176 飛入
■飛入■
大田原と国分寺のソーシャルメディア計画はまんまとあたり、今や世界中がユティスを知るところとなった。ユティスたちは、TVで自分たちのことが世界中でホットな話題になっているに驚いた。
次の日、国分寺真紀は、中央公園でユティスたちにエルフィアの歌を歌うようユティスに伝え、同時にTVメトロにはショーを中継するよう連絡を入れた。マスメディアはユティスたちを追っかけるようになった。ユティスたちエルフィア人は容姿端麗な大変な美人だったので、とにかく目立った。
そして、その日、中央公園の野外音楽ステージではイベントの真っ最中であった。今日の目玉は、小川瀬令奈の予告無しの電撃ステージであった。
「みなさん。今日は、特別ゲストをお呼びしております。レミー賞にノミネートされた、今をときめく、実力派の美貌のシンガーと言ったら。さぁ、だれだと思いますか?」
観客は司会を見つめて息を呑んだ。
「まさか、小川・・・」
「ええ?瀬令奈なの?」
「きゃあ!」
「小川瀬令奈だ!」
「うぉーーーーっ!」
「ええ、瀬令奈?うっそぉ!」
「ホントよ、ホント!」
観客はこれを知らされていなかったので、たちまち騒ぎ始めた。
「では、ご本人に登場していただきましょう!」
「きゃーーー!」
「わぉーーーっ!」
司会がそう言うと、セクシーな衣裳に身を包んだ、すらりとした美形の女性が、さっそうと現れた。彼女は、ヘッドフォンマイクをつけ、サングラスをしていた。
「瀬、瀬令奈だ!」
「わぉーーー!」
男たちの歓声があがった。
「はぁーい、みんな。わたしよ!」
瀬令奈が頭を振ると、長い茶髪が大きく波打ち観客を魅了した。瀬令奈はサングラスを取り観客に高く放り投げた。
「瀬令奈!」
「瀬令奈!」
「オレが取る!」
「うぉー、オレんだ!」
瀬令奈のサングラスを手に入れようと、観客は大騒ぎになった。瀬令奈は、それを見て満足そうに叫んだ。
「瀬令奈よ!今日は、飛び入りで、あまりできないけど、みんな、楽しもうよ!」
「おーーーっ!」
ずどどどどどっ・・・!
ばん、ば、ば、ば、ばんっ・・・!
バックバンドの強烈なベースとドラムで、へヴィなロックがはじまった。
「瀬令奈!瀬令奈!」
観客は、瀬令奈の曲のリズムに合わせてリズムを取り、瀬令奈の名を大合唱した。
(んーーーんっ。これだわ。たまらない!)
瀬令奈は満足だった。立て続けに3曲熱唱すると、瀬令奈は大きく両手を上げて観客に応えた。
「ありがとう。みんな!ありがとう!」
しかし、瀬令奈の幸福、それもつかの間だった。司会者に一人のスタッフが耳打ちすると、司会者は大きくうなずき、さらなる特別ゲストがここに来ていることを観衆に告げた。
「みなさん、瀬令奈ちゃんのステージ、盛り上がりましたか?」
「うぉーーーっ!」
「いぇーーーい!」
「瀬令奈ちゃんの次も期待してください!」
「いぇーーーい!」
「次?」
「そうですよ。瀬令奈ちゃんで大いに盛り上がりましたからねぇ」
「あはは・・・。で?」
「最高潮を続けましょう!」
「いぇーーーい!」
瀬令奈は、ステージで司会者と和気藹々と会話を進めていたが、次なる飛び入りが気になった。
(なんなのよ、これ?飛び入りは一人だから、盛り上がるんじゃない、失礼ね!)
--- ^_^ わっはっは! ---
そんな、瀬令奈の気持ちは司会に通じなかった。
「さてさて、今日は、まだまだ、びっくりゲストがいますよ。ネットでは今や知らない人はいない。オーラをまとった天使。知ってますかぁ?」
「うぉーーーっ!」
またもや、会場はものすごい歓声に包まれた。
「みなさん、腰を抜かさないでください。はい、今度こそ、ご本人の登場です!」
「えーーーっ!」
そして、司会はステージ後方に現れたエルフィア人たちを手招きした。ガードマンに連れられて、4人はステージにあがった。瀬令奈は、ユティスを認めると、一気に血が上った。
(ユティス・・・!な、なんなのよ、あの女。いつもいつも、わたしの邪魔をしてくれて!)
TVメトロが、あの天使が仲間を連れて再び現れた。TVメトロは大げさに宣伝した。
「あー、天使さん!」
テレビを見ていた人々は口々に叫んだ。
「げっ。ユティス!なんてこった」
ステージ脇で、瀬令奈のプロデューサーの烏山ジョージは、とんでもないチャンスを手に入れて、小躍りした。
(やったぞ。このチャンス逃がすものか!)
