175 苗字
■苗字■
「いいから、じいさんの用件はなんだよぉ?」
「呼んだのは他でもない。エルフィア人たちのことだが、Z国の動きが怪しい」
大田原は瞬時に真顔に戻った。
しゃきっ。
「そうだな。今のうち、日本政府が正式にエルフィア使節団として身柄を保証しないと、他国に横取りされかねない。それに、言っちゃ悪いが、あのくらいの警備じゃまったく当てにならん。念には念を入れて警護を固めてくれ」
「そうか、倍に増やすか」
「違う。中身の問題だ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「今のあれじゃ、警護というより・・・、監視にもなっていない。常時3人の貼り付けはもっと精鋭がほしい。グリーンベレークラス」
「無茶を言うな、俊介。それはちと荷が重い」
「エルフィアのSS二人は、グリーンベレーどころか、1人で同時に2個大隊を、マジに相手にできるぞ」
「わかった」
「最低でも、藁志野の空挺くらいの根性あるヤツにしてくれ」
「やってみよう」
「ありがとう」
「で、身柄の保証は日本国籍だけでいいのか?」
「それしかない。OKだ」
「何人だ?」
「3人。ユティス。アンニフィルド。そして、クリステア」
「フルネームとスペルを確認したい」
「わかった。後で連絡する」
「ありがとう」
投稿ビデオやらテレビやらで、映っていた人間について、今や世界中が調査を終えていた。Z国大使館では、リッキー・Jと上司が、モニターを見ながら、密かに話し合っていた。
「リッキー。きみは、これをどう見る?」
「例のテレパスの女でしょう?」
「ユティスという名前の女か?」
「間違いないです」
リッキー・Jは頷いた。
「この声には、聞き覚えがあります」
「ほう。テレパスの声は、生だろうが、頭に直接伝わろうが、同じというわけか?」
「ああ。保証します。この女が、わたしの精神波を嗅ぎ付け、ブロックし、宇都宮和人に行動を取らせたのです」
「わかった」
「宇都宮和人は、株式会社セレアムの人間です。そこを張れば、必ず、ユティスにたどり着きます。それに、宇都宮和人の連れの石橋可憐は、依然わたしのコントロール下に置いてあります」
「ご苦労。リッキー、すぐに作戦に移ってくれ」
「了解しました」
「政府は、きみたちエルフィア人のきみたち3人に、日本国籍を与えることに決めた」
俊介はエルフィア娘の前で重要宣言した。
「ふうん。和人や俊介たちと同じってわけね。ありがとう」
「礼には及ばんさ。日本は、地球でも数少ない選択の自由が保障されている国だ。国内の移動、職業、信条、表現、教育、結婚もな。望んで努力するなら、だれだって好きなことをできる」
「なにをしてもいいのですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
ユティスが、確認を促した。
「他人や、公共の自由を侵さない限りはね」
「意外に、いいところじゃないの」
クリステアが言った。
「わたくしたち、ある意味、地球人ってことにもなるのでしょうか?」
「そうだな、ユティス。きみが日本人ということになるなら、必然的に地球人でもある」
「それって、とっても妙な感じ。こんなこと初めてよ。エルドは、どう思うかしら」
アンニフィルドが言った。
「気になんかしないわよ、地球の国籍なんか」
「それに細かいことだが、税金は免除」
--- ^_^ わっはっは! ---
「当然ね」
クリステアが言った。
「そのかわり、文明促進支援はよろしく頼む。なにしろ、新興国は低賃金を武器に、日本の経済をガタガタにしにきている。このままだと、日本はビジネスとしては、世界一つまらない国になってしまう」
「そんなことはありませんわ」
ユティスが反論した。
「和人がいる限りって、言いたいんでしょ」
ぱちっ。
アンニフィルドが、ウィンクした。
「そ、それは・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「当たったようね」
クリステアもユティスを見て言った。
「まぁ、お二人とも・・・」
ユティスは赤くなった。
「かいかぶりすぎだよ」
和人も目を伏せた。
「とにかく、そういうわけだ。ついては、きみたちのフルネームを聞かせてくれるかな。スペルも正確に」
「リーエス」
「だれから?」
「わたくしからまいりますわ」
ユティスが言った。
「よろしいですか?」
「ああ」
