193 急用
■急用■
るるるーーー。
「はぁい。二宮です・・・」
「おう、オレだ」
「おす、常務?」
「悪いな、朝っぱらから」
「おす。まだ、7時っすよぉ?なんかヤバイことでも?」
俊介が明け方二宮に電話する時は、決まってなにかあった。
「ああ。訳ありでな。オレ、1週間海外出張てことにしといてくれ」
「ええ?マジっすかぁ?」
「なぁ、頼むぜぇ・・・」
「おす。けど、また、なんか面倒ごとしょい込んだっすね?」
「そんなこといいから」
「おす。で、どこです、そこ?」
「えーーーと、シャデル、いや、パリ・・・。そうだ、オレはパリに行こうとしてる」
「行こうということに、してくれでしょう?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ああ、正しくは、そうだ」
「おす。オレは構いませんが、辻褄合うように、真紀さんには土産くらい買っといた方が良くないっすか?」
「おお、そうだな、二宮、よく気がついた」
「当たり前です、んなこと」
「おう」
「で、パリ土産に、生八ツ橋とか、紅葉まんじゅうとかは、勘弁してくださいよぉ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わかった。バレないように産地には気をつける。じゃあな。後は頼んだぞ」
「うっす・・・」
ぴっ。
「常務の影に女あり・・・。羨ましい・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
とんとんとん・・・。
アンニフィルドは1階に降りていった。
「とはいうものの、いきなりアレだったら、どうしよう。あの二人、時間の問題なんだから・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
とんとん。
「和人、起きてる?」
とんとん。
「ユティス、いるの?」
「・・・」
しーん。
「なんだ、まだ寝てるんじゃないの」
アンニフィルドはそうっとドアを開けようとした。
「あ、ロックしてる・・・。むふふ・・・。ということは・・・。期待できるかもよぉ・・・。あは」
--- ^_^ わっはっは! ---
「それに、和人の部屋のパスワードは知ってるもんね」
アンニフィルドはにっこり微笑んだ。
「ルンルンルン。『ユティス大好き愛してる』」
かちゃ。
「やったぁ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
そぉ・・・。
「しっかし、まったく、なんてパスワードなの。あー、恥ずかしい。『俊介好きよ、愛してるわ』って毎回毎回言ってるようなものね。冗談じゃないわ。絶対、人前で言えるわけないじゃない。そんなの・・・」
アンニフィルドが、そうっとドアを開けると、ベッドが見えた。
「んん?ベッドには・・・、だれもいない。そんなばかな・・・」
そろーり、そろーり。
「おっかしわねぇ・・・」
そう・・・っ。
アンニフィルドは静かに部屋の中へ歩を進めた。
「あっ、いたぁ・・・!」
なんと、カーペットの上に、ユティスと和人が、一緒になって毛布をかぶっていた。
「なんだって、二人して、こんなとこに寝てんのかしら?」
--- ^_^ わっはっは! ---
ひょい。
アンニフィルドは、少しだけ毛布をめくった。
「あは。残念。着てたか・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
アンニフィルドは二人に顔を近づけた。
「ユティスの寝顔のなんと幸せそうなこと。あらあら、和人に腕枕してもらっちゃって。やっぱり、ユティスは最高に可愛いわねぇ。和人、この幸せモンが、これ・・・」
きゅ。
アンニフィルドは屈み込んで、そうっと和人の鼻をつまんだ。
「うーん。ユティス・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「寝ぼけちゃって、和人、おっかしいの。あは。しっかし、しっかり抱き合って眠っちゃって。でも、最後までいっちゃった感じではないわね。あともう少し、そっとしておいてあげましょうか」
アンニフィルドはそうっと部屋を出ようとした。
「ユティス・・・」
「あっ、和人」
ぎゅ・・・。
和人の右手がアンニフィルドの足を掴んだ。
「ば、ばか!和人ったら、なにしてんのよ!」
アンニフィルドはバランスを崩し、床にはでな音を立てて転んだ。
どたーーーん。
--- ^_^ わっはっは! ---
「痛っあーーーい!」
たちまち、ユティスと和人が目を覚ました。
「な、なんだ?」
「うーーーん」
「アンニ・・・フィル・・・ド?」
「はぁい・・・。えへへ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「アンニフィルド?」
「おっはよう!」
「なにしてるの?」
「朝なんで、そろそろ起こそうかなあって・・・」
ユティスと和人は半身を起こした。
むくっ。
ユティスは和人の腕をぎゅっと掴んでいた。
ぎゅ。
むにゅ。
ユティスの胸は和人の背中にしっかりと押しつけられ、二人のその様子は、どう見ても一夜を共にした恋人だった。
「あ、あなたたち、やっぱり最後までいっちゃたの・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「最後までですか?」