烏山は、ユティスたちがステージの真ん中に上がっていくのを、ステージ横から見つめていた。
「おい、彼女たち、だれが呼んだんだ?」
烏山はスタッフの一人を掴まえた。
「あ、烏山さん、わたしはよく知らないんですが、テレビメトロに匿名電話で連絡が来たらしんですよ」
「ユティスを出させろってか?」
「ええ。で、急遽、小川瀬令奈さんの後に入れることに」
「そうか・・・」
「まずかったでしょうか・・・?」
スタッフは心配そうに瀬令奈の渋っ面と烏山を見比べた。
「いや。それどころか、礼を言いたいくらいだ」
「ええ?」
「いや、そんなことは、どうでもいい。電話を受けたのは、だれだ?」
「それは、わたしじゃ、知りませんよ」
「わかった。ありがとう」
観衆は、まずユティスたちの美しさに目を奪われた。
「ホ、ホンモノだ!」
「キレイ・・・」
「可愛いじゃないか・・・」
「おーーーい、彼女ぉっ!」
ぴーーーっ!
誰かが口笛を吹いた。
「こっち、向いてくれぇ!」
「はぁーーーい、みなさん!」
ちゅっ!
ぱちっ!
「うぉーーーっ!」
アンニフィルドはウインクと投げキッスの大サービスだった。
「みなさん、はじめまして・・・」
ユティスは4人の真ん中に立ち、観客に手を振った。
「いいぞぉ!」
「うぉーーーっ!」
「きゃあ!」
「あのぉ・・・、突然ですみません・・・」
「そんなこと、ないぞぉ!」
「あ、はい。ありがとうございます。これから、あのネットで歌った歌を、もう一度、ここで歌うことになりました。是非、聞いてください」
「いいぞぉ!」
「これは、みなさんの幸せを願うエルフィアの「祈りの歌」です」
「おーーーっ!」
「オーレリアン・デュール・ディア・アルティアー・・・」
ユティスたちはエルフィア語で「祈りの歌」、他を歌い始めた。和人も、この曲は、エルフィアに精神体で訪問した時に、教えてもらった曲で、とても気に入っていて、よくユティスと歌っていた。和人は、バックコーラスで参加した。
「何語だぁ?」
「黙って聞けよ、ボケ」
「なんだと?」
「しーーーっ!」
ユティスが「祈りの歌」を歌い始めると、だれが言うともなく、観衆は自然にシーンとなって聞き入った。ユティスの透明な歌声で、魂が揺さぶられるような深い優しい感情に満たされた。3人はバックでコーラスをつけ、やがて歌はクライマックスを迎えた。そして最後に4人が両手を合わせて祈りのポーズで歌を終えた。
ぽわーーーっ。
「あ、光だ!」
今やステージの上にいる4人に、柔らかな黄色味を帯びた白い光がまとわりついていることが、だれの目にも明らかになっていた。
「おい、あれ・・・」
「はい、映ってます・・・」
TVメトロのカメラマンもモニターに、あまりにもはっきりと映っていることに驚いた。
「なんだ、あの人だかり?」
「だれが歌ってるんだ?」
「あれよ、あれ、ネットで話題の天使のような女の子・・・」
「え?彼女が出てるのか?」
「そうみたいよ。さっき、アナウンスしてたから」
「ちょっと、行ってみないか?」
「うん。行ってみよう」
ぞろぞろ・・・。
会場は大変な騒ぎになり、天使を一目見ようと黒山の人だかりとなった。
「テレビメトロ、野外イベント特設部門ですか?」
「はい。いつもお世話になります」
「烏山ジョージというものですが・・・」
「ああ、どうも、烏山さん。今日は、瀬令奈さんの飛び入り出演、ありがとうございます」
「とんでもない。それより、ちょっと教えて欲しいんだけど、今日のイベントに飛び入りで入った3人の女の子たちがいるだろ?」
「はい。セレアムの女性社長さんのご依頼の方たちで?」
「そうそう、そのセレアム」
(ふっふ、突き止めたぞ。セレアムっていう芸能事務所だなぁ・・・。引っこ抜いてやる!)
--- ^_^ わっはっは! ---
「そのセレアムの社長さんに礼を一言伝えたいんだけど、電話番号とかわかるかな?」
「それは、いくら烏山さんでも、ご本人の許可なくお教えすることは、いたしかねます」
「そこをなんとか・・・。どうしても、連絡しなくちゃいけないんですよ」
「そうおっしゃられても・・・、困ります」
「じゃ、会社の番号?」
「会社なら・・・」
「頼むよ・・・」
「はい。ちょっと、お待ちください」
(やったぜ!今度こそ、あの天使の女の子をうちの事務所でくどいてやる。しかし、セレアムとは、とんと聞いたことない事務所だな・・・。それに、女性社長とか言ってたぞ。名前も確認が必要だな・・・)
烏山がいろいろ考えを巡らせていると、電話から声が返ってきた。
「烏山さん、お待たせしました」
「ああ。大丈夫」
「よろしいですか?」
「はい、よろしく」
「電話場番号は、XX-XXXX-・・・・」
「社長さんのお名前は?」
「国分寺さん。国分寺真紀さんです」
「あーあーーー。そうそう。わかった!あの国分寺真紀さんだったのですね?」
「あら、ご存知だったんですか?」
「うん。そうなんだ」
(たった今知りましたよぉ。これから、もっとお知り合いになろうってとこ!)
