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182/408

182 攻撃

■攻撃■




前半37分、南米チームの強烈なミドルシュートが、日本ゴールを脅かせた。


ばーーーんっ!

ゴールポストに当たり、ボールはゴールエリアの右側へ勢いよく弾んでいった。


「うぁーーーっ!」

観客の悲鳴がスタジアムを揺るがし、騒然となった。


「あー、ボールがゴールポストに阻まれたぁ!」

「危ない!リバウンド、リカバー!」


解説者が行った矢先、そのこぼれ球を南米選手が振り向きざまボレーシュートを見舞った。


ばんっ!

しゅーーーん。

どごーーーん。


ボールは反対方向のゴールポストに当たったが、今度はゴールマウスに吸い込まれていった。


「あー、こぼれ玉を打った。入ったぁ!万事休す、ゴールだぁ!」


「うゎーーー!」

「きゃあ!」


「ゴール!ゴォーーールッ!なんと言うこと!ゴールポストに跳ね返ったところをシュートです。南米チーム1点先取!ゴーーール!」

アナウンサーは叫んだ。


たったった・・・。


シュートを放った南米の選手は、その回りを走り回った後、グランドにひざまずき十字を切ると、両手を胸の前で合わせせ、首から掛けていた十字架にキッスした。


「先制点は南米です。先制点は南米チームがまず上げました。しかし、まだ前半です」

アナウンサーはさっきの興奮をすぐ冷まし、解説者に振った。


「ええ。まだ前半ですよ。時間的にはたっぷりありますから。ここは気を取り直して、パスの組み立て直しをして欲しいですね」

解説者は、頭の切り替えと作戦建て直しを強調した。




「あっちゃあ・・・」

和人は天を仰いだ。


「どうなったのですか?」

ユティスは観客のものすごい歓声に圧倒されていた。


「1点、取られちゃったんだよ」

「どうしてですか。別に悪いことしてませんわ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「悪い悪くないの問題じゃなくて、ゲームってのは点の取り合いなんだよ。カテゴリー1的娯楽だね」

「まぁ!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「日本は1点負けちゃったってことだよ」

「それは残念ですわ」」


「ん、もう!へったくそねぇ・・・」

アンニフィルドは今の得点シ-ンを見て両手を広げた。


「まぁ、しょうがないわよ。日本チームと南米チームとじゃ、ボールに詰め寄るスピードがぜんぜん違うもの」

クリステアは的確に観察していた。


「南米チームはそんなに遅いと思えませんけど・・・」

「だから、遅いのは日本なの」


--- ^_^ わっはっは! ---


「そうでしょうか?わたくしにはそんあに遅くは見えませんわ」


ところが、これで目が覚めたのか、確かに次の攻撃で日本チームはスピーディーな動きに変わった。


「そりゃ、1点入れられちゃったから、本気モードになったんだよ」

「リーエス。コンタクティー・カズト。秒速にして10%スピードがアップしています」

アンデフロル・デュメーラがそれに答えた。


「だろ。アンデフロル・デュメーラが測定したとおりさ。昼寝は終わったのさ」


--- ^_^ わっはっは! ---



それが、解説者の感想とおりだったのは、監督が放送を聴いていたのか、スタジアム最上部で全体の動きをウォッチしていたスポッターの指示によるものかわからなかった。


「オレ、オレ、オーーーレ!」

「ニッポン、ニッポン!」

「オレ、オレ、オーーーレ!」

「ニッポン、ニッポン!」


「わーーー!」

「きゃあーーー!」


観客の歓声は益々大きくなり、スタジアム全体が唸っているようだった。


びしっ。

「あう!」


それは、こっちまで聞こえてきそうなくらいの激しいタックルで、日本人選手の一人が相手ゴール近く、わずかにペナルティエリア外で倒れた。


ずしゃぁーーーっ!

どったぁーーーん。


ぴーーーっ!


