207 首筋
■首筋■
「姉貴さぁ・・・、ちとばかし、お願い事なんだけど・・・」
「なぁに、俊介?あなたのそういう声音は、いつだって、難題を抱えて、わたしに振ろうとしている時だってことくらい、お見通しよ」
「わかってるじゃないか、姉貴」
「しょうがないわねぇ・・・」
「サンキュー、姉貴!」
「調子に乗らないの!で、なんなの?」
「実はな、パリでプレゼンした企画が通ってのはいいんだが、プロモーション用のビデオクリップを撮影することになって・・・、ということなんだ・・・」
俊介は真紀にシャデルの日本支配人との話をした。
「パリで、なんかしら、次の話をしてくるんじゃないかと思ってたら、今度は、そういうことね?」
「な、頼むぜ・・・。この通り」
「二人はいいとして、大丈夫なの、アンニフィルド?」
「だからさぁ、姉貴、説得してくれよぉ・・・」
「だからじゃないでしょ?自分の彼女のことでしょ?」
「彼女?違うってば。まだ、そんな深い関係になってないって・・・」
「そういう優柔不断さが、不和の元なんじゃないの?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「彼女、シャデルとは係わりたくないんじゃない?」
「そんなじゃいよ。今度は、社内のオフィシャルパーティーなんてないからさぁ」
「ホント?」
「キレイなベベ着て、金座をさっそうと歩けばいいんだよ。それだけ」
「でも、WebやTVで露出するんでしょ?いいの、今、3人を出して」
「姉貴、じいさんの指示を忘れたのか?」
「いいえ。覚えているわ。マスメディアの露出は、エルフィア人たちを守るだったわね」
「ああ。チャンスなんだ。3人を世界に認めさせる・・・」
「わかったわ。わたしが、アンニフィルドを説得してみるわ」
「恩に切るぜ、姉貴様!」
ぽかり。
「調子に乗るんじゃないわよ!」
「痛いじゃないか!」
次の日、真紀はエルフィア娘たちを会議室に集めた。
「アンニフィルド、ちょっと・・・」
「なあに、真紀さん?」
「あのシャデルのお仕事のことなんだけど・・・」
「また、つまんないパーティーに、俊介の連れとして出るんなら、お断りよ」
「違うわ。ビデオクリップの撮影なの。協力してくれる?」
「なに、それ?」
「それってのは、世界に冠たるトップブランド、シャデルの最新モードのプロモーション。そのビデオクリップを日本で撮ることになったの。予定してたモデルが風邪でダウン。後釜をすぐに見つけれなくて、日本支配人の黒磯さんから、直々に頼み込まれたってわけ・・・」
「ふぅん・・・。わたしたちがモデルをねぇ・・・」
「どう?」
「他の2人がいいって言うんなら、考えてもいいわ」
「わたくしは、面白いと思います」
「わたしもいいわ」
「ありがとう、みんな」
とんとん・・・。
「入るぜ」
「どうぞ」
俊介は、会議室に入ると、アンニフィルドと目が合った。
「・・・」
「それで、ちょっと・・・」
俊介は天井に視線を逸らせた。
「なによ。はっきり言ってくれないとわからないわ」
アンニフィルドは、顔をしかめた。
「いいわ。わたしから説明する」
真紀が業を煮やして、俊介と代わった。
「とにかく、あなたたちにはモデルをやって欲しいの。明後日の朝、4時に迎えに行くわ。ドレスは向こうで見繕うから、午前中までにサイズを知らせないといけないの」
「だれもいない時にって・・・」
クリステアが想像を巡らせた。
「うわぉ、それって、水着とか・・・?」
「もっと刺激的だったりして・・・?」
「きゃっ!」
「あなたも来るの?」
「ま、一応・・・」
アンニフィルドが俊介をちらりと見た。
ぱんぱんぱん。
「はぁーーーい、静かに。非常に残念だけど、水着でも、ランジェリーでも、ヌードでもありませんことよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「シャデルの春夏コレクション。ファッションモデルよ」
「それを、わたしたちにしろっての?」
「そうよ」
「どうして、そんな話しが常務さんにきたのですか?」
「そりゃ、当てがあったからじゃない、ユティス?」
クリステアはウィンクした。
「当てですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「どういうこと、俊介?」
アンニフィルドは俊介に尋ねた。
「パリに来た美人に、友人2人いるけどって言ったまで」
「まぁ!」
「なんて調子のいい・・・」
「あっきれた・・・」
エルフィア娘たちは、そうは言ったもの、まんざら悪い気はしなかった。
「和人さんは、撮影にご一緒ではないのですか?」
ユティスが不安そうに言った。
「連れてくよ。きみと離すわけにはいかないからな。でも、ワゴンの中に待機してもらう。あちらさんとの契約の範囲でね。背景にはだれも入れたくなんだいとさ」
「まぁ、それでは可愛そうですわ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「仕方ないさ。部外者は撮影の立会いは禁止されている」
