200 落札
「アンニフィルドよ。わぁお、200話到達よぉ。やったね。地球に3人揃って、ますます予備調査に力が入るわぁ。地球って、面白くて、わたし紺人的には好きよ。それに、気になる人もいるし・・・。もう、なに言わすのよぉ!」
■落札■
ぷいっ。
突然、サングラスの男は踵を返した。
「1000万。1000万、いませんか?」
だれも、そんな馬鹿げた高額に、ついていけるはずなかった。
「1000万。コールです」
とんとん。
かくて、俊介は、セレアムの銀河間航法システムの銀河地図を手に入れた。
「よく落とせましたね?」
「軽いモンさ。フィールドでも、たまに落としてたからな」
「はぁ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
(あーーー、QB、国分寺、ブリッツに合い、ボールをファンブルです!)
どっかぁーーーんっ。
ぽろん。
ころころっ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あれを落としたヒゲの長身の男、なにものだ?」
「純粋の日本人ではないですね。風貌から見ると、混血のようです」
「付き添いは、日本大使館員です」
「ということは、日本政府絡みだな?」
「恐らく・・・」
「あれがなにか、ヤツらが知っていると?」
「でなければ・・・。こんなに金を出せるのは個人であるわけがないです」
「日本政府は、データバンク・クリスタルを知っているのか?」
「そうでしょう。それに、せりに参加している長身の男は、セレアムの重役です」
「なに?」
「株式会社セレアムのことか?」
「そうです。エルフィア人エージェントがいるセレアムのです」
「おまえ、知っているのか?」
「ええ」
「なぜ、ここに?」
「彼は、国分寺は影の官房長官、大田原太郎の実の孫です」
「くっそう・・・。そういうことか・・・」
「第二作戦に入りますか?」
「無論だ。クリスタル・ボールが、日本に着く前に奪い返せ」
「了解です。フランス国内の輸出手続きを考えると、最低2週間はかかると・・・」
「いや、遅すぎる。なにしろ、ヤツらのスポンサリングは日本政府だぞ。明日にでも全額支払いを終えるに違いない」
「となると、持ち出しは、今週中だと?」
「明日以降のパリ発日本行き、すべての便を洗え。ヤツがいつどの便に乗るかだ」
「了解しました」
「バックに入る小さなものだ、機内に持ち込み、ハンドキャリーするに違いない」
「了解です」
ざわざわ。
オークションは終了し、皆は互いに讃え合い獲物談義に沸いていた。
ぴーっ。
そこに、ホストの最後のアナウンスが響いた。
「なお、オークションでせり落とされた方には、3日以内に、手付け金として、ご提示額の10%を当社指定口座へ振込み願います。残金は、その1週間以内にお振込みを完了願います。手付金は保険金でもありますので、お支払い後はお返しはできません。お支払いの際には、小切手の利用はできません。現金振込みのみとなっております」
落札者たちはパンフの注意書きに目を通した。
「万が一、期日までに振込みが確認できない場合は、たとえ、手付金お支払い後であっても、即座に、次点の方に交渉権が移りますので、くれぐれもご注意願います。また、お品は、全額振込み完了後でないと、フランス国外へは勿論、保管金庫より、一切の持ち出しはできません。全額お支払いの方には、金庫にて現物確認の立会いができます」
「なるほど・・・」
「また、税関申告、手続きは、本日お渡しする書類を、手順に沿って、事前に行なって下さい。手続き未完等によるフランス国外への不法持ち出しで、当局に差し押さえられる事態になったとしても、当社は一切の責任は負いませんので、予めご了解願います。なお、盗難、破損等への当社責任による保険は、金庫までとなります。金庫にて、お品のお引渡し後は、落札者の責任において保険をかけていただくよう、お願い申しあげます」
主催者の説明は、パンフに書いてあったが、その通りに長々と続いた。
「結果報告は、電話やメールではできませんが?」
「こっちには、いい手段がある・・・」
「それは?」
「超時空通信システムだな・・・」
大使館員にはハイパー通信を知らなかった。
(アンニフィルド、聞こえたら返事してくれ)
「どうしました?」
(・・・)
「着信拒否されたら、どうするかな・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
俊介は、ハイパー通信で、アンニフィルドを呼び出した。
「SS・アンニフィルド、シュンスケです」
「リーエス、アンデフロル・デュメーラ・・・」
「出ないつもり?」
「そうじゃないわよ」
「お仕事だと思いますわ」
「緊急事態かもね・・・」
じぃ・・・。
和人たちはアンニフィルドを見つめた。
「わかってるわよ。出るから、そんな目で見つめないでよ」
アンニフィルドは俊介に応えた。
(はい。なによ?)
(オークションの件だ)
(それで?)
(予定通り、落札した。支払いは、明日中に完了して欲しい)
(わたしが払うの?)
