202 駆引
■駆引■
アンニフィルドに投げられたZ国のエージェントは、なにもない見知らぬ部屋にいた。
「くぅ・・・」
しゅんっ。
その瞬間、壁の一つに大きな窓が開き、向こうには真っ黒な宇宙空間が広がっていた。
「お気づきになりましたか?」
「だ、だれだ?」
男は辺りを見回したが、声の主を見つけることはできなかった。
「わたしは、アンデフロム・デュメーラ。エルフィアの超銀河間航行宇宙機、エストロ5級母船です・・・」
「なんだとぉ・・・?」
「あなたは、今、地球上空32000キロにいます」
Z国の男は薄ら笑いを浮かべた。
「ははは・・・」
「あなたは宇宙機の中にいます」」
「そんな、バカな・・・」
男はまったく信じていなかった。
「ここは、どこだ・・・?」
「宇宙空間です。窓をご覧ください。あれが、あなたがたの地球です。あなたは、現在、わたくしの中にいて、地球上空32000キロから眺めているのです」
「地球・・・?」
「リーエス。あなたの生まれ故郷の街を拡大します」
びゅうーーーんっ。
窓のスクリーンは一気に拡大して、ある町の上空を映し出した。
「こ、これは・・・」
「あなたの頭脳をスキャンしました」
「オレの脳を走査しただと?」
「リーエス。お名前はベンですね?ご両親は、お母様がメアリ。お父様がトーマ・・・」
「もういい、わかった!」
「Z国諜報員、欧州支部商務部所属、ミッション・コード、クリスタル・・・」
「もういいと言ったんだ!」
「リーエス」
アンデフロル・デュメーラはそこで止めた。
「オレのどこまで、スキャンした・・・?」
「大してしてません。幼年時代のおねしょのような情報は、大して必要ではありません」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ふっふ。余計な情報か・・・。ブロック内も、すべて読まれちまったようだな・・・」
「あなたはZ国政府に忠誠を誓っておいでですか?」
「当たり前だ!」
「この状況を報告すると、ご自分の命が奪われるとしてもですか?」
「そうだ!」
「あなたのご家族のお命が脅かされることになっても?」
「う・・・」
アンデフロル・デュメーラは続けた。
「オレに家族はいない」
「わたくしなら、ご両親の安全を確保できますが、いかがしますか?」
「なに、どういう意味だ?」
「ベン。このまま、あなたがZ国に戻ることは不可能です」
「なぜ?」
「お国は、あなたは捕まり、あなたが情報をすべてしゃべったと思うでしょう」
「そんなはずはない!」
「結構です。では、もうしばらく、お話を聞いていただきます」
「なんの話しだ?」
「エルフィアです」
「エルフィア・・・」
「リーエス。それこそ、お国の方々が、お知りになりたいのでしょう?クリスタル・ボールの真の意味も」
「クリスタル・ボール・・・」
アンニフィルドと俊介は、ホテル・メリディアン・コンコルドに着いた。
「ボン・ソワール。いらっしゃいませ」
「国分寺だ」
「ロイヤルのツインで、ご予約承っています」
「同じ部屋なの?」
アンイフィルドは怪訝そうに俊介を見た。
--- ^_^ わっはっは! ---
「それとも野宿がいいかい?」
ぱちっ。
俊介はアンニフィルドに片目をつむって見せた。
「どうされますか?」
ホテルのレセプションは、こんなことには慣れているのか、何食わぬ顔でアンニフィルドを見た。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ナナン。そこでいいわ。メルシー、ムッシウ」
「モン・プレジール(どういたしまして)。マダム」
さささっ。
俊介はサインすると、ガルソンが荷物を持った。
「荷物は、お一つでよろしいですか?」
にこっ。
アンニフィルドは微笑んだ。
「ウィ。わたしは荷物ないの」
「ダ・コール、マダム」
ガルソンは両手を広げて、微笑んだ。
(娼婦と間違われたぞ、アンニフィルド)
--- ^_^ わっはっは! ---
(うっそぉ!)
