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181 蹴球

■蹴球■




ユティスと和人は、アンニフィルドとクリステアに守られ、毎日一緒に行動していた。この日も4人で、和人の車で予備調査に出かけていた。その前後左右には合衆国の二人のSSと、日本の警護官3人が、それとはわからないようにして固めていた。


「今日はフットボールの試合を見にスタジアムに行こう」

「フットボールですか?」

ユティスがきいた。


「リーエス。サッカーとも言うんだけど、手以外、主に足を使ってボールを相手の陣内に持ち込み、ゴールに入れるんだ。それで、どっちが多く得点するかを競うんだよ」


「地球のスポーツには、ボールをよく使うのよね?」

クリステアがそれを列挙しようとした。


「えーと。テニス、バレーボール、アメリカンフットボール、サッカー、バスケットボール。まだあるの?」


「そうだね。野球にゲートボールにゴルフ。ハンドボールにラグビー。卓球に水球。ドッジボール。クリケット、ソフトボール。ボウリング、スカッシュにセパタクロー。ちょっとボールとは違うけど、似たようなものを遣う、ホッケーやバドミントン」

和人は3人を見ながら行った。


「ボールを男たちが追っかけ回すんでしょ?」

アンニフィルドがきいた。


「まぁ、最近は女子もするけどね」

「この執着心はとにかくすごいわ・・・」

「だろ。あお奪い合いが面白いんだよ」


「ボールにフェロモンとか塗ってるわけ?」

「はいっ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ボールを使ったスポーツって、本当にたくさんあるんですね?」

ユティスは和人たちの挙げた球技を指折り数えた。


「リーエス。中でもサッカーは競技場が広くて、両チームの作戦とか戦略とか大局的に見れるから、それぞれの選手のプレーもさることながら、そういったことを考えながら見るとぐっと面白くなるよ」


「リーエス。これがチケットですか?」

ユティスが和人の持つ細長い紙を見て言った。


「リーエス。自分たちがスタジアムのどこに座るかの位置情報も書かれているんだ。これがなければ、中に入れないんだよ」


「リーエス。他にもたくさん書かれているんですけど、どういう情報でしょうか?」

「どれどれ・・・」

ユティスは、チケットに書かれている文字を、和人に見せた。


「ああ、これね。それはスポンサーの宣伝だよ」

「でも、一番大きな字で書かれていて、目立ちますわ」


『宗教宗派を問わず。人生最後の時間を安らかに。極楽安寧堂』


--- ^_^ わっはっは! ---


『短い人生。生きてるうちに楽しもう。カラオケパブ極楽チェーン』


--- ^_^ わっはっは! ---


「同じ企業グループらしいや」

「そうなんですか?」

ユティスは不思議そうな顔をしていた。


「これさ、常務がくれたんだ。サッカースタジアムというのは、けっこうテクノロジーがいっぱい使われてて、観客席とか通路とかいろんなところで、きみたちの参考になるだろうって」


「リーエス。だったら、すぐ行きましょうよ。何時に始まるの?」

クリステアがみんなを急かした。


「1時キックオフだね」

「今10時前よ。あまり時間はないわ・・・」

「リーエス。まいりましょう」




和人たちが家を出て、合衆国SSや日本の警護官も、密かにその後を追い様子を見守っていた。そしてZ国の通商部スタッフも。


「ふっふ。ついにチャンスがきたぞ・・・」

「どうした?」

リッキー・Jの含み笑いに通商部長のマイクは、状況が好転しているらしことを察した。


「やつら、今日の午後スタジアムでサッカーの試合を見に行くぞ」

「おまえの情報源、石橋可憐からの情報か?」

「ああ。自分も行きたかったらしい・・・」

「タダ券でも入手したか」


--- ^_^ わっはっは! ---


「そうだろうが、男と一緒に行きたかったのさ。もちろん、お前とじゃないぞ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「リッキー?」

