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196 巴里

■巴里■




シャデル本社では、黒磯たちのプレゼンが始まっていた。


「Web上で、アクセス者が自分の写真を基に、着せ替え人形のように商品を着せて、着用イメージを掴むソフトやサイトは沢山あります。しかし、今回、日本支社の企画は、それをさらに進めるものです」


「ほう。ムッシュウ・クロイソ、詳細を説明し給え」

「では。われわれの協力スタッフ、ムッシュ・コクブンジをご紹介します。日本支社で本企画をサポートいただいてる株式会社セレアムの常務取締役です」


「ジュ・マペル・シュンスケ(俊介と言います)。シュンスケ・コクブンジ(国分寺俊介です)。メダム・エ・メッシウ、メルシー・ボク(みなさん、どうもありがとう)。アペレ・モア・シュンスケ、シルヴプレ(どうか俊介とお呼びください)


「おお、フランス語ができるんですね?」

「メルシー」


ぱちぱち・・・。

シャデルの役員たちは俊介に拍手して、歓迎の意を表した。


「ムッシュウ・国分寺は、企画の主要スライドと質疑、詳細説明を担当していただきます」


「どうぞ、よろしく」

「アンシャンテ(大歓迎です)!」


「では、企画について・・・、かくかくしかじか・・・」

黒磯の企画の概要説明が10分ほど続いた。




「で、具体的には、システムはどうなってるのかな?」

これには国分寺が答え、粟野が通訳した。


「コレクションで発表したシャデルの最新モードをすべて3次元デジタルデータ化します。それをアクセスして来た訪問者が、自分の体型データに合わせて加工し、実際に着用したイメージを完成できるようにするんです。3次元ですから、どの角度、どの距離、どのシーン、それこそショーのランウェイ上ででも、好きなシテュアシオンでも表現できます」


シャデルの重役たちは熱心に聴いていた。


「そして、ここからが真骨頂です。今までの似たようなサービスは、そこ止まりですが、当社のサービスはそれを個人データとしてセーブでき、TPOを変えて確認できるのです。因みに、第一フェーズでは、ドレスをサイトに写真で並べるだけですが、今後の第二フェーズでは、試着ドレスは当社東京本店のバーチャル店舗に飾ります。モデルが着ているものを、直接クリックすれば指定できるようにします」


「例えば?」


「結婚式のパーティー会場に自分のドレスアップした様子を、まるで本当にそこにいるが如く再現します」


「と言うことは、最新モードを思いの場所でヴァーチャル体験できるということなんですか?」


「ウィ。しかも、家にいながら、シャデル東京本店に来店できるのです」


「着用後は、写真にすることも?」

「ウィ、ビヤン・シュル(もちろんです)。世界のトップセレブと同じところで、試せ、それを写真として保存できるのです」


「或いは、一緒に・・・?」

「ウィ、ウィ。彼女らの了解は必要ですがね」


--- ^_^ わっはっは! ---


「もし、アクセス者のサイズが甚だしく異なる場合には?」

「そこは、コンサルです」


「なるほど。サイトへの訪問者の冷やかし対策を聞かせてくれ給え」


「ウィ。このサービスは、訪問者を選別するためにも利用できます。利用には、会員登録と簡単なアンケートが前提で、もちろん、ここまでは無料です。ただの着せ替え、コスプレ気分の訪問者には、数種のファッションをゲーム感覚で遊べるだけです。しかし、本当に着用したいと思っている見込み客、見込み予備客には、無料コンサル来店希望日を入力してもらいます。専属コーディネータをアサインリストから選べるようになってるのです」


「なるほど・・・」


「シャデルの一番の強みは、世界ブランドのネームと、日本の中心、金座にある実店舗です。金座に来る、シャデル日本に来店するだけで、もう、ステータスです。選ばれているようなものです。そういう感覚の人を増やす、いえ、そういう人に、シャデルにフォーカスしてもらうのです」


「ものすごく殺到しそうだな・・・」

「それこそ、冷やかしになるだけじゃないのかね?」


「ノン。そうはならないでしょう。客はブランドを選び、ブランドもまた客を選びます。コンサルのキャンセルと変更は、ユーザーからは2度までOKです。もし、変更が3回以上になると、コンサル・アカウントは抹消されます。もし、どうしてもという場合は、シャデル店員の承認を必要とします。また、サイトへのアクセスデータは、過去の購買履歴データとマッチングしますので、新規訪問者や冷やかし訪問者は、次なる篩にかけられます」


「それは、なんですか?」

「試着コレクションを増やしてもらいます」


「試着コレクションを増やす?」


「ウィ。自分がモデルになったアルバムをWeb上に保存できるようにするんです。それにより、訪問者は着せ替えのコレクションを増やしたいという欲求を、どんどん掻き立てられます。春夏と秋冬のコレクションに合わせ、各々5種を、つまり、1年2回で計10種のドレスを着用可能です」


