158 界隈
■界隈■
和人たち6人は、焼き鳥屋で早めのパーティーと決め込んでいた。それを羨ましそうに見ていた、隣席の50代と思われる男が二人、ポッピーのグラスを高く掲げた。
「こっちもカンパイだぁ。きれいなお姉ちゃんたちに!」
「はぁい、地球に!」
--- ^_^ わっはっは! ---
いかにも50代のサラリーマン風の男たち二人は、すっかりできあがっていて、ユティスたちにジョッキを捧げた。
「おっ。これは、どうも!」
「とても礼儀正しい、いい方たちですね」
ユティスは二人に向けてにっこり微笑んだ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ユティス、それ、礼儀正しいって言うのか?」
俊介はにやにやしながら言った。
「ほぉーーーっ、こんりゃまた、お姉ちゃんたち、どえれー別嬪さんじゃにゃーきゃあ」
「礼儀正しいっていうか・・・」
「違いますの?」
「わはっはは、お姉ちゃんたち、気に入った。こいつはオレのおごりだ!」
サラリーマン風の一人が、店員に串を6本ユティスたちにやってくれと注文を出した。
にこっ。
「へい、まいど!」
「ほら、とっても、いい人たちですわ」
ユティスはまたまたにっこり微笑んだ。
「しかし、兄ちゃんたち、二人で別嬪さんを4人も抱えてよぉお、一人で二人、両手に花だわなぁ」
「ホンマ、羨ましいでなぁ」
「ボクもわけぇ頃にゃ・・・」
「別嬪4人か・・・」
「なによぉ?」
俊介に見つめられ、真紀が反応した。
「ひー、ふ-、みー、よー。おーお、姉貴もちゃんとカウントされてるぞぉ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「当然ね。失礼しちゃうわ」
ぷん。
「オヤジたち、趣味わりーーーっ」
「なによ!」
ぽかり。
「痛っ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ふん!」
「しっかし、ホンマ、姉ちゃんたち、どこのモデルさんだがや?きれーつーか、可愛いーつーか、色っぺーつーか。いやいや、女優さんかや?」
「用心棒よ」
--- ^_^ わっはっは! ---
クリステアが、にっこり言った。
「そっか。そっかーーーぁ。どうりで・・・」
「どうりで?」
「ええスタイルしとるわなぁ。でへへ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「思いっきりセクハラ。スケベオヤジしてんじゃないのかぁ?」
俊介がアンニフィルドに耳打ちした。
「いいじゃない。褒めてくれてるんだから。慣れてるわよ、わたし」
「そういう問題かぁ?」
「で、どっから来たんかい?」
にこっ。
「エルフィアですわ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あー、ユティス、ホントのこと言っちゃだめじゃないか」
和人がびっくりして言った。
「あら、いいじゃないの。どうせネットで広まっちゃったんでしょ」
真紀が言った。
「よぉーーーし。こっちも、お返しせんとな。おーい、兄ちゃん、ポッピー、中と外を2つずつ」
俊介が店員に注文した。
「喜んで!」
「あちらの社長さん2人に」
「喜んで!」
店員はすぐにポッピー2杯を2人の前に置いた。
「へい。お待ちどうっ」
どん。
どん。
「おっ、こりゃまた、イキなはからいで」
「どうぞ、お召しあがりくださいな」
ユティスが微笑んだ。
「いやぁ、今日は最高の日だなぁや」
「まったくだわ」
「パジューレ」
クリステアがエルフィア語で、どうぞといった。
「おっ、いただきますよ。サンキュー・ベリーマッチ。わははは」
「ベリ、ベリ、マッチよぉ。わっはっは」
二人は満面笑顔だった。
「あーあ。外人見たら、みんなアメリカ人だと思ってんだろうな、この人たち」
和人がこぼした。
--- ^_^ わっはっは! ---
「いいじゃないか。思わせとけよ」
この二人のおかげで、エルフィア娘たちは大いに盛りあがった。
「なんだ、その『リーエス』ってのは、『イエス』のことだがや?」