すぐさま主審のホイッスルが鳴り、日本チームにフリーキックが与えられた。




すす・・・。

それに紛れて、一団が動き始めた。


「今だ。作戦を仕掛ける。ゴーだ」




ぶるるる・・・。

ぶるるる・・・。

突然、サイレントモードの和人のスマホが振動した。


「あ、電話だ・・・・」

和人はスマホを取り出した。


「だれ、こんな時に?」

アンニフィルドが和人を見つめた。


「あ、石橋さんだ・・・」

ディスプレイの表示は石橋だった。


「石橋?」

3人はそれを聞いて即座にカズトに注目した。


「出てみれば?」

クリステアが促し和人はスマホに出た。




「あの、石橋です・・・。和人さん、あの、来ちゃった・・・」

「ええ?石橋さん、スタジアムにいるんですか?」

和人は信じられないような表情で言った。


「真紀さんにチケットもらって・・・。それで、ここに来たんですが・・・、あの、あの。すいません。場所、わかんなくて・・・」


「オレたちの居場所のことですか?」

「あ、はい・・・」


「チケットの座席番号、わかりますか?」

「あ、はい・・・。えーと、どれかしら・・・」

石橋はもたもたしている様子だった。


「オレたちの席は、ゾーン7の17段目です。石橋さんは今どこにいますか?」

「あの、やっぱりわかりません。人が多くて・・・。ぜんぜん・・・。わたし、今3番と書かれた入り口付近の売店前にいます。とにかく人が多くて・・・」

和人は一瞬ん考えた後、ユティスに言った。


「オレ、石橋さんを迎えに行ってくるよ。この人ごみで迷っちゃってるらしいんだ・・・」

「まぁ、大変。そういうことでしたら、和人さん、石橋さんをお迎えされた方がよろしいですわ。わたくしも同行します」


すっ。

ぱしっ。

ユティスは立ち上がろうとしたが、クリステアがそれを制した。


「ダメよ、ユティス。こんなところで、あなたたち二人だけが行くなんてもってのほか。さらってくれって言っているようなもんだわ」


「オレが行くよ」

和人がスマホをしまって立ち上がった。


「ダメ。あなたも一緒。忘れたの?席にいるのが一番安全よ。日本の警護官や合衆国のSSだって、ここを見張っている。一人が動けば、それだけ警護力が分散されて、狙われ易くなるわ」


「リーエス。でも、どうするの?」

「わたしが行ってくる」

アンニフィルドが立ち上がった。


「リーエス。それが一番いいと思う。あなたかわたしかのどちらかが・・・」

「じゃ、行くわ。和人、その3番入り口付近ってどこよ?」

アンニフィルドがそれを探して遠くを見た。


「アンニフィルド、ジョバンニも一緒に行かせるわ」

と同時にクリステアが後ろを売り向いた。




「ジョバンニ!」

「イエス、マム」


ぴっ。

ダークスーツの黒眼鏡がすっと立ち上がり、サングラスに触った。


「ここから4番分戻ることになるね。ほら、あそこ」

和人が示したところに3という番号が大きく書かれていた。


「リーエス。確認したわ」

アンニフィルドはそういうと、そっちに向かって、まず通路まで出ることにした。


「すいません。ちょっと通してくださぁい」

にこっ。


「あ、すっげぇ、美女・・・。どっかで見たような・・・」


「おほほ。前を失礼あそばしますわ」

にこにこ・・・。


--- ^_^ わっはっは! ---


ずんずん・・・。

アンニフィルドは先を急いだ。




「フリーキックです!。フリーキックです!南米ゴール前20メートルくらいでしょうか、日本、絶好の動転チャンスを迎えました!」

アナウンサーは興奮気味に叫んでいた。


「これは直接ゴールを狙うでしょうねぇ。さぁ、問題はキッカー。蹴るのはだれでしょうかぁ?」

「南米選手がゴール前で壁を作っています。一人、二人、三人・・・。7人くらいいるでしょうか・・・。日本チームのディフェンダーも上がってきたぞぉ・・・」


しかし、審判たちは、南米チームの壁がキッカーに近すぎるとして、1メートル下げさせようとしてた。


「南米チームの壁の位置が前過ぎるようですねぇ。審判が1メートル下がるように注意を与えています」


南米チームはまた、ばらばらになってそれを嫌がっている様子だった。そして一人が靴紐を縛り直すよう審判から指示され、そこに屈んだ。




「よし。ウサギ女と合衆国SSの一人を引き離したぞ」

アンニフィルドが席をどんどん離れていくのを確認して、スタジアムの反対側では双眼鏡の男は、無線機を手にした。


「石橋可憐は?」

「3番入り口の売店前だ」

男は口元に不敵な笑いを浮かべた。


「次だ。波を起こせ」

「了解」

「了解」

「了解」


すぐに複数の回答が、男の無線機に寄せられた。



「ジョーンズ、ちょっくらと行ってくるぜ」

「なにかあったな、ジョバンニ?」

ジョバンニはクリステアを一瞥した。


「レディーの要請か?」

「そんなところだ。彼女らの友人の出迎えに、アンニフィルドが3番まで行く」

「気をつけろ。ここはオレが見ている。おまえは彼女を追っかけて来いよ」


にや。

ジョーンズはそれには答えず、遠ざかるアンニフィルドの後姿を追った。


(ホント、オレ好みの抜群のスタイルだぜ・・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---




「きゃああ!」


突然、ユティスたちの上部座席で悲鳴が起こり、興奮して席を立っていた観客が前倒しになって下側に雪崩のように押し倒されていった。座席はただのベンチ式で、バケット式ではなかったので、まるで波のように上から下へ伝わっていった。


どたどた・・・。

がたがた・・・。


「うぁーーー!」


ごんごん・・・。


たちまち数十人観客がそれに巻き込まれ、ユティたちのところまで来た。




ごんごんごん・・・。

どどどどd・・・。


「きゃあ!痛い!」

「まぁ、ひどい。大丈夫ですか?」

ユティスはすぐに近くに落ちてきた女性を気遣った。


「うっ・・・」



はっ!

