164 演出
■演出■
「ちょっと、あの二人だれよ?」
「でっかぁ・・・」
「にしても、変った格好してるわねぇ・・・」
「すんごい美女」
「スタイル抜群。モデルで通るわよね」
わいわい・・・。
がやがや・・・。
株式会社セレアムでは、またまた外国人の新人女性2名の入社が発表された。
「俊介ったらなんなの、アイツ。また拾ってきて・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ぼやかない、茂木。俊介の悪い癖だから・・・」
「まさか、金座のスナックじゃないでしょうねぇ・・・?」
「八本木かもよぉ?」
「岡本、それ、一緒じゃん、ばか・・・」
「だって、すぐこの前はユティスでしょう?」
「まぁね・・・。そうだ。俊介がどっちにコロリといったか、当てっこしない?」
「いいわよ、岡本」
「じゃ、まずは真紀の紹介を聞いてからにしましょう」
「ええ」
「二人とも出てきて」
真紀が二人を前に出した。
すっす・・・。
「じゃあ、紹介するわね」
「おはようございます」
ぺこり・・。
社員がまず二人に一斉に礼をした。
「アステラム・ベネル・ロミア」
ぺこ・・。
二人は挨拶の言葉を言って、地球式に礼をした。
「先日言ったけど、ユティスの護衛をする二人よ。そういうわけで、2年間うちで預かることになったから、うちでも正式に社員として扱うことにしたの。見てのとおり、少し背が高いけど、女の子だからね。話題もたくさん合うと思うし、仲良くやって欲しいわ」
「はぁーーーい」
「うーーーす」
「まず、アンニフィルド」
すすっ。
アンニフィルドは一歩前に出て微笑んだ。
「レイシス・アデル・アンニフィルド(アンニフィルドと申します)。エルフィアから来たの。アンニフィルドよ。本名はもっと長いけど、アンニフィルドでいいわ。地球語は習得するのに苦労したけど、もう大丈夫だから、よろしくね。システムのハードやインフラ関係をやらせてもらいます。ユティスと和人の身辺警護をしなくちゃならないから、二人がでかける時にはいなくなることになるわ」
にっこり。
アンニフィルドはさくさく自己紹介を終えた。
ぱちぱち・・・。
「よろしくお願いしまぁーす」
一同は礼をし拍手した。
「ふぅん。アンニフィルドっていうのか。キレイなホワイトブロンドだわ」
「岡本、彼女、目が赤くない?」
「うん。たぶんアルビノよ」
「アルビノ?」
「体中の色素がない人間よ。日本人でも時たま見かけるわよ」
「ふうん・・・」
「わたしは、クリステアです。アンニフィルドと同じエルフィア人ね。ここでは、同じくシステムのハード関係を担当します。ユティスと和人の警護がミッションですのでそちらを最優先しますが、できるだけみなさんのお役に立つよう一生懸命しますので、よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いしまぁーーーす」
ぱちぱち・・・
「こっちもすっごい美人だけど、ブルネットのショートヘアか・・・」
「目はグリーンっぽいわね」
「で、どっちかなぁ?」
茂木が前の二人をチェックしながら言った。
「わたしは、アンニフィルドの方だと思うな」
「そっかぁ。岡本がロングなら、わたしはショートのクリステア」
「よし!」
「よし!」
「で、席は、ユティスと和人と同じ島よ」
真紀は6つの机が集まったところを指した。
「リーエス」
「それで、早速だけど、二人ともちょっとシステム室に来てくれない?うちの全システムを見ておいて欲しいの」
「リーエス」
「こっちだ」
俊介が右手でシステム室の方に誘った。
さっさっさ・・・。
クリステアとアンニフィルドは、双子の姉弟に連れられて、システム室に向かった。
セキュリティ認証を過ぎると、二人は中に入った。
「クリステア、アンニフィルド、ちょっとここに来てくれるかな?」
わざと、俊介は、先にクリステアに呼びかけた。もちろん、それをアンニフィルドは微妙に察していた。
「なんなのかしら?」
「直接、あなたには言いにくいんでしょ」
クリステアはにんまりとした。
--- ^_^ わっはっは! ---
「な、なにがよ?」
「さぁね・・・」
「二人とも、これがなにかわかるかな?」
ぽん。
俊介はハイパートランスポンダーを右手で軽く叩いた。
「ええ、わかるわ。箱よ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「箱?」
俊介は、そんな答えは予想だにしていなかった。
「他になんだって言うの?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あっはっは!」
真紀が大笑いした。
