161 烏山
■烏山■
和人は横丁で2人組に襲われていた。
ぴたっ。
和人は止まって後ろを振り返った。
「宇都宮和人だな?」
「違うといったら」
「死んでもらう」
--- ^_^ わっはっは! ---
ちゃっ。
一人がすばやく消音器付の銃を構えた。
(この方は、本気ですよ。コンタクティー・カズト)
(リーエス。アンデフロル・デュメーラ)
「もう一度、きくぞ。おまえは、宇都宮和人だな?」
(はいって、答えなさい!)
(あれ?アンニフィルド?)
(だから、言ったじゃない。独りじゃ狙われるわよって。だいたい、男同士で、こそこそ会うなんて、ロクなこと考えてないんだから。どうせ、二宮とスケベな計画でも練ってたんじゃなくて?)
(ひどいな。オ、オレじゃないよ!)
(説得力に欠けるわね。二宮に返したパケットの中身、なんだか知ってるのよ。わたし)
はっ。
--- ^_^ わっはっは! ---
(だから、オレのじゃないってば!)
かちっ。
(ぐじゃぐじゃ言ってないで、はい、って言いなさいよ。早く!)
「そうだと言ったら?」
「ついて来い」
もう一人が、手をあげた和人を縛り上げようとした時だった。
ぶわん。
「わたしの彼氏、連れてっちゃ、やあよ!」
ぎゅっ。
アンニフィルドは二人組みの目の前に現れると同時に、和人の手を取ると、あっという間にジャンプした。
しゅんっ。
「あわわわーーーっ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「お、女が現れて、あいつと一緒に消えやがった!」
「なんだ、今の女?」
「くっそう、もうちょいだったのに!」
「リッキー・Jに連絡を入れろ!」
「そんなことしたら・・・」
「バカ野郎!言われたとおりにしろ。ヤツもそんなに簡単にいくとは、思ってないさ」
「なんで、わかるんだ?」
「ヤツ自身、何度か失敗してるからな」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そういうことか・・・」
「それに、あいつらは、テレパスどころか、テレポテーションも使えるぞ・・・」
「やっかいなことになったな・・・」
「ああ。すぐに、このことの一部始終をリッキー・Jに報告しろ」
「了解」
和人は、危ないところをアンニフィルドにより助けられて、ほっとしていた。
「いや、助かった。一時はどうなることかと思ったよぉ・・・」
「仕事だもんね」
アンニフィルドは、ユティスたちとこれから飲めるはずだったブルマンのお預け食らって、多少ご機嫌斜めだった。
(なんか、オレ悪いことしたのかな?)
「別に・・・」
アンニフィルドは語尾を濁した。
「ただ、ユティスを一番知っていると思われているだけじゃない?そこからあそこまで、全部・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「なんだよ、それ?」
「あいつら、ユティスがなにもので、どこにいるか知りたがっていたわ」
「そっか。そういうことだね」
「しかし、きみはSSなんだろう?」
「だから、なんなのよ?」
「女性のSSって、消える以外他になにができるの?」
かちん。
「ふうん。女だと思ってバカにしてるわね?」
「してない、してないってば。単なる興味さ。仮にも超A級SSなんだから・・・」
しゅっ!
ぴた!
