187 脱出
■脱出■
合衆国のSSたちも、SSより連絡を受けて拉致グループの捜査を始めた。
ぷるぷるぷる・・・。
軍用のジェットヘリが海岸埠頭に向かっていた。
「海岸埠頭といっても、広いぞ・・・」
ジョーンズはジョバンニを見た。
「オレにはわかる。やつら黒塗りのセダンを手前の倉庫にぶつけている」
「なんだ、そりゃあ?」
ジョーンズは首をかしげた。
「クリステアからの連絡だ。悪いが、もう少し左に行ってくれないか?」
ジョバンニはパイロットを急かした。
「イエッサー」
ぱらぱら・・・。
在日合衆国空軍の高速ヘリが海岸埠頭上空を先回していた。
「14番埠頭・・・」
「14番なのか?」
「わからん。だが・・・。もっと下げてくれ」
ジョバンニはヘリの高度を下げるように指示した。
「イエッサー」
ぷるぷる・・・。
「あった。見えたぞ。あそこだ」
ジョーンズは、保税倉庫脇に突っ込んでいる黒塗りの車を見つけて、指差した。
「あそこに降りてくれ」
「イエッサー」
ぷるぷるぷる・・・。
ヘリのパイロットは、直ちに着陸態勢に入った。
ぷるぷるぷる・・・。
「見ろ。合衆国のやつらだ」
うー、うー、うー。
ぶろろろろーーー。
「畜生、こっちからは日本の警察だ」
「早く車を出せ!」
「ダメだ。エンジンが始動しない」
「掴まるぞ」
「倉庫の中の連中はどうする?」
「連れて行かないと、やばいぞ。中に入ろう」
二人は保税倉庫の中に駆け込んだ。
だっだっだっ・・・。
中の男と女は既に気がついていた。
「緊急脱出用の車はどこっだ?」
「裏よ。倉庫の裏にワゴンを置いてるわ」
「よし、それを使おう」
「あっちに裏への出口があるわ」
女の指差す方向に4人は駆け出した。
たったった・・・。
「急げ、裏に回れ」
「ワゴンに乗るんだ!」
たったった・・・。
4人は倉庫の裏口に向かって駆け出した。
ぽーん。
「こちら機長の鶴田です。本機はただ今から着陸のための最終アプローチに入ります。高度1600メートル付近で、気流の乱れがあるとの連絡を受けておりますので、お立ちのお客様は速やかにお席にお戻り、シートベルトをお締めください」
ぽーん。
機長のアナウンスが流れ、オパール航空105便はじきに着陸すると伝えた。
「この空中輸送機、もうすぐ降りるんだ?」
アンニフィルドがなにげなく囁いた。
「当たり前です。降りてもらわないと困りますわ。おほほほ・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
隣の乗客が、言った。
「どうやって、降りるのかしら?」
「リーエス。興味あるわね」
「あの大きな翼を、鳥みたく上下に羽ばたくんじゃない?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そんなの、ありえないでしょ!」
隣の乗客はびっくりしてアンニフィルドを見つめた。
「ジョークよ、ジョーク。あはは」
「本当は、反重力エンジン積んでるんでしょ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
クリステアも興味をそそられて答えた。
「はいっ?」
「反重力エンジンよ。知らないの?」
--- ^_^ わっはっは! ---
なんなのよ、この人たち・・・?」
「ところで、石橋をスタジアムでどうしたの?」
クリステアがアンニフィルドにきいた。
「ちゃんと家に帰してあげたわよ」
「家に?」
「リーエス。ご両親も在宅だったみたいで、無事が確認できて安心したんじゃない?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス。あれテレビ中継だったから、相当なニュースになってるかも。たぶん、心配してたはずよ」
「リーエス」
石橋の両親は、娘の行ったサッカースタジアムで悲劇の将棋倒しを、テレビで見ていた。
「お父さん。可憐の席って、たしか、7番ゾーンって言ってなかった・・・」
テレビのアップは将棋倒しの上の方に、7という数字を映し出していた。
「7番なのか?」
「そうよ、確かにそう言ってたわ・・・」
ぶわんっ。
