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165 理由

■理由■




首相官邸の特別会議室では、ついにエルフィア人たちがその姿を現すことになった。首相の藤岡は合衆国の大統領会談に臨むため、今回は欠席していたが、それは十分に練られた結果であった。


ざわざわ・・・。

早朝ということも手伝って、回りはしんとしていたが、会議室だけは異様な緊張に包まれていた。。


「いよいよなんでしょうか・・・」

「ええ。数人とありましたから、例のユティスだけではないでしょう」


「首相とお孫様、宇都宮和人を除き、全員が参集しました」

「うむ」


ざわざわ・・・。


会議室の時計がちょうど3時30分を指した。


さっさっさ・・・。

その時、大田原の秘書が足早に大田原に近づいた。


「到着です」

大田原の耳元で秘書が囁いた。


「けっこう。お通ししてくれたまえ」

「かしこまりました」


かつーん、かつーん・・・。


タイルの廊下をこだまする足音が聞こえてきた。

きぃ・・・。


ドアが開くかすかな音が響き、スーツ姿の国分寺姉弟が入ってきた。俊介はそのまま、ドアを保持すると、宇都宮和人、そしてダークスーツに身を包んだ3人の美女がゆっくりと入ってきた。


がたっ。


「おお・・・」

「ああ・・・」

「うう・・・」


会議室のメンバーから、うめきにも似た溜息が漏れた。スーツは、長身ではあるが痩せ過ぎず、女性らしい柔らかな線もしっかりある、彼女たちの魅力を十二分に表現していた。


「・・・」

「・・・」


エルフィア人3人は、女性でありながらも、日本人男性に比べても、かなりの長身であった。一人は若干背が低かったが、平均的日本人女性に比べると10センチ以上は高い。彼女はダークブロンドの長い髪を頭の後ろの高い位置でポニーテール風にしていた。二人目は、特徴的なピンクの目に、極めて長く明るいブロンドを頭の後ろの低い位置、ほぼ首の後ろでまとめ、後は背中に長く垂らしていた。三人目は、ほぼ黒にに近い濃い茶色のショートヘアで、目の色は灰色に近いグリーンだった。


すぅ、すぅ・・・。

6人はドアから入ると、そのまま上座の席までゆっくりと進んでいった。


「・・・」

「・・・」


彼女たちが移動している間、一同は息を飲むようにして彼女たちを見守っていた。


ぺこり。

そうして、席の前に来ると、3人は一礼をした。


ぺこり。

一同もそれに倣い起立すると、3人に向かって礼をした。


中央に位置した大田原は、全員に着席するよう手で合図した。


がたっ。

かたっ。


エルフィア人がだれだか、みな一目でわかった。3人は地球のビジネス用ダークスーツに身を包んでいた。


「みなさん、今日は早朝から参集いただき、まず、お礼申しあげます」

大田原の一言で、一同はようやくわれに返った。


「前置きは必要ありませんな、みなさん」


こくん・・・。

こっくり・・・。

大田原が一同を見渡すと、みな首を立てに振って同意した。


「では、ご紹介しましょう。エルフィアの親善使節。文明促進推進支援委員会のお三方、及び地球人コンタクティーです。中央にいらっしゃるのが、エージェントのユティスさん。その左にいる日本人男性が、コンタクティーの宇都宮和人さん。右端が、このエージェントとコンタクティーの身の安全を一手に担う、セキュリティ・サポート、通称SSのクリステアさん。そして左端が、同じくSSのアンニフィルドさんです」


名前を呼ばれると、それぞれ着席したまま、微笑んで礼をした。


「ようこそ地球に。ようこそ日本に!」


にっこり。

ぱちぱち・・・。

大田原は満面に得画を湛えると、エルフィア人に向いて両手を上げ拍手をした。


ぱちぱち・・・。

たちまち、会場には拍手は起こった。


ぺこり。

ぺこり。

ぺこり。

4人は起立すると、左右中央と丁寧に3度礼をし、着席した。


「おお・・・」

会場は3人のあまりの美しさに驚嘆した。


すぅ・・・。

ユティスは、一息空気を吸い込むと、落ち着いて会議室を見回し、優しい目で微笑んだ。


「みなさん、わたくしたちエルフィアを歓迎いただき、心よりお礼申しあげます。地球という文明世界を知ったうえ、実際にこうしてみなさまにお会いできるとは、なんと喜ばしいことでしょうか。うふふ」

にっこり・・・。


「おお・・・」

「なんということだ・・・」


柔らかく、高すぎもせず低すぎもしない、いかにも健康な若い娘の声は溌剌としていて、会場をあっという間に魅了し、感嘆の声が聞こえてきた。


ユティスのアメジスト色の目が、ダークブロンドとコントラストを引き立て、よく似合っていた。


「わたくしたち、エルフィアの本星は、地球の属している天の川銀河から5400万光年の彼方、あなた方の言う乙女座銀河団の一つ、NGC4535銀河にあります。信じられないかもしれませんが、それが事実なのです。エルフィアの科学は文明レベルで申しますと、カテゴリー4に相当します。これは、銀河団の距離を、宇宙機なしで直接人間を転送できるレベルのものとご理解ください。実際、わたくしたち3人はそうやって、エルフィアから、直接、地球にやってまりました」