「アンニフィルド、あなた最高よ!」
「どうも、アルダリーム、真紀さん」
「ん、んん。まじめに答えてくれないかなぁ・・・。じゃ、クリステアは?」
「黒い箱ね」
--- ^_^ わっはっは! ---
「クリステア、きみもかよぉ・・・」
「あはははは」
真紀はお腹を抱えて更に大笑いした。
「だって、金属製の黒い箱だけ見せても、中身わかるわけないじゃない。なんだかって聞く方が変だわ」
アンニフィルドが言った。
「わかった。わかったよ。こいつは、超銀河間通信用の・・・」
「ハイパートランスポンダーってことなら知ってるわよ」
「え?」
「アンデフロル・デュメーラが教えてくれたもの。ついでに、彼女、ちょっと調整もしてくれたみたいよ」
アンニフィルドはなるべく俊介の瞳を直視しないようにしていた。
「調整?」
「アンデフロル・デュメーラ、後、お願い」
アンニフィルドの以来で、アンデフロル・デュメーラが説明を引き継いだ。
「リーエス、SS・アンニフィルド。ベルシアーヌ(社長)・シュンスケ。わたくしが、この箱を調整をいたしました」
「きみまで箱かい?」
--- ^_^ わっはっは! ---
アンデフロル・デュメーラはそれを無視した。
「恐らく、ここに運びこまれる間に、大きな電磁波の影響を受けたと思われます。各パラメーターが、最適な状態から外れていました。かなりずれた設定になっていたものもありましたから、通信機能はほとんど働かなかったと思われます。でも、ご心配はいりません。もう、これからは、これをフルパワーで使用できますよ」
「ありがとう・・・、アンディー」
「パジューレ、ベルシアーヌ・シュンスケ」
「で、ベルシアーヌって、なんのことだい?」
「社長さんね」
クリステアが答えた。
「そりゃ、姉貴だよ。オレは常務」
「実質、あなたが社長じゃない。わたしは登記上だけ」
真紀が言った。
「ま、どうでもいいけど」
「クリステア、あなたなの?」
「アンデフロル・デュメーラに、ハイパートラスポンダーの調整を頼んだこと?」
「それは、アンニフィルドよ。俊介のおじいさまが、とっても困ってみたいだから。アンニフィルドが心配になって、彼女にお願いしたってわけ」
「ええ?アンニフィルドが、じいさんの心配だって・・・?」
俊介は意外だというような顔をした。
「それ、ちょっと違うわよ、俊介」
にこ。
ぱち。
クリステアがにっこり笑って、アンニフィルドにウィンクした。
「なにが違うんだ?」
「バカ・・・」
(あなたのおじいさまのためってことは、あなたのためよ!)
--- ^_^ わっはっは! ---
ぷい。
俊介がアンニフィルドに目をやった時には、アンニフィルドはほんのり頬を染めて既に横を向いていた。
「ありがとう、アンニフィルド。知らなかったよ・・・」
俊介はアンニフィルドの本心をまだ十分に理解してなかった。
「どういたしまして。でも、直したのはわたしじゃないから」
「いや、本当に、礼を言うよ。ごめん、オレ、ぜんぜん察してなくて・・・」
俊介は意外なほど素直に言った。
「でも、あなたは、もっと知らなきゃならないことがあるんじゃないの、俊介?」
クリステアがにやりとした。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ええ?」
「余計なこと、言わないでよ、クリステア」
ぎゅっ!
--- ^_^ わっはっは! ---
アンニフィルドは、クリステアの手をつねった。
「痛いわね、アンニフィルド」
「とにかくね、大田原太郎には、ハイパートランスポンダーが復活したことを報告してよね。わたしたちじゃ、使い方がわかんないし、あなたたちの故郷のセレアムの超時空チャンネルの周波数も知らないし・・・」
「ええ、わかったわ。伝えるわ」
真紀が、本当に嬉しそうに言った。
ハイパー・トランスポンダー復活の話は、俊介から大田原太郎に伝えられた。
「これで、元通りにセレアムと通信ができるって、それは本当か、俊介?」
「ああ、アンディーが、パラメーターの調整をしてくれたんだと」
「アンディー?」
「あ、エルフィアのなんとか級母船と、その中央コンピュータの名前さ。冷静で、クソがつくほど職務に忠実なんだ。けど、時々、悪戯もするらしいんだな、これが」
--- ^_^ わっはっは! ---
「コンピューターが悪戯を?」
「ああ。妙に人間じみた行動する時がある」
「例えば?」
「ん、ん・・・。その、誰かと誰かをくっつけようと、画策するとか・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
大田原の顔が、みるみるほころんでいった。
「ふ、ふ、ふわはっは!」
