199 競売
■競売■
「あーあ。パーティー、つまんなかったわ。あなたはどうだった?」
アンニフィルドが俊介に同意を求めるようにきいた。
「まぁな、ファッション界のエグゼクティブ連中の集まりじゃ、愛想笑いとお世辞と毒舌。仕方ないよ。オレは仕事と割り切ってたぜ。ギョームさえ、いなかったらな」
「あの顔、二度と見たくないわ・・・」
アンニフィルドは眉間に皺を寄せた。
「ま、あれだけ絞れば、当分おとなしくしてるんじゃないかぁ?」
「あは。リーエス。アンデフロル・デュメーラもよくやってくれたわ」
「そうだな。で、きみは、どうなんだ?」
「もうちょっとロマンチックな状況を期待してたんだけど・・・。どうやら、わたしがバカだったみたい・・・」
アンニフィルドは意味ありげに俊介を見た。
「どういうことだよ、それ?」
(バカ、バカ、バカ・・・。あなたは、わたしの100倍バカ!)
--- ^_^ わっはっは! ---
「だって、あなたわたしのこと、ちゃんと紹介しなかったでしょ?」
アンニフィルドは拗ねて見せた。
「紹介だったら、ちゃんとしたじゃないか、株式会社セレアムの社員のアンニフィルドだって」
「そっちじゃない・・・」
ぷくぅ・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
「他に、なにを言えっていうんだよぉ?」
俊介はさっぱりわからないという風に、両手を広げた。
「その先がなかった・・・」
「言っても良かったのか?」
「そうよ。なんで、わたしのことをちゃんと宣言してくれなかったの?」
やっとわかったのというように、アンニフィルドは俊介を見つめた。
「こちらにおわす絶世の美女はエルフィア人で、地球人じゃありませんってかぁ?」
「もう、絶対にバカ!」
ぱこんっ!
--- ^_^ わっはっは! ---
「痛いなぁ・・・」
「もう、ウスラトンカチのオタンコナス!わたし、帰る!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「え、今かい?」
「そうですとも。わたしのミッションに、あなたの警護は入ってないの!」
アンニフィルドは完璧に臍を曲げていた。
(アンデフロル・デュメーラ、準備できて?)
(リーエス、SS・アンニフィルド。いつでも、どうぞ)
「ちぇ、急にSSの職務を強調したりして、どうなってやがんだぁ?」
「少し休みたいの!」
くるっ。
アンニフィルドは俊介に背中を見せた。
「今から、日本に戻るってのかい?」
「リーエス。あなたは、飛行機の中で昔美女だったかもしれない女性の隣で、十分睡眠をお取りになられたかもしれまんけど、わたしは3時に起こされたのよ。もう少し眠りたいの。だれにも邪魔されずに」
「そっか、悪かったな、きみのこと考えないで呼んだりして・・・」
「え・・・?」
じーーー。
俊介はアンニフィルドを心配そうに見つめた。
「本当に、大丈夫かぁ・・・」
きゅんっ。
俊介の本当に心配そうな感情に触れ、アンニフィルドは少し機嫌を取り直した。
「うん、大丈夫・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「戻る前に、一休みしていけよ」
「ここで?」
「ホテルさ」
「・・・」
「なにもしやしないさ」
「ナナン。よすわ・・・。必要になったら、また呼べばいいじゃない?」
「じゃ、今・・・」
--- ^_^ わっはっは !---
「・・・」
「なぁ、帰っちまうのかぁ・・・?」
「リーエス・・・」
「そりゃ、そうだけどさぁ。どうして?」
「わたしはSSよ。どうしても!」
(アンデフロル・デュメーラ、やって)
(リーエス、SS・アンニフィルド)
「そうカリカリするなよ。ひょっとして、アンニフィルド、きみ、ブルー・・・」
「バカ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
ばしっ。
「決定的ね、今の!」
ぽわーーーん
しゅんっ。
白い光に包まれて、アンニフィルドはあっという間に戻っていった。
「痛ぇ・・・。キスマークの方がよかったぜ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
