190 QB
■QB■
カフェでは和人たち3人が夕食を取っていた。
「へへーん・・・」
にたり。
「なんなんだよ、クリステア?」
「ねぇ、ねぇ、ちょっと賭けてみない?」
「なにをでしょうか?」
ユティスがクリステアに尋ねた。
「今月の全部屋のお掃除当番」
「冗談だろ?」
「ナナン。本気。週一でいいから」
「面白そうですわ。やりましょう、クリステア」
ユティスは乗り気だった。
「リーエス。和人は?」
「ひょっとして。きみは未来がわかるって言うんじゃないだろうな?もし、そうだとしたら、反則だよ、そんなの」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ちっち。いくらわたしでも、そんなわけないでしょ。さ、どうなの?」
「わかったよ・・・」
「で、なにに賭けるんですか?」
「ふふふ・・・」
ユティスの問いにクリステアは含み笑いした。
「勿体ぶらずに言えよ」
「さて、アンニフィルドは何時に帰ってくるでしょうか?」
クリステアがハニーティーをすすりながら、ユティスと和人を見た。
「どう、面白そうでしょお・・・?」
「まぁ・・・。賭けがいがありそうですわ。うふふ」
ユティスが早速乗ってきた。
「では、わたくしは、12時にします」
「和人は?」
「きっと、アンニフィルドはユティスのこと心配するだろうから、遅くて11時かなぁ・・・?」
和人はじっくり考えて答えた。
にたぁ・・・。
「甘いわよぉ、和人。二人は大人。男と女。わたしは、午前2時ね」
「午前様かよ?」
「んふ。男と女が夜にお出かけ・・・。二人だけで、ただただシャンパン飲むだけだと思う?」
にっ。
クリステアは、意味深な微笑を返した。
「あ・・・」
「因みに、真紀さんの意見だと二人は朝帰りね」
「ええ?お泊りってことかい?」
「まぁ、ロマンチックですわぁ」
ぽっ。
ユティスは、顔を赤らめた。
「それ、エロチックの間違いじゃないのかい?」
--- ^_^ わっはっは! ---
シャンパンバー、ロイ・ルデレールではアンニフィルドと俊介のロマンチックで危険な会話が進んでいた。
「きみは、オレの心が読めるんだな?」
俊介は嫌がるでもなく、アンニフィルドを見つめた。
「ナナン。読むと言うより、勝手に見えてくるの。あなたの考えたことが・・・」
「心に浮かんだことは、ごまかせないってことか・・・。いいだろう・・・」
俊介は決心したように言った。
「で、俊介。あなた、スポーツなにをしてたの?」
「アメフトさ。QBやってた・・・」
「なぁに、それ?」
「これさ・・・」
俊介はアメフトの様子を頭に描いた。
「ハット、ハット!」
くいっ。
だっだっだっ。
ぼーーーん。
ばしっ!
どかっ。
ばたっ。
どかどかどか・・・。
ぴーーーっ!
「ファーストダウン!」
「わぁーーー!」
「うん、わかったわ。俊介、あなた、ヒーローだったのね・・・」
「そっかぁ?」
「もう、プレーするの止めちゃったの?」
「ああ。やってない」
ふっ・・・。
俊介に暗い影がよぎった。
「待って・・・。なにかあったのね?」
「わかるのか・・・?」
「悲しいことね?」
「すごいな・・・」
「普通のことよ。あなたが想い描いたことなら、はっきりわかるわ・・・」
「きみには、ホントになにも隠せないな。じゃ、言うけど・・・」
俊介は声を低くして、語り始めた。
「アメフトの社会人チームに、オレはQBとして入った。その日は、リーグ戦第6ゲームで、セカンドステージをかけた大事な試合だった。敵も見方も異常に盛り上がっていた」
「それで?」
「そこで、友を失ったという訳さ・・・」
「えっ?ゲームで人を死なせちゃったってこと・・・?」
アンニフィルドはピンク色の目を大きく開けて、驚いた様子で、両手で口を覆った。
「ああ・・・。第4クォーター残り15秒、3点ビハインドの場面で、最後のオフェンスのチャンスだった。セカンドダウンで、オレは敵のブリッツ(電撃タックル)に合って、20ヤード下がった。サードダウンで、オレはパスを通すしかなかったが、それは見え見えだった。だが、そうしなければ勝ちはない。見える限り、ターゲットはみんなマークされていた。、一か八かのロングパスを、だれもいない左コーナーに思いっきり投げた。往年のフォーティーナイナーズのロー・モンタマよろしくな。軽く40ヤード以上あった」
「よくわかんないけど、ビッグプレーだったのね?」
「ああ・・・」
「よく、だれもいなところに投たわね?」
「聞こえたんだよ。ワイドレシーバーの声が、そこに投げろって。頭の中でな・・・」
「ふうん、テレパスか・・・。あなた、頭脳の活性化が進みつつあったのね・・・」
「まぁ、テレパス云々は置いといて、オレも左エンドゾーンに投げるぞ、飛び上がれって、頭で叫んだんだ」
「そう・・・。彼とは親しかったの?」
「ああ。とってもな」
「精神波を使ったテレパシーだわ。それで、彼は取ったのね?」
「ああ、ドンピシャのタイミングだった。敵のディフェンスバックは完全に出し抜かれ、ヤツは見事にオレの投げたボールを取ったさ」
「すごいわ」
アンニフィルドは尊敬の眼差しで俊介を見た。
「ヤツがボルーをキャッチして、両足が地面につき、タッチダウンは認められた。ところが、ヤツが喜びにボールを右手で高々と上げて歩き出した瞬間、敵のディフェンスバック2人の強烈なタックルが、連続してヤツを襲い、ヤツのヘルメットの顎のベルトが外れた」
どかっ、どかっ!