目にも止まらぬ超高速の左上段回し蹴りが、和人の鼻先2センチでピタリと寸止めされた。
「ひっ・・・!」
--- ^_^ わっはっは! ---
和人は、瞬きもできないで、思わず固まってしまった。
「手加減してるけど、まともに当たってたら、確実に首の骨を折って死んでるわよ」
「・・・」
(怖えーーーっ。普段、冗談飛ばしてるけど、やっぱりプロなんだ・・・)
すぅ・・・。
アンニフィルドは真顔のまま静かに左足を下ろした。
「ふぅ・・・」
「ところで、ここはどこなんだ?」
そこは、直径10メートルくらいの白い壁に囲まれた、円形の部屋だった。
「アンデフロル・デュメーラの中にある囚人室よ」
「ええ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「極悪人を収容しとくの」
「SS・アンニフィルド。本当のことを申し上げください」
「リーエス」
アンニフィルドは和人に向き直った。
「本当は執行室よ・・・」
「執行室って、まさか・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「SS・アンニフィルド。いい加減、本当のことをお伝えください」
「リーエス。わかったわよぉ、もう」
「で、どこなの?」
「SS専用に作られた武道場よ。稽古してみる?」
「固く遠慮申しあげます」
「あははは。掴まって、ユティスのいるカフェに戻るわよ」
「あ、うん・・・。リーエス」
ぎゅっ。
しゅんっ。
二人の姿は白い光に包まれると消えた。
しゅわんっ。
アンニフィルドは、ユティスたちの席に現われた。
「和人さん。うふふふ」
青い顔をしてびっくり仰天の和人を見たユティスは、いきなり笑い出した。
「ああ?」
ぽよぉーーーん。
和人の両腕は、アンニフィルドの右腕にしがみついていて、彼女の胸にしっかり触れていた。
「あは。坊や、ママのおっぱいは済んだの?」
クリステアが和人をからかった。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ママのおっぱい?」
ぽかり。
「痛・・・」
「こら、いつまで、しがみついてんのよぉ!」
ぱっ、ぱっ。
アンニフィルドが急いで和人の腕を振り払った。
「なんだい、人を汚らわしいもののように扱ってさ・・・」
「なにか言ったぁ?」
「なんでも・・・」
「うふふ。和人さん、とっても可愛いですわ」
かぁ・・・。
「からかわないでよ、ユティス」
すぐ近くの例の若いカップルが、それを目撃していた。
びくっ。
「あ、今度は、男を連れて戻ってきたわ・・・」
「そういうことだったのか・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
カフェのカップルは再び仰天した。
「み、見たわよ・・・」
ぷちっ。
「痛ぇーーな」
「夢じゃないのね?」
「そんなことは、人をつねるもんじゃないだろう?」
「いいじゃない。あなたの代わりにしてあげたんだから」
--- ^_^ わっはっは! ---
ひらひら・・・。
アンニフィルドのピンクの美しい目が、男性の目と合い、アンニフィルドは彼に向かって手を振った。
にこっ。
「あ・・・」
女性は敏感にそれを察した。
「ど、どういうことよ?」
「いい男に気があるとか・・・?」
ばっしーーーんっ!
--- ^_^ わっはっは! ---
「痛ぇ!」
すくっ。
「どうせ、わたしは不細工だわよ。女ったらし!全部、払っといてよね。わたし帰る!」
「おい、待てよ。冗談だってば!」
「知らない!」
すたすた・・・。
男性の隣には、何食わぬ顔をし、四人がエルフィア語でしゃべっていた。
「あーあ、彼女、行っちゃったよ・・・」
和人が女性の後姿を目で追った。
「きっと誤解されたのだと思います」
「たかだか手を振ったぐらいで、ばっかじゃない、あの女?」
「きみが、彼氏の方だけに手を振るからだよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「だって、目が合っちゃったんだから、仕方ないでしょ。ただのご挨拶じゃない?」
