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152 問答

■問答■




境内の参祈者たちが、集まって、なにやらやっていた。


「あれは?」

「お線香の煙を体に浴びると、無病にあやかれるらしい」

「では、わたくしたちも、地球式に浴びなければ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「信じるの?」

「別に、毒ガスでは、ないんですよね?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「そりゃ、そうだけど。吸い過ぎるのは良くないと思うよ」

「では、一つ信じてみましょう。すべてを愛でる善なるものよ、和人さんが病気にかかりませんように」

ユティスはそう言うと、周りに倣って、線香の煙を和人にかき寄せた。


「ア・リーエス。ありがとう、ユティス。じゃ、きみにも無病息災、幸せを」

「リーエス。ありがとうございます、和人さん。ア・リーエス。ふふふ」

「あはは」




その時だった、僧侶の一人がユティスに話しかけた。


「失礼いたします。お二方、ちょっとよろしいですか?」


「あ、お坊さんだ・・・」

「はい。ここで宗主をやっております、小山と申します」

「どうも宇都宮です」

「ユティスです」


「ようこそ、草浅寺へ。ご観光ですか?」

「リーエス」


「リーエス?あ、イエスですね。こりゃ、どうも・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ええ。こちらこそ。素晴らしいお寺を拝見できまして」

「それは、それは。ありがとうございます。ところで、先ほどのお二方の問答、失礼ながらお側で拝聴させていただきました」


「え?」

「わたくしも、それにとても興味を持ちましてね」


「わたくしたちの話にですか?」


「はい。拝殿で、少し、お話でもいただけませんでしょうか?わたくしどもも、大変勉強になるように思いまして。お抹茶でもいただきながら・・・」


「まぁ、ステキ。ぜひ。ね、和人さん!」


(お抹茶につられたな、ユティス)


--- ^_^ わっはっは! ---


(まぁ!うふふ、認めます!)


「ええ、まぁ、ユティスが、いいと言うのなら・・・」


「ありがとうございます。さぁ、こちらへ」

「またとない、地球文明の意見交換ができそうだよ」

「リーエス。お抹茶とお菓子、わくわくいたします」


--- ^_^ わっはっは! ---


草浅寺の宗主は、2人の僧を伴って、仏像が安置されている大広間と繋がった隣の畳間に案内した。


「どうも、こういうところで。お時間は大丈夫でしょうか?」

宗主は気を遣った。


「はい」

「こちらは、当寺の修行僧です」


ぺこり。

「飛鳥谷と申します」


ぺこり。

「出井と申します」


ぺこり。

二人の修行僧は、そう言って礼をしたが、それ以降は宗主の小山に任せて、口を開くことはなかった。


「はい。わたくしは、ユティスと申します」

「オレ、いやわたしは、宇都宮と言います」

「これはご紹介に預かりまして、どうも」


すぅ。

さささっ。


「さぁ、どうぞ」


草浅寺の少年僧が、ユティスと和人に、次に僧の三人に茶菓子と抹茶を差し出した。


「まぁ、とっても良い香りですわ」

「ははは。当寺の自慢のお抹茶です。さ、お召し上がりくださ」


「ありがとうございます」


すすーーーっ。

ユティスは作法を知っているかのように、優雅に抹茶を口にした。


ずずずーーーっ。

和人は音を立てながら、抹茶をすすった。


--- ^_^ わっはっは! ---


「あはは。いかがですかな?」

「大変、結構なお茶です」


「それは、それは。光栄の至りです」

草浅寺の宗主は、にこやかに言った。


「それで、わたくしたちのお話のどこに、興味をお持ちになられたのですか?」

ユティスは静かに茶碗を置いた。


「はい。あなた方のおっしゃられた科学と客観的事実、ということについてです」


「科学と客観的事実?」

「はい」


「それのどこが、お寺さんと結びつくのでしょうか?」

和人は宗主を見つめた。


「はい。元来、仏教と言うものは、仏陀の悟りを体現することが大切なんですが、仏陀の悟りというもの、これが、どうも最近、わたしには物理の基本法則と矛盾していないように、というより、それそのもに思えてならないんです」


