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162 諍い

■諍い■




カフェでユティスに難癖をつけてきたのは、今はときめくポップアイドルの小川瀬令奈おがわせれいなだった。音楽事務所のプロデューサー、烏山ジョージ(からすやまじょーじ)も動向していた。


「ふん。やっぱり、あなただったのね」

瀬令奈は睨むようにしてユティスを見据えた。


きっ。

そうして、次に音楽プロデューサーを睨みつけた。


「ジョージ、どういうことよ、これ?」


「オレがスカウト中の新人候補さ」

烏山はユティスにウィンクした。


「はい?」

瀬令奈は烏山の言葉が信じられなかった。




「はぁ?」

「ええ?」

そして、カフェの客たちは、もっと信じられないという驚きの声を上げた。


「わぁ!」

「なんてこったぁ」

「あの娘、烏山ジョージの新人だってさ・・」

「デビュー前なんだ」

「やった。こりゃすごいことになったぞ・・・」

「今のうち、サインもらっとこぉーぜ」

「そうだな、半年後ネットで数十万になるぞぉ」


--- ^_^ わっはっは! ---




「ふん。大したことないわね。可愛けりゃいいってもんじゃないのよ」


つかつか・・・。

瀬令奈はユティスに歩み寄った。


きょとん・・・。

「はぁ・・・?」

ユティスは状況を理解できなかった。


「あなたには、わからないでしょうけど・・・」

瀬令奈は173センチある長身だったが、ユティスも172センチあった。


すぅ・・・。

瀬玲奈がその右手でユティスの顎を乱暴に掴みかけた時だった。


ぴしっ。

瀬令奈もカフェの客も鋭い音を聞いた。


すっ。

「痛い!」

瀬令奈は、ユティスを掴もうと伸ばした手を、素早く引いた。


「な、なに、するのよ!」

瀬令奈は、アンニフィルドの方を振り返り、睨みつけた。


「あなたこそ、礼儀知らずね」

「なんですって!」

「ふうーーーん。それが、初対面の相手にする地球式の挨拶なの?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「始球式の挨拶って、なんだか知らないけど、人をいきなりぶっといて!」


--- ^_^ わっはっは! ---


瀬令奈は自分の右手を見たが、跡は付いていなかった。


「あーら。わたしは、触ってなんかないわよ。バクテリアだらけの不潔な手なんか。冗談じゃないわ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「きぃーーーっ!言ったわねぇ!このどデカ女!」

「カテゴリー1の野蛮女!」


「筋肉頭の男女!」

「性格ブスのヒス女!」


「能無し!」

「岩女!」


「白髪の赤め目の、鮫にむしられた、ウサギ女!」

瀬令奈は、アンニフィルドの身体的特徴である髪と目の色を、鋭く揶揄した。


そして、アンニフィルドが一気に切れた。


「カラッカ(アホ)。フォレッカ(気違い女)。オンダリヤ(バカ女)!シュシティエ・ギュニュ・デュル・ラコーム・デュル・ダ・カカーラ、ラジュヌレーピス・ディ・カカーラ・レニキエ!(ウンコの中を這いずり回るウジ虫のウンコだらけのお尻の穴にでもキッスするのがお似合いよぉ!)あーは?」


アンニフィルドは瀬令奈を睨みつけた。


(なんて下品な・・・!この辺で止めなきゃ)


--- ^_^ わっはっは! ---


「イタリア語でなに言ってんのよ、ばぁーか!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「エルフィア語の一つも知らないなんて、宇宙的大バカね!」


--- ^_^ わっはっは! ---


ささっ。

「止めなさい、二人とも!」


今にも掴みかかりそうな勢いの瀬令奈とアンニフィルドの間に、クリステアが割って入った。


「はぁー、はぁー・・・」

「はぁ・・・。はぁ・・・」


「だれよ。あなた?」


ばしっ。

きっ!