「そりゃ、ずっと見つめてたら、いつかは目が合うさ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ああ、美人ってのは罪作りなのね・・・」
「要は、あなた好みの男だってことね?」
クリステアがまたかという顔になった。
「あら、そんなことないわよ。国分寺・・・」
「どなたですって?」
--- ^_^ わっはっは! ---
たらーーーっ。
「やだぁ、ユティスったら・・・」
ぱしっ。
ぽっ。
「あーーーあ、またかい?」
きっ。
「和人、なにか文句あるの?」
ごんっ。
「痛い。乱暴だなぁ。ない。ない。ありません。ちぇ、どうだい、この変りよう・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「はぁ・・・。アンニフィルド、あなたって、本当にファムファタールと違う?」
クリステアはため息混じりに言った。
「んーーーん」
なんともいい香りが漂ってきた。
「和人、これ、なぁに?」
アンニフィルドはブルマンの香りを目を閉じて堪能した。
「コーヒー。高級品のブルーマウンテンさ。エルフィアにはないの?」
かたっ。
アンニフィルドは、ブルマンの香りを楽しむと、静かにカップを置いた。
「ないわ。とってもいい香り・・・。好きよ・・・」
アンニフィルドは顎を両手で支え、ピンクの瞳でうっとりと和人を見つめた。
にっこり・・・。
じーーーっ。
「ええっ?」
ぽっ。
和人は思わずユティスを向いた。
「ちょっと、オレには、ユティスって・・・」
ぷくぅ・・・。
ユティスは頬を膨らませて、眉間にはしわを寄せた。
--- ^_^ わっはっは! ---
あたふた・・・。
「ばーか」
アンニフィルドが舌を出した。
「うふふ、和人さんったら」
「コーヒーのことよ。なにうろたえてんの、スケベ」
クリステアが和人に忠告した。
「冗談か。あー、びっくりした・・・」
アンニフィルドは地球に来て、コーヒーが好きになっていた。特にお気に入りはブルーマウンテンだった。
また、別の日、家に帰る前にスターベックスに寄った。アンニフィルドのスーパーモデルばりのルックスとスタイルは人目を惹いた。
4人はカフェで落ち合った。ユティスはクリステアとアンニフィルドが一緒なので、すっかり安心していた。これでセキュリティについては問題なかった。
エルフィア人たちはエルフィア語で話しているのに、和人はすべてわかったし、口をはさむこともできた。4人は当然のようにエルフィア語で会話し笑い声をあげ、カフェで過ごした。
周りの人間は4人の言葉がわからなかった。英語でも仏語でも伊語でもなかった。ユティスが1人ですら人目を惹くのに、モデル級の美女がさらに2人もいたから、カフェは一気に華やいだ。陽気なアンニフィルドは、日本語で周りに愛想を振りまいて、場を盛り上げた。
そのうち店員の一人が、ユティスをTVに出て歌っていた女の子だと言い始めた。店の客は一斉にユティスと仲間に注目した。まちがいない、と誰もが思った。彼女らの言葉、ぜんぜん聞いたことことがなかった。エルフィア語は破裂音がなく、非常に滑らかで美しかった。また独特の抑揚があり、とても音楽的に聞こえた。それに、なんとなく彼女らの体からオーラのような光が出ているような気がした。店は急にザワザワしはじめた。
「見つけた・・・。彼女だ」
思わず烏山ジョージは独り言を言った。
「なに?」
そこには、お忍びでこの街に来ていたセレブがいた。
「うちの事務所の新人候補さ・・・」
歌手兼女優の小川瀬令奈と音楽プロデューサーのジョージ烏山だった。
「なによ、それ?」
瀬令奈はすぐにユティスを見つけた
「安心しろよ、瀬令奈。きみとは、ジャンルが違う」
「ジャンルが違うったって、新人なんでしょ?」
「ふふふ。嫉妬か?」
「バカ言わないで。わたしをだれだと思っているの?」
二人とも、サングラスで正体がバレないようにしていたので、店の客が気づくことはなかった。
「ちょっと、話してくる」
がたっ。
「待ちなさい、ジョージ。わたしが行く」
ぱしっ。
「なにをする?」
「うるさいわね!」
瀬令奈もあのユティスの歌のことは知っていた。
(天使だって?その正体、掴んでやるわ・・・)
「瀬令奈!」
ばしっ!