突然、ききなれない音とかすかな空気の揺れを感じて、二人は後ろを振り返った。
「可憐・・・」
「可憐なのか・・・?」
「あれ、お父さん、お母さん、なんで・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
和人は不安を感じていた。
「ユティス、なにか嫌な予感がするぞ」
「リーエス・・・」
ユティスもそう感じ、二人で見合った。
予感は的中した。
「この飛行機、逃げてきた方へ戻ってる。さっきは、着陸待ちのため、空港上空で待機旋回していたんだ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス。たまたま、街とは逆の方向だったのですね」
「そのとおり」
30分後、4人が空港に着くと、そこは今脱出をしてきたばかりの街だった。
「あーん!、元のところに戻っちゃった!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ふふふ、さすがアンニフィルドね。楽しみを倍にしてくれるわ」
アンニフィルドは自分を呪ったが、クリステアは、いかにもアンニフィルドらしいと、愉快そうに笑った。
「戻っちゃったものは、しょうがないわ」
クリステアは冷静だった。
「仕方ありませんわね」
「どうでもいいから、目立たないようにしてくれないか?」
和人は、周りの目が一斉に注目しているのに、慌てた。
「遅いわね・・・。もう、目立ちまくってるわよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
エルフィア人3人にそんなことを願うことは到底無理な話だったが、和人は口にせざるをえなかった。
たったったった・・・。
「いたぞぉ!」
「さっそく、見つかっちゃった」
空港では、ダークスーツに身を固めた男たちがユティスと和人に気づいた。
「追え。追うんだ!」
「しょうがないわねぇ。えい!」
クリステアは50m以内なら強力な幻影を投影できた。
すぅっ。
「消、消えた!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「消えたぞ!探せ!」
追っ手たちは寸前で4人の姿を見失った。
ぶろろろ・・・。
「俊介、4人とも空港に着いたわ」
「ふぅ。そいつは良かった。追いつけなくなると思ってたぜ」
「あは。追いつきたいんだぁ・・・、だれかさんに」
--- ^_^ わっはっは! ---
「なにバカ言ってるんだ、姉貴。ちゃんとGPS確認してくれよ」
「はいはい」
ぶろろろ・・・。
「後、10分ってところだな・・・」
「そんなに?」
「だって、仕方ないだろ。空港入り口で検問やってるんだから」
「ユティスたちを狙うZ国エージェントね?」
「そうだ。じいさんが手配している」
「あら、また、動き出したわ」
「どっちだ?」
「ん・・・。第一ターミナルの南に向かってる」
「なんだって?それ、モノレールの駅じゃないか?」
「そうかも・・・」
「まいったなぁ、方向転換した方がいいな・・・」
その時アンニフィルドの声がした。
(俊介?)
(あ、アンニフィルド・・・。どこだ?)
(空港の電車の駅みたいよ。和人の話じゃ・・・)
(モノレールか?)
(そうそう、そのモノレールとかいうおかしなやつ)
--- ^_^ わっはっは! ---
(よし、わかった。きみらを収納できるよう、追っかけるぜ)
(リーエス)
「姉貴、方向転換だ」
きき、きっ。
「うわぁ、乱暴ね、俊介」
「悪い、ちと我慢してくれ」
間一髪で4人はモノレールに乗り込んだ。
「ふぅ・・・」
「安心なんかしてられないぞ」
和人はユティスを庇うようにして、当たりを見回した。
(SS・アンニフィルド、SS・クリステア、Z国の諜報員がこの輸送機械に乗り込んでいます)
アンデフロル・デュメーラの警告が、SSの二人に届いた。
(リーエス。どのくらい離れてる?)
(すぐ隣の車両にまで迫っています)
(余裕ないわねぇ・・・)
(なん人いますか?)
(4人です、エージェント・ユティス)
(大丈夫なのか、ここ密室状態だよ?)