--- ^_^ わっはっは! ---
(と、じいさんに至急連絡するよう、姉貴に伝えてくれ)
(あ、そういうこと・・・)
(なんか随分素っ気無いなぁ・・・)
(ビジネス通信だもの)
(それから、もう一つ。Z国や他が、あれに気が付いてる。計画は慎重にいきたい)
(わかったわ)
(以上)
(・・・)
(どうしたんだ?)
(なんでもないわ・・・)
(じゃぁな・・・)
(待って・・・)
(今晩の食事楽しみにしてるぜ)
(え?)
--- ^_^ わっはっは! ---
ぴっ。
「シュンスケの通信が切断されました」
アンデフロル・デュメーラが冷静な声で告げた。
「俊介さん、今晩もパリですか?」
「リーエス。今晩の食事が楽しみか・・・」
「ふぅん。シュンスケがそう言ったのぉ・・・」
にっこり。
クリステアはアンニフィルドを見つめて微笑んだ。
「パリに戻ってきてくれってことじゃないかしら?」
「そうですわ。行ってらっしゃいな、アンニフィルド」
にこっ。
ユティスも続いた。
「また、やな思いするのは嫌よ・・・」
「今度は、どなたも邪魔するものはいないと思いますわ」
「リーエス。シュンスケは、ああ見えても相当な照れ屋だから、自分でも気づかないうちに、人前じゃそうしちゃうのよ」
「そう思う?」
「リーエス。特にあなたに対しては・・・」
「本当?」
「確かめたくない?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス。お二人だけなら、もっとロマンチックにされると思います」
「ユティス・・・」
「だから、さっさと行く。今なら、向こうは午後ってとこだから、デートする時間はたっぷりあるわよ」
「そうかしら・・・?」
「アンデフロル・デュメーラ、お願いしますわ?」
「リーエス、エージェント・ユティス。SS・アンニフィルドの転送準備はできています」
アンデフロル・デュメーラが伝えた。
「リーエス・・・」
「うふふ。行って甘えてらっしゃいな、アンニフィルド」
「こっちは、大丈夫だから」
「本当に、本当?」
「くどい」
首尾よくクリスタルボールを落札し、俊介と大使館員がひそひそ話しをしていた。
「やりましたね」
「ああ。だが、あいつら何者だ?」
「Z国の可能性は高いです」
「なんで、銀河地図データバンクを狙ってる?」
「しっ。声を低く」
「悪い・・・」
「あの台座の文が、セレアム古代文字、つまり、エルフィア文字であることは、先進国なら、まず承知していますよ」
「なんだって・・・?あれが、エルフィア文字ということが、なぜわかったんだ?」
「それは・・・」
「それを知っているのは、じいさんとオレたち姉弟だけだぞ・・・」
「それを盗み聞きしたのに違いありません」
「盗聴か・・・?」
「恐らく・・・。すべての電磁波は、有線、無線に係わらず、各国の安全保障局によって四六時中監視されています」
「オレたちは、監視対象なのか?」
「当然です。なにしろ、エルフィア人と日常的に接触しているんですよ」
「しかし、なぜ、このオークションでは、Z国だけが行動してるんだ?」
「いいえ。他国の政府も動いています。自腹を切りたくないだけでしょう。失業率が高い中、ただの水晶玉に何億もかけたとなれば、市民に追及されますから」
「それは、日本も同じじゃないのか?」
「それより、Z国のせいにして、われわれから横取りを企んでいると考えた方が、理にかなっています」
「なるほど、Z国になりすまして、贋作とすり替えか・・・」
「危なくなるのは、これからです。とりあえず、ここから出ましょう」
「わかった」
すたすた。
二人は会場を出て、エレベータに乗り、タクシーを拾った。
「タクシーはグルと考えていいですよ」
「予め手配済みか・・・?」
「そういうことです」
「ムッシウ、どこへ?」
タクシーのドライバーが大使館員にきいた。
「ルーブルにしましょう」
「ルーブルへ」
「ダコール(わかりました)」
ぶろろろろ・・・。
「ルーブル?それこそ、やばくないのか?」
「人ごみが多くて、逆に好都合です」
「さ、これを」
大使館員は俊介にウィッグをそっと渡した。
「なんだ・・・」
「お静かに」
「あ、ああ・・・」
「スーツは、裏も使えるようにしたものを着用されてますか?」
「ああ」
「結構。ルーブルに着いたら、すぐにトイレで着替えを」
「わかった」
ルーブル美術館では、二人の後をつける人影がいた。
「例の二人です」
「つけるぞ」
すたすた・・・。
「トイレに入ったわ・・・」
「よし、入るんだ」
「バカ!わたしは女よ。入れません!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「オレは気にしない」
「わたしが気にするの!」
「だったら、ここにいて、見張れ」
「あなたこそ、見失わないようにね」
「ぬかせ。出口はここしかないんだ」
男の方がトイレに入っていった。
俊介たちはルーブルに着いて、すぐにトイレで着替えた。
「つけられてます」
「おいでなすったか」
「さ、早く、ウィッグと頬髯も付けて」
「わかった」
俊介はやや長めのダークブロンドに濃い茶色の髯をたくわえ、新興ビジネスマンに見えた。
ぴしっ。
「見違えますね?」
「そうか?」
「とても同一人物には見えません」
「良かった」
「あなたが先に出て下さい。あそこの大きな絵のところで落ち合いましょう」
「了解」
俊介が出ようとすると、怪しげな男が入れ替わりに入ってきた。
(間一髪だ。気づかれてはないな・・・)
俊介はゆっくりと外に出て行った。
(いない・・・)
男は4つ並んだ個室の2つが利用中なのに気づき、にやりとした。
(座って一休みってわけか。まぁ、いい。用を済ます時間くらいくれてやる)
大使館員もウィッグに眼鏡をかけ変装をし、外に出た。
トイレには、怪しい男と個室の2人だけになった。
(やけに遅いな・・・)
きぃ・・・。
やがて、一つの個室のドアが開き、年配の頭の薄い男が出てきた。
(なに?)