「えっ?」
今度は和人がネグリジェ姿のユティスに気づいた。
「わぁ、ユティス!いつのまにオレの横に?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あは。誤魔化しちゃってぇ、このぉ」
アンニフィルドは面白がった。
「ち、違うったっら!」
「和人さん、ご迷惑でしたか?」
「い、いや、そういうわけじゃなくて・・・」
「説得力ないわよ。あなたたちの格好・・・」
かぁーーーっ。
和人はユティスの身体を直に感じて、大いに慌てた。
「それより、ユティス、な、なんで、オレの毛布の中にいるの?」
「和人さんのお側は、暖かくていいんですもの・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「でも、ベッドの方が寝心地いいのに・・・」
「では、今から一緒にベッドに移りましょ?」
にっこり。
--- ^_^ わっはっは! ---
ユティスは、にこにこして言った。
「そういう問題じゃなくてだね・・・」
「和人さんと、ご一緒じゃなきゃ、嫌です・・・」
「ユティスってばぁ・・・」
(どさくさに紛れて、今のうちに逃げちゃおう)
--- ^_^ わっはっは! ---
「アンニフィルド!」
クリステアがすっかり着替えて、ドアの向こうに立っていた。
「はぁい・・・。起こしちゃったのね?」
「まあ、そんなとこよ」
「朝から大きな音を立てないでよね」
「でも、起きてるじゃないの?」
「屁理屈、言わない!」
「リーーーエーーース」
「で。8時半よ、和人」
クリステアは和人に向き直った。
「もう?」
「それとも、もう一度眠るつもり、ユティスと?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「違う!会社、始まっちまう」
「そういうことなら、二人とも、さっさと着替えなさい」
「リーエス」
ユティスと和人は仲良く同時に答えた。
朝起きて、真紀は俊介の置手紙を見た。
「あーーー、俊介のやつ!なによ、それ!」
「オレ、1週間、急用で海外出張。後はよろしく!」
真紀はリビングのテーブルに置かれたメモ紙に舌打ちした。
「まったく、この超大切な時に、仕事ほったらかして、仲間と遊びに行ったわねぇ。どうせ、急用じゃなくて、休養が本音でしょう」
--- ^_^ わっはっは! ---
「にしても、海外・・・?ホントかしら・・・?だれといったのかしら・・・?」
真紀は心当たりを探った。
「和人、のわけないわ。ユティスたちがいるんですもの。とすれば、二宮ね。とっちめてあげるから。覚悟してなさいよ、俊介!」
「二宮ですが・・・。あ、社長・・・。常務ですか・・・?知りませんがぁ・・・」
「ええっ、海外。んなこと初耳です。ホントですって。知りません。ええ。わかりました」
「常務、どこになにをしに行ったんだ?」
「和人。念のために聞くけど。俊介、知らない?」
(げっ、きたぞ)
「海外出張とかいってましたが」
「知ってるわよ。ホントはどこなの?」
「聞いてませんよ」
「ウソをおっしゃい!」
「本当です。1週間くらいとか言ってましたけど。でも・・・」
「なに?」
「本当に行ったかどうかまでは、保証しかねます・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わかったわよ。あなたがそこまで言うのなら、ホントに知らないってことね」
「ホッ・・・」
「首筋と鎖骨は、何とか隠せるとして、頬はなんともならんな、これじゃ。絆創膏でも貼るか・・・。おっ、その手があったぞ。意外と名案かも。カミソリ負けしたってことなら、なんとか理由になりそうだ」
俊介はホテルの売店で肌色の絆創膏を買い、鏡を見ながら慎重に貼った。
「にしても、しっかり唇ってわかるもんな、これ・・・」
俊介は絆創膏の位置を慎重に合わせた。
ぴた・・・。
「これでよしと。まったく、キスマークなんかつけて外を歩けるかってんだ。でも、どう せなら、ホントに最後までもらってやるんだった。かってにキッスしまくったあげく、あっという間に寝ちまうんだから。なんの冗談かと思ったぜ・・・」
「じいさん。オレ」
「やあ、俊介。おまえの海外旅行の行き先がこことは知らなかったぞ」
--- ^_^ わっはっは! ---
俊介は大田原の家に上がっていた。
「姉貴め、じいさんに話したな?」
「まぁ、怒るな。真紀も心配してるんだ」
「会社だろうが、それ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ん?」
大田原はいつもと違う俊介をいぶかった。
じろじろ・・・。
「なんだよぉ・・・?気持ち悪い・・・」
そして、頬の絆創膏を見つけた。
「俊介、なんだ、それは?」
「ほぇ・・・」
俊介は一瞬うろたえた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ま、ちょっとした・・・」
大田原は気づいて、にやりと笑った。
「どうせ、プラチナブロンドの子猫ちゃんにでも、引っ掻かれたんだろう?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「バ、バカ言うなよ。じいさん!」
にこっ。