和人はアンニフィルドを不安そうに見つめた。
(信用しなさい。こんなの、ちょろい、ちょろい)
ぐいーーーんっ。
モノレールが駅を過ぎて加速した。
「わ!」
どん。
ぴとぉ。
ぼよーーーん。
和人の腕がアンニフィルドの胸に当たった。
「こら、和人、どこ触ってんるのよぉ!」
ぱこんっ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「冤罪だ!きみが寄ってきたんじゃないか!」
和人はアンニフィルドに文句を言った。
「ユティスの代弁をしたのよ」
「そう、そう。恋人の浮気は重罪よぉ」
クリステアが目を細めた。
「クリステアまで!」
「んふ。わたくし、気にしてませんわ」
にこっ。
ユティスは、和人に微笑んだ。
(追っ手が、この車両に入ってきました)
(リーエス。了解よ、アンデフロル・デュメーラ)
「お出ましよ」
「リーエス」
たったったった・・・。
(追っ手が、2人増員されました)
アンデフロル・デュメーラが、緊急警告を発した。
(6人てことね?)
(リーエス、SS・クリステア)
4人に近づいて来る男たちは新たに2人加わった。
「Z国よ!」
アンニフィルドとクリステアは互いに頷いた。
「和人、掴まって!」
「リーエス」
(アンデフロル・デュメーラ、適当な場所ないの?)
(リーエス。みなさんの前方にホテルらしき大きな建物があります)
(そこでいいわ。距離は?)
(1200メートルです)
(了解よ)
「クリステア、その大きな建物。そこに移るわ」
「リーエス」
(追っ手が5メートルに近づきました)
(ありがとう、アンニフィルド)
「ジャンプするわよ」
「リーエス」
「あ、ちょっと、忘れてた」
「なんだい?」
「あいつらにお別れのキッス」
ぱちっ。
アンニフィルドはそう言うと、Z国の6人にウィンクして、投げキッスした。
「余裕かまし過ぎ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「お・・・」
アンニフィルドに投げキッスを受けたZ国のダークスーツたちは、一瞬、すごく幸せな気分になり、足を止めた。
「あれ、オレ、なんでここにいるんだっけなぁ・・・?」
「天使を見たような気がするぞ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
(バカもの、追え!追うんだ!)
そこで、彼らの頭の中に、リッキーの怒号が響いた。
「いかん。追え!」
「はい!」
アンニフィルドから俊介に連絡が入った。
(俊介、ごめんね。また、ジャンプするわよ)
(え?どこだ?)
(わかんないけど、この先1200メートル付近の大きな建物よ)
(なんとなくわかった。GPSで追っかけるぜ)
(よろしく)
アンニフィルドはジャンプする前に行き先を告げた。
「ほら、和人、ちゃんと掴まって」
「リーエス」
がしっ。
ぎゅっ。
アンニフィルドは和人の腕をつかみ、クリステアがユティスの腕をつかんで、次の瞬間4人は周りの視界から消えた。
ぶわーーーん。
ぱっ。
モノレールの中は一瞬シーンとなった。
しーーーん・・・。
そして、その後大騒ぎになった。
「きゃあーーー!」
「き、消えたぞ!」
「幽霊だぁ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「くっそう、またしても逃げられた!」
Z国の6人は地団太を踏んだ。
ぶわんっ。
次に、4人が実体化したのは、豪華ホテルの地下の大広間、レセプション会場だった。
「みんな、無事?」
「リーエス」
「大丈夫だよ」
いきなり、4人がホテルのロビーに現われたので、周りがぎょっとした。
「おわ・・・っ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あーら、ごめんあそばせ」
にこっ。
アンニフィルドは、笑って誤魔化すと、出口に3人を誘導した。
どたばた・・・。
「そんなに慌てて、どこに行くのよぉ?」
「外で俊介が、車で待機してるの」
「ふぅーーん。そうなんだぁ・・・」
クリステアがアンニフィルドに目を細めた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ちょっと、クリステア!」
