205 復路
■復路■
「ふぅん。けっこうすごいわねぇ・・・」
アンニフィルドはA380の機内の広さと豪華さに目を見張った。
「空飛ぶ豪華ホテルって呼ばれているくらいなんだぜ」
俊介は、階段に気をつけながら、アンニフィルドをエスコートした。
よろっ。
アンニフィルドが階段を踏み外しそうになった。
「きゃ」
「足元気をつけろよ」
がしっ。
俊介の力強い宇多がすぐさま、アンニフィルドを支えた。
「リーエス。アルダリーム・・・」
にっこり。
アンニフィルドはそのまま、俊介にくっついた。
「ビアンヴニュ・マダム。ビアンヴニュ・ムッシウ」
にこにこ・・・。
キャビンクルーがそんな二人を当たり前のように迎えた。
「さすがフランスの航空会社だなぁ・・・」
「なにがよ?」
しきりに感心している俊介を、アンニフィルドは不思議そうに見た。
「ん、ん。きみがそういう風に、オレに絡み付いているのを目の当たりにしても、驚きもしない」
「だって、恋人でしょ?普通そうじゃないのぉ?」
「そうじゃないから言ってるんだ。これが日本の航空会社だと、遠慮がちにこう言われるぞ」
「どんな風に?」
「お客様、続きはお外でどうぞ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「出て行けってことぉ?」
「そういうこと。飛んでる時に言われると、すこぶるスリリングになる」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あはは。飛んでる飛行機の外に出られるわけないじゃない」
すたすた・・・。
俊介は自分たちの座席にたどり着いた。
「お、ここだ。きみは窓側にするかい?」
「あなたの側ならどこでもいいわ・・・」
「ん、んん・・・」
にたぁ・・・。
「じゃ、窓側で決まりだな」
「荷物は?」
「かしてみな。オレがしまってやる」
俊介はそれをオーバーヘッドラックの中にしまいこんだ。
「そうれっ」
かちっ。
「これでよし」
「そのケースは?」
「クリスタルボールのケースはオレの足元に置くよ」
俊介は、それを自分の足元に置いた。
すとん。
どしん。
「やっと落ち着いたな?」
「リーエス。とっても快適。それにとってもキレイで清潔」
にっこり。
「まぁな」
アンニフィルドは窓側の席に、俊介は隣の通路側の席に落ち着いた。
「でも、どうして、わたしが窓側の方がいいわけ?」
「オレが通路側を塞げば、きみは逃げられない・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
きらっ・・・。
「あのね、わたしはSSよ。逃げる気になれば、いつだって、どこからだって、逃げられるわ。あなたの腕を捻り上げることだって・・・」
アンニフィルドは腕まくりする格好をした。
「ちょっと待て・・・」
ぽん。
「そうだったぜ・・・。きみはSSSかぁ。忘れていたよぉ・・・」
手を叩いて、俊介はいかにも残念そうな顔をした。
--- ^_^ わっはっは! ---
「でも、ハートは掴まっちゃったぁ・・・」
ちゅ。
アンニフィルドはそう言うと、素早く俊介にキッスをした。
「あ・・・」
ささっ・・・。
びっくりした俊介は、思わず身を引いた。
「な、なによぉ?」
「いや・・・、もう1回してくれるかな、もっとディープなの」
ぷちっ。
アンニフィルドは、俊介を抓った。
「痛てて・・・!」
「みんなが見てるじゃない。そんなことは、暗くなってから言いなさい!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「お客様、お飲み物はいかがですか?」
キャビンクルーが、トレイにシャンパグラスを載せて、俊介たちのところにやって来た。
「それはなんなの?」
「ウィ。ビアンヴニュ・シャンパン(ウェルカム・シャンパン)です。フランス航空のビジネルクラス、ル・クラブ・シエル(大空クラブ)をご利用いただき、誠にありがとうございます。本日はロイ・ルデレールのブリュットをご用させていただいておりますわ」
しゅわしゅわぁ・・・。
キャビンクルーは、グラス一つをアンニフィルドに渡した。
「わぁお!」
アンニフィルドは一気にご機嫌になった。
「粋なサービスだわぁ・・・」
「だろ?」
ちん・・・。
俊介は自分のグラスをアンニフィルドのそれに軽く合わせた。
「リーエス。飛行機が飛ぶ前に、乗客を飛ばそうっていうのね?」
「はいっ・・・?そりゃ、飲み過ぎだろ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
ぐぉーーーっ。
二人を乗せた東京行きフランス航空275便は、順調に飛行を続けていた。
豪華機内食も取って、アンニフィルドも俊介も眠くなり、座席スクリーンで映画を見ていて、うとうとしていた。
「誠にすみません、お客様。窓をお閉めくださいますか?」
「あ、はい」
アンニフィルドは窓の覆いを閉めた。
「メルシー」
アテンダントは去っていった。
