019 天使
■天使■
「じいさん。さて、次はどう出るんだ?」
俊介は大田原にきいた。
「エルフィアのエージェントと和人を守りきらねばなるまいて」
「オレもそう思う。だが、オレたちだけではほとんどなにもできん。じいさんこそ、政府を動かすことができないのか?」
「無論そのつもりだ。近々、藤岡さんに会う。説明をせねばならんな」
「首相、腰を抜かすぞ」
「恐らくな・・・」
大田原は藤岡首相の苦りきった表情を容易に想像できた。
「なにか、そのプロジェクトチームを極秘に作って、そこですべてを進めるという訳にはいかないのか?」
「わたしも同意見だ。それしかないな。俊介、おまえと真紀もそのメンバーに加えるが、異論はないな?」
大田原は俊介に確認した。
「ああ」
「それで、今は和人の様子を見守ってくれ。特に、エルフィアとのコンタクト状況には注意してくれよ。連絡はホットラインで、いつでも、これに転送される」
大田原は自分専用のプライベートのスマホを握ってみせた。
「わかった」
ユティスが和人に眠りを与えて、きっかり20分がたった。
「和人さん、和人さん・・・」
和人に再びユティスの呼びかけが聞こえてきた。
「あ、・・・ユティス」
和人は目を閉じたままだったが、そのイメージはしっかりと目に浮かんできていた。
「んふ?」
ユティスは和人の席の隣に腰掛けていた。
「カズト・デュメナージュ(和人さん)。アステラム・ベネル・ローミア。(おはようございます)。ご気分はいかがですか」
「うーん・・・」
和人は目を覚ました。気分はすっかり良くなっていた。
「ホントだ・・・」
時計を見ると確かに20分しかたっていなかった。
「最高だよ。ユティス、ありがとう」
和人はユティスに感謝した。
「あら、つぶやきサイトのいつものフレーズですわ」
「ははは。でもね、本当に感謝してるんだよ」
「うふ。わたくしも、とっても嬉しいです」
ぽわん。
ユティスのイメージが少しはっきり浮かんできたので、和人は今ではユティスの実在を確信していた。
にこっ。
ユティスの笑顔は、まだ、少しぼやけているにもかかわらず、最高にキュートだった。
どきどき・・・
和人は無性に嬉しくなった。
「ユティス・・・」
「和人さん・・・。うふ」
きゅん!
(きみって、本当にとびっきり可愛い女の子だったりして・・・)
じぃ・・・。
どっくん、どっくん・・・。
ユティスに見つめられ、和人は胸が高鳴るのを抑えることができなかった。
(オレ、すごくドキドキしている)
そんな和人を店員たちが噂していた。
ひそひそ・・・。
「あれよ。あの人。あの人」
また、店員の声がした。
「今度は眠りながらニタニタしているわ」
「ああ、ホントだ」
「まあ、女の子とデートでもしてる夢でも見てんだろ」
「ヘンタイ・・・」
「ひどいな、おまえ。夢くらい自由にさせてやれよ」
「あんなのに肩を持つわけ?」
「なんかひどく疲れた様子だったから、可哀相になっただけだよ」
「どうせ、夜にエッチビデオでも見てたんでしょ」
「どうかな。あれぇ・・・?」
「どうしたの?」
「いや、ちょっと」
「なによ?」
ぱちぱち・・・。
「まさかね・・・」
男性店員は和人の横に寄り添うように座って、和人の腕を優しく撫でている、オーラをまとった天使のようなスーパー可愛い娘ちゃんを、一瞬見たような気がして、目を瞬いた。
ぱちぱち。
ごしごし・・・。
男性店員は目をこすってみた。
「いる・・・。いや、まさか、そんなことは・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「どうしたってのよ?」
「なんでもない・・・」
「変なヤツ・・・」
はっ。
そして、和人は突然現実に戻った。
ばち・・・。
(あっ、店員に変な風に見られちゃったぞ)
和人と男性店員の目が合った。
ぺこり・・・。
男性店員は和人にお辞儀をした。
「うふふ。大丈夫のようですわ」
ユティスの声が和人のそばでした。
「あれっ?」
「どうかしましたか?」
「なんか、きみがすぐそばにいるような・・・」
「うふふ。そうかもしれませんわ」
和人には確かにユティスの声が耳元でしてるような気がした、
「ホント?」
「はい」
「だったら、すっごく嬉しいよ」
「まぁ、和人さんったら・・・」
男性店員がまたも和人の方に目をやった。
(やっぱり、だれかいるぞ・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
じーーーっ。
彼は和人の方を見つめ直した。
