167 強盗
「はぁい。アンニフィルドです。前回までのユティスの『銀河の彼方計画』メンバーに対する演説どうだった?ここからは二宮に急展開が訪れるわ。イザベルとの関係も急展開よぉ」
■強盗■
「銀河の彼方計画」のメンバーとの面会を終えて、エルフィア娘たちはいつもの生活に戻っていた。Z国もカメ横でのユティス拉致失敗以来、目だった動きもなく、3人は事務所でいつもの地球の仕事をしていた。
「きみたちのサイトを立ち上げたから、メンテをしっかり頼むぞ」
俊介はクリステアが捜査しているサイト画面を見ながら言った。
「そうね。でも、なんだかすごく創作なんだけど、いいの?」
「アイドルなんて、創作さ。みんなでっちあげ、本人の実生活とはまったくかけ離れているさ。でも、アンニフィルドからきいたんだけど、あの小川瀬令奈ってのは、見た目とは真反対らしいな?」
「なにが?」
「イメージと実物だよ。アンニフィルドが派手にやっつけたって得意顔だったぜ」
「わたしが止めなかったら、取っ組み合いになってたわ」
「わははは。見たかったぜ。今度はちゃんとそうなる前に知らせろよ」
「コンマ1秒で来れるんなら、そうしてもいいわよ」
「コンマ1秒?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「コンマ3秒くらいまでなら許容範囲ね。アンニフィルドにそう指示するから。決定的なシーンはあっというまに終わるのよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「オレ、外に出かけるわぁ・・・」
「いってらっしゃぁーい」
ひらひら・・・。
クリステアはPC画面を見たまま、左手で俊介に手を振った。
痩せたた二人の男が、だれも住んでないようなボロアパートの一室で、目だけをぎらぎらさせていた。
「おい。どうする?」
「どうせ、このままじゃ、捕まっちまうんだ」
「もう、金、一銭もないぜ」
「ふん。町にゃいくらだって転がってる」
「やるのか?」
「ああ。背中と腹がくっつきそうだ。もう、4日も食ってねぇ・・・」
「昼間じゃ、やべぇよ」
「知るか。捕まりゃ、捕まったで、ブタ箱で飯くらい出るだろうよ」
「で、おまえ、やるのかよ?」
「金も食い物もあるとこをな・・・」
「コンビニか?」
「おう。ここにいたって、飯にはありつけねぇよ。支度しな」
「ああ・・・」
男たちは、ふらふらしながらも、そこを出た。
事務所では、二宮が書類を書き間違えて、いつもの騒動の最中だった。
「えーーー?後株じゃなくて前株にしなくちゃいけないって?」
「ほら、よく見てください。二宮さん」
石橋は、二宮の書いたビジネス文書の相手先を示した。
びりびり・・・。
ばんっ。
「ちくしょう、また書き間違えた」
すたすた・・・。
二宮は自分の席に着いた。
「二宮、荒れてるわねぇ・・・」
茂木が二宮を見た。
「いつものことよ。書類、どっかに必ず誤字脱字があるんだもの。ねぇ、石橋?」
「あ、ここもだ・・・」
「どれよぉ?」
石橋が言うと、岡本がそれを覗き込んだ。
「なになに、『平素より、格別のご後輩の玉割り、厚くお礼申しあげます・・・』。きゃははは!」
--- ^_^ わっはっは! ---
岡本が口に出して言った。
「なぁに、これ?」
「きゃあ!」
かぁ・・・。
その意味するところに、真っ赤になり石橋は思わず文書を手放した。
それを真紀がまた拾い上げた。
「だめじゃない、石橋、文書投げちゃったりして・・・」
「すいません、真紀さん」
石橋は誤った。
ちらっ。
「ぷふっ・・・。なにこれ?」
真紀も石橋が真っ赤に鳴った理由を理解した。
ぽん。
真紀は石橋の肩を叩いた。
「ねえ、石橋。まったく二宮には苦労するわよねぇ・・・」
「はあ・・・」
石橋はうつむいた。
「くっそう、気分転嫁。気分転換!」
がばっ。
「ちょっと、飲みもんでも買ってきます」
「おう、二宮、オレのコーヒーも」
国分寺は二宮にコーヒーをリクエストした。
「了解っす、常務」
「あ、あたしのは」
「ひどい、わたしのも」
周りの女子社員が次々に言った。
「こら、あんあたらは、自分で買えよ」
