわかりになると思います」


「なぜ、今、わたしに言わんのだ?」

「どなたか、一人でも知っていたら、もう切り札とは呼べませんので・・・」


「わたしとて、例外は認めん、ということだな?」

「あしからず・・・」


「藤岡さん、あなたには、薄々おわかりになると思っていますが、人類は国々が協調しなければ、いよいよ坂道を転がり落ちるが如く、破滅に向かうことが明らかになってきたとは思いませんかな。自然に翻弄されるのでも、自然を支配しようとするのでもなく、自然と対話する、そういう文明・・・。エルフィア人の提案は、われわれの望みに完全に一致しているのです」


「そうそう、うまくいくわけがない」

藤岡は首を振った。 


「そう思っている限りは、うまくいくことも、絶対にうまくいきませんな。大事なのは、どうやったら、うまくいくようになるかを、考え続けることです」


「うっ。しかし。エルフィア人の条件とやらを、克服できなかったら・・・?」


「もし、できなければ。一つに、支援計画の中止、もしくは取りやめ。エージェントはエルフィアに引き上げるでしょう。地球は元の争い合いに戻ります。いずれ地球環境は完全に崩壊するでしょうな。最悪のケースです。二つ目は延期。エージェントは、留まるかもしれません。ただし、即効薬としての進歩はほとんど望めません。三つ目は、局地的支援開始。エージェントは増強され、複数名が各地に赴任することになる。この場合は、その後少しずつ文明は進化するでしょう。そしてある時急激に伸びて、地球人類は一つに向かい、カテゴリー2から3に移行するでしょう」


「支援を地球全体に広げる可能性は?」

「今のままでは、ほぼ絶望的です」


「大田原さんの予測は」

「3番目・・・」

大田原は一瞬の間の後、話しを続けた。


「可能性が一番高いのは、2番目と3番目の中間。世界の国々が自律的に協力し合うことができるまで、どんな支援もためにならんでしょう」


「と、いいますと?」


「権力者や社会的地位の高い人々が、自分たちの権益ためだけに、エルフィアの文明を独占しようとするからです。エルフィアの焦点は、あまねく地球人類への支援です」


「なるほど。あまねくか・・・」

「恐らく、はじめのうちは、精神的なものがその中核になるはずです」


「なぜ、テクノロジーではないのだ」

「精神もある意味テクノロジーです」


「さっぱり、わからん」


「テクノロジーは、精神の進化の産物だからです。精神が進化しないと。世の中、武器と兵器と戦争しか存在しないでしょう。テクノロジーとは、コンピュータでいうと、マシンを作ることの技術だけではありません。それを動かすソフトウェア、通信設備、すべてが必要です」


「なるほど・・・」


「そして、なにより大切なのは、それをどう使うかという使う人間の心です。人々を管理するために使うのか。兵器を作るために使うのか。医療のために使うのか。自然災害を防ぐのに使うのか。これは、なにを優先するかという人類の心の問題なのです」


「・・・」


「エルフィアの言うとおり、あまねく人々に、平和的な恩恵をもたらすものでなければ、テクノロジーはまったく意味がありません。一国の権力者や上流階級の経済的政治的な支配を強化するだけのものにしようとするなら、エルフィアは支援を拒むでしょうな」


「精神が未発達で、カテゴリー3への文明支援は時期尚早というわけで?」

「左様・・・」


「ようやく、意図するものが見えてきた」

藤岡はなんとなくわかってきた。


「ふっふっ。エルフィアに最初にアクセスしたのが、日本で幸いでしたよ」

大田原は微笑んだ。


「そうですなぁ・・・」


「もし、Z国のようなところだったら。即刻、支援拒否に合うでしょう。それどころか、地球人とは、自己中心的で極めて偏った価値観のもと、すべてを自分たちのものと考えているカテゴリー1の人間と判断されるでしょう。その影響が、他の世界に影響することがないように、地球周辺、少なくとも太陽系内に時空封鎖されるかもしれません」


「時空封鎖?」


「太陽系内に閉じ込めです。オールトの雲を含めるかどうかはあるとして、、とりあえずカイパーベルトの先、ヘリオスフェアまでを太陽系とすれば、それ以降の領域へは、絶対に行けなくなります。もちろん、現在の科学じゃ、そこへ行くことすら容易にはできませんがね」


「牢獄か」


「可能性はゼロではありません」

「考えたくないな、そいつは・・・」


「地球は、劇的に精神的成長をしなければなりません。エルフィアから、そう迫られているんです」


「劇的な精神的成長?」


「ええ。性悪説。偏見。先入観。利己主義。ナショナリズム。階級制度。競争社会。契約主義。拝金主義。拡大資本主義経済。これらが、第一優先されている限り、精神的成長は望めません」


「そうはいっても・・・」

「もちろん、何十年、いや、何百年もかかることです」


「彼らは、そんなに待つわけない」


「いいえ。何百年かかろうが、成長しようとする意識と行動が認められれば、彼らは気を長くして、見守るでしょうな。地球人の時間の尺度は通用しませんよ」


「しかし・・・」


「ええ、あなたやわたしのお仲間が、生きている間にそうなるのは相当困難でしょう。しかし、それを初めて人類全体に提唱し、指示したということになれば、藤岡さん、あなたは、地球の歴史に永遠にその名前を刻まれることになりましょう」


「そうなるのか?」

「ええ。それに、エルフィアの歴史にも・・・」


「なんと・・・」

「明日の大統領との電話会談が、楽しみですな」


「しかし、大田原さん。なぜ・・・、あなたは、そこまでご存じなのですか?」


「知っているわけではありません。事実と観察による論理的な帰結です」


「だが、あまりに詳しい」


「そうですかな?」

「いったい、あなたという人は。なにものかと・・・?」

「いいでしょう。先ほど、首相に申しあげました、切り札の一つが、わたし自身であるからです」


「なんですと?」

「それに、国分寺姉弟。わたしの孫たち」


「さっぱり、わけがわからん」

「いずれ、わかる時が来ます」


「お楽しみというわけですかな?」

「日米会談の折、すべては明らかになるでしょう。藤岡さん、大統領への返事は、同意いただけましたかな?」


「OKだ。ありがとう、大田原さん」

「今夜は、ごゆっくりとお休みを」


「ああ、心からお礼を言いますぞ」

「もったいない」


「さぁ、官邸に戻るぞ」

「かしこまりました」

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