「ユティス・アマリア・エルド・アンティリア・ベネルディン」
「ちょっと、待て。早すぎる。名前も長い!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「常務、ユティスたちに書いてもらったら?」
「そうだな。和人、紙とペン」
「了解です」
すらすらすら・・・。
「ん?」
アンニフィルドの書いた文字は、俊介の理解を超えていた。
「なんだこりゃ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「失礼ね、わたしの名前よ」
「エルフィア文字ですよ。常務」
和人が説明した。
「そ、そうだよな・・・。すまんが、スペルは、地球式のアルファベットでお願いする。エルフィア文字は読めないんでね」
「リーエス」
「常務さん、大丈夫ですわ。すぐに慣れます」
にっこり。
ユティスが、微笑んだ。
「そ、そっかぁ?」
「リーエス」
「なにしろ、アンニフィルドが、後で教えてくれるはずだから・・・。手取り足取り」
--- ^_^ わっはっは! ---
「クリステアってば!」
「あーら、したくないの、個人レッスン?補講もOKだっていうのにぃ・・・」
「お、おほん!」
俊介が咳払いした。
「くだらんこと言ってる暇があるなら、さっさと書きたまえ!」
「リーエス」
「なんか、フェリシアスの言い方そっくりだわね・・・」
クリステアが小声でアンニフィルドとユティスにささやいた。
「ほんと・・・」
「さっさとする!」
「リーエス!」
「聞こえちゃったかなぁ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
すらすら・・・。
「はい、これでおしまい」
俊介はエルフィア娘たちの書いた名前をじっとながめた。
「・・・で、これのどこが苗字なんだ?」
「苗字・・・、ですか?」
「家族を表す名前のことだ」
「それなら、エルフィア人にはないわよ」
クリステアが言った。
「ない・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「どういうことなんだそれ?普通あるだろ、佐藤とか、鈴木とか。オレは国分寺だし。和人は宇都宮・・・」
「でも、ありませんわ」
にこ。
ユティスが微笑んだ。
「エルフィア人の名前は、両親のつけた名、母親の名、父親の名、歴史的人物由来の名、そして、守護天使や聖人の名から構成されていますの」
「それはすごい」
「長くなるわけだ」
「でもそれ・・・、困ったぞ・・・」
「どういうことですの?」
「日本、いや、地球人になるは家族名が必要になる」
「どうして?」
「どうしても言ってもなぁ・・・。法律でそうなってるとしか・・・」
「常務、どうするつもりですか?」
和人は心配になった。
「いっそ、作っちゃえば?」
クリステアが言った。
--- ^_^ わっはっは! ---
「そうよ。どっちみち、あたしたちには、家族名なんかないんだから、出せって言っても、出せないものは出せないわ。作っちゃいましょう」
アンニフィルドも相槌を打った。
「おいおい。そんな安直に決めていいのか?一生ものだぞ」
「地球人だって、最初は、そんな風につけたんじゃないの?」
「たぶんな・・・」
「だったら、地球で一番ポピュラーなのはなに?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「日本でだろ?」
「そう、日本で」
「佐藤かな・・・」
「砂糖ですか?」
「甘くていい名前だわぁ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「違う、違う。サトウ違いで、佐藤!」
「砂糖クリステア・・・、なぁんて、いかさない?」
「いい、いい。それ!」
「その次に有名なのは?」
「鈴木かな・・・」
「鈴木アンニフィルド。これも、いいわ」
「じゃあ、わたくしは?」
「ユティスは、宇都宮に決まってるじゃないの」
--- ^_^ わっはっは! ---
クリステアとアンニフィルドが同時に言った。
「えっ、オレの名前?」
「どうせ、いつかくっついちゃうんでしょ。いまから名乗っちゃえば、ユティス」
「まぁ!」
かぁ・・・。
ユティスは真っ赤になった。
「あの、それでは和人さんが、お困りでは・・・」
