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147 動画

■動画■




エルフィアでは、シークレット・サポートの二人が地球へ派遣のため、転送室に待機していた。


「アンニフィルド、クリステア。準備は万端かな?」

「リーエス、エルド」

二人はにっこり微笑んだ。


「エルド、時間です」

転送システム係が時を告げた。


「うむ。では、二人とも、転送室に入ってくれ」


さっさっさ・・。

二人は言われるまま転送室に入った。


「ようやくだわね、クリステア」

「リーエス」


これから、二人は、5400万光年彼方の天の川銀河にある惑星、地球に向かうのであった。




和人は、エルフィアの転送システムについて、エルドの説明を聞いたことがあった。


「転送システムで直接目的地に人間を送れるなんて、とても信じられません」

「エルフィアは、宇宙空間の移動に、もはや宇宙船を必要としないんだよ。宇宙船が活躍する場合は、大きなエネルギーを現地世界で必要とする時だけだね」


「すみませんが、わたしにわかるように説明をお願いできますか?」


「リーエス。例えば、エトロス5級母船だが、派遣先の惑星上の周回軌道にエージェントとコンタクティー、そしてSSたちのためのエルフィア帰還用の転送と支援に、また、緊急非難時のために、常時待機をしていて、すべてはシステム運用されている」


「それ以外では?」

「観光用に恒星系内運航をしているにすぎない」


「どうしてですか?」

「宇宙空間は、きみらが思っているより、遥かに危険に満ちているからだ。恒星系外では、致命的な放射線や重力波を浴びる可能性が、とても高い」


「宇宙船では、守りきれないのですか?」

「そんなことはないが、亜光速航行をする場合、とても注意が必要だ」


「どんな風に宇宙船を守るんですか?」

「うむ。エルフィアの宇宙船は、重力場エンジンで通常空間を移動するが、その周囲に内部とは隔離された極めて強力な重力場と電磁場を発生する。これが、亜光速航行時に宇宙船を外の放射線や浮遊物から守るというわけだ」


「でも、宇宙空間は真空なんじゃないんですか?」

「はは。宇宙に真空は存在せんよ」


「どう言うことですか?」

「では、これから説明しておくとしよう」

「お願いします、エルド」


「うむ。宇宙、いや、時空と言っておこう。ここでは、真空とはいえ、それはただ空気がないと言う意味においてだけだ。本当に、なにもない訳ではないんだよ」


「じゃ、なにがあると言うんですか?」

「時空エネルギーだ」


「時空エネルギー・・・?それは、なんです?」

「きみたちの世界では、科学者が真空エネルギーと言ってるものだよ」


「真空エネルギー・・・?ますます、わからないや・・・」


「ははは。難しく考えなくてもいいんだ。要は、時空というものは、それそのものがエネルギーの具現化したものなんだよ。逆に言えば、エネルギーのないところには、時空はない。時空は、それそのものがエネルギーなんだよ」


「時空がエネルギーか・・・」

「リーエス。大丈夫かな、和人?」

「あ、はい・・・」


「よろしい。続けよう。時空は、正のエネルギーと負のエネルギーの間を常に振動していて、信じられないくらい小さな素粒子を無数に生んだり消したりしている。表面上、なにも起こってないように見えるのは、無数の素粒子たちの正と負のエネルギーが釣り合っているからに過ぎない。つまり、時空は、とても騒がしい空間なんだ」


「なにもないところで、素粒子が生まれたり消えたりするんですか?」

「リーエス。素粒子でさえ、実は時空の一つの状態なんだが・・・」


「素粒子が時空って・・・?」

「これは、少し飛躍し過ぎたかな。すまない」


「ナナン。もっと勧めてください、エルド」

「いいのかね?」

「リーエス」


「時空が振動し、元の純粋なエネルギーに戻れなくなった状態が、素粒子だ。つまり、物質と考えてくれたまえ」


「じゃ、物質も時空と言うことですか?」


「その通り。だから、粒子をいくら壊しても、時空の異なる状態を見ることになるだけだ。途方もないエネルギーを与えられた素粒子は、最後には時空エネルギーに戻る。つまり、消滅するんだ」