にたっ。
(手荷物もなく、男と同伴でホテルにチェックインしたんだぞ、きみは)
(ま、いいわ。それなら、それで)
(どういうことだ?)
(どっちにしろ、あなたは、わたしのものってことよ)
(・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
3人はエレベータに乗り、宿泊部屋に着き、ガルソンは下に戻っていった。
ごんっ。
アンニフィルドが上着を取るときに、肘が俊介の肋骨を打った。
「うっ・・・」
俊介はうめき声をあげて、顔をしかめた。
「きゃ、ごめんなさい!」
「い・・・」
「胸、痛む?」
「いや、大丈夫だ。心配いらない・・・」
「だめよ。骨に異常はなかったけど、気をつけなくちゃ」
にやっ。
「心配してくれるのかい?」
「だれよりもよ」
「へ・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
俊介の照れ隠しのジョークに、アンニフィルドは直球で応えた。
「さ、上着を取ってあげるわ」
「お、おう。痛ててて・・・」
アンニフィルドはいたわる様にして俊介の上着を取った。
「大丈夫?」
「ああ」
「シャツも」
「ええ?これもか?」
「じゃないと、診てあげられないわ」
ばっ。
アンニフィルドは俊介の上半身をはだけた。
「わっ、ちょっと待てくれよ・・・」
かぁ・・・。
「はは。大分、お腹がみっともなくなったぜ・・・」
俊介は自分の腹を恥ずかしがった。
「ナナン。俊介、あなた、とってもステキよ・・・。あ・・・。ここね・・・」
ぴとっ。
しかし、左の脇腹のピストルを突かれてできた青あざを見つけると、アンニフィルドは、すぐに右手を当てた。
じわぁ・・・。
アンニフィルドの手から熱が伝わってきて、俊介は痛みが急速に遠のくのを感じた。
「アンニフィルド・・・」
「黙ってなさい。今、治療してるわ。すぐに痛みは引くと思う・・・」
すうっ・・・。
「ああ・・・」
「どう?」
「うん。もう、痛みはないよ」
「ホント?」
「物理的にはね・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
にっこり。
「物理的にか・・・。でも、よかった・・・」
「ああ、ありがとう。礼を言うよ」
俊介がアンニフィルドから視線を外した時だった。
「じゃあ、ハートの方は?」
「ハート・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そう。ハート・・・」
アンニフィルドの少し物悲しそうな目線に、俊介は思わず口走っていた。
「痛むよ・・・。強烈に・・・」
(し、しまったぁ!)
--- ^_^ わっはっは! ---
にこっ。
「治して欲しい?」
俊介にはアンニフィルドは天使に見えた。
「ああ・・・」
俊介は観念した。
ぎゅうっ。
アンニフィルドは、俊介の返答を聞く前に、彼を優しく抱擁した。
「あなたは、わたしが守る・・・」
ぎゅっ。
アンニフィルドは顔を俊介の胸に埋めた。
「アンニフィルド・・・?」
「なぁに?」
「和人は?」
「あなたの次」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あべこべじゃないか、それ・・・」