怪しい男は、年配の男をつぶさに観察すると、トイレから飛び出した。
「逃げられた!出なかったか?」
「出てこなかったわよ」
相棒の女は首を振った。
「違う。変装だ。くっそう・・・」
既に、ダークブロンドの男は人ごみに消えていた。
「気づかれてたのかしら?」
「たぶんな・・・」
「トイレから出たのは?」
「ダークブロンドのヨーロッパ人。眼鏡の東洋人」
「他には?」
「頭の薄いヨーロッパ人」
「どっちに行った?」
「右奥の方よ」
「行こう」
「ええ・・・」
「恐らく、長髪のヨーロッパ人は、国分寺俊介の変装だ」
「そんな・・・」
「いや、間違いない。ヤツは184センチもある長身だ。顔立ちも彫が深く精悍だ。上着も変えてたんだな・・・」
「大使館員は?」
「後から出てきた、眼鏡の東洋人に違いない」
「どうするの?」
「探せ。探すんだ」
「わかったわ」
「くっそう、テレパスをすべて日本に置いてるから、ヤツらの精神波を読み取って後をつけることができん・・・」
「この人ごみじゃ、ダメよ」
「諦めるな」
「わかった」
大きな絵画の下で、俊介と大使館員は落ち合い、歩き始めた。
「行きましょう。歩きながらお話します」
「わかった」
二人はゆっくりルーブルの中を歩き始めた。
「ヤツらに、あれがセレアムのものとわかったのは、いつだ?」
「大田原さんの国分寺さんへの電話です」
「スマホか?」
「盗聴器ではなく、回線途中の情報抜き出しです」
「なるほど」
「それだけではありません。主催者にも情報収集をかけてきているはずです」
「ふむ・・・。で、オレのスケジュールについて、じいさんの指示は?」
「明日には全額支払い。明後日にパリ通関。その日の夜便で帰国です」
「水曜日の夜行便ったって、ちょっと待ってくれ・・・」
いきなりのことに俊介は、面食らった。
「オレはせり落とすだけじゃないのか?運び屋まで、やらせるつもりか?」
「いいえ。あなたは囮です」
「なんだと・・・?」
「囮になってもらいます。本物は、エルフィアの母船に収納します」
「アンディーか・・・?」
「はい」
「じいさんが、アンニフィルドに伝えたのか?」
「いいえ。あちらから、援助の申し出が・・・」
「ほう。で、いつ?」
「先ほど、つい、2時間前です」
「帰って直ぐにか・・・」
「手筈は、どうなっている?」
「支払い確認後、直ちに主催者の金庫から取り出しを立会い、その場で用意したイミテーションにすり替えます。本物は、母船に収納します」
「どこで、どうやって、誤魔化すんだ?」
「それこそ、あなたのご友人がご存知じゃないんですか?」
「わかったよ・・・。じいさんめ、そこまで手配してやがったか・・・」
「たぶん、あなたのご想像通りでしょう」
「しかし、この会話自体、ヤツらに聞かれてないのか?」
「可能性はありますが、ホテルや、カフェとかに比べれば遥かにましです」
「わかった」
「明日の現物立会いまでは、適当にパリ市内で・・・」
「了解した。オレの荷物は?」
「移送済みです」
「そっか。ま、スーツケース一つだから、大したこともないけどな」
「外に手配の車を用意してあります。車に乗ったら、直ぐにウィッグを取って下さい」
「わかった」
「ヤツらは、ダークブロンドの男を捜してますので・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わははは。なるほどなぁ」