「うふ。さすが俊介さんですわ」
ユティスも意味ありげにアンニフィルドに語りかけた。
「もう、ユティスまで、こんな時に・・・」
アンニフィルドは少し頬が赤くなっていた。
「なんで、常務、ここがわかってたんだろう?」
和人だけがわからなかった。
「和人、聞くだけヤボ・・・」
「え、どういうこと、クリステア?」
「アンデフロル・デュメーラとできてんのよ」
「うっそぉ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「正確には、わたくしとはハイパーラインができてるということです」
「それだけ?」
「いいご指摘です、SS・クリステア。アンニフィルドのハイパーラインは、シュンスケとの間にもできています」
「ええ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ほら、すっごく怪しいですわ・・・」
「こら、ユティス、アンデフロル・デュメーラ!人をからかうのはよしなさい!」
「みんな、1階の出口に急いで、ワゴンはそこよ」
「リーエス」
「リーエス」
たったった・・・。
4人は1階に通じるエスカレーターに急いだ。
「さっさと乗る」
クリステアを先頭に和人が続いた。
ぐいっ。
「お、押すなって」
アンニフィルドが和人の腰を押した瞬間に、ユティスを追い越してしまった。
「のろま」
がしっ。
まさにその一瞬、ユティスがエスカレーターに乗ろうとした矢先、突然、ユティスは後ろからだれかに腕をつかまれ、強引にエスカレーターから引き離された。
ぐぃ。
「きゃっ!」
「捕まえたわよ・・・」
空港から直行して到着したばかりの瀬令奈だった。
「瀬令奈さん・・・」
「今度は、逃がさないわ!」
瀬令奈はユティスを見つめて言った。
くるっ。
「ユティス!」
「あ、瀬令奈!」
すぐにSSたちは、それに気づいたが、昇りのエスカレーターを逆方向に慌てて降りようとしたため、クリステアが和人にぶつかり、あとは将棋倒しでアンニフィルドも一緒になって、エスカレーターを転がり落ちていった。
ごろん。
ごろごろ・・・。
ごつん。
「痛い!」
「きゃ!」
どどん。
「な、なにやってんのよぉ!」
ごつっ。
ごてん。
ごろごろ・・・。
どったーーーん。
--- ^_^ わっはっは! ---
「痛ぁーーーい!」
「ユティス!」
ぐいーーーん。
エスカレーターは、倒れた3人を載せて、容赦なく上に向かった。
「こらーーー、瀬令奈!」
「くぅ・・・」
「重ぉーーーい、和人、どきなさいったら」
「よいしょ・・・」
ぽよんっ。
「え?」
「きゃん!」
ばしーーーんっ。
「エッチ!再三、どこ触ってるのよぉっ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「痛ーーーっ!」
「いいから、二人とも、早く、ユティスを追っかけて!」
「リーエス!」
どたどたどた・・・っ。
「うゎったっと・・・」
ぶろろーーーんっ。
きききっ。
「きゃ!乱暴ね!」
「姉貴、行き先変更だ」
「またぁ?」
「仕方ないだろ?空港からモノレールに沿って1200メートルだ」
「なにがあるの?」
「とにかく大っきな建物」
--- ^_^ わっはっは! ---
「それじゃ、わかんないわ」
「オレにもわからんから、そう言ってるんだ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「GPSをモニタしてくれよ」
「はいはい」
ぴっ、ぴっ・・・。
真紀は、GPSの表示を調整した。
「えーと・・・」
ぴぴっ。
「あ、これね、俊介?」
「運転中のオレに聞くなよ。事故るだろうが?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「えーとねぇ・・・。わぉ!」
「どうした?」
「聞きたい?」
にたっ。
「なんだよ?さっさと教えろよ、姉貴」
「えへ。ホ・・・テ・・・ル」
「へ?」
「ホテルよ。ホテル。そこで、あなたを待ってるってわけね?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「なに、想像を逞しくしてるんだ。さっさと、目的地にセットしてくれ!」
「ユーモアないわよ、俊介」
「うるせい」