「二人にとっては、どうでもいいことよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
ぴぴっ。
二人の前に、アンデフロル・デュメーラの擬似精神体が現われた。
「SS・アンニフィルド、Z国エージェントへの情報提供完了です」
「ありがとう、アンデフロル・デュメーラ」
「Z国に情報提供だって・・・?」
俊介はびっくりした。
「リーエス。隠すのも、いい加減、飽き飽きしたわ」
「なに言ってるんだ。そんなことすれば、きみたちの安全はどうなる?」
「大丈夫よ。こっちのことを本当に知れば、そうそう変な気は起こせないはずよ」
「なんでだよ?」
「ショックが大きすぎると思うわ。それに・・・」
「きみは、地球人を甘く見すぎている」
「ナナン。これは今までの経験で、そうなることがわかってるわ。カテゴリー2の世界の普遍的な反応よ」
「わからんね」
「とにかく、彼をどうこうしようなんて気はないし、アンデフロル・デュメーラもそんなことするわけないわ。帰った後、彼がどう感じるかよ。もう、二度とエージェントする気にはなれないんじゃないかなぁ・・・」
「本気か?」
「リーエス」
「ベン、どこをほっつき歩いてたんだ?」
「え?」
ベンは、アンニフィルドと俊介を襲った場所で、われに戻った。
「二人を追っかけたのか?」
「あ、い、いや・・・」
ベンは、ようやく目の焦点を合わせ、他の男たちを見回した。
「ベン、見失ったんだな?」
「あ、ああ・・・」
「くっそう、逃げられちまったかぁ・・・」
男の一人が、外傷がないことを確かめながら、ベンを見た。
「現実か・・・?」
リーダー格の男は、ベンの様子にすぐに気がついた。
「ベン、なにかあったのか?」
「い、いや、なにも・・・」
「変だぞ。どこにいた?」
「どこにって・・・」
ベンが時計を見ると、5分経っていた。
「こっちを手伝ってくれ」
その時、もう一人が仲間を助け起こそうとしていた。
「どうした?」
「足が痺れて、まったく感覚がない・・・」
「背骨をやられたか・・・」
「いや、違うだろう。骨じゃない、神経を痺れさせられたようだ」
「くっそう、あのメスライオン・・・」
「だから、言ったろう。女だって甘く見るなって」
「ああ・・・」
「立てるか?」
「もう、しばらくはだめだ・・・」
ホテルではアンニフィルドと俊介が寛いでいた。
「汗でも流して、さっさと横になりたいわ」
「あ・・・、風呂な・・・」
「別々だからね」
「わかってるさ。きみが先に入れよ」
「ふうん、なるほどぉ・・・」
アンニフィルドはいくぶん気落ちしたように言った。
「文句あるのかい?」
「別に・・・。襲うつもりなら、覚悟しといてよ。覗くのは構わないけど」
--- ^_^ わっはっは! ---
「するかって。そんなに信用しないなら、鍵かけておけよ」
「信用してるわ」
すたすた・・・。
アンニフィルドはバスルームに消えた。
「まったく、なにを考えてるんだ・・・?」
がらぁっ。
「うぁ・・・。結構大きくて、キレイじゃない・・・」
バスルームのドア越しに、アンニフィルドの声がした。
「そおっかぁ。そいつはいい」
(さっすが、メリディアン・コンコルド。ん・・・?待てよぉ・・・。確か、覗くのは勝手って言ってたけど・・・)
にまぁ・・・。
(うほ!そういうことなら、いっただきまぁす!)