俊介の頬には、キスマークの代わりに手形が赤く残っていた。
「あれ、国分寺さん、お連れは?」
粟野と黒磯が、化粧室に向かう廊下で、一人になった俊介を見つけた。
「今、戻りました」
--- ^_^ わっはっは! ---
「まったまたぁ、人をからかって」
「それが・・・、ホントなんです」
「まさか、日本にへですか?」
「はい」
「確か、夜行便はないはずですが・・・」
「特別便でして・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そんなのがありましたか?」
「アンディー航空の極超音速チャーター便ですよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「はぁ・・・」
「では、わたしも、明日に備えて、この辺で失礼したいと・・・」
ぺこっ。
俊介は黒磯たちに一礼した。
「もう、お帰りになるんですか?」
「はい。時差ボケもあるんで、ちょっと早めに失礼します」
「そうですか。今日のお礼を差し上げたかったんで、これからナイトクラブにでもご案内しようかと思ってましたのに・・・」
「連れもいませんし、やはりホテルまで帰りますよ」
俊介は肩をすぼめて未練さを見せていた。
「明日の晩までは、パリにいらっしゃるんでしょう?」
「一応そうです」
「わかりました。お礼は明日に。じゃ、お宿まで送らせます」
「そりゃ、ありがたい」
「もう少しの間待ってください。本社側のドライバーを確保しますんで」
「どうも」
「あれっ?その頬どうしました?」
その時、黒磯は俊介の頬の赤あざを見つけた。
「ちょっと、ほっぺを噛んじゃいまして・・・。あはは・・・」
俊介は手で頬を押さえた。
「イタタタ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
(アンニフィルドを転送します)
アンデフロル・デュメーラの声で、残された3人はリビングの中央を見つめた。
ぽわーーーん。
エルフィア大使館のリビングで、空中に白い光が集まってきた。
「帰ってくるわよ」
「リーエス」
ぱっ。
白い光は、一瞬で消え、そこにはアンニフィルドがいた。
「アンニフィルド、お帰りなさい」
「ただいまぁ・・・」
「どうしたんですか、ずいぶんとお疲れのようすですけど?」
ユティスが心配した。
「あーあ、まぁったく、つまんない!」
「ええ?俊介とデートだって、うきうき気分で行ったんじゃないの?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「冗談ぽいよ。地球人のパーティーってのは、女性はお飾りなんだもん」
「どういうこと?」
「俊介のそばで、にこにこ、にこにこ・・・」
にこにこにこにこ・・・
「ひたすら、これよ。後は、つまんないジョークとお世辞。そして、心にもない相槌」
アンニフィルドは作り笑いを引きつらせた。
「ひひひ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「人を紹介される度に、それはステキですわって、笑って話を合わせなきゃならないのよぉ。地球人女性の真似をして」
--- ^_^ わっはっは! ---
「まぁ、大変・・・」
「でしょ?」
「他に、なにかしゃべらせてもらえなかったの?」
「言ったわよ。もう帰りたいんですけどって・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あなたらしわ、アンニフィルド」
「まったく、デート気分どころじゃなかった」
「ご愁傷様」
「そこに、何人いたんだい?」
和人がきいた。
「地球中の見栄っ張り全部だわね」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ふわぁ・・・。さっさとお風呂に入って寝たいわ」
「どうぞ、どうぞ」
俊介は日本大使館員と車で、パリ市内の日本政府指定ホテルにやってきた。
「うーーーん。ここが政府御用達ホテルか・・・」
パリ中心街の歴史の重みを感じさせるような建物に俊介は唸った。
「ま、国民の税金ですから、有効に使っております。はい」
日本大使館の職員に案内されて、秀介は専用ホテルに案内された。
(単に使い過ぎじゃないかぁ・・・?)
