201 的士
「あは。アンニフィルドよ。わたしにもロマンスくらいあるのよ。で、このお話しの『的士』て、香港に行ったことのある人はわかると思うけど、『タクシー』ってことなのよねぇ。タクシーでなにがあるって?あはは、言えるわけないじゃない・・・」
■的士■
ささっ。
たったった・・・。
Z国の二人は変装した俊介を探すのに血眼になっていた。
「いないわ」
「くっそう、どこに行ったぁ?」
あたりは観客でごった返していた。
ぞろぞろ・・。
がやがや・・・。
「こうなったら、もう見つかりっこないわよ」
ぞろぞろ。
「畜生め・・・」
ざわざわ。
「さっきより人が増えたみたい」
どんっ。
「おい、気をつけろ!」
長身で筋肉質の男が彼にぶつかりざま怒鳴った。
「すいません」
「ふん・・・」
すたすた・・・。
ばしっ。
「ええい。どいつもこいつも、なにを見に来てやがる」
「モナリザとミロのビーナス・・・。とにかく、女の胸でしょ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「真面目に答えろ!」
「あなたもね。美術館ではお静かに」
「うるさい!」
「もう、時間切れだわ。本部に報告すべきよ」
「くぅ・・・」
女はスマホを取り出した。
「止めろ。外に出てからだ」
「わかったわ」
「とにかく、周りを探せ。ダークブロンドの長髪で長身の男だ」
「それに、眼鏡の東洋人よ」
「出口は、左だ。左に曲がれ」
「ええ」
すたすた・・・。
二人は足早に美術館の出口に向かった。
「わかったわ。もういっぺん行ってくる」
アンニフィルドはユティスたちに説得されて、再度パリに出向くことにした。
「その方がいいよ。常務もそんな大変な任務を背負ってるんなら、きみがサポートしなきゃ、簡単にやられちゃう」
和人は本気で俊介を心配していた。
「アンデフロル・デュメーラ、俊介の現在位置をキャッチして」
「リーエス、SS・アンニフィルド」
ぴ、ぴっ。
「捕捉しました。パリ中心部のルーブル美術館を出たところです。お迎えの車に乗り込みます」
「わかった。その車にして」
「リーエス。シュンスケは後部座席です。お隣は空いてますよ」
「じゃ、隣にやって」
「リーエス、SS・アンニフィルド」
「いってらっしゃーい」
ユティス、クリステア、そして、和人の3人は、手を振ってアンニフィルドを送り出した。
ぽわーーーん。
アンニフィルドが白い光に包まれた。
しゅん。
次の瞬間、アンニフィルドの姿はそこになかった。
「さぁ、乗ってください、国分寺さん」
「ああ・・・。よいっしょっと」
俊介が車の後部座席に収まると、後から大使館員が前の助手席に座った。
「ホテル・メリディアン・コンコルド、シル・ヴ・プレ(ホテル・メリディアン・コンコンルドへやってくれないか)」
「ダ・コール。ムッシウ。(わかったよ、旦那)」
ぽわーーーん。
「ん?」
俊介は、自分の横に現われた白い光にぎょっとした。
「な、なんなんだ・・・」
ぱあーーーっ。
白い光はたちまち強くなり、目がくらんだ。
き、きーーーっ。
車のドライバーもバックミラー越しの光に度肝を抜かれ、急ブレーキをかけた。
「うわぁーーーっ!」
きっ。
どーーーん。
俊介は止まった勢いで、前のシートに身体をぶつけた。
「痛ぇ・・・」
「大丈夫?」
--- ^_^ わっはっは! ---
俊介は覗き込んだ人物を見て満面の笑みを浮かべた。
にこっ。
「やぁ・・・」
「はぁい・・・」
間髪入れずに、アンデフロル・デュメーラが俊介に話しかてきた。
(シュンスケ、あなたの依頼されたお届けものです)
--- ^_^ わっはっは! ---
(ああ、アンディー。確かに受領したよ・・・)
(パジューレ(どういたしまして))
「出、出たぁ・・・!」
--- ^_^ わっはっは! ---
運転手は声をひっくり返して、バックミラーを覗いていた。
「三人になったくらいで、気にするなよ。運転を続けてくれ。料金は一緒なんだろ?」
「ウ、ウィ。ビアン・シュール(もちろんです)・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
運転手は、俊介の言葉に、後ろを向いて、増えた乗客を確認した。
(なんてこった・・・。幽霊じゃないよな・・・?にしても、すごい美人じゃないかぁ・・・)
にこっ。
「あは。乗客1名追加だけど、行き先に変更はないわよ」
「ダ・コール、マドモアゼル。ア・ロテル・ダムール(わかってますって、お嬢さん。ホテル愛の宿でしたよね)?」
「ノン。ムッシウ(違うぞ、きみ)。ホテル・メリディアン・コンコルドだ」
「あー、確か、そうとも言いましたよね・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
ぶろろろ・・・。
「国分寺さん、そちらは?」
アンニフィルドが突然車内に現われたにもかかわらず、助手席の大使館員は大して表情を変えなかった。
「エルフィア人のアンニフィルドだ」
「はじめまして。よろしく」
にっこり。
アンニフィルドは最高の笑顔で挨拶した。
「よろしく。日本大使館の白岡です」
ちらちらっ・・・。
運転手は、バックミラー越しに、アンニフィルドを見て、白岡に話しかけた。