「ああ、マイク、オレに任せろと言っただろう。やつら、オレがかけた石橋可憐の暗示を解除したつもりらしいが、そんなに甘くはないぜ。かけられた方への重なるコンタクトは催眠をさらに深めている。今では彼女自身、オレの声を心待ちにしているはずだ。確かにこっちからの表の指令は受けんようだが、彼女自身の深層で感じたことは、ちゃんと伝わるようになっている。思ったことを自然とオレに伝えようとな・・・」


「で、石橋可憐は、宇都宮和人を・・・?」

マイクはそれを確かめようとした。


「彼女は宇都宮和人になみなみならぬ思いを寄せている。ユティスと宇都宮和人が一緒にいることは本当は耐え難いだろう。事務所では二人は特にそういう素振りは見せてないが、こういうプライベートではどうかな?」


「彼女が深層で強く思うというのは、嫉妬か・・・?」

マイクはリッキーに言った。


「もちろん。だが、それ以上に、宇都宮和人の側にいたいと想う気持ちだ。そういう時には、オレにも情報が入る。『だれか、助けて・・・』とな・・・。そこで、オレの出番というわけだ」


「そういう時に、おまえに情報が来るわけだな?」

「そういうことだ。ぐずぐずするな、こっちのメンバーも確認するんだ。今日こそ実行だ」

「わかった。すぐ手配する」


「オレはスタジアムに行く」

「今度こそ頼むぞ」


「任せておけ」


そう言うと、リッキーは外に待たせておいた車に乗り込んだ。




日本政府の警護官たちは、和人たちを追っていた。


「しかし、こう気まぐれに動かれちゃかないませんね、部長?」

「任務だ」

「サッカーの試合ですか。これのどこが面白いんですかねぇ?」

「サッカーは嫌いか?」


「あんまり好きじゃないっすね。観客は顔を塗りたくってぎゃあぎゃあうるさいし、スターだかなんだか知りませんが、髪の毛伸ばして金髪に染めて、偉っそうにしてるじゃないっすかぁ?あんな若造が、たかだかボールを蹴るのがちょっと上手いだけで、よく天狗になれるもんですよぉ。自分は剣道一筋、硬派っすから」

若い警護官は文句を並べた。


「まぁ、そういうな。あいつらも必死でやってる。幼い頃からそれを夢見て死に物狂いで練習やってきてるんだ。だれもができるわけじゃない。それに、サッカー選手は国を代表する兵士と同じ。フィールドで代理戦争をやってるわけだ。それに、あの若さでオレたち一生分の何倍もの金を数年で稼ぐんだ。立派だとは思わんのか?」


「金の面はそうかもしれませんが、国のためと言うなら、自分だって国のため働いてます。要人警護に誇りを持ってますよ。いくら汚職してようが、スキャンダルがあろうが」


--- ^_^ わっはっは! ---


「彼らは議員特権の意味をよく理解してるからな」


--- ^_^ わっはっは! ---


「まぁ、選手もある一面国の面子は背負ってるでしょうけど、こっちは国の実益に直結する大変な責任を背負ってるんです。責任の重さが比べ物にならないくらい大きいんすよぉ。あいつらは試合に負けても国が損を蒙るわけじゃない。しかし、こっちは失敗すれば、対外的な国の信用が丸つぶれになる。下手すれば国交断絶、戦争突入です。違いますか?」


「そうだな。おまえの言うとおりかもしれん」

「すいません。暗くしてしまいました」

「いや、まだ昼前だ。十分に明るい」


--- ^_^ わっはっは! ---


今日の警護官たちの会話は、いつになくシビアだった。




「わぁーーー、わぁーーー」

「あ、っはい!あ、っはい!」

「オレ、オレ、オーーーレ!」

「あ、っはい!あっ、はい!」

「オレ、オレ、オーーーレ!」


リーグ戦が終わり優勝チームは決まっていたもの、今日は地元チームが南米のクラブチームを向かえ親善試合が組まれていた。南米のクラブチームに主力は欠けているとはいえ、常に優勝を狙う強豪の名高いチームである。試合前から、スタジアムはものすごい熱狂に包まれていた。