--- ^_^ わっはっは! ---
俊介はそれでも慎重に考えて行動した。
「アンディー、本人の許可を得てるんだが、中継できるかな・・・?ほれ、立体スクリーンとやらでその人の姿をモニターに・・・」
「リーエス。どなたをお映ししますか?」
「アンニフィルドだ。彼女になにかあると大変なんで、ちと様子を・・・」
「入浴中を映し出すのですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「いや、できれば着替えからしてもらえれば・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「いわゆる覗きというものですね・・・?」
「バ、バカ言うなよ。ちゃんと本人の許可を得てるといったろ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「・・・」
「信用してないな・・・?」
「ナナン。そういうことではないのですが、誠に申し訳ありませんが、あなたのお申し出はお受けいたしかねます」
「なんで?」
「そういうことは、あなたご自身で遂行されるべきです」
--- ^_^ わっはっは! ---
「遂行って、軍の作戦じゃないんだからさぁ・・・」
「ダメです」
「冷たいぞぉ、アンディー・・・」
「シュンスケ、おわかりになりませんか?」
「なにを?」
「SS・アンニフィルドは、あなたを試してるんです」
「試す?オレのなにを?」
「リーエス。ですから、あなたご自身でおやりください」
--- ^_^ わっはっは! ---
「じゃ、行ってもいいってことだな?」
「SS・アンニフィルドにお確かめください」
「よっし・・・」
がばっ。
俊介は意を決して立ち上がると、バスルームの脱衣所のドアまで行った。
とんとん。
「おーーーい」
アンニフィルドは湯船に使っているのか、中は静かだった。
「アンニフィルド?」
ちゃぷん。
「いいわよ、鍵なんかしてないから・・・」
「え・・・?」
(なんか、すっごく冷静な声なんだけど・・・)
脱衣所へのドアは透明で、中がすっかり見えていた。
「入ってくるのなら、着てるものは脱ぎなさいよ」
「いいのか、ホントに?」
「リーエス。そうしたいんでしょ?」
「ああ・・・」
「いらっしゃい・・・」
がらぁっ。
俊介は言われるまま脱衣所に入ると、アンニフィルドの着てた衣服が丁寧にたたまれて、おいてあった。
「アンニフィルドの甘い香り・・・」
「恥ずかしがらなくてもいいわよ」
振り向くと、脱衣所と湯船の間のドアもまた透明で、バスタブに浸り、バスタオルに身を包んだアンニフィルドの眩いばかりの肢体が、曇ったガラス越しに、俊介の目に飛び込んできた。
ぱたっ。
俊介は腰にバスタオルを巻いて、浴室に入った。
にこっ。
「いらっしゃい」
「ど、どうも・・・」
俊介はアンニフィルドの前に立った。
にこっ。
アンニフィルドは、長いプラチナブロンドを頭上に上げ、タオルで包んでいた。
「パジューレ(どうぞ)・・・」
どきっん・・・。
「お、おう・・・」
「ただし、わたしに触らないでね」
「え?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わたしに触れちゃダメ。触ったら、ただじゃおかないわよ」
「そんなこと言ったって、狭い湯船じゃ、どんなことしたって当たっちゃうぜ」
「じゃ、止める?」
「わかったよぉ・・・」
そう言うと、俊介はアンニフィルドに背を向けめた。
じゃぁあ・・・。
(ちぇ、どういうつもりだ・・・?オレをとことん弄ぶつもりか、アンニフィルド・・・)
じゃぁあ・・・。
ちゃぷん・・・。
すくっ。
じゃぁあ・・・。
ぴとっ。
びくっ。
「あ・・・。なにやってるんだ!」
「わたしが触れるのはいいの」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ありかよ、それ・・・?」
アンニフィルドのバスタオル越しの肢体が、ぴったりと俊介に押し付けられた。
「うぁお・・・」
「あなたは、じっとしていて」
「なにするんだよぉ・・・?」
ぎゅぅ・・・。
アンニフィルドの両腕は俊介を抱きしめた。
じゃぁあ・・・。
シャワーは二人に注ぎ続けた。
「こんなことして、どういうつもりだ?オレ責任持てないぞ・・・」
「黙って。あなたを感じていたいの・・・」
「こら、男をなんだと思ってやがる?」
(くっそう、オレをこけにしやがって・・・)
ぐるっ。
俊介は身をよじって、アンニフィルドに対峙しようとした。
がしっ。
しかし、アンニフィルドの腕ががっしりと俊介を掴まえて、微動だにできなかった。
「絞め殺すつもりか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そうして欲しい?」
「ご免だね」
「バスタブに一緒に入って・・・」
「きみに触れてしまうじゃないか?」
「だから、わたしから触れるのはいいの・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
アンニフィルドは優しく腕を解くと、俊介を湯船に誘った。
ちゃっぷーーーんっ。
「したい?」
「なにを?」
「ああいうことや、そういうこと・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
むっかぁ・・・。
俊介は、アンニフィルドに対する欲望より、怒りの方が急速に強くなっていった。