「いきなり車内が華やかになりましたね・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そうですね。さすが、パリです」
「あはは。しかし、なぁに、俊介・・・。その格好?」
アンニフィルドは、俊介のウィッグと付け髭を見て笑った。
「怪人1億面相さ。今、取るよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
俊介が髯とウィッグを取り元に戻ると、アンニフィルドは微笑んだ。
「そっちの方がうんとステキね」
ぱちっ。
「キッスしたくなったかい?」
俊介はウィンクをした。
--- ^_^ わっはっは! ---
にこっ。
「どこにして欲しいの?」
「えっ・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
俊介はアンニフィルドの逆襲の笑顔にうろたえた。
「ちょっと、ここ、車の中だぞ・・・」
しかし、アンニフィルドは余裕で答えた。
「白岡さん、運転手さん、ちょっと目をつむってってね」
--- ^_^ わっはっは! ---
アンニフィルドは後部座席から乗り出して、二人の耳元で話した。
「運転手がそんなことしたら、事故るんじゃないのですか?」
白岡が冷静に答えた。
「大丈夫よ。ねぇ、アンデフロル・デュメーラ?」
ぎょっ。
「まだ、一人いるんですか、この車に?」
--- ^_^ わっはっは! ---
運転手は、そっと、バックミラーを覗き込んだ。
「いないわ。エストロ5級母船のCPUだけど、電子装置の制御なら、お手の物よ」
「はぁ・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス。SS・アンニフィルド。その車の操縦なら問題ありません」
「だめだめ!アンディー、きみは無免許だろ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
俊介が手を胸の前で交差させた。
「免許ですか?」
「リーエス。地球じゃ、なにをするにも免許が要るのよ、アンデフロル・デュメーラ」
「わかりました。それは大変ですね、シュンスケ。あなたも男性ですから」
「おお、そうだな・・・。え?どういうことだ?」
「もう、アンニフィルドに免許の申請は済ませたのですか?」
「はぁ?」
「もう、締め切り間近よ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
にこにこ・・・。
アンニフィルドは微笑みを湛えて、俊介の側で大人しく座っていた。
ルーブル博物館のチケット売り場付近で、Z国のエージェントたちは、本部にいきさつを報告していた。
「なに、国分寺俊介を見失っただと?」
「申し訳ありません」
「やつら、ホテルはどこにとってある?」
「調査中です」
「仕方ない。こうなったら水際作戦しかないな・・・」
「はい」
「オークション主催者の電話盗聴結果を確認するんだ」
「了解です」
「いくら、やつらが急いでいても、フランス当局の対応には2日を要する。その間に運び出すルートと方法を確定するんだ。盗聴内容にヒントがあるはずだ」
「はい」
「それより、気になるのは国分寺俊介、本人だ」
「どういうことで?」
「こっちの意図を手に取るように把握していた。オークションに出たわれわれのエージェントは、プロ中のプロだ。それが、勝負に出た途端、値を吊り上げられ、足元を簡単に見られてしまった。ヤツが日本政府の回し者で、予算も使い放題に違いないとは踏んでいたが、こうもタイミングよく考えを悟られるとは、なんのまじないだ・・・?」
「まさか、テレパスじゃぁ・・・?」
「ありえんことではないな。なぜ、ヤツがユティス以外のエルフィア人と繋がっているのか、探る必要がある。なんらかの情報提供を受けてるに違いない」
「それに、ヤツは大物政治家の血縁ですよね?」
「ああ。影の官房長官との噂高い大田原太郎の実の孫だ」
「当然、裏では大田原太郎が糸を引いてると・・・」
「ああ。大田原は、エルフィア人の件に最初から深く係わっている。どうして、ヤツがクリスタル・ボールがエルフィアの文明の産物だと知っているのかが問題だ」
「じゃあ、われわれは、どうしてクリスタルボールのことを知りえたんでしょうか?」
「日本にいるリッキーだ。彼が知らせてきたんだ」
「テレパシーですか・・・?」
「ああ。彼の報告によると、エルフィアの超先進技術のヒントが、あのクリスタルに詰まっているらしい。必ず、わが国が手に入れねばならない」
「はい」
るるるーーー。
ぴっ。
「リッキー、パリからだ」
「わかった、出してくれ」
ぴっ。
「オレだ」
「ジェイスンだ。国分寺と女が、現われた」
「女・・・?国分寺俊介、ヤツが一人じゃないのか?」
「いや、二人だ。プラチナブロンドの長身の女が側にいる。恋人か愛人だろうな」
「まさか・・・?」
「どうした?」
「いや、なんでも・・・」
リッキーは必死でその可能性を探った。
(どういうことだ・・・?あのSSの女、つい今しがた日本にいたんだぞ。オレはこの目で確かめたんだ。ものの数十分で、パリに現われただと・・・?)