「そうよ。『了解』って意味にもなるわ」
「そっかぁ。こいつは使えるな」
「ああ」
「『プリーズ』ってのは、お姉ちゃんたちの言葉では、『パジューレ』か。なるほど。『オレ』ってのは。『オーレリ』ってかぁ」
「リーエス。男性も女性も一緒よ。『パジューレ』は『どういたしまして』という意味にも使われるわ」
クリステアが説明を加えた。
「なんだか、ぼくらの日本語に思いっきり似とるじゃにゃーきゃ」
「『わたしたち』は、『オーレリアン』。語尾の『アン』は、複数を表すの」
「なるほどねぇ・・・」
「クリステアは、エルフィア語教室の先生になれそうだね」
和人はユティスに言った。
「ホントですわ。うふ」
このにわかエルフィア語講座のおかげで、座は大いに盛り上がり、一同は堪能した。
「さてと、そろそろ、みんなお腹はいっぱいになったかしら?」
真紀がエルフィア娘たちを見回した。
「はい、おかげさまで」
「あー、美味しかったわ」
「ありがとうございます。国分寺さん」
「礼はいらんよ」
「社長、常務、よかったです」
「うん、最高だったわね」
そしてエルフィア娘たちは、二人連れの男たちを見て微笑んだ。
にこっ。
「ごちそうさまでした」
三人は二人に礼をした。
「ありゃ、もう、上がりってか?」
「ごめんなさい、社長さんたち。わたしたち、そろそろ・・・」
「えーわ。えーわ。ぼくらは勝手にしとるけぇ。いやぁ、ほんま、えがったわぁ」
「じゃぁ」
「お姉ちゃんたち、またな。いつでもたいがい、ここにおるけぇ」
「リーエス」
「ク・ラールデ。ジェラン・デュール・ヴェルシアーナン」
「じゃぁ、またね、社長さんたち」
「かっこええわーーーぁ。お姉ちゃんたち。もう1回言ってくれんかね?」
「リーエス」
3人娘はコーラスした。
「ク・ラールデ。ジェラン・デュール・ヴェルシアーナン」
ちゅ。
ちゅ。
ちゅ。
3人娘は、社長さんたちの頬に頬を重ねることを忘れなかった。
「こりゃぁ、たまらんわ。ほんま!」
二人はさらにごきげんになった。
*** 突然ですが解説です ***
「はぁーい、アンニフィルドです。ここで、少し解説を入れるわ。あなたもエルフィア語を少しずつ覚えてね」
「『ク・ラールデ』正確には、『クル・アールデ』、『クル』の語尾と『アールデ』の頭が連音され、二つの単語なのに、まるで一つの単語のように発音されるの。『再会の機会に』って意味ね」
「『ジェラン』は組織の長を表す言葉で、この場合は、社長さんたちという意味ね。『ジェル』が男性複数形。ちなみに女性社長なら、『ジェラ』よ。女性の複数形の発音は同じく『ジェラン』になるわ」
「『デュール』は、なになにのという助詞ね」
「『ヴェルシアーナン』会社や団体組織という意味で、『ヴェルシアーヌ』の複数形よ」
「もし、社長さん一人に挨拶する場合は、『ク・ラールデ。ジェル・デュール・ヴェルシアーヌ』だわ。真紀の場合には、女性社長なので、『ク・ラールデ。ジェラ・デュール・ヴェルシアーヌ』となるの。難しかったぁ?少しずつ覚えてよ。ここはハイパーラーニング・システムがないから大変ね」
*** 解説終了です ***
6人は歩きながらカメ横を駅に向かって歩き始めた。
「どう、デザートなんてのは?」
真紀が、3人にメロンを切り売りしている店の前で止まった。
「んーん。なんか、甘くてとってもいい香り・・・」
アンニフィルドも鼻を突き出して誘われた。
「殿方は?」
「遠慮しておく」
「オレもけっこうです」
「じゃ、4つ」
「へい、まいど」
「おいしい・・・」
3人はメロンを頬張って楽しんだ。
ちくちく・・・。
クリステアの左腕に電気信号が走った。
「アンニフィルド!」
「リーエス!」
「アンデフロル・デュメーラからの警告よ」
「わたしにも来たわ」
すぐさま、アンニフィルドとクリステアは、真ん中にユティスをはさんだ。
「意図的にエージェント・ユティスに近づく人物を、複数検出しました」
「リーエス。警告、アルダリーム。アンデフロル・デュメーラ」
「パジューレ。指示あるまで待機します」
「ええ。そうして」
「どうした?」