「ねぇ、俊介、この化学燃焼式輸送機だけど、何分乗ってるわけ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あのねぇ、アンニフィルド。きみは、もう少し、地球に慣れた方がいい」
俊介は落ち着いて言った。
「なによぉ?」
「一つ。化学燃焼式輸送機ってのは、身も蓋もない。ジェット旅客機と言うこと」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ジェット旅客機?」
「そう。最新鋭ジェットなら、なおいい」
「最新鋭ねぇ・・・」
アンニフィルドは俊介に懐疑的な目を向けた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「地球のテクノロジーを馬鹿にしてるな?」
「ナナン。してないけど・・・」
ぽーん。
「ただいまから、機内の照明を落とさせていただきます」
すぅ・・・。
機内アナウンスが済むと、あっと言う間に、読書灯を除いて、辺りは暗闇になった。
「あ・・・」
「わかったかい?」
「なぁに?」
「最新鋭ジェットのサービスだよ。恋人が、長時間、暗がりの中、一緒に隣り合わせできるという、地球ならではの最新鋭サービスだぜ・・・」
「ホント?」
「そうだよ、アンニフィルド・・・」
ぎゅぅ。
俊介はアンニフィルドの手を握った。
「暗くなったぜ・・・。さっきの続きは?」
「ん、もう、俊介ったら・・・」
ぴとっ。
--- ^_^ わっはっは! ---
にっこり。
「わたし・・・、地球の最新鋭ジェット機、好きになれそう・・・」
アンニフィルドはシート越しに俊介にもたれかかった。
--- ^_^ わっはっは! ---
「こうして何時間も乗っているの?」
「その方がよくないかい?」
ぴとぉ・・・。
「リーエス・・・。とってもステキなサービスだわ・・・」
ぎゅぅ・・・。
「いつ降りるの?」
「きみが、お婆さんになるまでには、ちゃんと、どこかに降りるよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ナナン。失礼ね。エルフィア女性は、お婆さんにはならないわよ」
「え?」
「だから、お婆さんにはならないの!」
アンニフィルドは真面目な顔をして言った。
「じゃ、お爺さんになるのか・・・」
「バカ!」
ぽかり。
--- ^_^ わっはっは! ---
「俊介って、暖っかぁーーーい」
「地球人の女子高生みたいな言い方はよせよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「いいじゃない。少しくらい甘えても・・・」
「わ、わかったよぉ」
ぎゅ。
アンニフィルドは俊介の手を握ってきた。
「・・・」
「アンニフィルド?」
「すぅ・・・。すぅ・・・」
「寝ちまいやがった・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
到着までまだまだ時間のある二人だったが、キッスくらいはあったらしい。
二人は、無事に成田に着いた。
「ねぇ、アンデフロル・デュメーラに頼んで、わたしと一緒に、しゅんって帰る?」
「だめだ」
「なぜ?」
「まず、クリスタルボールの受け渡しが最優先だ。それに、じいさんの手配した車に乗らないと、二人が消えたって大騒ぎになる」
「駆け落ちしたって?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「だぁーーー、違うったら!拉致されたんじゃないかと思うんだろ?」
「もう、ロマンチックじゃないわねぇ」
「仕事だ。まじめに聞けよ」
「はぁーい。でも、おじいさまは、わたしたちのこと知ってるんでしょ?」
「そりゃ、そうだけど、じいさんの周りに説明がつかん」
「わかったわ。お家まで一緒の時間が増えるっていうのもいいことだわ」
ぴとぉ。
「くっつき過ぎだってば・・・」
「いいじゃない。もう、恋人なんだから・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ありゃ・・・?」
「あー、国分寺さぁーーーん」
税関を過ぎると、二人の迎えのスタッフが手を振っていた。
「あの人たちが、お迎え?」
「ああ。これで、短かった甘い時間も終わりだな?」
「どうして?」
きいっ。
俊介はカートを止めて、立ち止まった。
「常務のオレが、会社のみんなの前でいちゃいちゃしてみろ、いったいどうなるか?」
「公認の仲ってことになるだけじゃない?」
--- ^_^ わっはっは! ---
がく・・・。
俊介はアンニフィルドを見つめた。
「きみは、アホか・・・。オレは和人じゃないんだぞ」
「じゃ、もっとすごいとか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「なんで、そっちになるかなぁ・・・?」
「あは。ひょっとして照れてるの?」
「バ、バカ、そんなんじゃないってば」
「じゃ、なに?」