「うわっ、背中からなんて、なんてひどい・・・」
「まったくだ。ディフェンス側の完全なレイトヒットで、当然、イエローフラッグが飛んだ。ディフェンスの反則だから、タッチダウンは成立したがね」
アンニフィルドは、俊介のイメージそのままに、その時の様子をありありを思い描いた。
「なんて激しいスポーツなの・・・。恐ろしいわ・・・」
「アメフトは格闘技なんだ。そんで、ヤツはもんどり打って、ヘルメットが半分脱げかかった状態で、頭から激しく地面に激突した。その上にディフェンスバックの2人が、モロに乗っかった。あの大歓声の中で、40ヤード離れていても、オレにはヒットする音が聞こえたんだ。バキッっという、なにかが割れるような嫌な音だった」
「怖い・・・」
すす・・・。
アンニフィルドは少しだけ俊介に擦り寄った。
「オレは、すぐに良くない事態になったと直感して、勝利のガッツポーズも忘れて、一目散に、ヤツのところに走っていった」
「・・・」
アンニフィルドは固唾を呑んで俊介の話を聞いた。
「ヤツは倒れたままぴくりともしなかった。すぐに担架が運ばれた。そのタッチダウンでオレたちは勝ったが、みんな、ヤツのことが気になって、とてもじゃないが、セカンドステージへの勝利を味合う気分じゃなかった」
「わかるわ・・・」
「病院に担がれたヤツは、頭蓋骨陥没、脳挫傷と診断され、緊急手術をすることになったが、その日のうちに病院で息を引き取ったんだ。オレと姉貴たちが、病院に着いた時は、もう虫の息だった・・・」
「・・・」
アンニフィルドは恐ろしさに声が出なかった。
「だけど、問題はそれだけじゃなかった」
「まだ・・・、先があるの・・・?」
「ああ・・・。ヤツは・・・、姉貴の・・・、姉貴の恋人だったんだ・・・。陽気でハンサムないいヤツだった。オレとは、冗談を言い合って、姉貴も交えて、よく飲んだりもした・・・」
「真紀さんの恋人ってこと・・・?」
「そうさ・・・。オレは、姉貴の恋人を死なせてしまったんだ・・・」
「・・・」
アンニフィルドは少し間を置いた。
「姉弟で同じチームにいたのね?」
「そういうこと。姉貴は、チアリーダーで、目の前の自陣からその全てを見ていた」
「俊介・・・」
アンニフィルドはじっと俊介を見つめた。
「絶対、あなたのせいなんかじゃないわ・・・」
ぎゅうっ。
アンニフィルドは思わず俊介を抱きしめた。
「わかってるよ・・・。だがな・・・」
「目に焼きついて、離れないんだよ・・・。あの瞬間のことが・・・」
「俊介・・・」
アンニフィルドは俊介の目がとても悲しげに見えた。
「オレは、ヤツと姉貴には、決して消せない負い目があるんだ・・・」
「あなたのせいじゃない・・・」
「どうかな・・・」
「真紀さんに頭が上がらないってのは、これなのね?」
「なに言ってるんだ。もう、何年も前のことだぞ。姉貴も立ち直ってるよ」
「ナナン・・・。俊介、あなた、優しすぎるのよ。お姉さん想いなのね。ただの双子ちゃんのシスター・コンプレックスかと思ってた・・・」
「バカ言え・・」
「ええ・・・」
「さ、飲もうぜ・・・」
俊介はやんわりとアンニフィルドの腕を解いて、グラスに手をのばした。
「はっは。なんで、きみに、こんなこと言っちまったのかな・・・。誰にも話したこと、なかったのに・・・」
「俊介・・・」
ぎゅっ。
アンニフィルドはもう一度俊介を抱きしめ、腕に力を込めた。
「締め殺さないでくれよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「バカ・・・」
それでも、アンニフィルドは腕を解かなかった。
「それより、そのグラス飲み干せよ。新しいのを注いでやるから」
俊介はアンニフィルドの腕を解こうとした。
「じゃ、残りは、俊介が飲ませてよ・・・」
「え?」
「わたし、手が使えない・・・」
ぎゅっ。
ぽよん。
--- ^_^ わっはっは! ---