瀬令奈は、鋭い目つきでクリステアを跳ね除けると、睨みつけた。


「宇宙一の美女よ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「宇宙一のアバスレの間違いじゃない?」


「なんですってぇ!」

クリステアの名誉のために、アンニフィルドがケンカを引き継いだ。


「あなたも名前ないわけね、ピョン子?」

「ピョン子?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「いい加減にしなさい、あなた・・・」


すっ。

静かにそう言って、断固たる意思をもって二人の間に入ると、クリステアは瀬令奈の目を見据えた。


ぴしっ。

「うっ・・・」


ばさ・・・。

瀬令奈は急に息苦しさを覚え、胸を押さえて席の一つに座り込んだ。


「瀬令奈、大丈夫か?」


さすがの烏山も瀬令奈を気遣い、その脇に屈んだ。


「な、なんでもないわ・・・」

「はら、手を貸す。立てよ・・・」


ばしっ。

瀬令奈は、彼女を起こそうとした烏山の手を乱暴に払った。




ケンカが終わりそうな雰囲気になって、カフェの客はてんでに騒ぎ始めた。


「どうなってんだ?」

「なんか、瀬令奈の手が、見えない手で払いのけられたようだったぞ」

「しかし、すっげぇ迫力・・・」

「ホワイトブロンドの娘、怒ってっても、すっごい美人」

「ああ言うのを、本物の美女ってんだろうな」

「でも、瀬令奈ってけっこう性格悪いのね」

「ホント、どう見てもケンカを売ったのは瀬令奈の方だったぞ」


ざわざわ・・・。

がやがや・・・。

カフェは、またまた騒がしくなった。


「ここは、出たほうがいいね」

和人がユティスたちに言った。


「リーエス」



「ええ?」

「行っちゃうの?」

大騒ぎになったカフェから、4人は脱出を図ったが、人だかりを切り抜けるのは至難の業だった。



「まかせて」


さぁっ。

ぱっ。


クリステアが、幻影バリアで4人を包み込んだ瞬間、群集から4人が一瞬で消えた。



「ん?」

「き、消えた!」

「消えちゃったぞ!」

カフェの客たちは、一瞬キツネにつつまれたようになった後、大騒ぎになった。



「さぁ、今のうち、出ましょう」

「リーエス」


4人は群集に触らないようにして、そっとカフェの外に出た。




その夜、TVメトロの速報で、この事件が放映されたのは当然だった。


「次は、例の天使の女の子のニュースです。ご存知の方も多いかと思いますが、先日、身体に不思議な光をまとって歌う女の子の映像が放映されました。本日、とあるカフェで、その姿を捉えられました。偶然にも、なんとポップ歌手の小川瀬令奈さん、音楽プロデューサーの烏山ジョージさんが、その場に居合わせていたのです。なんと、彼女は、その友人たちとお二人の目の前で一曲披露した後、不思議なことに、一瞬にして目の前から消え去ったとのことです。これは、そこに居合わせた方の、スマホ映像です」


さっそく、カフェでの映像が放映された。

ぴっ。


今度は、はっきりユティスやクリステアやアンニフィルドの表情まで克明に写っていた。和人もしっかりと映っていた。和人は、これまでにない大変な騒ぎになるかもしれないと思った。特番のゲストはもちろん瀬令奈と烏山だった。




「あの娘は、だれなんですか、ジョージさん?」


烏山は、瀬令奈がいるのでユティスのことを詳しく聞かれたくなかったが、ライバル・プロデューサーや音楽事務所に対するビジネス上の先制を優先した。


「いやぁ。まいりましたよ・・・」

「え?どういうことで?」


「実はね、彼女、うちの秘蔵っ子なんですよ。売り出し前で、秘密にしといたんですけど・・・。今日は彼女は自由日なんですが、あの通り、動画サイトに出されちゃって、困ってるんですよ・・・」


「じゃ、烏山事務所の新人さんとかで・・・」

「ええ。そうですよ。まだ、表には出したくなかったんですが」


くるっ!


「新人・・・?ちょっと、ジョージ」

瀬令奈が血相を変えて烏山を見た。


「後にしてくれないか、瀬令奈」

瀬令奈は納得しなかった。


「まだ、スカウト中だって言ってたじゃない?もう契約したのね。どういうことよ?」

瀬令奈は、烏山に耳打ちしたが、おさまりがつかなくなった。


「そうだっけかな?」

烏山はとぼけた。


「ちょっとぉ。聞いてないわよ!いつ契約したのよ、その女と?」

瀬令奈のマグマ溜りは、圧力が限界にきていて、噴火寸前になっていた。


(知ってたら、もっと大変なことになってるぜ。知らなくて、大いにけっこう)


--- ^_^ わっはっは! ---


「オーディションの選考に残った娘だよ。デビューするにはまだ先さ」

「なによ。わたしというスーパースターがありながら・・・」


そして、カテゴリー5のハリケーン並みに、瀬令奈の気圧は一気に850ヘクトパスカル以下になった。


(おーお、超巨大ハリケーン並みに荒れるぞぉ・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


幸い、烏山と瀬令奈の痴話げんかは、烏山音楽事務所の意向で放映されなかった。




「それで、烏山さん。彼女のデビューは、いつ頃で?」

「そうですね。もう、みなさんに知れ渡っちゃんで、あんまり延ばすわけにもいかないと思ってます」


「彼女の名前は?」

「いやぁ、それは、まだ・・・。勘弁してください」


「3人ともユニットでデビューなんですよね?」

「あははは。それもねぇ。少しは秘密にしておいた方が、楽しみがあっていいでしょう」


「そうですね。全部、わかってたらファンも面白みがありませんからね」

「そういうことです」


「瀬令奈さん、同じ事務所からのデビューとなりますよね?」

「だから?」

瀬令奈は笑ったが、作り笑いであることは火を見るより明らかだった。


「先輩として、アドバイスはどうです?」

「この業界は、実力が必須よ」


(デビュー前に、引退しなさい!)