--- ^_^ わっはっは! ---
「ご夕食は?」
「済ませた」
「では、明日、11時にお迎えにまいります」
「ああ。よろしく」
「では、ごゆっくり」
大使館員はドアを閉めて去っていった。
「ふぅ、さて、一風呂浴びて横になるか」
俊介はスーツを脱ぐと、シャワールームに消えた。
次の日はいいよクリスタルボールのオークションだった。俊介は大使館員につてられて、会場にはいった。
とんとん。
「次なるは、20世紀末、天才レーザー彫刻家、クルト・マイヤーの手なる大天使ガブリエルのクリスタル像。現所有者はある資産家です。5万ユーロからの開始です」
きらきら・・・。
クリスタルの大天使像にスポットライトが当たり、七色に輝いた。
とんっ。
「5万1千」
「5万2千」
「5万5千」
「5万6千」
「5万7千」
「5万8千」
「さぁ、大天使ガブリエルの地上に降り立つ瞬間の立像です。後期クルトの隠れたる秀作です。5万8千、5万8千、ありませんか?」
像は30センチくらいしかない小さなものだったが、きわめて精巧に作られていた。
「5万9千」
「はい、5万9千です」
「6万」
「6万5千」
「6万5千、6万5千。6万5千ですよぉ」
「150万」
いかにも怪しそうなサングラスの男が、手をあげた。
「おおっ!」
会場がどよめいた。
「150万、150万。他にいませんか?」
「ふぅ・・・」
「まいった・・・」
「150万。他には?」
ざわざわ・・・。
「150万。どなたか、いませんか?」
ざわざわ・・・。
ホストは会場を見渡すと木槌を降ろした。
とんっ。
「150万、決定です」
「ふぅ・・・」
会場は溜息に包まれ、大天使ガブリエルの像は、150万ユーロで落札された。
オークション会場のやや右に位置したところで、美術館関係の数人が話していた。
「諦めるしかないな」
「マイヤーの作品は、対となる大天使ミカエルがないとねぇ・・・」
年配の男はオークションのリストパンフを見ながら、両手を広げた。
「わたしもそう思っていた」
「片方だけじゃ、落札する意味がない」
「ええ、そうですとも。でも2体で対なら、価格はこんなもんじゃない」
「あと、数倍は変っただろうね」
「惜しいわ、予算は300万まで、確保してたのに・・・」
「にしても、もう一方のミカエルは、なぜ出てこなかったのかしら?」
「それ、それ・・・」
「噂だと、Z国の政府高官が裏で手に入れたとか・・・」
「本当か、それは?」
「ああ。あるインフラ設備の大プロジェクトを破格で受けたんだとか・・・」
「見返りか?」
「そうだ」
「芸術は人類の宝だ。国の公共美術館にこそ相応しい」
「しかしなぁ・・・」
「Z国の高官連中は、世界中で美術品を漁っているんだ」
「嘆かわしいわねぇ・・・」
「まったくですよ。芸術をステータス・シンボルとしか思ってない」
「そういや、落札したサングラスの男・・・」
「Z国かもしれんな・・・」
「やれやれだよ」
「オークション主催者は、ただ儲かればいいのよ。だれが買おうとね・・・」
「Z国では、まず戻ってこないな?」
「そうだろうな」
「こういう人類の宝は、公共の美術館以外は待たせないようにできないのかね?」
「同感だ。個人や企業が持つと、一般人は、目にすることができなくなる」
「世界的協定でもできればいいのに・・・」
「さぁ、次だぞ」
とんとん。
「では、次なるは、同じく20世紀末に日本で発見された、クリスタルボールです。作者不明、現所有者は匿名希望であります。台座は一見ジュラルミンに見えますが、特殊な合金で、アルミのように軽いのに、ナイフの刃さえ跡を付けられない丈夫さを兼ね備えています。また、そこには奇妙な文字が刻まれ取りまして、考古学者や言語学者が解読を試みましたが、成功に至っておりません」
にこっ。
「UFOの落としたものか?」
