151 境内
■境内■
テレビ番組でインタビューを見た人たちは、『自分はユティスを見た』と目撃談をTV局に連絡を入れた。中にはこんな慌て者も・・・。
「NTVSです」
「あの天使の女の子、彼女、オレ見たんだよ。うん。絶対にあの娘だ。あのさぁ、カフェ、カフェ。あるだろ、カフェ。そこにいたんだよ」
「はぁ。カフェですね、どこの?」
「オレんちの近くだよ。オレんちの」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あなたのご住所は?」
「そんなこと、どうでもいいだろ?とにかく、見たんだってば!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そうおっしゃられても、どこの町かくらいは情報を提供していただかないと、こちらでも真偽の判定をしかねますんで・・・」
「どこの町かってぇ?そりゃ、オレの町でさぁ・・・」
「あ、どうも情報提供ありがとうございまぁす。今後ともNTVSをよろしくお願いしまぁーーーす」
ぷち。
--- ^_^ わっはっは! ---
「どうしたの?」
「目撃ですって。オレんちの近くのカフェ。オレの町・・・」
「きゃははは、なぁに、それ!」
ぷるる・・・。
「また、かっかったわ。じゃぁ」
ぷるるる・・・。
「わたしも、かかってきたから・・・」
もちろん、仕事のクライアントの中にも気づいたものがいた。
「NTVSです」
「すみません。佐野と申しますが。例の天使のような女の子のことで・・・」
「はい。わかりました。目撃情報ですね?」
「はい。実はわたしの会社でソフトウェアの発注先が彼女の会社でして・・・」
「佐野様の会社ですね?」
「はい。わたくしの会社です」
「オーナー社長様で?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「いえ。一部門長なんですが。取引先の新人女性なんですよ。とにかく、可愛いし、キレイだし、物腰も柔らかく、素晴らしくいい子でして。テレビに出てたもんで、どえりゃあ、びっくりしたんですわ」
「はい、それで?」
「エルフィアとかいう国は本当です。ボクもちゃんと聞きましたわ。番組のレポーターさんは、冗談っぽく捉えよりましたが、ホンマにありますがな、エルフィアは」
「では、ユティスはの言ってることは真実だとおっしゃりたいのですね?」
「そうですわ。でもって、ユティスさんが『宇宙人だぁ』と言いよりましたんで、おったまげたつぅわけです。いやぁ、ボクは宇宙人と話したことになりましたわ。わははは・・・」
「どうも貴重な情報を提供いただきまして、ありがとうございます」
ぷちっ。
今や売れっ子のポピュラーシンガー、小川瀬令奈の音楽プロデューサー、烏山ジョージはテレビのスイッチを切った。
「これだ!彼女だ!こういう娘を探していたんだ!」
烏山ジョージは、たまたまこの番組を見ていた。そして、すぐに行動に移った。
ぷるるる・・・。
「烏山さん?」
「あぁ、オレだ」
烏山は自分の事務所の秘書に電話を入れた。
「さっきのNTVSの特番で、映っていた女の子がいるだろ?」
「ええ。見ましたけど・・・。それで?」
「彼女をうちでプロデュースする。なにがあっても、絶対に他のプロデューサー連中に先を越されるな。すぐにTV局に連絡を入れてくれ」
烏山の断固たる口調は、それが冗談ではないと告げていた。
「そんな、急に?」
秘書は躊躇っていた。
「デビュー前の隠し玉だと言ってくれ。もう、うちで仮契約してるとも伝えてくれ。ツバをつけるんだ」
「そんなぁ。強引過ぎます」
「構うもんか。なにかあったら、すぐオレに連絡を」
「わかりました。でも、テレビ局からは根掘り葉掘り聞かれますよ」
「わかってる。オレが知っていることにして、適当にごまかしてくれないか。とにかく、今はオレたちがツバをつけていることを、一早く業界連中に知らしめることが肝心だ。なにがなんでも彼女をうちで売り出す」