「それって、まるで、一つ家族じゃないか。結婚だってしてないだぞ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「それ、困るの?」
「籍を入れる時、二人とも宇都宮じゃ、実感てものがわかないじゃないか」
--- ^_^ わっはっは! ---
「籍。なぁに、それ?」
「アホかおまえ・・・」
俊介が言った。
「あーーーっ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
和人は、自分で言って、その意味することに気づき大いに慌てたた。
「ダメダメ。宇都宮は、なし、なし!」
「待てよ。和人・・・」
国分寺が言った。
「宇都宮かぁ。いいじゃないか。苗字が同じで悪いことがあるもんか」
「でも、語呂ってものもあるし・・・」
「宇都宮ユティス。どこがいけないんだ?」
「いいじゃないの!」
ぱちぱち・・・。
クリステアが手を叩いた。
「決まりね!」
アンニフィルドも陽気に言った。
「あのぉ・・・」
「ユティスは、もちろんOKよね」
「リーエス・・・」
「で、クリステアは、佐藤でいいのか?」
「悪いの?」
「いいや」
「じゃ、それ!」
「なんか、軽すぎるわね。国分寺はどう?」
--- ^_^ わっはっは! ---
アンニフィルドがにやりとして言った。
「アンニフィルド。なんで、クリステアが、オレの名前なんだ?」
「考えるの面倒くさいわ。それに、あと知ってる名前で慣れているのは、国分寺しかないから」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そうですわね」
ユティスが言った。
「ああ、なんて面倒くさい世界なの」
アンニフィルドが言った。
「全員、宇都宮にしましょうよ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あたしたち、姉妹ってわけね」
クリステアも言った。
「いかがですか、和人さん?」
にこ。
ユティスが微笑んで言った。
「ユティスだけじゃなくで、きみたちもか?」
「リーエス!」
3人はコーラスした。
「他は、イヤ。絶対にイヤ!」
「アンニフィルド、きみは国分寺の方が」
「イヤ!」
「お、傷つくなぁ、それぇ」
--- ^_^ わっはっは! ---
俊介がアンニフィルドを見た。
「俊介と同じじゃ、家の表札がおかしなことにならないかしら?」
「だから宇都宮にする」
「待ってよ」
「だめ、宇都宮。宇都宮。宇都宮!」
--- ^_^ わっはっは! ---
アンニフィルドが断固主張した。
「決まりだな、和人」
俊介が結論した。
「そ、そんなぁ・・・」
にたっ。
「家の表札も宇都宮の一つで済むしな」
俊介はそれを了解した。
「あー、もう勝手にしてくれちゃって」
「和人。言っとくが、これは、おまえの問題じゃなくて、3人の問題だ。本来、おまえには意見する権利すらない」
「リーエス・・・」
しゅん。
「で、ユティスたちの国籍取得はどうなってるって?」
「万事、順調さ。彼女たち、苗字にあたるものがないとかで、新しく作ったんだよ」
「苗字を?どんな名前にしたの?」
「それがな、みんな揃って、宇都宮なんだ。いやぁあ、驚いただろ?わははは・・・」
それを聞くと真紀は仰天した。
「わはは・・・。ん、なんか不満か、姉貴?」
「なんですって?もう一度言ってごらんなさい」
「だから、ユティスたちが、日本国籍取得のために、苗字を宇都宮に決めたって」
真紀は頭を抱えた。
「あのね、俊介・・・。石橋の立場は考えたの?」
「いいや。なんで、そんな必要がある?」
「まったく。自分の大好きな相手の苗字と恋敵が一緒になるってことは、どういうことを意味するか予想できなかったの?しかも、揃いも揃って、3人全員、宇都宮だなんて」
「あはは。そういうことかぁ」
「バカ。どうして、あなたはいつもそうなの。石橋に辞められたら困るんでしょ?」
「当座、すっごく困るだろうな、二宮は・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「んもう、いいわ。会社のデータには、戸籍は載らないから、絶対にみんなに言っちゃだめよ。今までどおり。ユティス、アンニフィルド、クリステア」
「わかったよ」
「3人にも、しっかり念押ししといてね」
「和人は?」
「和人は、自分から3人の姓が宇都宮になったなんて、恥ずかしくて言えるわけないわ」
「役所の届けは?」