瀬令奈は、烏山ジョージの腕を払うと、つかつかとユティスたちに近づき、サングラスを取った。瀬令奈は遠慮会釈なしに言った。
つかつか・・・。
「あなたね、天使さんとやらは・・・?」
「あ、はい・・・。こんにちわ」
にこっ。
ユティスは微笑んだ。
「あの曲を、もう一度ここで歌いなさい」
烏山も瀬令奈の後を追った。
すくっ。
(瀬令奈のヤツに邪魔されてたまるか・・・)
「あ、あなたは?」
「小川瀬令奈、超売れっ子の」
--- ^_^ わっはっは! ---
「プロデューサーの烏山です。きみを探していた」
さっ。
烏山がすぐさま名刺を出した。
「実は、あの天使の女の子を捜していたんだ。きみだったのか・・・」
「おい、きいたか。瀬令奈とプロデューサーの烏山ジョージだぞ」
「ほんものよ」
「すっげーーー!」
一気に店は盛り上がり、客は周りを取り囲んだ。
ぱし。
ぱし。
ぱし。
スマホで写真を撮る人間もいた。もちろん、彼らは、今や4人に近づいた二人が、瀬令奈と烏山であることもわかっていた。
にこにこ・・・。
「どなたか存じあげませんが、どのようなご用でしょうか?」
ユティスが無邪気にたずねた。
「歌いなさいよ、あれ」
「歌?」
「あなたが、moitubeで歌ってたやつよ」
ユティスは驚いたが、アンニフィルドは面白がった。
「そうしてあげれば、ユティス」
「あたしたちが、バックでコーラスしてあげるわよ」
クリステアは、みんなでコーラスすればと返した。
「え?みんな、なにを言ってるんだい?」
和人は急展開についていけなかった。
「ユティス、歌ったでしょ。ほれ、大山なんとかっていうレストランで」
「ああ・・・」
アンニフィルドは和人を誘った。
「ユティスと歌ってたんだから、バスかバリトン受け持てば」
「祈りの歌のことだね?」
「リーエス」
和人はようやく理解した。
「はい。では、歌わさせていただきます」
ユティスはにっこり微笑んだ。
「うわーっ」
「超ステキ」
「か、可愛い・・・」
「他の2人もモデルみたい」
「美人なんてレベルじゃないぞ」
回りは、またしても、ちょっとした騒ぎになった。
「オーレリアン・デュール・ディア・アルティアーアー・・・」
4人は店で『祈りの歌』を歌い始めた。
ぱちぱちぱち・・・。
「スゴイ!」
「ステキ!」
「わぉ!」
客は大喜びだった。
「なんだ、なんだ?」
「おい。あの天使の娘が、いるんだって?」
「すごかったぞ。いまの歌」
カフェは、あふれんばかりの人だかりになった。
「押すなよ!」
「どこ触ってんの!」
「うっせいなぁ」
「ちょっと、みなさん!危ないです。通り道ですから、開けてください」
すぐに店長が出てきたが。すでに店内は、いっぱいの人だかりとなっていた。
「危ないから、開けてください」
「うっせい」
「ケチくさいこと言うなよ」
「そうだ。そうだ」
「うゎ!」
「オレにも見せろ!」
すっ。
店長の前に、烏山ジョージがすくっと立ち上がり、両手を広げた。
「みんな、ちょっと静かに。せっかくなんだから、歌を聞こうじゃないか」
「あなたは?」
「悪いな、店長さん。騒がせちまって。瀬令奈のサイン置いておくから」
「え?瀬令奈って」
「そっちは、正真正銘、本物の小川瀬令奈。で、オレは、烏山ジョージ」
「サ、サインを?」
「ああ。だから、ちょっとガマンしてくれよ」
店長があわてて出てきたが、瀬令奈と烏山に制されあっさり引き下がった。
「お店の宣伝に使っていいわよ。タダで」
--- ^_^ わっはっは! ---
瀬令奈は、にこりともせずに言った。
「オーレリアン・デュール・・・」
ユティスの歌声は、観客の魂を揺さぶった。
ぱちぱちぱち・・・。
「うゎおーーーつ」
「きゃあ!」
ゆらゆらーーー。
4人が歌い終えると、その身体には微かな光がまとわりついていた。
「なんだ、なんだ?」
「あの時と同じだぞ!」
「光をまとっている・・・」
それはとても清楚で美しかったので、カフェの客たちは見とれてしまった。
「きれい・・・」
ぱしゃ。
ある者はスマホで動画や写真を撮っていた。