「はぁ。わかりました」
秘書は烏山が危険な賭けに出たことを知った。
「ユティスか・・・。彼女にはピンと来るものがあるぜ・・・」
烏山は、今売れっ子のシンガー兼女優の小川瀬令奈の音楽プロデュース他、何人かのアイドルのプロデュースも行なっていた。
「彼女は、類まれなセンスを持っている。しかも、誰もがため息をつくような清楚で可愛らしさを失わない美貌を持っている。どちらが欠けてもこれからはダメだ。両方持っているからいいんだ」
烏山は独り頷いた。
「それに控え、瀬令奈は今が人気のピーク。ファンは知らないが、あの性格だからスタッフには評判は良くないし・・・。この人気も長くはないな。次のスターを探さないと・・・。オレのイメージにぴったり合うスターを。そこに現れたのがあの天使だ・・・。久々に、やる気が出てきたぜ」
烏山は、何としても、ライバルたちを出し抜き、ユティスを見つけ出さねばならなかった。
「やっと・・・。やっと、本物を見つけたんだ。可愛い、キレイ、パンチラだけの、歌下手、脳ミソ空っぽアイドルや、一回グラミー賞だかなんだかノミネートされたからって、ワールドワイドのスターを気取った性格の悪い高飛車女には、もう、うんざりだぜ。オレの音楽をコケにされてたまるか」
烏山の秘書は言われるままに、NTVSに電話をした。
「NTVSさん?」
「ああ、烏山さんの事務所の・・・」
「ええ、そうです。黒羽です。先ほどの特番に出ていた動画の女の子のことで・・・」
「なにか、知ってらっしゃるんで?」
「ええ。彼女はうちの、烏山音楽事務所の・・・」
「なんてこったぁ。まさか、烏山さんところの次の隠し球だとかいうんじゃ・・・」
「まぁ、そういうことでして。まだ、仮契約の段階なんですが、うちで・・・」
「マジですか?」
「はい。先に、あんな動画が出回っちゃって・・・。すぐに削除したんですが・・・」
「詳しく聞かせてください!」
「そ、それは、発表前だし・・・、社長の烏山さんは、今、出かけていて・・・」
「あの娘、ユティスといってましたが、デビュー名は?」
「ですから、まだ、それも正式決定前なんです。本名は言えません。だから、今は秘密にしておかないと・・・」
「わかりました。情報ありがとうございます」
ぷちっ。
「少し気になることがある」
国分寺は大田原に連絡を入れた。
「エルフィアの言った、シークレット・サポート(SS)がまだ現れていないんだ。ユティスと和人のセキュリティをどう考えよう?」
「ふむ。わたしは、警視庁に既に指示を出しておるぞ。確認しよう」
「頼むよ、じいさん」
「うむ。俊介。和人のスマホのGPSで、リアルタイム追跡は可能か?」
「ああ。なるほど・・・、その手があったか・・・」
「できるんだな?」
「ああ。和人には四六時中、電源を切るなと指示してある」
「とにかく、わたしが、護衛を確認するまで、スマホで二人の一をモニターしてくれ」
「了解」
「烏山さん?」
烏山に秘書からの結果報告が来た。
「ああ、オレだ。うまくいったか?」
「はい。あの分だと、今夜にでも、週刊誌に追っかけられますよ」
「まったく・・・。だが、それでいい。もう、だれも手出しはできないからな」
「はい」
「情報をかぎつけられたら、さっきのようにごまかし通せるか?」
「やってみます。それで、次の手は?」
「なにがなんでも、彼女を探し出せ。もう、後には引けなくなった」
「わかりました」
アンイフィルドとクリステアがエルフィアから地球に転送されようとしていた頃、和人はユティスを連れて街に繰り出した。ユティスは、エルフィアの衣装から真紀が持ってきた地球の服装に、着替えていた。
「和人さん、ここはどこですか?」
「草浅寺という古くからある有名な仏教のお寺さ」
ぞろぞろぞろ・・・。
「すごい人ですね・・・」
「そうだね」
ぞろぞろ・・・。
和人とユティスの二人は草浅寺を訪れた。
「仏教とは、どういう神様の教えですか?」
「神様ではなく、仏なんだ」
「仏・・・?神様とは、どう違うんですか?