「おい、どうした、リッキー?」
「ちょっと気になることがあってな」
「どうする?」
「待て。今、思い出している・・・」
リッキーはプラチナ・ブロンドの長身の美女を思い描いた。
「リッキー?」
「ああ、大丈夫だ。心配するな。その女はアンニフィルドとかいう、エルフィア人のセキュリティ要員に違いない・・・」
「なんだとぉ・・・?]
「エルフィア人だ。ヨーロッパ人じゃない。地球人でもない」
「なら、すぐに確保に入らねば・・・」
「ははは。止めておけ。彼女はセキュリティのスペッシャリストだ。オレたちも、さんざんやられている。エスパーですらないおまえたちが、なんとかしようと思ったところで、赤子扱いされるだけだ。強力なテレパス、サイコキネシス、クレヤボンス。そして、間違いなく、テレポテーション能力を持っている。それに、捕らえたところで、彼女がわれわれにテクノロジー支援できるわけじゃない。その役目はエージェントだ」
「うむ・・・」
「確保すべきエルフィア人のターゲットは、当初予定通り、エージェントのユティスに絞る」
「しかし、エルフィア人は、日本で宇都宮和人の側にいるんじゃないのか?」
「それが、どうやら違うらしい。1万キロ以上の移動も、なんなくこなせるぞ・・・」
「1万キロ?」
「ああ。彼女は、一瞬で日本からパリまで来たんだよ」
「バカな・・・」
「まずは、クリスタル・ボールを入手しろ。エルフィアのテクノロジーの秘密が凝縮しているデータバンクだ」
「了承した」
ばらばら・・・。
パリの夜をロマンチックに過ごそうとしている俊介たちに、数人の黒スーツの男が取り囲んだ。
ちゃ。
男たちは二人に銃を構えた。
「アンニフィルド!」
「動かないで。こいつら本気よ」
「どうする?」
二人の周りには、男たちの他だれもいない。
「まず、理由を探るわ」
「頼む」
一人が二人に油断なく近づいてきた。
「クリスタル・ボールをよこせ」
(さっき落札したヤツだ・・・)
(リーエス)
俊介とアンニフィルドはハイパー通信で会話した。
「そんなもん、持ってなんかないよ」
俊介は両手を広げようとした。
ちゃ。
「おっと、動くな。そう、ゆっくりと両手を頭の後ろで組むんだ」
男はさらに近づきながら、二人に命令した。
「お嬢さん、妙な気を起こすなよ。あんたがエスパーだってことは先刻承知だ」
二人は言われるまま両手を頭の後ろで組んだ。
「よし、調べろ」
男は仲間に合図した。
(手出ししちゃだめよ)
(わかった。きみがスキャンするまではね)
(リーエス。いい子ね)
アンニフィルドは男たちの頭脳波を探り当てた。
(モニターを開始するわ)
(こっちに中継できるか?)
(簡単よ。聞こえる?)