「あー、女性差別なんだぁ!」
真紀が思いっきり大声を出した。
「わかりましたよ。おー、怖ぇー」
「なんか言った?」
「なにも」
「てなこと言って、どうせ、向かいのコンビニの、オレのイザベルちゃんに、おしゃべりしに行くんでしょ」
経理マネージャーの茂木が突っ込んだ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「オレの仕事にケチつける気っすか?」
「いいから、さっさと、行って来い」
「うーーーす」
「相変わらず面白い方ですね、二宮さん」
ユティスは、和人の横に座って微笑んだ。
「あっ、ユティスとおまけの和人は?」
「おまけ?」
「くす。紅茶、テ・オ・レ」
「わたくしも」
「だめだ。多すぎ。和人、手伝え」
「えー?」
「えーじゃない。すぐそこじゃないか」
「じゃ、先輩、先に行っててください。後から追いかけますから」
「逃げんなよ」
二宮は出て行った。この2、3分の差が二宮の運命を変えてしまった。
ぴんぽーーーん。
「いらっしゃいませ」
(イザベルちゃん、今日もいるな。道場とは全く別人だ。髪はおろしているし、道着でないし、いつもにこにこしてて、惚れるなって方がムリだぜ。にしてもなんて可愛いんだろう・・・。でへへ)
--- ^_^ わっはっは! ---
「あ、二宮さん」
にこっ。
「おす、喜連川さん」
「いいんですよ、おす、おす、言わなくて。ここ、道場じゃないから」
「おす」
--- ^_^ わっはっは! ---
「もう、知らない。うふっ」
「あの、会社どう?」
「ええ、考えているところです。でも、もし、わたしが二宮さんの会社に入ったら、絶対に、『先輩、おす』だけは止めてくださいよ。道場ではわたしが黒帯だからといっても、会社では、二宮さんが大先輩なんですから」
「えー、そうなるんだっけ」
「もう、いやだ。先輩!」
「やった!」
(今日も会話したぞ)
「お手洗いお借ります」
「どうぞ」
ぴっ、ぴっ・・・
「なんでしょう?」
「どうしたの?」
「アンデフロル・デュメーラからの緊急警告のようですわ」
「また、Z国かい?」
「わかりません。どうやら、わたくしたちにでは、なさそうです」
和人とユティスは顔を見合わせた。
「エージェント・ユティス。緊急警告です。そちらのお仕事のご友人に、暴漢が接近しています。殺意を持っています。50メートル以内に接近しました。男性、二人組みです」
「アンデフロル・デュメーラの警告です」
「リーエス」
「外だ、ユティス」
「ええ。イザベルさんと二宮さんですわ」
「急いで先輩に警告を!」
「はい」
店の外では、二人の男が怪しげに会話していた。
「おい、店員はこの女一人だ」
「やるぞ。ああ、今だ」
すっ。
男たちはコンビニに急いで入った。
すたすた。
「いらっしゃい・・・」
ちゃっ。
「静かにしろ」
一人がイザベルに刃渡り20センチはあるナイフを突きつけた。
きらっ。
びくんっ!
ナイフの刃の鋭い光がイザベルを一瞬で恐怖に陥れた。
「ああ・・・っ」
ぶるぶる・・・。
イザベルは、たちまち全身が震え始め、ひざの力が抜けてきた。
がくがく・・・。
「金だ、レジの金をよこせ。さっさとしろ、このアマ!」
男はイザベルの喉もとにすっと刃を這わせた。
ちくり・・・。
すすぅ・・・。
小さいが鋭い痛みが走り、イザベルの首に一筋の血が滴り落ちた。
「うっ」
「へっへ。どうせ、オレたちゃ、人生の落ちこぼれモンよ。命なんか惜しくもねぇ・・・」
ユティスは二宮の頭脳に呼びかけた。
「二宮さん、大変です。強盗が、イザベルさんを襲っています」
「ユ、ユティス?」
「お願い、急いでください!」
「わかった!あと5秒待ってくれ」」
--- ^_^ わっはっは! ---
二宮が用を足して出てきたら、男の一人が、二宮には背を向けて、イザベルにナイフを這わせようとしているところだった。
「イザベルちゃん。強盗・・・」
二宮はそうと確認すると、男が横を向いてる間、男に向かって一気に突進した。
だっだっだ・・・。
どっがーーーん。
二宮の体当たりで、男は吹っ飛び、イザベルを放した。
「この野郎!」
「あわわっ!」