「といいますと?」

「因果応報。輪廻転生。これら言葉をご存知ですか?」

「ええ。もちろん。ユティス、わかるかい?」


「ナナン。わたくしには、わかりませんが、お話をお続けくださいな」

「はい。では、一言だけ。因果応報とはやったことには必ず報いが来るというものです。輪廻転生とは生けるものそのすべて、生まれて死んで、また生まれ変わる。それが永遠に続くと言うものです」


「・・・」

ユティスはなにかを考えている様子だった。


「どう思う、ユティス?」

「とても意味深いと思います。たった一言で、これだけの意味を持たせるなんて、地球語とは、なんと素晴しいんでしょうか」


--- ^_^ わっはっは! ---


ユティスは興味津々で宗主の次の言葉を待った。


「地球語かどうかはそこにおいて置いて、わたしは、これらはすべてエネルギーという概念の下に、語られた言葉だと思うんですよ」

宗主はにこやかに語った。


「エネルギーですか?」


「はい。エネルギーは通常は均衡していて、プラス側にもマイナス側にも、ありません。ところが、外からの作用が働くと、途端になにもなかったところに発生するのです。これを仏教的に捉えるなら・・・」


「例えば、どんなことでしょう?」

「ある男が友人をぶつとします」

「はい」


ばしっ。

「友人は、直ちに痛みを感じ、その男を打ち返す」

「はい」


ばしっ。

「その男も痛むを感じ、次なる打ち返しをします。男が頬を打たれた理由は、その男が友人をぶったからです。」

「はい」


「それが因果応報ですか?」


「はい。しごく単純に例えていますが、物理的解釈するとこういうことです。男のぶつという運動エネルギーが、友人の身体に当たり、神経により生化学的電気エネルギーに変換し、脳に到達します。脳では脳神経が生化学的刺激を受け、それを攻撃だと判断し、防御反応、つまり仕返しに、男を打ち返せという指令を、生化学的電気エネルギーとして、神経経由で腕に伝えます。かくして、友人の腕は男を打ち返し、男は自分の放った運動エネルギーが、いろんな形でエネルギー変換されて、最終的に運動エネルギーで受け取る、ことになります」


「なるほど・・・」


「これは、男がエネルギーを放ったが故、エネルギーの均衡が破れ、一連の反応として起こったエネルギー変換、つまり、ある種のエネルギーの保存と言えませんか?」

「その男性が、なにもしなければ、なにも起きなかった、ということでしょうか?」


「はは。ユティスさん、まったく、あなたのおっしゃる通りです。しかし、実際には、男の友人は、その男以上のエネルギーを加えて倍返しするでしょうから、エネルギーはお互い増幅し合うでしょう。そうなると、エネルギーの励起状態は続き、二人の争いは果てしなく続くことになります」


ばしっ。

ばしっ。

ばしっ。

ばしっ。


--- ^_^ わっはっは! ---


「物理では、ものについて適用する言葉ですが、人間心理についても十分当てはまるんじゃないかと、わたしは思うんですよ」


「なるほど、それで、因果応報、仏教の出番ということですか・・・」

和人は宗主の話しに感心した。


「出番と言う訳ではありませんが、人間関係においても、心理的なエネルギーは中立です。どちらか一方が好感を持てば、もう一人もその人に対して好感を持ちます。その逆もまた真なりです」


「嫌う相手には、嫌われるか・・・・」

「悲しむべき状態ですわ。そんな関係・・・」


「おっしゃる通りですよ。まぁ、そういう訳で、仏陀の言葉も、エネルギーという概念をもってすれば、もっとよく理解できるんではないかと」


「素晴らしいですわ」


「それに、仏教では、人間の魂は不滅で、一度死んでも生まれ変わるとされています」

「輪廻転生ですね?」


「はい。これも、やはりエネルギー保存という立場でとらえると、得心がいきます」

「なるほど」


「生命、つまり生まれてきた魂を、ある種のエネルギーと仮定すると、死んでも、エネルギーはなにかに変化されていくという訳です」


「つまり、エネルギーという概念と、エネルギーはいろんな形に変換され、保存されていくという概念にたどり着かなければ、仏陀の教えは生まれなかったと、おっしゃるんですか?」