「な、なんだぁ・・・?」


ものすごい悲鳴と人がなぎ倒される音で、ユティスたちの上にいたジョーンズが後ろを振り向いたら、何人ものが彼に向かって倒れこんでくるところだった。


「うわぁーーー!」

そして、ジョーンズもそれに巻き込まれ前に倒れ、頭を打って意識を失った。


「きゃあーーー!」


ばきっ。

「痛い!」


「足が、足が・・・」


当たり一体は悲鳴でいっぱいになった。




「ユティス!」

クリステアと和人はユティスを守ろうとして、倒れ掛かってきた人間の波を受けようとして、その下敷きになりそうになっていった。


「よけて!よけるんだユティス!」

和人はユティスを突き飛ばすようにして、倒れ掛かる波を避けさそうとした。




そのスタジアムの一角で起こった悲鳴はスタジアム中に響き渡り、観客全体がなにごとか起こったことを知った。


「どうしたのでしょうか?」

「7番ゾーーンあたりでなにか起きてるようです」

アナウンサーはカメラがそこにパンした瞬間、それがどういうことなのか理解した。


「これは大変なことになりました。興奮いたファンが立ちあっがったところで、上段の観客が誤って前に倒れ、それが連鎖反応のように下に向かって一気に伝わったようです。これはいけない、大至急救急隊を呼ばないと・・・。あーーー。何十人、いや、何百人です。スタジアムの一角で惨事が起きています!」


ぴーーーっ。


審判団も、それに気づいたようで、日本のフリーキックの場面で試合をストップさせた。


「7番ゾーンでは大変な騒ぎになっています・・・」

「中断です。中断です。試合がレフェリーにより中断されました。これは一大事。下段の方では、何人もの観客が下敷きになっている模様・・・」

カメラはフィールドから観客席へとシフトしていた。


カメラはアップで倒れた人を映し出していた。




「なんだ?」

異様な叫び声に警護官たちは後ろを振り向いた。


だだだだーーーん。

あっと言う間に倒れ掛かった人の山が二人に接近してきた。


「部長!」

ずでででーーーっ。

「伏せろ!」

「あうっ!」

ずっどっどぉーーーん。


「うぉーーーっ!」

日本の警護官たちも観客の将棋倒しの波に飲まれ、見えなくなっていた。




「A班、回収開始」

「了解」

「了解」

「了解」


「大丈夫ですか?みなさん、大丈夫ですか?」

「きゃあーーー、痛い!」

どこからとも現われてきたオフィシャルジャージを来たスタッフが、その倒れた観客たちのところで、一人一人を助け起こして、怪我などの確認をし始めた。


「う、腕が・・・」

「さ、掴まって」

「すいません」


ユティスたちのところにもいち早くスタッフが駆けつけていた。


「大丈夫ですか?」

「はい。わたくしは・・・」

和人とクリステアは、ユティスを抱え、観客の団子状態から引き出そうとした。

「和人、大丈夫なの?」

「リーエス」




「B班、シンクロ開始」

「了解」

「了解」

「了解」



がーーーんっ!

「あうっ!」


ぐるん・・・。

クリステアはオフィシャルの一人に引かれて通路に出たもの、頭に強烈な痛みを感じて、目の前がぐるりと回ったような気がした。


「うう・・・」

そして、その後強い吐き気を感じて、そこに崩れるように倒れていった。


「クリステア!」

和人は、顔を歪めてうずくまるクリステアの脇に屈みこんだ。


「精神波攻撃です!」

アンデフロル・デュメーラはSSたちに警告を発したが遅すぎた。




「どうしました、お嬢さん?」

スタッフがクリステアに駆け寄り、ハンカチで口を覆った。そして、クリステアは気を失った。


「大丈夫ですか?」

周りの人間が、そんなクリステアを見て、スタッフを手伝おうとした。


「お願いします。係りについて医務室へ」

「はい」

そこに、担架を抱えたスタッフが到着した。

「そっと。そっとです」




「SS・アンニフィルド、精神波攻撃です!」

「アンデフロル・デュメーラ!」

しかし、アンニフィルドは石橋とまだ落ち合っていなかった。


「ああ、アンニフィルド!」

5メートル手前に石橋が怯えたような表情から、安心の笑顔に変わり、アンニフィルドに手を振った。


「アンニフィルド、よかったぁ!」

そして、アンニフィルドは石橋の方に歩を進めた。


「石橋・・・」


そして、その一瞬の迷いが運命を分けてしまった。

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