ぽわーーーんっ。
「店員さんもお気遣いありがとうございます」
その瞬間店員は和人を凝視した。
(い、今、確かに女の子の声で、ありがとうって)
彼は和人を凝視したまま、呆けたようになった。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ユティス、店員さんが・・・」
「はい。あの方はとても敏感です。それに、和人さんに個体波長がとても近いんです」
「オレに同調したのかな?」
「そのようですわ。先ほども、今も、波長のゆらぎで、一瞬わたくしを感じ取れたのでしょう」
「それ、彼にきみが見えたってこと?」
「はい。和人さんも、活性化アプリを適用されてますので、もう、わたくしがおそばに座っていることが、はっきり見えるようになっているかと思います・・・」
「ええーーーっ?やっぱり、ユティス、今、オレのそばにいるの?」
「リーエス(はい)。わたくしは、精神体で、和人さんのお側にいます」
「ちぇ、目を開けとくんだった!」
--- ^_^ わっはっは! ---
ぱちっ。
和人は、目を開けた。
にっこり。
「んふ」
その時、はじめて和人はユティスの本当の姿をはっきりと目にした。
くっきり。
もう、像はぼやけてはいなかった。
「あ・・・」
まるで本当にそばにいるようなリアリティをもって、ユティスの精神体は、和人のそばに座っていた。
「なんてことだ・・・」
和人が驚いたのはそれだけではなかった。
「き、きみは・・・」
「んふ?」
ユティスは微笑んだ。
「わたくし、どなたか和人さんのお知り合いに似てますか?」
「あ・・・。うん・・・」
ユティスは、和人が学生時代に毎日乗っていた通学電車で会っていた、あのポニーテールの女の子に、眼と髪の色を除くとなんとなく似ていた。
にこっ。
どきん。
和人は1年以上前のことを、昨日のように思い出した。
ゆらーり、ゆらーり。
ゆらゆら・・・。
ユティスの体のまわりには、虹色をした光が揺れていた。
(思っていたとおりだ。なんてきれいなんだ。まるで、天使・・・)
「ユ、ユティス・・・」
和人は驚き自分の隣の空中を凝視した。
「和人さんが先ほどお休みになっている間に、頭脳の活性化が一段と進んだのです。わたくしも、和人さんという頭脳の活性化された、ハイパーラインで結ばれたコンタクティーがいらっしゃるからこそ、ここに精神体として現われることができるのですわ」
「じゃ、もし、オレの頭脳が活性化してなかったら?」
「わたくしは、和人さんとの間にハイパーラインが引けないということですから、こうして精神体でお伺いすることはできません。夢におじゃますることがやっとですわ・・・」
「そうだったんだ・・・」
「和人さん、ご協力感謝いたします。アルデリーム・ジェ・デーリア(ありがとうございます)」
にっこり・・・。
ユティスは優しくそう言うと、こぼれるような笑みを浮かべた。
「ああ、いや・・・」
(なんか、とっても照れくさいなぁ・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
「うふふ・・・」
「ユティス・・・」
「わたくしが、はっきりと、お見えになりましたか?」
かぁーーーっ。
和人はたちまち赤くなった。
「う、うん。きみって・・・、その、なんだ、あのぉ・・・」
「んふ?」
和人は目を伏せて言った。
「あの・・・、これって、これからは夢の中だけじゃなく、オレが起きてる時でも、ちゃんと目の前に現れてくれる、ということなのかな・・・?」
「はい。精神体で・・・」
「精神体かぁ・・・」
「うふふ。精神体とはいえ、和人さんにとっては、実物と変わらないくらい現実感がありますわ。違いますか?お触れになることはできませんけど」
--- ^_^ わっはっは! ---
「う、うん・・・。でも、それって、とっても嬉しいよ・・・」
和人は嬉しさがこみ上げてくるのを抑えることができなかった。
「はい。わたくしもです」
にっこり。
ユティスは最高の笑顔になった。
ゆらゆらーーー。
「その、きみのまわりにある虹色の光は?」
「リーエス(はい)、わたくしの生体エネルギー場です。和人さん、お見えになるんですのね?」
「うん」
「虹色は、精神体でいる時、わたくしの心が安らいでいる証拠ですわ」
「虹色にあふれていて、とてもきれいだよ」
「アルダリーム・ジェ・デーリア(ありがとうございます)」
にこ。
ユティスは本当に嬉しそうな笑みをこぼした。
(ああ、ユティス!きみは、なんて可愛いんだろう!)