「それで?」


「それで、サービスに興味を持った訪問者には、そっちで遊んでもらいます。まずは、来店する気になるように、シャデルのファンになってもらうのです」


「ふむ・・・」


「そして、当社コーディネータを交え、着用コレクションの素晴らしい方のコンペをし、バーチャル・ファッションショーをWeb上で開催します」


「バーチャル・ファッションショーか?」

「ウィ。様々な賞も用意します。友人招待券も出します。会場は、本当の会場をデジタル化したバーチャル会場です」


「セカンドライフ系のようだね?」

「まさしく、アイデアはそこです」


「それが、見込み客化にどう作用するのかね?」

「一度、当社のファンになれば、なにかしらの購買意欲が上がります」


「ふむ、ふむ・・・」

「それに漏れた人はどうなるの?」


「コンペはエレガントさや美しさだけを競うのではありません。例えば、体型による着こなしのアイデアそのものを競うんです。すべての参加者を見込み客にすることは不可能です。それより、本企画で現状見込み客を倍以上にするという、具体的な目標値を持つことです。ドレス毎にポイントをカウントすれば、客の人気商品や傾向や相関、いろんなデータが労せず取れるようになります」


一同はさかんに頷いた。


「一番大切なことは、シャデルが世界に冠たる高級ブランドであるということを曲げないことです。それこそが売りなのです。常に憧れの的であり続けなければ、意味がありません。手に届かないというのも大きな魅力なのです。お金さえ出せば、だれでもかれでも手に入る。そうなったら、最早、高級ブランドとしては終わりです。ですから、届きたくても、とりあえず届かないという人に、バーチャル体験をWeb上でしてもらう訳です」


「なるほどねぇ・・・」


「必ず、いつかはシャデル。そういう気になってもらうんです。本企画は、そのためのものです」


「うむ。いつかはシャデルか・・・」

「・・・」

「・・・」


ぱちぱちぱち・・・。


「パルフェ。プロジェクトの許可をしよう。やってみ給え」


ぱちぱちぱち。

会長兼パリ本店の総支配人、ジャン・ジャックが、拍手し始め、すぐに役員全員が続いた。


「メルシー・ボク」

黒磯と俊介は深々と礼をした。


「個人情報は大丈夫なのかね?」

「ウィ。訪問者は、基本的に本名ではなくハンドルネームです。本人特定は、メールアドレスしかありません」


「本人認証に、SNSは利用してるのかね?」

「ウィ、強制ではなく、訪問者が選べるようにします」


「これを、その価格で実現できるの?」

「これは、あくまで第一フェーズに過ぎません。まずは写真のみでいきます。3Dヴァーチャル店舗は第二フレーズです」


「それにしても、よく、ここまで・・・」

「メルシー。そこで、この企画には、ビデオクリップによるイメージ戦略を行ないます」


「ビデオを作成するのですか?」

「ウィ。それを、テレビとWebで流します」


「Webの工程進捗が、計画を大きく左右するな・・・」

「いかにもです。これが、その仮工程です」


「半年だね?」

「ウィ。イメージ戦略は、具体的内容は伏せて、何種か用意し、ゲリラ的に行ないます」


「どんなことが起きるのか、知りたくなるようにかね?」

「その通りです。徐々に、興味をかきたてます」


「うむ。人間の収集本能を刺激すると?」

「ウィ。しかし、提供するものは、必ず1割程度に抑えます」


「1割?プルコワ(どうして)?」

「すべてがわかると、飽きられます」


「ジュ・ボワ(あ、そう)。わかりました」




シャデルの展望レストランは一般客のいない貸切状態で、立食形式にコーディネートされていた。


「随分お出でですね?」

「ええ。わたしたちも入りましょう」

会場には既に数十人がいて、互いに頬を寄せ合って、挨拶し合っていた。


「国分寺さん、完璧でしたよ」

黒磯と粟野は、にこにこ顔だった。


「いや、黒磯さんこそ、さすがです。自信たっぷりでしたからねぇ」

「お恥ずかしい」


そこに、パーティー・スタッフが寄って来た。

「マドモアゼル・アワノ、ムッシウ・クロイソ、お席へご案内します」

「メルシー」

黒磯は粟野と一緒に歩き出した。


「ムッシウ・コクブンジも・・・」


(俊介、着いたわよ)