--- ^_^ わっはっは! ---
「やぁ、みなさん。素晴らしい歌をありがとう!」
ホストは4人に寄ってきた。
「どういたしまして」
「あははは・・・。この光はなんなのかなぁ?衣裳が特別製とか?きらきら、ゆらゆら、虹色に輝いてますよね?」
ホストは感嘆していた。
ゆらーり、ゆらーり・・・。
「衣裳から光が出てるんじゃないようだね?」
「そうよ。わたしたちの生体エネルギー場が見えてるの。この歌は、わたしたちの魂に働きかける波動になっているの。フレーズとか語調とか音階の全てが、生体波に調和しているわ。歌うほどに、生体エネルギーが震えてきて、一定量を超えると体の外に出るようになるの。それで、体の周りに光がまとわりついているように見えるのよ」
ゆらゆら・・・。
アンニフィルドがそれに答えた。
「とにかくすごいね。言ってる意味が、ぜんぜんわからないけど」
--- ^_^ わっはっは! ---
「まるで、天使みたいですよ」
にこっ。
「光栄だわ」
クリステアが観客を見つめて言った。
「生体エネルギーって、だれでもそうなるの?」
「ナナン。頭脳や体の各細胞がある程度活性化してないと無理ね」
和人たちは、ハイパー通信で声を出すこと無しに、互いに意思疎通した。
「だったら、オレは?」
「和人さん、あなたはもう活性化が進んでいるから、わたくしたちと同じくらいに光に包まれてますわ」
「そうなんだ」
「はい」
(まったく、なんてこと!これじゃ、わたしは、この女の前座じゃないの!ジョージに問いたださなきゃ、気がおさまらないわ!)
ステージ脇に追いやられた瀬令奈は、ステージのマイクを掴むとユティスの左そばに歩み寄った。
つかつか・・・。
「うぁお。あなたたち、素晴らしいわ。本当に、天使かもしれないわね。わたしにも見えてよ。あなたたちにまとわりついている微かな光・・・。なんのマジックなの?教えてくださる?」
観客は瀬令奈が再び登場して、さらに盛り上がった。しかし、いきなり瀬令奈がユティスのすぐそばに寄ってきたので、アンニフィルドとクリステアは警戒した。
すぐに、アンデフロル・デュメーラも反応した。
「ユティス、アンニフィルド、クリステア。ユティスのそばに危険な意思を察知しています。そこの小川瀬令奈という女性、表情と心が矛盾しています。気をつけてください」
「リーエス。ありがとう、アンデフロル・デュメーラ」
「何かやるわよ、この女・・・」
とアンニフィルドはユティスとクリステアに心で囁き合った。
「危ないぞ」
アンニフィルドの目配せで、和人にも、それはわかった。
「リーエス。いい、和人?」
クリステアがウィンクをした。
「公衆の面前だ。ちょっとは考えてくれよぉ・・・」
「リーエス。あなたは、ステージ後方に隠れて。いざという時には、スクランブルよ」
「リーエス。きみに従うよ」
アンニフィルドは、和人に自然にステージの後ろに下がるよう指示した。和人は指示にしたがい、マーセルの特大200Wアンプのタワーのかげに隠れた。観客からは和人は見えなくなった。
(よし、だれも気づいていない・・・)
その時、烏山ジョージが和人のそばで囁いた。
「よう」
和人は、後ろを振り向くと、すぐに烏山だと気づいた。
「か、烏山さん・・・」
「久しぶりだな」
「は、はい・・・」
和人は警戒した。
「そう、じゃけんにするなよ。せっかく再会したんだ」
「いつ、ユティスが、あなたの事務所から、デビューすることになったんですか?」
「説明は後にしよう。今は、瀬令奈だ。あいつ、なんか企んでるぞ。オレにも匂う」
烏山はクンクン鼻でかぐ仕草をした。
「気をつけろよ。こういう時の瀬令奈は、危険だ」
「なにをしようと?」
「さぁ。だが、はっきりしていることは、ユティスに、なにかしようってことだ。あんなに笑いかけて、おかしかないか?」
「そう思ってたんです。目が笑ってません・・・」
「はっ。そいつはすごい。きみの観察力は探偵並みだぞぉ」
(アンデフロル・デュメーラの警告のおかげだな・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
「大丈夫だ。ステージの下には、屈強のガードマンがいる」
「・・・にしても」
「信用ないんだな・・・」
「だって、あなたは小川瀬令奈のプロデューサーでしょ?」
「そうだよ。だからといって、瀬令奈一人を、専属で受け持ってるわけじゃない」
「はぁ・・・?」
「オレは、ユティスをプロデュースしたいんだ。そのためには、瀬令奈を手放すことになってもいい・・・」
「烏山さん・・・」
「ほれ。ちゃんと、ウォッチしてなきゃ・・・」
「あ、はい」