こうして、ユティスの像がはっきりすると、和人の思っていた通りユティスは大変愛らしい娘だった。
にこにこ・・・。
ユティスの微笑みに、和人はたちまち魅了され、大いに赤面した。
「なにか?」
和人はユティスをまともに見られなかった。
「ん、いや、なんでもない・・・」
どっくん、どっくん。
(それでなくても、あの娘に似てるっていうのに、すっごく可愛くて・・・。オレ、心臓が爆発しそうだよ・・・)
どきどき・・・。
ユティスはスーパーロングのダークブロンドを頭の後ろで独特のシュシュで束ね、背中まで垂らしたポニーテールだった。前髪は額で自然に分けており、耳が隠れないように、後ろに流していた。その額には、美しく飾られた金色のティアラのようなものをしていた。色白で健康的なうなじは、後れ毛と一緒になり、ただ可愛らしいだけではなく、清楚さの中に、なんともいえない色っぽい雰囲気を醸し出していた。長いまつ毛に囲まれたその目は大きく美しく、瞳はアメジストのような深い紫色だった。目尻が若干下がり、大変柔和で優しい印象だった。
「和人さん・・・」
「な、なにかな・・・」
(たまんない・・・。まともに目を合わせられないよ・・・)
かぁ・・・。
笑顔のユティスにじっと見つめられ、和人は一段と赤面した。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ちょっとぉ!」
店員の女の子は、男性店員をつついた。
「なんだよぉ?」
「あなたも、なんか変よぉ。気になるの、アイツ?」
「ああ。ちょっとな。守護天使・・・」
「天使がどうかした?」
「いや。おまえ、天使って信じる?」
「天使・・・?そうねぇ。いてくれれば便利だとは思うけど・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「実際いるわけないじゃん」
「そうかなぁ・・・」
「なに、あなた、クリスチャンなの?」
「いいや」
「信じてるの?子供じゃあるまいし。ばっかみたい」
「そうだよな・・・」
男性店員はまた和人を見た。
「あ・・・」
和人に寄り添い、この上なく優しい笑顔で、虹色の光を放ちながら、今度は彼女は男性店員を見つめていた。
「て、天使さん?」
-- ^_^ わっはっは! ---
男性店員は思わず言葉を口にした。
「あなた、わたくしがお見えになりますのね?」
ユティスは直接店員の頭に語りかけた。
「あ、・・・はい・・・」
「すべてを愛でる善なる者より、汝、善人に、永久の幸あらんことを・・・。すてきなあなたに、今日もいいことがありますように」
ユティスは彼にそう告げると、エルフィア銀河の印を右手で描いた。そして彼に一礼すると、ゆっくりと和人を振り返って言った。
「和人さん、そろそろ、でかけましょうか?」
「う・・・、うん。お勘定」
「はい。おつりは・・・」
「あのぉ・・・、まだお支払い前ですけど・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
ぼけぇ・・・。
男性店員はユティスに魅了されて、うわの空だった。
「すべてを愛でる善なる者。汝、善人に、永久の幸あらんことをって・・・」
「なに、ぼうっとして、ぶつぶつ言ってんの。お勘定でしょ。いいわ、わたしがする」
ぴ、ぴ・・・。
かちゃ。
「カフェオーレが1杯ですね。350円です」
和人はそれを支払った。
「ありがとうございました」
ユティスはにっこり笑うと、男性店員に言った。
「ごちそうさま、高原慎二さん。すてきなお名前ですこと」
ユティスは彼の頭脳波から名前を読み取って言った。
ぼーーー。
彼は口をあんぐりと開け、ユティスと和人が店を出て行くまで見送った。
--- ^_^わっはっは! ---
「ちょっと!ホント、あなた、今日、いかれてんじゃない?」
「あ、悪い、美紗緒・・・。本当に、そうかもしれない・・・」
高原は口を開けたまま、目が定まっていなかった。
「オレ、やっぱり、天使、信じるよ・・・」