すぐに俊介も異常を察知した。
「30メートル以内にいるわよ」
「敵か?」
「おそらく、複数・・・」
「和人、ユティスの道側に位置しろ」
「了解です」
「姉貴は先頭に行ってくれ」
「わかったわ」
「オレは一番後ろに行く」
真紀が先頭になり俊介はしんがりにつき、練習もしてないのに、あっという間にユティスを守るフォーメーションになった。
「アンデフロル・デュメーラが、敵の位置を特定してるわ。右前方20メートル」
「和人、ユティスと離れないように手を掴んでなさい」
クリステアが、和人に言った。
ぎゅっ。
ユティスはそう言われる前に和人の右手を握った。
「今度は、もう放しませんわ」
にこっ。
(ひゃぁ、柔らかいよぉ・・・。ユティスの手・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
「こら、和人。こんな時に、なに、スケベなこと考えてんのよ。聞こえてるわよ」
アンニフィルドが鋭く言った。
「あは。ごめんなさい・・・」
「うふふ。気になさらないで、和人さん。わたくしは楽しんでいます」
「うん」
「相手は3人です。みなさんの位置を補足しました。国分寺さんたちも加えますか?」
アンデフロル・デュメーラが、Sたちに言った。
「リーエス。パジューレ」
「リーエス。いざという時には、すぐに、わたくしのところに転送いたします」
「アルダリーム」
エストロ5級母船、アンデフロル・デュメーラからの応答で、国分寺姉弟を除く4人は安心した。
「彼女には、あなたたち二人も、仲間だって、ちゃんとわかってるわ」
「そいつは、ありがたいことで」
「接触10秒前です」
アンデフロル・デュメーラから通知が来た。
「ほら、アイツよ」
クリステアが目をやったところには、長身のグレースーツでかためた男がいた。彼は高架線のわきに立ち、ユティスをじっと見ていた。
「アンデフロル・デュメーラの言った通りね。一人じゃないわ」
「あそこと、あそこにも」
すぐに、アンニフィルドが後ろと横にもいることを確認した。
「そのまま自然に行ってくれ、姉貴」
「わかったわ・・・」
真紀は前進した。
ささっ。
グレイの男はさっとユティスの前に躍り出た。
ぱっ。
すかさずクリステアが男の手をつかんだ。
「動かないで」
がしっ。
「なにをする、わたしは刑事・・・」
「IDを見せなさい」
左腕をクリステアにつかまれたまま、男は胸のポケットに右手を突っ込んだ。
「はい、そのまま」
クリステアは、男の腕に信号を送った。
びびっ。
とたんに男は右腕がしびれ動かなくなった。
じーーーん。
足も地面に着いたまま動かすことができなかった。
「な、なんなんだ、いったい?」
「武器を取り出そうって言うのなら、後悔することになるわよ」
クリステアが、ポケットから男の右手を慎重に出した。手には手帳があった。
「うっ。事と次第では、公務執行妨害現行犯で逮捕するぞ」
たったった・・・。
ばらばら・・・。
横から男の仲間も集まってきた。
「部長!」
「われわれは、大田原内閣特別顧問から要請を受けている・・・」
「学生さん?」
「学生・・・?」
部長は警察手帳を差し出したつもりだった。
「部長、それ、娘さんの学生手帳っすよぉ・・・」
「げげ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「いや、わたしは本物の警察だ」
「代わりに自分が出すっすよぉ」
部下は、自分の警察手帳を見せた。
「それで、ユティスになんの用?」
クリステアはボスらしき男を詰問した。
「エルフィア人か?」
「そうだと言ったら?」
「IDを見せなさい」
--- ^_^ わっはっは! ---
横から、俊介がおどけて言った。警護の3人を除いて、一同大爆笑になった。
「大丈夫だ。クリステア、アンニフィルド、彼を放してやってくれ。彼らは大田原太郎の差し向けてくれた警護チームだ」
「あ、そう・・・」
すりすり・・・。
クリステアに腕をつかまれた男は、仏頂面で青あざができた腕をさすっていた。
(女にしては、なんてバカ力なんだ)
(それ、褒め言葉じゃないわね?)