「消えてなくなるんですか?」

「人間的な感覚表現ではね。そういう訳で、物質と空間と言う二元論に固執している限り、真実は永久に見えないよ」


「超大型加速器は無意味なんですか?」

「とんでもない。それがわかるなら、実験する意義は、とても大きい」


「いつ気づくかですか?」


「リーエス。光と電波、電波と磁波は、電磁波の異なる状態に過ぎないことは、地球人にも理解されているようだが、観察したまま、それを違ったものだとする二元論は、その実、あまり科学的とは言えんのだ。宇宙、時空の根源は、そんなに複雑なものから成り立ってはいないよ。これを理解するのは、大変かもしれん。だが、地球人自らしなければならない。その裏にある真の意味を受け取るのは、自分たちでするしかないんだ」


「真の意味?」


「はは。これは深入りしすぎたな。答えは、自分たちで見出さねば意味がない。理解するということは、気づきを伴う。気づきを飛ばして、答えを丸覚えしようとしても、学ぶべき本当のものはない。われわれも、地球人を甘やかすつもりはないよ」


「なるほど、そうですか・・・」


「なぜ、同じものが違って見えるのか。そういう風に考えると、宇宙の見方が随分変わるんじゃないかな?」

「リーエス。そうです。なんか、自分という存在も不思議に思えてきます」


「はっは。でも、きみもわたしも存在するぞ。違うかね?」

「リーエス。確かに、存在します」

「結構。そういう空間が、何百億光年先、いやもっともっと先まで広がっている。それが宇宙空間なんだ」


「すごいんですね?」


「ああ。そして、人間的に言うと、この宇宙にはガスや塵、放射線等、危険物にあふれかえっている。宇宙船の亜光速移動時には、これが大きな問題となるんだ。例えば、地球を襲ったハイパーノバのガンマ線や、時速何万キロという超高速で飛ぶ細かな浮遊物とかが、普通に存在する。加えて、宇宙船自体は亜光速で移動している。そんなものが、宇宙船の軌道に乗って、直撃でもすれば、宇宙船の被害は甚大となり、たちまち、中の乗組員の生命も脅かされることになる。宇宙空間を、素のままで宇宙船で亜光速航行するのは、とてもリスクが大きいんだよ」


「リーエス。よくわかります」


「まぁ、そういう訳で、エルフィアでは、とうの昔に通常宇宙空間の亜光速移動に、宇宙船を使用しなくなっているんだ。宇宙船は、エルフィア上空から、目的の星上空まで、一気に超時空をジャンプする。宇宙船が、再び通常時空に現れた時には、目の前は、まったく違った光景と言うわけだ」


「そういうことですか・・・」


「エルフィアの超時空転送システムは、何億光年という距離でも、目的の惑星に、直接、人間を送り込める。時空間移動は、もちろん人間の住める環境という大前提の話だがね」


「地球人類は、これを理解し、恒星間航行ができるんでしょうか?」

「そのための文明支援だが、地球人は諦めるのかい?」


にこっ。

エルドは、微笑んで、和人に宇宙間の移動と転送システムについて、そう語った。




しゅうっ。

送室の入口が閉じ、二人のSSを地球に転送するカウントダウンが始まった。


「転送最終準備に入ります。転送、2分前」


「ふぅ、なんか緊張するわ」

「あっという間よ」

「ええ・・・」


アンニフィルドとクリステアはいつものことながら、どういうわけわけか、今回はどこか緊張していた。


「転送開始100秒前です」

システム担当が秒読みを開始した。


「最終チェック」

「リーエス」


「システム異常なし」

「リーエス」


「・・・」


「10秒前」

「リーエス」


転送室の中でSSの二人が手を振った。


「5、4、3、2、1」


「転送」

「リーエス」


ぶわぁーーーん。

低いうなりとともに、二人が黄色がかった白い光に包まれ、姿が徐々に薄くなったかと思うと、次の瞬間一気に消えた。


ふっ。


「転送完了。地球のターゲット地点に二人を確認。転送成功です」

「ご苦労。完璧だな」

エルドは満足げに礼を言った。




一方、石橋可憐の撮ったユティスの歌っている動画が世間の注目を浴びていた。たちまち、何万というアクセスがあり、ユティスはネットで一夜にして話題となった。


(この可愛い娘ちゃんは、だれ?)

(何語で歌ってる?)

(後光か?)

(天使?)