「なに、笑ってるんだよ。じいさん!」
「いや、すまん、すまん。おまえも仲良くなっておいた方がいいな、そのアンディーとやらと」
--- ^_^ わっはっは! ---
「どういう意味だ?」
「おまえが、エルフィアのだれそれにお熱だってことくらい、お見通しだよ」
「うっせい。姉貴からデタラメを聞いたな?」
「わっははは。まぁ、いい。だが、それは、本当にありがたい。アンニフィルドには礼はしたのか?」
「ああ。ありがとうって、言葉で十分だって」
「ふっふふ。ボランティアか・・・。なにも受け取らんということだな?」
「そういうこと」
にやり。
(こりゃ、本気で、俊介のヤツに惚れてるな・・・)
「なに、にやけてんだ、じいさん・・・」
「孫の幸せを祈っちゃいかんのか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「それでだ、じいさん。3人をメンバーに引き合わすんだろ。さっきのメールはそれだな?」
「ああ。3人を知っているのは俊介、おまえと真紀、そして宇都宮和人だけだ。既に地球に派遣され、日本に住んでいるんだ、メンバーには大いなる自覚もってもらいたいんでな」
大田原はそこで首相に触れた。
「但し、藤岡さんは来られん。彼は、合衆国へ今夜出発する」
「そりゃ、意味ないだろ。なぜ、帰国後に設定しない?」
「藤岡さんが3人に会うのは、大統領と同し日にしてもらう」
大田原は断言した。
「どういうことかさっぱりなんだが、説明してくれるか?」
「いいだろう。これは逆に藤岡さんから提案のあったことだ。いずれ、エルフィア人との接触ばかりか、3人も日本にいることが世界中に知れ渡るだろう。その時、日本が日本だけのためにそうしているのではないことを知らしめすには、大統領が面会する前に、首相だけで3人に面会していたのでは、効果が薄れるというのだ」
「わからんな・・・」
俊介は藤岡と大田原の意図を計りかねていた。
「おまえが初めてユティスに会った時、なにをどう感じた?」
「お、いい女、和人のヤツ、うまいことやりやがって、かな?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そうじゃないだろう・・・」
「わかったよ、じいさん。実は、感動した。ものすごくな。見てくれもそうだが、その何倍も心に安心をもらった気がした。ユティスを素直に受け入れた。そして、バカみたいな話だが、彼女が天使に見えた・・・」
「・・・」
大田原は黙っていた。
「じいさん?」
大田原はしばらく黙った後、続きを話した。
「うむ。おまえが本当にそう感じたのなら、藤岡さんもそれを感じるだろう。大統領と同時に同じ条件でな。そうすることで、初めてフェアな気持ちでエルフィア人と会えるんだ」
「政治的な理由が大きいのか?」
「おまえはまだ合衆国の真の姿を知らん。鍵は『フェア』か『アンフェア』かだ」
「続きを言ってくれ」
「合衆国は、平等なチャンスと、対外的には常にフェア、フェアを要求する。彼らの言うフェアとは、自分たちが必ず利益を手にできるという状況をそう呼ぶんだ。手にする利益の大きさは重要なファクターで、小さいうちはなにも言っては来ん。だが、ある業界のリーダーが影響ありとロビーイングする段階は、既にレッドゾーンだ。たちまち上院議員に伝わり、対応法案を練り始める。貿易は黒字でなきゃする意味がないからな。7対3なら文句は言わん。だが6対4なら、必ずクレームを付けてくる。5対5は完全にアンフェアと言う。4対6で制裁発動。3対7なら宣戦布告だ。合衆国の対外政策は、常にそれを念頭に置いて、経済的軍事的圧力をかけてくることにある」
「おー、恐ぇー・・・」
「おまえもフットボールをやっておるから、その緻密で臨機応変な作戦は知っておろう」
「まぁな。オプションも含めて、コーチ陣が弱いチ-ムは絶対に勝てん・・・」
「勝つ必要はないさ。同じ地球人だ。エルフィアに地球を代表する資格あると映るかどうかだ」
「日本と合衆国がか?」
「左様」
「藤岡首相も政治家とはいえ日本人。あれでなかなか正直な人間だ。合衆国ほど自惚れはひどくない。おまえも聞いたことがあるだろう?『静かに語れ。そして右手に棍棒を忘れるな』。何代か前の大統領の有名な言葉だ」
「首相はそれを念頭に・・・?」
「うむ。いずれにせよ、このままでは、大統領の条件をすべて飲まされるだろうな。そのようなカテゴリー1的でちっぽけな考えを吹き飛ばすには、首相が大統領と同じ日同じ時刻に、同じようにしてエルフィア人と面会したというフェアな事実が必要だ。そして、その瞬間にこそチャンスありと、ユティスにすべてを託そうとしてるんだ」