--- ^_^ わっはっは! ---
「な、なんだ・・・、今のは?」
「聞こえてるのよ」
「アンデフロル・デュメーラ。安心して、味方よ」
クリステアが言った。
「リーエス。SS・クリステア。わたくしたちを警護する現地スタッフと認識しました」
アンデフロル・デュメーラが、4人の頭脳に通知した。
ぴっ。
3人の一人が大田原と連絡を取った。
「こちら、三蔵。ただ今、かぐや姫一行と合流。本人と確認いたしました」
「ご苦労」
アンニフィルドは、3人の頭脳の固有振動をスキャンしていた。人間はそれぞれ固有の振動数を持っていて、それが合えば考えを読んだり、こちらから意思を伝えたりできる。
「そちらは?」
グレーの男がきいた。
「国分寺よ」
「ああ。あなたが、例の・・・」
「遅いじゃないの」
真紀が3人に言った。
「失礼しました。この人ごみですから、見失わないように追いかけるのは、容易ではないのです」
グレーの男が言った。
「プロなら言い訳しないで」
びくっ。
ピシャリと言ったクリステアの冷ややかな視線に、男たちはびくっとした。
「さっきは、大変だったのよ」
「Z国が既に動き出している。ユティスを誘拐されるところだった」
「われわれも、国分寺さんが飛び掛らなければ、すぐに奪い返そうと思ってスタンバイしていました。真紀さんの機転で、今回は彼らもあきらめたようです。彼らの写真も取ってあります。既に大田原さんには送りました」
「ご苦労」
俊介は警護官たちの労をねぎらった。
「こちらは?」
「エルフィア大使のセキュリティガードだ」
グレーの男はあらためてクリステアとアンニフィルドを見た。
(女?にしても長身だな。スマートだし動きも早い。相当できる。すきがない。敵に回したら手強いぞ・・・)
「お褒めにあずかり光栄ですわ」
ぱち。
アンニフィルドが、ユティスの口調をまねて、3人にウィンクした。
「ん、んっ」
思わず3人は咳払いをした。
(待てよ、この女・・・。さっきといい・・・、オレの思ったことがわかったというのか?)
(そうよ、オフィサー。まる聞こえ・・・)
アンニフィルドは直接彼の頭脳に答えた。
(うっ)
(あなたの頭脳の固有振動数は、既に把握したわ。いつだって連絡取れるわよ)
(な、なに?)
(デートの申込なんかは早めにね。スケジュールが埋まっちゃってからじゃ、お応えできないわ)
--- ^_^ わっはっは! ---
(デ、デートだって?)
(今夜はダメ。別の日にね)
アンニフィルドは思いっきり色っぽい流し目をした。
(そ、そんなことは・・・)
(アンニフィルドったら、またやってんの?)
--- ^_^ わっはっは! ---
クリステアがあきれたような声を出した。
(えへへ。職務一本槍って男、からかうの面白いんだもの)
--- ^_^ わっはっは! ---
(アンニフィルド、もうそのへんにしてくださいね)
ユティスが割り込んできた。
(はいはい)
(な、なんと、エルフィア人てのはみんなテレパシーを使えるのか?)
グレーの男はさっきの勢いをすっかり失くしてしまった。
「部長、大丈夫ですか?」
残る二人は心配そうにグレーの男にきいた。
「大変なショックを受けているということ以外は、大丈夫だ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「客人たちはオレたちの心が読めるらしいから、煩悩に支配されないように、くれぐれも用心するように」
「了解。では、われわれは任務に戻ります」
「よろしくね」
アンニフィルドは陽気に答えた。
「クリステアに簡単に見つけられたことに加え、アンニフィルドにも考えを読まれてショックらしいな」
俊介はにたにたしながら、真紀に同意を求めた。
「仮にも覆面刑事ですからね」
真紀が言った。
「ま、いないより、いてくれた方がましって程度かしら」
アンニフィルドが言った。
「あれでも精鋭部隊から来たはずなんだが、一応」
国分寺が弁護した。
「相手が悪すぎるのよ。あたしたちじゃね」
「さ、帰りますか」
和人がみんなを現実に引き戻した。