アンニフィルドは、しっかりと俊介を抱きしめたまま、自分のグラスに残ったシャンパンを見つめ、そして、潤んだピンクの瞳で俊介を見上げた。
じーーー。
「・・・」
「あのなぁ・・・」
俊介は左手一つでアンニフィルドのシャンパングラスを空けると、シャンパンを口に含んだまま、アンニフィルドの唇寸前で、アンニフィルドを見つめた。
「あ、ん、ん!」
アンニフィルドの唇はゆっくりと俊介の唇に触れた。そして、自ら俊介の口からシャンパンを受け取り、そのまま飲み込んだ。
ごっくん。
「ん、んーーーん・・・」
俊介の腕に力がこもり、アニフィルドは息を漏らした。
「はぁ・・・」
アンニフィルドが目を開けると、俊介の瞳がアンニフィルドを捉えた。
「・・・」
アンニフィルドは、俊介の目に吸い込まれそうになった。
「わたし・・・、はじめより、もっと好きになっちゃった、俊介のこと・・・」
ぐらっ。
アンニフィルドは俊介に体を傾けた。
ほわん・・・。
なんともいえない女らしいいい香りが、俊介の鼻腔に届いた。
ぐいっ。
「おい、アンニフィルド、大丈夫か?」
「はーーーっ、なんだか、とっても気持ちいい。シャンパンが回ってきちゃったわぁ」
「おいおい、来たばっかりだぜ」
アンニフィルドはピンクの瞳を潤ませて、じっと俊介を見つめた。
じーーー。
「俊介・・・」
「なんだよ?」
「本気よ、わたし・・・」
すすぅーーー。
アンニフィルドの指が、俊介の胸から首へ、首から頬へと、ゆっくりと這った。
「好き・・・」
「えっ?」
アンニフィルドは、俊介にしっかりと腕を回すと、首筋に唇を押し付けた。
ちゅうっ。
「ああっ!」
俊介は、アンニフィルドの唇が首に吸い付いてくるのを感じて、思わず声をあげた。
「だーーーめ、動いちゃ・・・」
「んなこと言ったって・・・」
「唇、外しちゃったじゃない・・・」
「おまえが、外したんじゃないか?」
「とにかく、やり直し。んーん」
ちゅ、ちゅっ・・・。
アンニフィルドは、今度は、唇を俊介の首筋に這わせながら、鎖骨に唇を押し付けた。
「俊介・・・!」
ちゅう。
アンニフィルド。ちょと、待てよ!」
「なによ、わたしじゃ、嫌なの?」
「そ、そんなことないが、ここは連れ込み喫茶じゃないんだぞ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
俊介たちの席は、カウンターから見えない一番奥の席だった。
「俊介、好き・・・」
「おい、ちょっと、アンニフィルドったら・・・。酔っぱらってるな」
「んーーー!」
ちゅう。
アンニフィルドは、俊介の耳にキスしてきた。
ぞくぞくっ。
「はーーーーぁん!」
「こら。そんなとこに、息を吹きかけるな!」
ぶるぶるっ。
俊介は、アンニフィルドの熱い息に、思わず体を振るわせた。
ふーうっ。
「あーーーん・・・」
アンニフィルドは、小さく悩ましい声をあげた。
「周りに聞こえちまうぞ。ちくしょう・・・」
今度は、俊介が、アンニフィルドの耳に息を吹きかけた。
「お返しだ・・・」
ふっ。
「あーーーん、俊介ぇっ!」
ぎゅっ。
アンニフィルドは俊介に回した腕に力を込めた。
かくん。
だしぬけに、アンニフィルドは、俊介にもたれかかったまま、意識を失った。
「アンニフィルド・・・?お、おい、どうした、アンニフィルド・・・?やっぱりか。あれだけ力を使ったんだもんな。しょうがない、しばらく寝かすか・・・」
どさ・・・。
俊介はアンニフィルドをソファに横たえた。
(アンニフィルド、確かにオレ好み・・・。スーパーモデル級の美人だよな。いくらSSとはいえ、こうして無防備なとこ見せられたら、守ってやりたくなるよ、男としては・・・)
すぅーーー、すぅーーー。
ちゅ。
俊介はアンニフィルドの頭を優しく撫で、髪に軽くキスをした。
「う・・・、うーーーん・・・」
小さな声を出した後、アンニフィルドは深い眠りについた。