「じいさんの連絡待ち。内閣府の承認番号がないと、役所じゃ、だれもなんにもしてくれない」
「あ、そう」
「あなたたち、いいこと。これは文書上の話だから、日常生活では、宇都宮を名乗る必要はまったくないわ。第一、姓が同じでも籍が同じって訳じゃないんだし。これは地球での仮の名前。あなたたちの本当の名前は、生まれた時に、ご両親がつけてくれたものよ。この大宇宙に一つしかない。それは絶対に変わらない」
「リーエス」
エルフィア人の3人娘は言った。
「会社の名刺には、日本名ではなく、エルフィアの名前を入れるわ」
「最初の名前だけですか?」
「ユティス。アンニフィルド。クリステア」
「んーーー。それじゃ、お水系のお姉さまみたいだわねぇ・・・」
「お水系?」
--- ^_^ わっはっは! --ー
「わかったわ。こうしましょう。あなたたちのご両親名までを入れる。ユティスは、ユティス・アマリア・エルド」
「それじゃ、ファーストネームのかたまりになっちゃわない?」
アンニフィルドが言った。
「じゃ、歴史的人物名と守護天使・聖人名」
「それ、いいかも」
「ユティスは、ユティス・アンティリア・ベネルディン」
「それ、いいわ」
「ええ。じゃ、決まりね。で、アンニフィルドは」
「アンニフィルド・ミルディエット・エメルフィス。クリステアは、クリステア・ユリセアル・ロアルナ」
「リーエス」
「それらしくなったわねぇ。今日発注するから、明後日には3人に渡せると思うわ」
「楽しみだわ」
「ホント」
「ハーイ、宇都宮さん」
「あーら、宇都宮さん」
--- ^_^ わっはっは! ---
「どうしたの、あなたたち」
「あらまぁ、宇都宮さんたら」
(ゲゲッ、親戚の法事かよぉ)
--- ^_^ わっはっは! ---
和人は、想像をたくましくしすぎて、気持ち悪くなった。
(絶対に、地球の法律がおかしい)
「はぁ、はぁ。ユティスはユティス。アンニフィルドはアンニフィルド。クリステアはクリステアだぁ。苗字なんか、クソ喰らえーっ!」
「あのね、和人。なんで、家族名や戸籍があるか知ってる?」
真紀がニヤっとした。
「知りません」
「政府が、相続税、住民税、社会保険料とかを、取りっぱぐれないようにするためよ」
「それだけのため?」
「それだけって、国家予算を左右するくらい大きいのよ。個人が生涯で一番の支出するものはなにかといったら、税金と保険料なんだから。自分の稼ぎや税金を算出するのを面倒くさがって、源泉徴収という、お国の最高のサービスに甘えているサラリーマンには、そのサービス代はとんでもなく高くつくわ。押し売りサービスだけど」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そんなサービス、要らないって言えないんですか?」
「言うのは勝手だけど、払わなければ、即、差し押さえ。その後、留置場よ」
「うへぇ・・・」
「サラリーマンでいる限り、今後、一切逃げ場はないの。ついでに言うと、払った保険料を取り戻すことは、まず無理ね。あなたやわたしが年老いた時には、年金は破綻して、1円だってもらえない可能性大よ。自分たちで使うだけ使って、赤字予算を何十年も他人事で組んできた運用者のツケね」
「運用は、オレたちがしてるんじゃないんですけど?」
「ええ。その通り。でも、運用者になる権利を放棄したんでしょ?」
「権利放棄なんかしてませんが?」
「あら、最高学府を出て、国家公務員のキャリア試験に受かってなかったの?」
「そういうことなら、受ける資格さえありませんでした・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わたしもそう。試験は受けなかったわ」
「え?じゃ、T大、最高学府まではいってたんですか?」
「ええ。何回もあるわよ」
「何回も?」
「なんなら、これから一緒に行く?だれでも学食食べて帰ってこれるわよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そういう意味じゃないです・・・」
「わかってるわ。でも、キャリアにならなかったんだから、政府にとっては、権利放棄ってことだわ」
「なるほど。それで、取られっぱなしの方に回ったってことですね?」
「合法的にね」
--- ^_^ わっはっは! ---
「けど、ビジネスオーナーは・・・」
「オレたちも、個人事業主だから・・・」
「経費が認められてる分については、ちっとはましってとこ」