「すごいわねぇ・・・」

アンニフィルドは3万人以上の人間が一つのスタジアムに集い、試合を今か今かと待ち望んでいるのを見て、大いに感銘を受けた。


「まぁ・・・!」

ユティスは言葉がでなかった。


「どうなってるの、この熱狂は・・・?」

クリステアも前後左右を見回して、どうやってユティスと和人を守ればいいかとはたと悩んだ。


「アンニフィルド、ここは逃げ場がないわね・・・」

「リーエス。わたしもそう思ってたところ」

アンニフィルドは通路と出口を確認した。


「アンデフロル・デュメーラ、ここをウォッチして」

「リーエス。SS・クリステア」

ただちにエストロ5級母船から返答があった。


「アルダリーム。それと、リッキーたちの精神波の監視をモニターを忘れないで。きっとこの熱狂の渦の中で行動しようとしたら、通常通信手段は使えないはずよ」

「リーエス。SS・クリステア」




「あ、っはい!あ、っはい!」

「オレ、オレ、オーーーレ!」

「あ、っはい!あっ、はい!」

「オレ、オレ、オーーーレ!」

「ニッポン、ニッポン!」

「オレ、オレ、オーーーレ!」

「ニッポン、ニッポン!」

「オレ、オレ、オーーーレ!」


フィールドに選手たちが現われ始め、観客お興奮はますます高まっていった。




「アンニフィルド、なにかユティスに起きたら、ただちにジャンプするわよ」

「リーエス。クリステア」


「ユティス、わたしたちから、離れないで」

「リーエス」

「和人、あなたもよ」

「リーエス」


実際、異様な雰囲気であった。SSたちはそれに緊張した。




「ユティスを確認した。正面上部12段目、ゲート8と7の間だ。A班はその後ろに回れ。」

「了解」

「B班、SSの一人を誘き出す準備に入れ」

「了解」

「C班、精神攻撃のスタンバイ」

「了解」


サングラスの男が、エルフィア娘たちの反対側の一番上の段から、サポーターの一団に身を潜め、双眼鏡を覗き込みながら、指示を出していた。


「試合が始まって30分頃、最初のゴールがあった時に決行する」

「了解」

「それまで、そこに待機せよ」

「了解」


「どうして、無線機を使う?テレパシーの方が安全ではないのか?」

サングラスの男の隣で、いかにもサポーターの格好をした男が言った。


「そうしてエルフィア人たちにわざわざ教えてやるつもりか?」

「なんだと?」


「やつらの警戒しているのは、オレたちの精神波だ。それくらいわからんのか?この3万人以上の熱狂した連中が溢れ返ってる中、通常のギガ帯の通信なら、多すぎて聞き分けなどつかん。隠れるなら群集の中。話すならギガ帯だ。ふっふ・・・」


「そういうことなら、いい。スタジアムからの脱出経路は?」

「とうに確認手配済みだ」


「さぁ、始まるぞ」

サングラスの男は双眼鏡を構え直した。


(精神波・・・。SSを誘き出すエサか・・・。今度は逃げられんぞ、エルフィア人)




ぴーーーっ!


主審のホイッスルで、南米チームのキックオフが行われ、試合が始まった。


「わーーーっ!」

観衆の熱狂は最高潮に達した。



「いいかいユティス、今日は試合内容を楽しむ前に、地球人の娯楽でもあるスポーツ祭典がどういう意味を持つのか、そんな風に楽しまれるのか、どういう風に伝えられるのか、そういった観点で見て欲しいんだ」