--- ^_^ わっはっは! ---
「うーん・・・」
「うふふ。ごめんなさい、和人さん。とにかく、神様による人生の知恵を、人々に授ける教会のようなところですか?」
「うーーーん。当たらずとも、遠からずだけど・・・。うまく説明できない」
「リーエス。地球の人々は、精神的な拠り所を、ちゃんと持ってらっしゃいますのね」
「そ、そうだね」
「この前は神社でしたけど、お寺はまた違うところのようですね」
「ああ。違うね。神社は日本古来の宗教で、八百万の神を祭っていたり、いろんなものを神様として祭っているんだ」
「お寺は、神社と違って、みんな定期的にお祈りに行かれるのですか?」
「お寺はお祈りというより、念仏を唱えにいくんだよ」
「どういう違いがあるんですか?」
「お祈りは、自分が、『ああしたい、こうなって欲しい』と人が直接神様にいろんな言葉でお願いすることだけど、念仏は心の安らぎとか健康とかを仏にお願いするんだ。そして、唱える言葉は『ナンマイダ』の一言だけ。だから念仏。いろんなお願いごとはお坊さんがやってくれる」
「そうですか・・・。とっても不思議な感じがします」
「あは。お寺の中に入ったら、念太を唱えるのがどういうことかわかると思うよ」
「リーエス」
老若男女、外国人も大勢参拝に来ていた。
「いろんな方がいらっしゃいますわ。だれもが、お寺に来るんですね?」
「ほとんど観光客だと思うよ。昔と違い、いまじゃ、本気で念仏を唱えに来る人はごく少ないんじゃないかな。年配の人はともかく、特に若い人はね・・・。たぶん。年始年末だけ。それに、冠婚葬祭だけかな」
「ふふふ。もっと信じてるものが、あるからですわね」
「なに?」
「お金と科学ですわ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「お金と科学?」
「リーエス。この二つは、カテゴリー2におけるもっとも強力な宗教ですわ」
「どういうこと?」
「お金科学万能主義。とでも言いましょうか。大宇宙のすべてを愛でる善なるものは、そのような精神では恐らく理解できません」
「地球人は、思い上がりも甚だしいということかい?」
「そうは、申し上げませんが、いずれ間違いに気づかれますわ」
「どこがいけないの?」
「それは、お金も科学も根本が、疑うということだからです」
「お金についてはなんとなくわかるけど、なんで科学が?」
「疑い続けて、推測し、実験で確かめ、一定の経験法則得る。確かに疑問を持つことは、大切です」
「それで、真実を確かめ、法則を見つけたわけだろ?」
「本当にそうされてますか?それが本当の真実ですか?」
「ええ?」
「他だけでなく、すべてを等しく、疑って、実験し、答えを得尽くせますか?」
「例えば?」
「ご自分の存在。他は疑うにしても、ご自分まで疑うことができますか・・・」
「それは無理かな」
「では、実験で確かめられないけれど、もし、数学的に導き出せるなら、その理論を絶対の科学として認めてはいませんか?」
「一説としては、テレビじゃ、よく特集しているけど、どうだろう・・・」
「うふふ。例えば、超銀河団レベルの宇宙は、限りなく真空だと、思われますか?」
「普通はそう思うよね。でも、エルドから聞いたよ。真空は時空のごく当たり前の状態で、無数の素粒子が生成しては消滅する空間だって」
「まぁ、ご存知だったのですね?」
「知ってるだけだよ。到底、理解できないけど」
「うふ。エルドのお話と重なるかもしれませんが、宇宙空間の真空というものは、原子レベルではそうかもしれませんが、少なくとも、重力も残ってます。銀河団同士さえ引き合うような、とてつもない強い重力が。それに、大宇宙を無限に広げる力・・・」
「ああ、それも聞いたことがあるよ。天の川銀河も含めて、蛇使い座だったか、どこかの方向に秒速数百キロという速度で、天の川銀河もエルフィア銀河も、乙女座超銀河団、あ、いや、エルフィア超銀河団ごと、引き寄せられているって」
「宇宙の大牽引現象です。それに・・・」
「それに・・?」
「テレビなどのメディアは、どれくらい真実を語っていますでしょうか?学校はどうでしょう?」
「テレビはともかく、教える先生にもよるけど、教科書とか、講義とか、それを疑う学生なんかいないよなぁ・・・」
「それにお気づきになられただけでも、和人さんは、一歩前進されましたわ」
「じゃ、科学は、疑ってばかりじゃいけないの?」
「いいえ。そんなことは、ありません。それより、今、科学と呼んでいる方々の言っておられる客観的事実ということに、注意を向ける必要があると思いますわ。疑い切れないことがあることを、どうしても、客観的第三者にはなり切れないということを、本当に、わかってらっしゃるかしら?」
「どうだろうねぇ・・・」
「そのことを、常に、自覚していることが大切なのです。自分自身だけではありません。わたくしたちは、人間という種に捕らわれています。そのことをわきまえないで、自説や理論のみを先行させることは科学ではありません」
「じゃ、今の相対性原理とか、ビッグバンとか、ヒモ理論とか、間違いだって言うの?」
「ナナン。それを確かめるのは、わたくしではありませんわ」
「地球人で自ら探求しろと・・・」
「リーエス。カテゴリー2なら、もうじき、おわかりになるはずです」
「それこそ、文明促進支援なんでは?」
「いいえ。答えだけをお教えするのは、支援とは申しません」
「なるほど、エルドと同じことを言うんだね?」
「なにを、でしょうか?」
「支援さ」
「いいえ。答えだけを欲しがるのは、駄々っ子と変わりありません。それに応えることは、本人を甘やかすだけですわ。わたくしは、地球人はもっと大人になるべき時期に来ている、と思ってます。大人とは、自ら責任を持って自律的に行動することです。他の方の自由や権利を侵すことなく」
「なんとなく、わかるよ、それ・・・」
「でも、答え以外でしたら、ご支援いたしますわ」
「アルダリーム、ユティス」
「パジューレ、和人さん」
にっこり。
ユティスは微笑んで境内を散策した。