アンニフィルドが男たちの思考を中継すると、俊介にもそれが聞こえてきた。
「国分寺から、クリスタル・ボールの搬出計画を聞くんだ」
(ああ、よぉーく、聞こえるぜ。こいつら、オークションで落札を失敗したんで、今度は、あれを日本に持っていく前に、横取りしようって魂胆だ)
にやり。
(ということね)
「なにを、笑ってる?」
男は俊介に銃を突きつけた」
「銃が恐くて引きつったんだよ。おー、恐っ!」
「減らず口を叩くな!」
がんっ。
男は銃で俊介を突いた。
「う・・・」
「俊介!」
「大丈夫だ」
「クリスタル・ボールは、いつ金庫から出すんだ?答えろ!」
どかっ。
男は再び銃で俊介を思いっきり突いた。
「うっ・・・」
「よくも、わたしの・・・!」
どかっ。
ぼかっ。
ごとっ。
ばた、ばた・・・っ。
次の瞬間、銃の引き金より速く、アンニフィルドの鉄拳が炸裂し、一人を残して、あっというまに男たちは路上に倒れた。
「あわわわ・・・」
つつつーーーぅ・・・。
残された男は、踵を返そうとして、後ろ向きのまま磁石に引き付けられる鉄片のように、アンニフィルドに引き寄せられた。
がしっ。
「どこに行くつもり?」
「た、助けてくれ・・・」
男はもがこうとしたが、体中が鉛になったように重くなり、動くことができなかった。
「わたしの恋人に乱暴しといて、自分だけ助かろうなんて、虫が良すぎるんじゃない?」
ぐいっ。
アンニフィルドは男の顔を向けさせた。
ぴゅーーーん。
「あわわ・・・」
男のサングラスが、文字通り独りでに飛んでいった。
「わたしに答えなさい」
アンニフィルドの断固たる口調に、男はすぐに従った。
「わ、わかった・・・。条件付で・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「条件?そんなこと言える立場なの、あなた?」
「しゃべるもんか、くっそう・・・」
「でも、言うのよ。だれの回し者なの?」
「それは、言えない・・・」
ぴゅーんっ。
男の口からカプセルが飛び出した。
「口止め用の毒カプセルね?」
「うっ・・・」
「自分で自分の命を粗末にするなんて、なんて野蛮なの?美女のハーレムくらい経験してからにしなさいよ!」
「は、はい・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
アンニフィルドは顔を男に近づけた。
「・・・」
「あは。なぁーーーんだ。やっぱり、まだ、童貞なんじゃない」
--- ^_^ わっはっは! ---
「う、うるさい!」
「さてと、Z国の人間らしいけど、違ってる?」
ぴゅーーーんっ。
アンニフィルドが、男を片手で放り上げると、男は夜空にどんどん吸い込まれていった。
「ぎゃーーーっ」
男の悲鳴が姿と共に闇に溶けていった。
「ヤツはどこに行ったんだ?」
俊介はゆっくりと立ち上がると、男が消えていった夜空を見つめた。
「アンデフロル・デュメーラの客室よ」
「アンディーだってぇ?」
「リーエス。一度、招待してあげれば、自分たちの立場がわかるんじゃないかと思って」
「いいのか、そんなことして。バレちまうぞ」
「いいんじゃない。この際、徹底的に自覚してもらった方がいいのよ」
「ま、きみがそう言うのなら、問題なかろう・・・」
俊介は視線をアンニフィルドに戻すと、ゆっくりと歩き始めた。
ずきっ。
「うっ!」
「大丈夫?」
「なんとかね・・・」
「待って、診てあげる」
アンニフィルドは、俊介の胸をスキャンし始めた。
さぁーーーっ。
「うん。どこも異常ないわ。打ち身ね」
「そうっか、ありがとう」
「でも、しばらくは無茶しないで・・・」
「ああ・・・。どうする、これから?」
「デートは切り上げた方がいいわね。ホテルに戻りましょ」
「わかった。タクシーでも拾おうか・・・」
「ナナン。わたしが運んであげるわ」
「また、しゅんってか?」
「選択の余地なしよ。アンデフロル・デュメーラ?」
「リーエス、SS・アンニフィルド」
「メリディアン・コンコルドへ」
「リーエス」
ぽわーーーん。
しゅんっ。
たちまち、二人は白い光に包まれ、その場ですぐに消えた。
「あ・・・」
「なんだい?これからだっていうのに・・・」
カップルの男が女から顔を離した。
「今、カップルが、消えなかった?」
女は辺りを見回した。
「なに言ってるんだ、シェリィ・・・。人間が消えるわけないよ」
「そうよね。幽霊だったのかも・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---