イザベルを掴まえていた男は、イザベルを放すと、ナイフを捨て、あわてて外に逃げた。
「ああ、あっ」
「くたばりやがれっ!」
ところが、二宮の後ろから、もう一人の男が刃渡り10センチのナイフを逆さに構えて、両手で二宮のわき腹を刺した。
ずぶっ・・・。
「うっ・・・」
二宮は、一瞬、息ができなくなった。
(この野郎・・・)
しかし、二宮は表情を大して変えなかった。二宮はわき腹から流れ出した血を手ですくい一目くれると、自分の口に持っていき、ペロリと舐めた。
「へっへ・・・。へたくそめ・・・」
「うわぁー、ひー」
男はそれを見て恐怖にすくみあがった。
「キエーッ!」
だっだぁーーー。
二宮は、突然、奇声を発すると、男との3メートルを一気につめ、強烈な横蹴りを水月に見舞った。
どかっ。
ぼきっ。
どかどか。
がらがらがらがら・・・。
がっしゃーーーん。
男はまともに二宮の横蹴りを喰らい、4、5メートル吹っ飛び、陳列棚の商品に突っ込み、ピクリとも動かなくなった。
ぴとぴと・・・。
ぽたぽた・・・。
「イザベルちゃん、ケガなかった?」
二宮はイザベルの名前を呼んでいたことに気づかなかった。
よたよた・・・。
二宮は、イザベルの方に歩を進めた。
ぽたぽた・・・。
「ニ宮さん、血、血が・・・」
二宮はイザベルの手前で止った。
「ひどい、ひどいケガ・・・」
「ちょっと刺されただけだよ・・・」
しかし、既に二宮の顔は真っ白だった。
べとぉ・・・。
二宮が歩いたところはもはや血の海だった。
「ごめん。オレ、お店汚しちゃった・・・」
ぐるりん。
「あれっ?」
二宮は目の前が暗くなったかと思うと、回りの景色が回るのを感じた。
どた・・・。
そして、気を失い、その場に崩れた。
「二宮さん。二宮さん・・・。いやぁ!」
イザベルは悲鳴をあげた。
「だ、だれかぁ!た、助けてぇ!誰か、誰かぁ!」
「エージェント・ユティス。大変です。お友達が、暴漢に襲われました。すぐに助けに行ってください」
「リーエス。ご連絡、ありがとう。アンデフロル・デュメーラ」
「早く!出血しています。一秒を争います」
「和人さん。イザベルさんが助けを呼んでいます!」
「ユティス!」
「外ですわ!」
だっだっだ・・・。
和人とユティスは事務所を飛び出した。
「早く!」
「はい」
どたばた・・・。
「おい、こら。和人、ユティス、どこに行く!」
俊介はそんな二人を見て、嫌な予感がした。
がたっ。
「わたしも」
「い、石橋まで!」
「通りを隔てたお店です」
アンデフロル・デュメーラから、二宮の倒れた位置情報が来た。
「あっちだ。向かいのコンビニ」
「リーエス」
「どうしたのよ?
たったった・・・。
システム室からクリステアとアンニフィルドが飛び出してきた。
「お二人とも、申し訳ありません。警告が遅すぎました。男性一人が、刃物を体に受けて重体です」
「仕方ないわ。アンデフロル・デュメーラ、ケガ人の名前はわかります?」
クリステアがきいた。
「ニノミヤと呼ばれています」
「二宮か。こうしちゃおられん。行くぞ」
俊介は二人を呼んだ。
「わかったわ」
「アンニフィルド、クリステア」
「リーエス」
「容疑者、一人は逃げ出しました」
「アンデフロル・デュメーラ、そいつの位置を捕捉して」
「リーエス、SS・クリステア」
向かいのコンビニから女性の悲鳴の後、大きな叫びが聞こえた。
「誰か、誰か、助けてぇ。死んじゃう、二宮さんが!」
「イザベルさんです」
3人はコンビニに飛び込んだ。
「喜連川さん、どうしましたか?」
「二宮さんが、刺されたの。血が、血がたくさん出て、死んじゃう、うううっ」
イザベルは床にへたり込み、二宮の頭を支えながら泣いていた。
「これは、ひどいわ・・・。ユティス、応急手当てよ」
「リーエス」
「オレは救急車を呼ぶ」
「リーエス」
ぽわーん。
ユティスの手に光が宿りどんどん強くなっていった。
「我、二宮祐樹、汝の傷を癒さん。すべてを愛でる善なるものよ、願わくは、我の掌に力を与え、汝の命を救わんがために、我が慰みを受入させ給え」
「に、二宮さん」
石橋は刺さったナイフを抜こうとした。