「だが、いくら首相が会ってなくとも、メンバーがユティスたちに会ったら、もう、フェアではなくなるんじゃないか?」
「それは、合衆国とて同じこと。合衆国の外務省外交保安局のSSたちは、すでに任務についてるではないか。双方、それは認め合っている」
「カードの手の内はお互い知ってるってことだ」
「そうだ。だが、国家の元首たる首相と大統領がエルフィアの全権大使に会うということは、そういうこととはまったく次元が異なる。公式であろうが、非公式であろうが、政治的には、和人以上に地球人代表として会うことになるんだ。エルフィア人に対してな・・・」
「明日、首相は大統領にこの件で、合意についての打診をするだろう」
「ああ。向こうはとうにの昔にユティスの存在に気づいてSSを送ってきている。今までさして動きがなかったこと自体、不思議だな・・・」
俊介は頷いた。
「話を元に戻すが、今回、彼女たちにはエルフィアの正装ではなく、地球風のビジネス正装にしてもらう」
「ということはスーツ姿か?」
「そうだ。敢えて、われわれとはなんら変わりのないことを強調する服装にしてもらう砲が抵抗がなかろう。それについては、真紀に指示を出したから、今日あたり出かけるんじゃないか?」
「それでか・・・」
「どうかしたのか?」
「いや、3人とワゴンを借りると言ってたからな・・・」
「ほほう。おまえは行かないのか?」
「声はかからなかったな・・・」
俊介は女性たちにつまはじきにされたのかと思った。
--- ^_^ わっはっは! ---
「わたしは反対だと思うぞ」
「なにがだ?」
「一番見せたい人をびっくりさせたい・・・、てのが真相かもしれんな」
「まさか・・・」
「試着を見せたんじゃ、見せた時の感動は薄れるからなぁ・・・」
大田原の声が含みを帯びてきた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「なにが言いたい、じいさん?」
「女性のことは女性に任せろということだ」
「こっちのメンバー自体、相当の変わり者の集まりだし、予想以上の刺激を与えると後が大変になろう」
「なるほどな。で、じいさん。オレと姉貴も同席するのか?」
「無論だ。それから、極めて重要なことだが、会議室にはドアから歩いて入ってくれよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ああ。ちゃんと伝えるよ」
「じゃ、そろそろわたしは行かねばならん」
「おう。明朝3:30にな」
「ああ・・・」
今日の『銀河の彼方計画』の面々は、ひどく緊張していた。例によって、急遽、大田原太郎から暗号化された極秘メールが、専用OSを称した特殊PCに入ったのだ。
T大の宇宙物理学研究室の高根沢博士も例外ではなかった。
『明朝、0330、いつもの場所に集まられたし。迎えを差し上げたし。数名に引き合わせたし』
「ついに、その時が来たらしい・・・」
高根沢博士は大きく息をついた。
「恵美くん、わたしは明朝3時には出かけなくてはならんから、今日はここいらで失敬するが、後を頼んでいいかなぁ?」
「まぁ、わたしに、遠慮なさることはありませんわ、博士」
「そうか。ありがとう。じゃ、頼むよ」
「はい。博士、お疲れ様でした」
「うむ」
高根沢博士は、食事を済ませ、さっさと風呂に入って寝ることにした。
「へー、こういうのが地球の女性用ビジネススーツなんだぁ・・・」
ひらひらぁ・・・。
「お似合いですよ、お客様」
にこにこ。
アンニフィルドは、鏡の中のツーピースのダークスーツに包まれた自分を見つめて、いろいろ表情を変えたり、ポーズを取ったりして、悦に入っていた。
「ステキですわ。みなさん、背も高くて足も長くて、もう最高のプロポーションです。あえてスラックスにすることで、できる女性を演出できますし、男性はだれもお客さまに意見できませんわよ。うふふふ」
ぼう・・・。
にっこり。
店員はほとんど夢見心地で言った。
「いいかしら、それで?」
「リーエス。ステキだわ」
3人は色こそほとんど一緒だったが、細かなデザインは、本人たちの好みに合わせたものだった。
「じゃ、オーダーするわよ」
真紀は、エルフィア娘たちに最終確認を取った。
「はい。ありがとうございます、真紀さん」
「アルダリーム、マキ」
「ホントお礼言うわ、真紀さん」
ちゅ。
ちゅ。
ちゅ。
3人は、真紀を抱擁すると、その頬に代わる代わるキッスした。
「では、お客様、寸法直し等、2時間いただきますので、夕刻6時にできあがります」
「わかりました。6時にうかがうわ」
「かしこまりました。お待ちしております」
「じゃ、戻りましょう。明朝2時には迎えに行くわね」
「リーエス」
3人はコーラスした。