「はいっ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「いや、天使はいるんだ・・・」
「なに言ってるの、突然?」
「見たんだ。今、そこで・・・。そして話した・・・」
「やだぁ、マジで言ってんの?」
「ああ。オレ、今日から心入れ替えることにした・・・」
「どうでもいいから、仕事やってよね!」
「ああ。おまえも、まともになった方がためだぞ」
「わたしが、いつでたらめだったていうのよ!」
「そういう短気で一方的なとこだよ」
「ケンカ売る気!」
「いや、そんな意味じゃ・・・。とにかく、今日はいいことがあるかも」
「変なヤツ!」
ぷいっ。
ずかずか・・・。
女性店員はひどく気分を害して、シンクに戻っていった。
和人はユティスと顔を合わせられないでいた。
「これから、どうされるのですか?」
「うん・・・。新規の客先を飛び込みで回らなきゃいけないんだ・・・」
「お仕事で、いろんな方とお会いになるんですね?」
「うん、会えるとは限らないけど・・・」
「え・・・?」
「どうしたの?」
「会っていただけないのに、訪問されるのですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「よくて2割程度かなぁ・・・」
「不思議ですわ・・・」
「何が?」
「だって、ご自分にわざわざ遠くからご挨拶に来られた方に、会わずに帰してしまうなんて、わたくしには理解できません・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あはは。飛び込み訪問は歓迎されないんだよ」
「どうしてですか?」
「とにかく男だけなんてのはね」
--- ^_^ わっはっは! ---
「では、わたくしは女性ですから、これからご一緒してよろしいですか?」
「ええ?きみがオレと一緒に客回りに行くっていうの?」
「はい。精神体ですが、女性の連れをお望みなら・・・?」
「望む。望む。絶対に望む!きみからお願いされなくても、絶対に望む!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「まぁ、和人さんったら・・・」
「オレ、嬉しいよ。このまま、きみが帰っちゃうのかと思ってた」
「ナナン(いいえ)。できる限り、和人さんのおそばにいさせていただきます。それがわたくしのエージェントとしての使命ですから」
「あはは、使命ね。お仕事だぁ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「でも、なんでもいい。一緒にいてくれるのなら」
にこっ。
和人はにわかに笑顔になった。
「和人さんがお元気になられて、わたくしも嬉しいですわ」
「そうだね。ずいぶんと気分も良くなったことだし。ありがとう、ユティス」
「パジューレ(どういたしまして)、和人さん」
にこっり。
ユティスは和人の目の前で微笑んだ。
かぁーーー。
「じ、じゃあ・・・」
和人は思わずうわずった声になった。
「はい。なんでしょうか?」
「あ、あの・・・」
どくうん、どっくん。
和人はどんどん動悸が激しくなっていった。
「はい?」
ユティスは和人の言葉を待った。
「本当に、お客様回りを一緒に来てくれるの?」
和人は確かめずにはいられなかった。
「和人さんのお伴をいたします。それとも・・・?」
「嫌だなんて、とんでもない。なんか夢みたいだ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「それに、和人さん以外にはわたくしは見えませんし、声も聞こえませんわ。先程の高原さんは特別です」
「あはは。そっかぁ。なんかとっても嬉しいな。オレだけの天使さまって感じで」
「和人さんに喜んでいただき、わたくしも嬉しいです」
「え、そうなの?」
「リーエス(はい)」
にこにこ・・・。
和人は顔が火照って、まともにユティスを見つめられなかった。。
「さぁ、まいりましょう」
ユティスは、にっこりと微笑んだ。
「うん!」