「はい。大宇宙の創成期に起こったとされるビッグバンも、そういう風にとらえると、面白いかもしれませんよ」

「わたくしのエルフィアでは、それを、すべてを愛でる善なるもの、その意思だと解釈していますわ」


「なるほど・・・」

ユティスの言葉に宗主は神をイメージした。


「ユティスさんは、キリスト教でしょうか?」

「ナナン。しかし、仏教にもキリスト教にも相通ずるものがあります」

「そうですか。それは光栄です」


「なんか、仏教のイメージがひっくり返った気がしますね」

和人はユティスの言葉に頷きながら答えた。


「ははは。わたくしごときがですが、一応、大学は理学部物理学科を出てるんですよ」

宗主は微笑んだ。


「そういうことでしたか」


「はじめは、宇宙物理学者を目指してたんですけど、家がお寺で父も引退しましてね、しょうがなしにこの道に入ったんです。しかし、おかけで、仏教と物理学の間にいろいろと共通点を発見しました」


「おっしゃること、わかりますわ」

「それに、客観的事実とは絶対に確保できるんでしょうか?」


にっこり。

宗主は、二人にやさしく微笑んだ。


「事実というものは、ある意味、一つの概念で相対的です。言葉に置き換えた途端、事実は人間に取ってという、条件付のものになります。アインシュタインの相対論も、そういう風なことを言っていますよね。少なくとも、心理的な事実は、万人に普遍的にあるんでしょうか?」


「どううことですか?」


「あれは、楽しい、美しい。それは、その人の価値観によって決まります。また、あの花は赤い、青いといったことも。本当に、他人は、自分の感じてるものと同じなんでしょうか、ということです」


「同感ですわ。宗主さんのおっしゃることは、地球の哲学者、デカルトに通じるところがあります」


「はぁ、ご存知でしたか、デカルトを?」

「はい」


「それに科学は、観察、考察、推論、実験、推論の繰り返しですが、人間が実際に実験で確認できることは限られているということです。ところが、それを超えて、数学的理論で導かれたものもすべて事実としてしまうと、それは、推論の暴走と言わざるを得ません」


「例えば、どんなことがあるのでしょうか?」

「科学の基礎たるものですよ。なんでも素粒子のような、もので考えようとします」


「もの?」


「そうです。重力も粒子間のさらに細かい粒子の互いの行き来による結びつき、生命ですら、通常の物質に宿る素粒子のようなもの、と言う風に考えようとしている科学者もいます。しかし、本当にそうなんでしょうか?」


「うふふ。とても難しい問題ですわ」


「まったくです。わたしは、アインシュタインのE=mc2というものが、どんなに素晴らしいことを語っているか、ほとんどの省みられていないと思うんです」


「それは、なんですの?」

「エネルギー量は、質量掛けることの、真空中における光速度二乗で表されるということです」


「うふふ。それのどこに、素晴らしい意味が隠されていると思うのですか?」

「質量はエネルギーに換算される、つまりエネルギーそのものであるということです」


「それで?」


「では、エネルギーとは?電磁波や熱や重力に換算されるもの。掴みどころがありませんよね。問題は、これを全宇宙規模で考えることにあります。観測によると、宇宙は光速を遥か超えて加速度的に膨張してるとか」


「うふふ、そのエネルギーは観測すらできない、という訳ですね?」


「その通り、それで見えないエネルギーということで、ダークエネルギー。それが宇宙の構成要素の70パーセントを占めているというわけです。ですが、なんか、しっくりきませんよね?確かめることのできないものなのに、数学的にはあるはずとする訳ですから・・・」


「うーーーん」

和人はまったく理解できなかった。


「物理の方程式は慎重に吟味しなければなりません。どういう意味が隠されているのか。どういうことを気づかせてくれるのかです」


「はい。それで、宗主さんは、どうお考えなのですか?」


「アインシュタインの単純かつ大変美しい方程式は、宇宙空間、つまり、時空はエネルギーそのもの、それしかないということを表している、と思うんです。mは質量。つまり、物質です。それは、重力、距離等の式を代入できます。すると、物資も電磁波も重力も元をたどれば一つ。宇宙の大統一理論の根拠は、数式的には正しいのです・・・」