「そうかもしれないし、そうでないかもしれません」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わっはっは!」
「あははは」
だれかが冗談っぽく言って、主催者側のホストが答えると、会場は笑いに包まれた。
「芸術的にはただのクリスタルボールですが、ミステリアスな台座がついて、開始は1万ユーロからといたします」
「おおっ」
それは、ただのクリスタルボールに、1万ユーロは高すぎるという不満の声だった。
「国分寺さん、それです」
「わかった。必ず競り落とす」
にも係わらず、サングラスの男はいきなり値を吊り上げた。
「10万」
「おおおーーーっ」
今度のは驚愕の声だった。
「さぁ、10万。10万です。他にいませんか?」
ざわざわ。
会場はどよめいだ。
「あの男、一気に決めるつもりです」
大使館員はシュンスケに囁いた。
「野郎・・・」
「15万」
俊介は直ぐに応酬した。
「はい。15万。15万です」
主催者のホストはサングラスの男を向いた。
にたり。
「20万」
「おおーーーっ」
会場は既にこの二人の一騎打ちになったのを、固唾を呑んで見守った。
「20万。20万。他、ありませんか?」
ホストは今度は俊介を向いた。
「25万」
にたっ。
「25万です。他、いませんか?」」
サングラスの男は、一瞬笑うと、隣の連れになにやら確認した。
「25万」
「あぁ、25万が出ました。他、いませんか?」
「30万」
「さぁ、30万。30万です」
ホストの声は次第に高調していった。
「いくらまでならいい?」
「今の値の100倍までは、予算化できてます」
大使館員は言った。
「わかった。攻めるぞ」
「はい」
「40万」
俊介はすぐに対応した。
「40万です。40万」
「50万」
サングラスの男もすぐに言った。
「50万。50万です」
「まったく、たかが水晶玉に、あの二人はなにをやってるんだ?」
「本当。占いの小道具以上の価値はないね」
「綺麗だけど、いって2万くらだよ」
「そうそう。美術品としてもなぁ・・・」
「そのくらいが妥当だ」
「なにか特別なものなのか?」
「そういや、台座の材質や文字が特別だって言ってたわよ」
「知らんね。あの台座だって、高級感なんて、まるで無いし・・・」
「未解読の文字ったってなぁ、インチキくさいぞ」
「言えてる」
「わたしは、今日、一番の駄作だと思うな」
「少なくとも、美術館には不必要だ」
「つまらん・・・」
「次のアイテムは、なにになっている?」
「ふむ・・・」
「19世紀末の磁器か・・・」
「ありふれてるな」
「パスしよう」
オークションでは俊介とサングラスの男のせりが続いた。
「80万。80万です。だれか、いますか?」
会場は半ば呆れて、このやり取りに興味を失っていた。
「100万」
サングラスの男が、再び、一気に値を吊り上げた。
「110万」
顔色一つ変えないで、俊介は値を告げた。
「はい。110万。いませんか?」
「そろそろ、決めるか?」
「ええ。コールしてください」
「わかった。お遊びは終わりにしよう」
「110万。終わりですか?」
ホストは俊介を見た。
「500万」
「おおおーーー!」
会場は大きくどよめいた。
ぴくっ。
初めてサングラスの男が動揺し、その顔が一瞬引きつった。
「600万・・・」
サングラスの男の口元から笑いが消えた。
「あちらさん、そろそろ限界ですかね?」
大使館員が俊介に耳打ちした。
「いや、1000万までなら、出すな・・・」
俊介は即座に答えた。
「どうせ、政府の金だ。吊り上げるんならやってみろよ」
俊介の無表情な顔に、サングラスの男は唇を曲げた。
「800万」
「おおーーーっ」
ざわざわ・・・。
「800万、800万です。他、ありませんか?」
ホストの声はひっくり返っていた。
「勝負だ。1000万」
俊介は、顔色一つ変えずに、値を伝えた。