突然。俊介の脳裏にアンニフィルドの声が響いた。


「あ、パルドン・・・」


シャデルのスタッフの誘いを軽くいなすと、俊介は展望レストランを出ようとした。


「国分寺さん、ちょっと待って・・・」

「ムッシウ・コクブンジ、どこへ?」

「連れを呼んできます」


「ウィ・・・」


くるり。

すたすた・・・。

そして、俊介の行く先に一人の極上の美女を見つけて、一堂は声を失った。


「おお・・・」

「あ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


俊介は、アンニフィルドを迎えると、アンニフィルドは穂の左腕に右手を絡ませ、一緒に歩き出した。


「行くぜ、アンニフィルド」

「リーエス。どう、これで・・・?変じゃない?」


「ノン、ノン。エクセラント!」


にこっ。

アンニフィルドは、嬉しそうに微笑むと、そっと俊介の左腕に自分の右腕をさらに深く絡ませた。


「支配人、彼女、金座のロイ・レデレールにいた・・・」

「確かに、あの時の女性に間違いない・・・」


「恋人でしょうか?」

「恐らくね」

アンニフィルドは、だれの目にも俊介の恋人のように映った。


「どうなってるんですか?」

「さっき、日本から来てもらったんですよ」


「はぁ?」

黒磯は目を白黒させた。


--- ^_^ わっはっは! ---




「ボン・ソワール、マドモアゼル(お嬢様、こんばんわ)」

「ボン・ソワール、ムッシウ(こんばんわ、ムッシウ)。ジュ・マペル・アンニフィルド(アンニフィルドと申します)」


「アンシャンテ(ようこそ)、シャデルへようこそ」

「メルシー・ムッシウ(感謝いたしますわ、ムッシウ)。モン・プレジール(喜んで)」


にこっ。

俊介のエスコートでパーティー会場に入ったアンニフィルドは、一気に注目の的となった。


「ボン・ソワール、マダム(こんばんわ)」

アンニフィルドは、会釈をした。


「ボン・ソワール、マドモアゼル・アンニフィルド(こんばんわ、アンニフィルド)。フランス語がとてもお上手で・・・」

「それにお美しい」


「メルシー。おほほほ・・・」


「ボナペティ(召し上がりなさいな)。さぁ、お召しりにあがって、マドモワゼル」

「ウィ、メルシー」


にこっ。

「すごいな。いつ、フランス語を習得したんだい?」

俊介は感心した。


「急遽、覚えたのよ。5つだけ。あれで全部だわ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「てのは、ウソ。頭脳波をキャッチしてるから、意味はわかるわよ。でも、話すのはだめ。次の質問がきたら、あなたが答えて」


「オレだって、大して知らないよ」

「あなた、他に知ってるの?」


「そうだな。後、知ってるっていや、ジュ・テームかな・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「なに、それ?」

「そりゃ、恋人にささやく言葉で・・・」


ちらっ。

にっこり。


「へ・・・?」


--- ^_^ わっはっは! ---


にこっ。

「もう一回、言って・・・」


(やばぁ・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


「あ、いや・・・。お、アンディーだ!彼女に通訳を頼めばいいんだ!」


(アンディー!)


「また、誤魔化した」

ぷくぅ。


(リーエス。シュンスケ、ご安心ください。わたしが同時瞬間通訳します。わたしの指示に任せ、お口を動かせてくださいますか?フランス語の発声も支援いたします。SS・アンニフィルドもよろしいですか?)


(助るぜ、アンディー。ついでに、勉強のために、オレたちの会話とか、パーティーの様子を録画できるかい?)


(リーエス。もちろん、できますよ)

(メルシー)

(どういたしまして。ド・リアン(おかまいなく))


アンデフロル・デュメーラは、フランス語を瞬間的に通訳し、二人の言葉をフランス語に約して、それぞれの口から、発音させた。


「国分寺さん、アンニフィルドさん、ご紹介します。こちらが、ジャン・ジャックとカトリーヌです」


にこにこ。

「ンーム。ボン・ソワレ、マドモアゼル(こんばんわ、お嬢さん)。ヴゼット・トレ・ベル(また、お美しい)」


黒磯は、二人にシャデルのグローバル本社の総支配人、ジャン・ジャックと妻のカトリーヌを紹介した。


にこにこ。

「ボン・ソワール(こんばんわ)」

「ボン・ソワール、マダム・エ・ムッシウ(ご夫妻とも、こんばんわ)」


アンニフィルドは、少し腰を屈めて、ジャン・ジャックとカトリーヌと抱擁した。


「今日は、日本からお越しいただき大変感激しております」

「メルシー。こちらこそ、お招きいただき光栄ですわ」


「あ・・・、お名前は・・・?」

「アンニフィルドと申します」


「まぁ、ステキなお名前。それに、なんて美しい方。日本でモデルをなっさてるの?」

「ノン。会社員ですわ」


にたっ。

「そんなとこ止めて、ウチに来ないか?」


--- ^_^ わっはっは! ---


ジャン・ジャックが、アンニフィルドに微笑みかけた。


ぷちっ。

「痛い」

カトリーヌは間髪要れずに夫の手を抓った。


「あなた、お二人に失礼じゃないですか!」

「ご婦人を褒めてるのに、どこが悪い?」

カトリーヌはジャン・ジャックを無視した。


「マダム、シャンパンはいかがですか?」

「あ、それ、いただくわ」

カトリーヌは、シャンパンを持ってきたボーイからグラスを二つ受け取り、それをアンニフィルドと俊介に渡した。


「お二人とも、シャンパンでもどう?」

「メルシー、どうも」

「ありがとうございます」


「国分寺さん、素晴らしいプレゼンだったねぇ」

「いや、どうも。貴社のビジネスにお役に立てれば、こんな嬉しいことはありません」


「うむ。期待してるよ」


パリのシャデル・グローバル本社のパーティーは続いた。

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