和人は観客の声に負けないように、ユティスの耳元で言った。


「リーエス。でも、みなさん、ものすごい興奮で、わたくしはそちらも気になってしましますわ」

ユティスの言うとおり、スタジアムは異様な熱気で、和人も試合内容にも十分注目していた。


「アンデフロル・デュメーラ?」

「リーエス、SS・クリステア」

すぐにエストロ5級母船が反応した。


「思念波のチェックを。以前チェックしたパターンから、リッキー・Jのものはわかるわよね?それを拾ったら教えて」

「リーエス。今のところ検出してはいません」


「リーエス。了解よ」

クリステアはアンニフィルドに合図した。




「ユティスさぁ、この試合は、テレビで日本中とそれから南米に中継されているんだよ。ほら、あそこの高い位置に、ガラスで囲まれた部屋がみえるだろ?あそこが放送室で、いろんな放送局のスポーツアナウンサーや試合解説者やらが試合の衛星中継をしているんだ」


「リーエス、和人さん。この試合に宇宙技術がふんだんに使われているということですね?」


「リーエス。放送機器などの電子機器の電子部品だってそうなんだ。宇宙船に使われた信頼性のとても高いものが使用されているし、その衛星だってロケットで打ち上げるんだ。カテゴリー2でなきゃ実現しないんだよ、衛星同時中継ってサービスは」


「そうですか。そういうわけで、ここから1万キロ以上も離れたところでも、テレビで同時にこの試合をご覧になられることができるんですね?」

ユティスは熱狂に負けないように和人の耳元で話した。


「カメラはいたるところにあるよ。あそこにテレビカメラだ」


和人が指したところに、放送局のスタッフ用ジャージを着た男が、金属製のやぐらの上にヘッドホンを頭にかけ、テレビカメラの後部モニターを覗きながら、試合を撮影していた。


「リーエス。それなら、お向かいにもいらっしゃいますわ」

ユティスもそれを見つけたようだった。


「そうだね。ここには6台くらいのカメラを持ち込んでると思うよ」


ばぁーーーん。


「カズトさん、あれは?」

「センタービジョンっていって、グランドから遠くて個々の選手たちがよく見えないスタンド奥の人たち用の映写システムだよ。あれにも最先端科学が使われているんだ。ご免、地球の最先端科学だよ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「リーエス。そして、グランドの中のあの看板はなんですか?」

ユティスは、グランド上に線上伸びた、スポンサー企業のロゴマークのことを言った。それは何秒置きにぱかぱか入れ替わり、複数の企業を宣伝していた。


「あれは、この試合のスポンサーをしている企業の宣伝をしているんだ」

「どうしてなんですか?」


「それは、こういった国際試合は、ここにいる観客だけでなく、本当にたくさんの人がテレビを見ているからさ。宣伝効果が大きいんだよ。テレビ放送には莫大のお金がかかるんだけど、それを見ている人には無償で放送される。どこで資金を回収するかといったら、こう企業のスポンサー料なんだ」


「和人さんはよくご存知なんですね・・・」

にっこり・・・。

ユティスは尊敬の眼差しを和人に送った。


「それほどでもないよぉ。えへへ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「そうすると、やはりお金の問題なんですのね?」