そう言うと、ユティスは一度口を閉じ、反応を確認した。


「ふぅ・・・」

会場は溜息になった。


「信じられん・・・」

「ばかな・・・」


「いろいろとご質問があろうかとは思いますが、ここは一番大切なお話し、つまりエルフィアの意思と地球へのコンタクトの目的をさせていただきたいでのす。その前に少しだけ、ご覧いただきたいものがございます」


ユティスは、みなが一言も聞き逃すまいと、ユティスの次の言葉に注目していることを確認すると、アンデフロル・デュメーラを呼んだ。


「アンデフロル・デュメーラ、お願いしますわ」

「リーエス、エージェント・ユティス」


ぶわぁん。


会議室の真ん中にいきなり鮮やかな立体映像が浮き上がった。


「おお!」

「ああ!」

「空中立体スクリーンだ・・・。なんと鮮やかに・・・」


これにメンバーは肝を潰した。そして、このヨーロッパ風の3人が地球人などではなく、やはりエルフィアという想像を絶する遥か彼方から来た別世界の住人であると、各人がそれぞれ確信したのだった。


「わたくしが、今お願いしましたのは、地球上空32000キロに待機している宇宙機、エストロ5級母船のCPU、アンデフロル・デュメーラです。彼女との通信は精神感応力を介して超時空レベル行われます。また、わたくしたちの衣服、今はその上に、地球の衣服を着けておりますが、それには彼女との通信を支援する仕組みが織り込まれています。常にそれがあるおかげで、あなた方、地球人が不思議と思われていることも、なんなく可能になるのです。そして、目の前でご覧になられているのが、彼女がリアルタイム投影している立体画像です」


一同の目の前には、アンデフロル・デュメーラが直接撮影している、32000キロ上空から見た地球の全球映像が、直径3メートルの迫力で映っていた。


「アンデフロル・デュメーラ、天の川銀河を出していただけますか?」

「リーエス、エージェント・ユティス」


ユティスが依頼すると、エストロ5級母船は、すぐに映像を切り替えた。

ぶわぁん。


「おお!」

「なんと!」

また感嘆の声が会議室を覆った。


「これが、みなさんのいらっしゃいます、エルフィアから見た天の川銀河です」


それは、2本の大きな腕と、少し細い枝分かれした何本かの腕が、中央のラグビボールをさらに長くしたような棒状のバルジを中心にして渦を巻いている、棒渦状銀河の大迫力映像だった。


「銀河だ・・・」

「天の川銀河だぞ、これは・・・」


「地球のみなさんは、大よそ天の川銀河の様子を把握されていると聞いていますが、どうでしょうか、高根沢博士?」


ユティスは高根沢博士に振ったが、彼はほとんどしゃべれなかった。


「あ、あー、そうですな・・・。そう、そう、いかにも、そうです・・・」


そこで、ユティスはにっこりと微笑み、高根沢博士に優しく言った。


「高根沢博士のご協力がなければ、こうしてわたくしたちが、みなさまにお会いできたかわかりません。本当に感謝しておりますわ、高根沢博士」

ユティスとSS二人は頭を下げた。


「と、とんでもない。頭など下げんでください!」

高根沢博士は慌てて叫んだ。


「まぁ・・・。うふふふ・・・」


ユティスは茶目っ気たっぷりの笑みをこぼし、座がはじめの緊張から開放され、みなはようやく落ち着きを取り戻した。


「地球のある太陽系はここですわ」


ユティスが言うと、中央のバルジから約45度の方向に26000光年離れた、あまり大きくはない腕のさらに端の方に、少し黄色身を帯びた小さな丸があり、それに矢印が示されていた。


「銀河の中心域は、無数の巨大恒星がとても活発な活動をしています。生命体にとっては極めて危険で過酷な場所といえます。天の川銀河のケースですと、中心より19000光年より内側は、そういった恒星の極めて強力な電磁波にさらされるため、生命体が生まれ育つ環境にはありません。また、中心より32000光年以上離れてしまうと、逆に活発に活動する巨大恒星がほとんどありません。電磁波については問題は少なくなりますが、超新星も少なくなるため、そこでしか作られない生命体に必要な重い元素が十分供給されないことになります。つまり、地球は、銀河の中心から程よく離れた、とても住み心地のよい場所にあるわけです」