「それ、面白そうじゃない?」
クリステアがユティスを見てにやりとした。
「ということで。今日、明日は早めに寝てよね、みなさん」
「酒もご法度だ」
「俊介、なんで、わたしを見て言うのよ」
アンニフィルドが文句を言った。
--- ^_^ わっはっは! ---
「いや、深い訳はないが・・・」
「失礼しちゃうわ。ロイ・ルデレールで、わたしにしこたま飲ませたのはあなたでしょ?」
「オレのせいかい?」
「そうよ」
「待って、待って。ケンカしないでよ、二人とも」
「早合点するなよ、アンニフィルド。きみたちの美しさが認められたんだから」
「あー、そう。でも、あなたは認めてないってわけね・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「アンニフィルド、止めなさい!」
クリステアが叫んだ。
「リーエス。はいはい」
「うふふ。楽しみにしていますわ」
「よろしくね」
「うーーーん。だけど、いくら目立たせたいからって、背景に人っ子一人いない建物だけってのは、殺風景で、ひっかかるわ。自然じゃないんじゃない?」
クリステアが意見した。
「リーエス。わたくしもそう思います」
「異議なし。それより、人通りの中でさっそうと歩いてる方が、見る側には魅力的に映ると思うわよ」
アンニフィルドも相槌を打った。
「あら、そうなの?」
真紀は俊介を見た。
「今更、そんなこと言ってもらってもなぁ・・・」
「ファッションって、見せるためでもあるのよぉ」
クリステアは俊介を見つめた。
「今から、撮影日程を変更できるかよ・・・」
「どうしてよ。時間帯を半日ずらせば、いいんでしょ?明後日は歩行者天国になるはずよ」
真紀も3人に同調した。
「そうすれば、いっぱい寝てられるもんね」
--- ^_^ わっはっは! ---
「それかよ・・・」
「こっちの条件はそれ。至急、交渉してよね」
「ちょっと待てよ、アンニフィルド・・・」
「でなきゃ、やらない」
アンニフィルドが結論を出した。
「・・・」
「まだ、2日あるわ。俊介、黒磯さんに連絡してみたら?」
「真紀さんも、そう言ってるじゃない?」
「・・・」
「どうしますか、常務さん?」
にこっ。
ユティスが微笑んだ。
ばんっ。
「わかったよぉ。やるだけやるってば」
「ダメなら、この話はなしよ」
クリステアも追い討ちをかけた。
「じゃ、よろしく」
「ちっ・・・」
会議室から戻ってきたいつもの6人は、持ち場に散ろうとしていた。
ぷち。
「痛て!なんだよ!」
アンニフィルドにつねられて、俊介はしかめっ面をした。
「わたし、キレイだと思う?」
直球だった。
「も、もちろん。なんせ、オレが惚れ・・・」
もごもご・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
「最後まで言いなさいよ。あなたが、わたしに、ホレ、どうしたって?」
ぐいっ。
「ちょっと来な・・・」
俊介は、アンニフィルドの手を取って、再び会議室に引っ張っていった。
「わぉ!俊介、やるぅ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
クリステアは面白がった。
「二人にして大丈夫?」
「はい。仲直りして、もっと仲良くなって、戻られて来ますわ」
--- ^_^ わっはっは! ---
ぐいっ。
ぱたん。
俊介は会議室のドアを閉めた。
「痛いじゃない!」
「静かにしろよ!」
「密室で、いやらしいことするんなら、即、死んでもらうわよ!」
「するか!」
会議室の俊介は完全にビジネスマンに見えた。
さっきのうろたえたような素振りは、微塵もなかった。
「実は、これは、きみたちをZ国から守る、絶好のチャンスなんだ」
「どこがよ?」
「きみたちが、有名人になれば、だれも手出しなんかできないだろ?」
(俊介、あなたも手出ししないという訳?社内の体裁ばかり気にして・・・。頭に来るわ・・・。パリの最後の夜みたくアプローチしてよぉ!もっと、はっきりアプローチしてよ!あなたさえ、はっきりしているなら・・・、わたし・・・)
「そう。それは、ちょっと残念ね・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「なにが?」
「いえ、こっちのこと・・・」
「シャデルは、世界をまたにかけたトップブランドだ。その注目度は、絶大だぞ」
「それで?」
「そこのビデオクリップに出演するってことは、きみたちエルフィア人の身の安全を確保することでもあるんだ」
「なぜ?」
「世界中に知れ渡った有名人が、ポット消えちまったら、世界中が大騒ぎになるだろ?」
「たぶん・・・」
「それが、Z国の歓迎することかな?」
「それだけ?」
にこっ。
アンニフィルドは頭を振って長いプラチナブロンドを波打たせると、やや表情を柔らかくして、俊介を見つめて微笑んだ。
「あ、いや、その・・・」
かぁーーー。
アンニフィルドの変化自在に、たちまち、俊介はうろたえた。
(煮え切らないわねぇ・・・。こうなったら、徹底的に揺さぶってやるわ!)