「リーエス。お金集めの方法なら、地球人の知恵は宇宙一だと思うよ」

「まぁ!」


--- ^_^ わっはっは! ---




「どうなってるんだ、この連中は・・・?」


合衆国のSS、ジョバンニたちはいかにもそっち系といういでたち、ダークスーツに身を固めサングラスをつけ、ユティスの座っている後方座席で目を光らせていた。


「わからんな。オレたちのフットボールの方が、何倍もスリリングだと思えるからな」

ジョーンズはサングラスを触った。


「オレもそう思うぜ。90分も試合をやって、1点か2点しか入らないスポーツのどこが面白いんだろう。眠くなるだけだぜ」

「寝るんじゃないぞ、ジョバンニ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「わかってるって」




「はい、こちら三蔵。かぐや姫一行を3方より観察中。現在のところ異常なし」

「了解」

日本の警護官たちも、ユティスたちと少し距離を置いて、出入り口付近に陣取った。


試合は、日本チームも南米チームも互いに譲らず、ゴールシーンまでには至っていなかった。そして前半20分過ぎ、日本チームにチャンスが訪れた。


「わぁーーー!」


あわやゴールかという日本選手の放ったシュートを、南米のディフェンダー選手が、自身のゴール脇でかろうじて反応し、それはラインを割って転々と転がっていった。


「わぁーーー!」


「熊谷さん、今のは惜しかったんじゃないですかぁ?」

「そうですね。絶好のチャンスだったですよねぇ。相手陣内にあれだけ入れたのは、今日は初めてかと思います」


「本当ですね。南米チームは主力メンバーを3人欠いていますから、前半守備的な展開をしているんだと思いますが、なかなか深くに行けてないですよねぇ。日本チームはその辺をどう作戦を練ってるんでしょうかねぇ?」


「早い攻撃をしかけていきたいんだと思いますが、パス回しが遅いと思います。パスを受ける側がゆっくりしか動いていませんし、パスを出す方向を、南米チームの選手にほとんど読まれてしまっています。そこは早く修正していかないと、後半はもっと苦しくなりますよ。後は右展開に固執しすぎです。たまには左に大きく揺さぶらないと、いくら右にテクニックナンバーワンの野田選手がいるとはいえ、マークされていますから」


「昼間は使えないということですね?」

「ええ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「はい。あ、コーナーキック始まります」

スポーツアナウンサーは実況中継に戻った。


ぴーーーっ。


主審のホイッスルで、日本チームのコーナーキックが行われた。


ぱーーーん。


蹴られたボールは、ゴールのファーサイドに高く上がっていった。


たったった・・・。

そこに後方から走りこんだ日本選手がヘディングを合わせようとして、相手のディフェンダーと空中で激しく激突した。


ぱんっ!

どかっ。

どさっ。


二人の選手は互いに頭を打ち、固まって落ちてきて、グランドに倒れてそのままのた打ち回った。


ぴーーーっ!

たちまち審判のホイッスルが鳴り響き、選手が駆け寄った。




「きゃ!」

選手二人のクラッシュで、ユティスは思わず叫んだ。


「地球のスポーツって激しいのが多いわねぇ・・・」

アンニフィルドはその瞬間顔をしかめた。


「今のは、モロ頭突き・・・。激突したよ・・・」

和人は口走った。


「頭でボールを当てに行くなんて、なに考えてるのかしら?」

クリステアが理解できないというように言った。


「地球人がバカなことをするのは、こうやって頭を使い過ぎてるからよ」

アンニフィルドも言った。


--- ^_^ わっはっは! ---




放送室では解説者たちも顔をしかめた。

「いや、痛そうです・・・」

「反則はどっちですかねぇ・・・?」


ぱっ。

主審は日本選手のファールを取った。

「日本だ。主審は日本のファールを取りました。


「ぶーーーっ!」

会場の大歓声は一斉にブーイングに変った。


「南米チームのディフェンダーの方が身長がありますから、先にボールに届いてたということでしょう。そこに桶川選手が飛び込んだという判定ですね」

「あーーー、イエローカード!イエローカードが出されました!」


「違いますねぇ、ヘッディングにいった桶川選手ではなく、三郷選手です」

「どういうことでしょうか?」

「恐らく、審判への執拗な抗議でしょう」


確かに、三郷は両手を広げ不満そうになにか言って、チームメイトがそれを止めようとしていた。


「いやぁ、ダメでしょうね。判定は覆りませんよ。三郷選手、止めた方がいいですね・・・。また、イエローもらってレッドカードにでもなったら、日本は1人欠くことになります。10人で残りの70分戦うことになりますからねぇ」

解説者は三郷選手の自制を主張した。




ぴっ。

男はスマホのような無線機のスイッチを入れた。


「ターゲットはブルネットのショートヘア。繰り返す。ターゲットはブルネットのショートヘア」


「了解」

「了解」

「了解」

「了解」

「了解」


「ゴールシーンになればすぐに決行する」

「了解」


それだけ言うと男は静かに席を立った。

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