「国分寺さん!」
その時、俊介を呼ぶ声がした。
「だれ?」
「さぁ、どこかのおっさんじゃないか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
二人は、いかにも官庁の役人といったいでたちのダークスーツの男を一瞥しただけで、なにも応えなかった。
「姉貴たちには、オレたちの関係をまだ知られたくない・・・」
「なんで?お姉さまに紹介してくれないの、あなたのフィアンセを?」
「こら、勝手に関係を進展させるんじゃない」
--- ^_^ わっはっは! ---
「また、そういうことを言う・・・」
「オレは、姉貴が先だって言いたいんだよ」
「余命のこと?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「縁起でもない。取り消せ!」
「はぁーい。悪かったわ」
そろそろ・・・。
二人はゆっくりとカートを押しながら、税関からやっと出てきた。
「国分寺さん、お変わりないですか?」
「はい。お出迎えいただき、恐縮です」
にこにこ・・・。
「物は?」
俊介は、ダミーのクリスタル・ボールの入ったスーツケースを見た。
「一足先に、アンデフロル・デュメーラという方から、エルフィア超特急便で届けていただき、昨日、大田原さんが受け取りました」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あはは。それは良かった」
「わたしもびっくりしましたよ。あなたが帰られるより早く日本に着くんですねぇ、今の国際宅急便ってのはぁ、すごいんですねぇ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「それは、いい選択でしたわ。速くて安全、エルフィア超特急便です」
にこっ。
アンニフィルドは笑顔で答えた。
「最近流行ってるドアーツードアの格安国際サビースなんです」
俊介が悪戯気を起こした。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ほう。知りませんでいた。世界中をカバーしてるんですか?」
「リーエス。エルフィア超銀河団をくまなくカバーしてるんですよ」
「はぁ・・・?」
「もちろん、天の川銀河も。ご心配なく」
--- ^_^ わっはっは! ---
「銀河。銀河ねぇ・・・。はい、はい」
「とにかく、そいつは良かった。おかげで、ダミーも無事に着いたよ」
俊介はアルミケースを彼に手渡した。
--- ^_^ わっはっは! ---
「はい。本当によかったです。あれが競り落とせて。大田原さんは手放しでお喜びです」
「だろうな・・・」
つんつん。
「なんだよ?」
「なぁに、この人、わたしたちの無事帰国したことを喜んでくれてるんじゃないの?」
ぷいっ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「しっ、聞こえるぞ」
「えーと。こちらの外国人女性は?」
「外国人じゃないわ。日本人よ。国籍なら、あるわよ」
「そ、そうですかぁ・・・」
「俊介の恋人よ・・・」
アンニフィルドは即答した。
「え?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「はぁ、そうでしたか・・・」
迎えの男はまじまじとアンニフィルドを見つめた。
(なるほど、すこぶる美人だ・・・。モデルかな・・・?)
「ち、違いま・・・」
ぱさっ。
「うぐぐっ・・・」
アンニフィルドが片目をつむると、俊介の口が閉じた。
(せっかくそう思ってくれてるんだから、誤った解釈を与えないでよぉ)
--- ^_^ わっはっは! ---
(どっちが誤りだよぉ?)
(あなたの方!)
「では、大田原さんもご存知で?」
「おほほ・・。もちろんですわ。混浴も済ませましたの」
どきっ。
「混浴?」
--- ^_^ わっはっは! ---
(だぁーーー!アホか、きみは!)
(なによ。アホ、アホって!ちょっと間違えただけじゃない!)
(相当、いや、完璧に間違えている!)
(訂正すればいいんでしょ?)
(そうだ。訂正してくれ)
「あら、いやだ。間違えましたわ。婚約です。おほほほ・・・」
(それも、違うだろ!)
--- ^_^ わっはっは! ---
「うぐぐぐ・・・。そんなもの、してな・・・」
ぱこんっ。
「痛ぁ・・・」
「ご婚約ですか。それは、それは・・・。おめでとうございます」
--- ^_^ わっはっは! ---
「内密にお願いしますわ」
「わかりました。お二人は、パリでお知り合いに?」
「そう。メリディアン・コンコルドで、お持ち帰りされちゃったの」
「はぁ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ぷっふぁっ!」
俊介はやっと口を開けた。
「アンニフィルド、誤解される言い方はよせ!」
「いいじゃない、わたしが良いって言ってるんだから」
「オレは、良くない!」