「では、ウサギちゃんにかじられたとか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「どっちでもないったら」
にたっ。
大田原は俊介に微笑んだ。
「ほーーーぉ。キスマークかぁ。もっとロマンチックだったってわけだ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「うるさいな。人のことはどうだっていいだろ?」
大田原に考えをすっかり見透かされて、俊介は誤魔化すのをやめた。
「若者はいいよなぁ・・・」
「で、本当は、なんか言いたいことあるんだろ?」
「実はな・・・」
「ああ・・・」
「至急、パリに飛んでくれんか?」
「パリ・・・?」
「うむ。これを見ろ」
ぴら・・・。
大田原はあるオークションのパンフを広げた。
「なんだ、それ?」
「ここだ」
大田原の示した写真は、水晶玉のようにも見えるものと、その装飾台のようなものだった。
「なんだ、占い用のクリスタル・ボールじゃないか?」
「違う・・・」
「じゃ、なんなんだ?」
「わたしの船の備品だ」
「へ・・・。じいさんの船?」
「ああ。わたしが、地球にやって来た時の宇宙機の星間地図データだ」
「なんで、それだとわかるんだ?」
「その台は地球の金属でなはい。加えて、セレアム語で銀河地図と書かれてある。わたしは船のエンジニアだったから、船の司令室の真ん中にあったことをよく覚えている」
「でも、事故で、破壊されたと・・・」
「そうではなかったようだ」
「じゃぁ、なんでこんなところに・・・」
「うむ。出所を確認したい。そして、できれば取り戻すことも」
「しかし、オークションとなるとなぁ・・・」
「金なら心配せんでいい。当座の資金はこれだ」
大田原は政府の機密費予算を示した。
「これは・・・」
「全部は使わんでくれよ。藤岡さんへの説明がややこしくなる」
「20億円か・・・」
「落札したら、即日、先方の指定口座に即日振り込む」
「わかった・・・」
「便は今夜11時発のフランス航空だ。成田のカウンターにチケットを用意させてあるんで、パスポートを見せるだけでいい。ファーストクラスとはいかんが、一応、ビジネスクラスだ。短い時間だが、ゆっくり身体を休められると思う」
「わかった。これで口から出たウソが本当になったぜ。ありがとよ、じいさん」
るるるる・・・。
「真紀か?」
「そうよ。おじいさま。俊介、そこにいるんでしょ?」
「相変わらず、鼻が利くな。俊介は、わたしが借りている」
「どういうこと?」
真紀に祖父の大田原から緊急連絡がきた。
「俊介には、政府の大事な用事で、パリに行ってもらうことになった」
「ええ?海外に休養ってそのことだったの?」
「休養ではなく急用だ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ん、わかったわ。まさか、俊介に、スパイやれってんじゃないわよね?」
「当たり前だ。実を言うと・・・かくかくしかじかで・・・」
真紀は祖父の説明に一応納得した。
「そうなの・・・」
「もっと早く見つかっていれば、エルフィアが地球の座標をもっと楽に算出できたかもしれんな」
「ええ。でも、それをどうするつもり?」
「うむ。なぜ、パリのオークションに出たかだ」
「だれが、どこで手に入れたかってことね?」
「そうだ。それに、万が一、あれがZ国のようなところに行ってしまったら・・・」
「カテゴリー3以上の世界のデータが全部筒抜けになるわ」
「そういうことだ。これは、セレアムの地球に来たメンバーであるわたしの責任に於いて、是非とも、取り戻さねばならない」
「でも、Z国にデータの解析ができるの?」
「可能性はある。データは、地球の通常の方法では取り出せない。しかし、あれがエスパーに渡ると、量子情報の解析に成功する可能性が出てくる」
「どうして?ただのデータでしょ?」
「それは、違う。データには意思があるんだ」
「意思?」
「そうだ。誰かに、伝えたいという意思が・・・」
「まさか、データは生物じゃないはずよ」
「地球人の常識をまだ捨てられんようだな?」
「どう言うこと?」
「ある精神波で呼びかけると、データはその人間にアップロードを開始する。もっとも、それをセットするための装置は必要だが」
「おじいさまなら、できるということ?」
「うむ。そして、わたしにできるということは、他人にも可能ということだ」
「それは、まずいわ・・・」
「ああ。エルフィアもセレアムそうだが、文明推進支援をする世界は、その母星座標を、カテゴリー2以下の世界に開示しないことが暗黙の了解になっている。ましてや、自星以外の世界の宇宙座標を公開することは、非常識極まりない大変危険な行為だ。即、宇宙全体の安全保障に係わってくる」
「精神が未成熟な世界には、まず教育をってことでしょ?」
「うむ。そういうことで、俊介を回収に行かせた」
「わかったわ。で、オークションは、明日よね?」
「そうだ」
「俊介、スマホを置いてったんだけど、いざという時、連絡はつくの?」
「なに?」
「だから、連絡するホテルとか決まってるんでしょ?」
「いや、それは、現地領事官に任せてあるんで、すぐにはわからん」
「わかった。そうならないことを祈るわ。会社の仕事はこっちでする」
「すまん。真紀には苦労をかけるが、まず、おまえに言っておかねばと思い・・・」
「ええ。おじいさま、知らせてくれてありがとう」
「うむ」