「ふむ・・・」

メンバーは頷いた。


「地球の太陽は恐らく第三世代の恒星でしょう。地球といった珪酸塩型の岩石惑星が生まれるのに必要な、重元素が豊富な分子雲に、地球と一緒に生まれたのです。しかも、明るさが最適だったのは、本当に幸運でした。O型以上の明るい恒星はあっと言う間に水素を燃やし尽くして超新星爆発を起こして消えてしまいます。太陽のようなG型の恒星でないと、生命の進化に必要な何十億年という十分安定的な時間で主系列に留まれないのです」


「ふむ、ふむ・・・」


「それに、主星がもう少し暗かったとしたら、発散するエネルギーは少なくなり、惑星に水や生命が存在するためには、惑星は太陽にもっと近づかなければならなくなります。そうなると、主星の引力により惑星の自転にブレーキをかける力もより大きくなり、やがて惑星は1自転が1公転と完全一致します。主星に対して同じ面を向けるようになるわけです。そうなると、惑星は常に昼の面と常に夜の面に分かれてしまいます。これでは惑星内の温度差は極端に大きくなり、やはり生命体にとっては厳しい環境となるでしょう。地球に比較的大きな衛星、月があるのも、自転軸を安定させるという意味で非常に幸運でした」


ユティスはそこまで話すと、ゆっくり言った。


「エルフィアも同じです。エルフィアも地球と同じ環境に生まれたのです。エルフィア銀河の中心から23000光年。G型の恒星系。4番目の岩石惑星。一つの大きな衛星。これは、地球と同じ条件なのです」


「はい。それで・・・?」

一同は、ユティスの意味するところがなになのか、聞きたがった。


「そして、エルフィアでは、わたしたちエルフィア人にまで生命体が進化しました。これは、大宇宙で普遍の法則でもあります。生命体は小さな単細胞バクテリアから人間まで、偶然に偶然を重ね進化し、偶然によって今いる生物が生き残りました。なぜなら、他の組み合わせは生き残れなかったからです。これは、まるで、生命体はある条件のもと生まれ、一旦進化が始まれば、やがて人間にまで進化するということを示唆しているように思えます。人間の受精卵が赤ちゃんになるまで、細胞分裂の過程で、この進化の過程をそっくり母親の胎内で再現していることは、みなさんご承知だと思います。エルフィアはそういった世界を幾つも見てきました。そうですわね、大田原さん?」


にこっ。

ユティスは大田原に微笑んだ。


「そう、お答えしておきましょう・・・」

「うふふふ」


「わたくしが、失礼して、みなさんがよくご存知の基本的なことまで申しあげましたのは、これこそがエルフィアの活動の根源だからです。生命体が人間にまで進化しました。その人間は文明を持った途端、使い方を任されました。自ら決めなければなりません。より進化させるのも自由、滅ぶのも自由・・・。みなさんは、それでよろしいのですか?」


「うーーーむ・・・」

「本当なのかねぇ・・・」


「エルフィアも文明のある時点で、この難題にぶつかりました、もう、何万年も前のことですわ。その時、幸運なことに指南の手が差し伸べられたのです」


「指南の助け・・・?」


「はい。文明を進歩させ、科学力は惑星を飛び出し宇宙に進出するまでになったのです。しかし、エルフィア人の精神は、その科学力をあまねく平和利用し、文明を進化させることに足踏みをしていたのです。紛争、戦争、資源乱用、環境破壊、競争。不正。ありとあらゆる矛盾が存在していました。文明とは、あまねく人々が享受できるものでなくては意味がありません。一部の人々が、自分たちの都合のよいようにするのでは、あまりに悲しいことです。エルフィアも、かつてそのような状況を呈していました」


「そうだったのですか・・・」

みなは、ユティスの言葉を深く心に刻んでいた。


「そこに、カテゴリー5の伝説の世界『カリンダ』が、エルフィアに文明推進の支援を無償で行ってくれたのです。幸い、わたくしたちのご先祖さまは、カリンダの支援を受け入れ、忠実にそれを実践し続けました。結果、わたくしたちは、カテゴリー3へ、カテゴリー4へと進むことができたのです。そして、カリンダの人たちは、エルフィアが自律して文明を持続的に進化させられるということを確認すると、エルフィアを去っていきました。最後にこの言葉を残して・・」


しーーーん。

一同は固唾を呑んで、ユティスのその先を待った。


「『わたしたちは、素晴らしい文明世界となれる同胞の星を、一つたりとも失いたくはありません。この大宇宙を『愛』でいっぱいにすること。これが無償で文明支援を行う理由です』と。そして、こうも言い残しました。『わたしたちに恩を返そうとは思わないでください。わたしたちも、同じことを別の世界から支援され、文明の指南を受けたのです。これは、その世界へのわたしたちの恩返しです。あなた方も、もし恩を返したいと思うなら、どうかわたしたちと同じようにしてください』と・・・」


しーーーん。


「わたくしがここにいる理由もまた然りです」


一同は、なぜユティスがここにいるのかを理解した。そして、自分にその資格があるのかと自問した。

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