「いけません!抜かないで。無理に取ろうとしたら、体内組織と動脈をよけい傷つけてしまいます。命にかかわることになりますわ」
ユティスは石橋を制した。
「でも、二宮さん、死んじゃう!」
「わたくしに任せて。それから、商品棚からタオルかガーゼを」
「はい」
「汝の魂よ、我が言葉を聞き・・・」
ぽわーーーっ。
「あっ。ユティスさんの手から光が・・・」
石橋はその光がこの世のものとは思われない程、優しく美しく見えた。
ぽわーーーっ。
ユティスの手の光は、どんどん強くなっていった。
「・・・流るる血を止め給え・・・」
「ユティスさん、あなた、いったい・・・」
石橋は目を大きく見開いて、それを見つめた。
「石橋さん、今は、なにもおっしゃらないで」
ユティスは一瞬微笑むとすぐに真剣な表情になり、二宮の傷を癒すことに集中した。
「石橋さん・・・」
そこに和人が戻ってきた。
「あ、和人さん・・・」
石橋は和人を振り向いた。
「ユティスは、人を癒す特別な力を持っているんです。説明は後です。ここは見守ってくれますか?」
和人は強く願うように言った。
「あ・・・、はい・・・」
「我が願いは、汝の傷を癒すこと・・・」
ぽーーーっ。
「汝の傷を塞ぎ、汝の体より出る血と力を留め給え。なお、我より出る精神により、汝の体内に刺さる刃を取り除き給え・・・」
さーーーっ。
ユティスは、目を閉じると右手を、二宮のわき腹にかざした。
「血が、血が、すごい、まるで血の海だわ・・・」
どろーーーっ。
「石橋、黙ってろ」
後を追っかけてきた俊介が、石橋を制し、今起ころうとしていることに固唾を飲んだ。
「今、汝の体に刺さりし物を我が手に導き、汝の傷を癒し給え・・・」
ユティスがそう唱えると、ユティスの右手はピンクがかった強烈な光に包まれた。
ぴかぁーーーーっ。
「うぁ・・・。ナイフが・・・」
するする・・・。
二宮のわき腹から、ナイフが独りでに少しずつ抜けていった。そして、ナイフが抜けるところから、二宮の傷は癒えていった。
「あと少し・・・」
「我が手に・・・」
ぽとっ。
そして、ナイフは、完全に二宮から抜けると、ユティスの右手に収まった。
「石橋さん、ガーゼを・・・」
「は、はい・・・。二宮さんの顔が白い。う・・・っ」
どたっ。
石橋は、ユティスにガーゼを渡すと、気を失った。ガーゼは一瞬で真っ赤に染まった。
「石橋のバカ、何しに来たんだ。血を見て失神しやがった。和人、石橋を」
コンビニに飛び込んだ俊介は、一瞬で様子を把握した。
「はい」
「なんで、こういう時に男どもがいないんだ!」
「常務が、女の子しか採用しないからでしょ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わかってるよ、んなこと」
ぴーぽー、ぴーぽー。
きーーーぃ。
かちゃ。
だっだっだっだ・・・。
「レスキューです。ケガ人は?」
「あそこです」
「どうも・・・」
「そこだ。いかん、出血がひどい、大至急、手術しないと」
「襲われたんですか?」
「そうです」
ぴっ。
「コンビニで強盗に襲われ、男性客の1人がナイフで刺された模様。わかりました。中央病院で緊急受入可能ですね。ええ、ケガ人は出血がひどく、輸血の準備もしておいてください」
「二宮は、B型Rhマイナスだ」
俊介が救急隊員に言った。
「それ、確かですか?」
「間違いない」
「緊急ストックがあるか心配です」
「わたし、B型でRhはマイナスです!」
「イザベルさん・・・」
「こちらの女性はケガ人と同じ血液型なんですか?」
「ええ」
「では、病院にご同行願えますか?」
「はい」
どたばたっ。
「急げ」
「それ」
どたんっ。
「大山中央病院だ。1秒を争うぞ」
「我々は、大山中央病院に向かいます」
「はい」
「二宮さん」
「イザベルさん、しっかりしてください」
「うう、うーっ」
イザベルは急に泣き始めた。
「二宮さんは、大丈夫です。ナイフの取り出しと、とりあえずの止血と殺菌を、わたくしがしました」
「うう・・・。ユティスさん、あなた・・・」
「イザベルさんは、二宮についていらしてください」
「ええ・・・」
ぴーぽー、ぴーぽー。
救急車は、二宮とイザベルを乗せ病院に向け走り去っていった。