「もういい。わかったわ・・・」
す・・、す・・・。
アンニフィルドは俊介にゆっくり近づいた。
「アンニフィルド・・・」
「しっ!黙って!」
ちゅうっ・・・。
アンニフィルドは、そう言うと、俊介に近づき、ユティスが消したキスマークと同じ首筋にキッスした。
(えっ!)
--- ^_^ わっはっは! ---
びくっ。
俊介は、ぞくぞくする快感に、がらにもなく赤くなって、首筋に手をやり、アンニフィルドから目を逸らせた。
「な、なにするんだ・・・?」
「唇より、刺激的なのよ、そこ」
つつぅ・・・。
アンニフィルドは、さらに指でそこをなぞった。
「アンニフィルド・・・」
「パリや、ロイ・ルデレールで、わたしがお酒に酔ってあなたにしたことが、あなたにとってどれほどのものか知らないけど、今のはしっかり正気だからね・・・」
にこ。
そい言うと、アンニフィルドは、最高の笑みを浮かべ、さっそうと会議室を出ていった。
(へへ。やっちゃった・・・。俊介のうろたえぶりったら・・・。あは!)
「・・・」
俊介は首筋に手をやり、襟を立てた。
ーーー ^_^ わっはっは! ---
「ユティス・・・?」
システム室のドアを少しだけ開けて顔だけ半分覗かせると、俊介はユティスを手招きして呼んだ。
「リーエス?」
ユティスは、出てきたばかりのアンニフィルドと俊介を、交互に見つめた。
つん。
「あの、どうかしましたか、アンニフィルド・・・?」
「勝手に行けばぁ・・・。パジューレ(どうぞ)、ユティス」
「リーエス、常務さん。ただいままいります」
すく。
すたすた・・・。
ユティスはシステム室に入ると、ドアが閉まった。
ぱたん。
かち。
「和人、ユティスと二人にしちゃって大丈夫?」
クリステアが心配そうに言った。
「リーエス。常務はそんなことする男じゃないよ、きっとまた、アンニフィルドにキッスマークでも付けられて、ユティスに消してもらう頼み込んでるのさ」
「余裕だわねぇ・・・」
「顔だけ出して手招きなんて、常務、その下は見せたくないんだよ、きっと・・・」
ユティスがシステム室に入ると、俊介は襟を広げて、首筋を見せた。
ぴら・・・。
「取れそうかな・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
でーーーん!
「まぁ・・・。うふふふ」
あまりにしっかりついたキスマークに、急にユティスは可笑しくなって笑い声を上げた。
「ユティスぅ・・・」
俊介はそれを見て、この前よりもっとはっきり付いてるのだと理解した。
「どうにかならないのかぁ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「お取りになりたいのですか?」
「ああ・・・」
こくん、こくん・・・。
じぃ・・・。
ユティスは俊介を見つめた。
「おいおい、どうかしたか?」
「やはり、よしておきます。アンニフィルドが可愛そうですもの」
--- ^_^ わっはっは! ---
にこっ。
「うふふ」
ユティスは楽しげに笑った。
「ええ?どういうことだよぉ?待ってくれよぉ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「数日すれば自然に消えますわ、常務さん」
にこ。
「ユティス、頼むよぉ。この前は消してくれたじゃないか?」
俊介は慌ててユティスに思い直すよう頼み込んだ。
「リーエス。この前はアンニフィルドの意思はありませんでしたわ。でも、今日のは特別です。しっかり、アンニフィルドの意思が読み取れますもの。わたくしが勝手に消すわけにはまいりませんわ。では、常務さん、失礼します。うふふ」
「ユティスぅ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
にこにこ・・・。
笑顔で戻ってきたユティスにクリステアが尋ねた。
「なにがあったのよ?」
「アンニフィルドの名誉をお守りしただけですわ」
「当たりだね。あははは」
和人もユティスにVサインをすると、小さな声で笑った。
「リーエス!」