--- ^_^ わっはっは! ---


「なるほど。キレイ、可愛いだけじゃ、もたないと?」

「そうよ。甘くはないってことね」


にこっ。

瀬令奈は作り笑いをした。


「それで、一番の問題はこれなんですが・・・」


ビデオは4人が群集を掻き分け、普通にカフェの外へ出て行っている様子が映し出された。


「なにが、問題なのよ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


瀬令奈がビデオを見て言った。


「あれ・・・?こうして見ると、4人ともはっきりと見えてますよね?」

「当たり前じゃない」


「でも、そこにいた人たちは、彼女たちが、突然消えたって言ってるんです」

「そんなことないわ。ちゃんと映ってるじゃない?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ははは・・・。おかしいなぁ、映ってますねぇ・・・

「なにが可笑しいのよ?」

「いや、そこが変なんですよ」


「変なのはあなたじゃない?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「まいりましたよ。瀬令奈さん」

司会はシャッポを脱いだ。


「いやぁ、オレも気づかなかったなあ。絶対に消えたと思ったよぉ・・・」

烏山も首を傾げていた。


「あーーー、やっぱり変だ。ほら、見てください。4人が明らかに客のすぐ脇を通っているのに、だれも、それを目線で追ってないでしょ?」

「ふむ・・・」

「確かにおかしいですねぇ・・・」


「でしょ?」

「まったく、気づいてない。見えてないって感じね・・・」

瀬令奈が眉をひそめて言った。


「そうなんです」

「消えたって思わせた?」

「ですかねぇ・・・」


「どうやって?」

「だから、そこなんですよ」

司会者は烏山の向き直って、疑問をぶつけた。


「烏山さん、この新人、なにかとてつもない秘密があるんじゃないんですか?」

「いえ、特にありませんが。ご覧のとおりですよ」


「しかし、こういろいろ話題が次から次へ出るってことは、もう、彼女のプロモーションが既に始まってると思うんですが?違いますか?」

「いやぁ、まいったなぁ・・・。別に、そんな計画はないんですがね?」


にたぁ・・・。

司会者はにたりと笑った。


「これは、烏山さんの一流のお膳立て、ビジネス戦略と見ましたが、本当のところはどうなんですかぁ?」

「本当に、なんでもないんですけどねぇ・・・」


「それに、もう一つ重要な質問です」

「なんでしょうか?」


「他の2人は、だれなんですか?」

「ホワイトブロンドとショートヘアの女の子ですか?」

「そうです」

「知りません」


--- ^_^ わっはっは! ---


「知らない?」

「ええ。そうですよ。うちの事務所ですけどね」


「所属してて、烏山さんがしらないわけないでしょう?」

「ええ。詳しいことはこれから、本人たちに聞くつもりですよ」


「はいっ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


烏山の空トボケた受け答えに、司会者はさっぱり噛み合わなかった。




「よぉし、かかった!」


一方、国分寺姉弟はテレビを見てやったと思った。俊介は早速指示を出した。


「石橋、ユティスたちに関するサイトの立ち上げだ」

「は、はい。了解です」


「SNSとツブヤキサイトも忘れるな」

「了解、常務」


俊介は同時にユティスのオフィシャル・サイトの立ち上げを考えていた。


「これを石橋にやらせるの?酷じゃない?」

真紀は心配そうに石橋を見た。


「なにいってんだよ、姉貴。石橋を立ち直らせるチャンスかもしれん」


「荒療治ってわけ?」

「ま、そういうことだ。あいつも和人の気持ちを察しているはずだ。縁がなかったといやぁ、それまでだが、ズルズル生産性が低いまま行かれてもなぁ」


「まったく、あなたってのは、ビジネス以外の価値とか考えられないわけ?」

「考えてるさ。それに・・・、石橋を癒せるのは、姉貴じゃムリだぜ」


「どういうことよ?」

真紀は目をつり上げた。


「和人のわけないし。まさか・・・」

「そう。ユティスさ」


「ユティスが・・・。石橋にとっては恋敵じゃない?」

「地球の女だったらな。ユティスはエルフィア人。超A級サイコセラピスト。忘れたのか?」


「いくらエルフィア人だと言っても、所詮、男女の問題よ。そうそう、解決できるものじゃないわ」


「ユティスは、人間が感情の生き物だってことがわかっている。それに、石橋も恋敵相手に、嫉妬に狂って意地悪できるようなタイプじゃない。石橋がユティスたちの本当の姿を目の当たりにすれば、考えも変わる。ユティスを恨むことなどできんよ。そんな女がいれば、とんでもないアバズレだ」


「なるほど。一理あるわね・・・」


「じゃ、あとはよろしくな、姉貴」


ぱさっ。

俊介は書類を机に置いた。


「ちょっと、待ちなさいよ、俊介。やりかけの書類ほったらかして、どこに行くのよ?」


「用足し」

「バカ!」


--- ^_^ わっはっは! ---

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