宗主はそこで、2人が理解できているか確認した。


「はい。お続けください」

にこっ。

ユティスは微笑んだ。


「しかし、観測結果ではあまり成果をあげていません。理論どおりにいってないのです。科学者が、粒子を加速器でいくら破壊しても、さらに細かい素粒子と思われる痕跡が出てくるだけです。物質の最終的なものが、プランクサイズのヒモにしろ粒子にしろ、空間と対立する物質的なものと思っている限り、真理には遠のくばかりではないのでしょうか?宇宙と言う空間、時空そのものが、エネルギー場だとすれば、時空の振動こそが万物の正体で、電磁波や物質は、時空の振動の一つの状態でしかないと思うんです。振動が広がっていくなら、それは電磁波、ある範囲内に凝縮し留まって振動し続けるなら物質、というようにです。重力。電磁力。強い力。弱い力。余剰次元を考えてこれらを統一しようと、科学者たちは必死です」


「なるほど・・・」


和人は依然エルドから聞いた言葉と同じことを宗主が言っているような気がした。


「仏教はそのすべてを包含しています。相対的なのです。あるものは、光に見え、あるものは熱に見え、あるものは硬いダイヤに見える。それらは、ただ、それだけで存在することなく、深く係わり合っています。お互いに変換し合います。単独では存在し続けられません。星の最後、超新星爆発においては、すべては崩壊し、また、エネルギーへと戻っていくのです。これらの本質は、一緒です。現代量子力学では、宇宙空間は、なにもないボイドどころか、真空とはほど遠いもので、未知の素粒子も含めて、いろんな素粒子が生まれたり消えたり、はたまた他の素粒子に変換したり、一時も休んではいない、エネルギーの海のようなものと理解されています」


「ユティスは数かな微笑を湛えて、宗主の言葉に静かに頷いていた。


「重力は、宇宙空間、つまりエネルギーで満たされた時空の中、ヒッグス場と言うのだそうですが、そこを素粒子が移動する時、時空のエネルギーを吸収した結果、生じるということなのです。なにもないところから、素粒子が生まれるのではなく、こうして、一度、ゼロの均衡が破られた時空は、あらゆる振動を発生させ、向き、量、振動数、位置、スピン、といった違いによって、あらゆる形態の素粒子やエネルギーへと変換されていったのではないでしょうか?」


宗主は一気に語り終えるとにっこり微笑んだ。


「素晴らしいお話ですわ。とても興味ある考察と思います」

ユティスは宗主に賞賛の眼差しを送った。


「では、やはり真実は・・・?」


「うふふ。それは、あなた方、地球人、ご自分たちの力で答えを出すことが必要ですわ。わたくしが申しあげることではありません」


「なんと・・・、今、なんと?」

「ユティス!」

和人は、ユティスが思わず地球人と言ったことに、警鐘を鳴らした。


「ははは。宗主さん、ユティスは外国人なもんで、ちょっとした言葉の間違いでして・・・」


「ははは。そうでしたか。いや、びっくりしてしまいました」

宗主は笑った。


「結局、仏陀は、瞑想の末、そういうことを結論したのかもしれません。でなければ、こうも物理学の基本要素が、教義に盛り込まれているはずありませんから・・・」


「2600年以上前のことですから・・・」

和人も頷いた。


「仏陀は、その悟りを、科学的な言葉もない時代に、限られた民衆の言葉でどう表現したらいいのか、そっちのことこそ、大いなる悩みだったかもしれません。万物は時空というエネルギー場の振動。それゆえ、すべては同じ。同じゆえ、すべてが平等。すべては元に戻り、また変化する。これを永遠に繰り返すわけです。森羅万象、万物流転」


「エントロピー増大はどう思われまして?」

ユティスが宗主に初めて質問をした。


「宇宙は無限に拡大し、冷えていくということですね?」

「はい」


「時空が広がることに、エネルギーが使われているということだと思います。これでは、最後に宇宙は冷え切り、輪廻になりませんがね。あは・・・」

「うふふ。でも、とてもよくご説明されていると思いますわ」


「そう言えば、ギリシアの哲学者も言ってましたね、似たようなことを・・・。人間は、現代物理学がそれを証明する方向に進んでいると、気づいているんでしょうか?わたしは他の宗教について知りませんので、コメントは差し控えますが、仏教と言うものは、根底にそういう物理学的ものを持っていると思えてなりません。仏教の言う悟りは、それを人間的にどう受けとめるか。そういうことなのかもしれないのです」


にこっ。

にこっ。


宗主とユティスは互いに微笑み合った。

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