つぶやきサイトやSNSでも、「歌う天使」で検索すると、この動画が表示された。


テレビでも取り上げられてしまった。


「さて、今日は、ネットの巷では、知らない人がいないという、超可愛い娘ちゃんのお話です。こちらの情報受付ハッシュ・タグは、#tenshi-megami-mtvs。今から受付ますよ。いあや、びっくりです。これを見たら、皆さん、もうホントに信じたくなります。天使とか女神とか妖精とか、この21世紀にいるんでしょうか?」


番組のホストは、カメラをスクリーンに振らせた。


「これが問題のMoitubeへの投稿動画です。現在は既に削除されてます。しかしです。当番組のスタッフの努力のかいあって、海外のミラーサイトで、幸運にも映像を見つけることができました。ご紹介しましょう。信じるかどうか、それは、あなた次第です。3、2、1」


ぱっ。


「オーレリアン・デュール・ディア・アルーティーア・・・」


しーーーん。

スタジオの参加者が一斉にスクリーンに見入った。


「このスタジオの沈黙はなんでしょうか。歌っている若い女性は、見てのとおりの大変な 可愛い娘ちゃんですよね。それだけでも驚きなんですが、歌も素晴らしく、思わず涙をこぼした人もいるということです。スタジオの方にもいらっしゃいますね。ハンカチで目を押さえている方が・・・」


女性たちは、ハンカチを取り出し、感涙を押さえていた。


「しかもです。彼女の言葉、いったい何語か、専門家でもまったくわかっていないです。とにかくナゾだらけの映像です。彼女の周りを包むような虹色の淡い光。とっても優しい感じがしませんか?」


「あたし、思わず涙ぐんじゃった」


(天使だ?)

(ありゃ、トリックだぜ)

(そう、トリック、トリック)

(モノホンだな)


「さぁ、視聴者からのツブヤキ・フォローがどんどん来てますね。皆さん、画面の右に出しますから、おっかけてくださいね」




「俊介、テレビ・・・」

「どうした?」

「ユティスよ。バラエティで取り上げられちゃってる」

「やっぱり、出たな・・・?」


「ええ。俊介、これ、いくらなんでも相当マズくない?」

「ああ。マスコミに追っかけられんのは、ぞっとしないな」

「すぐに、つきとめられちゃうわよ」

「やってくれたよなぁ・・・」


「そんなことより、どうするの?」

「どうするったってなぁ・・・。テレビに追っかけられるってことだぞ・・・」

「テレビ取材を振り切るのはのは、不可能に近いわ」

「覚悟を決めないといけないな」


「いったい、だれがアップしたのかしら?あの日、あの店は、うちの貸切だったのよ」


「和人の話じゃ、社員のだれかだな」

「じゃ、うちの会社のだれかがやったってこと?」

「普通に考えればそうなるな」


「それにしても、ドアップ画面を調べりゃ、あれがユティスだってことあっという間にわかっちゃうわね」

「それに、後ろに映ってるのは明らかに和人だ」

「こっちも、簡単に本人を特定されちゃうわ・・・」


「奇跡的に、この二人しか映ってないが、ウチの連中が、TV局にタレ込まなきゃいいんだが・・・」

「それは、ムリね」


「今夜中に手を打たないと、明日の朝は、会社の前はスポーツ新聞やら週刊誌の取材記者で、ごった返しになるぞ」

「そうね」




ぷるるる・・・。


「はい、宇都宮・・・」

「テレビつけてる・・・?」

「真紀さんですか・・・、なにか?」


「NTVSをつけてみて・・・、あなたたち映ってるから」

「えっ。ユティスとオレがテレビの特番に映ってるって。ホントですか?」


和人はびっくりした。


「もう、出ちゃったんですか?」

「そうよ。早くつけなさい」


「ユティス、テレビ、NTVSにして」

「リーエス」


ぴぴっ。


「あちゃぁ・・・」


(しっかり映ってるじゃないかぁ・・・)


「どう?」

「しっかり映ってます」

「そういうことよ。だから、かくかくしかじか・・・」


「は、はい。下手なウソをつくなってことで、すべて肯定するんですね。わかりました。気をつけます」

「どなたですか?」

「真紀社長」


ぷっ。

ユティスはテレビを見て声を上げた。


「あっ、和人さん。わたくしの歓迎会で、エルフィアのお祈りの歌を・・・」

「しっかり、どアップで映ってる・・・。オレも出てる」


「いけないことになりそうですか?」

「そうならないことを祈るよ」


「これって、石橋さんが、だれかに操られて取ってたやつじゃないのかい?」

「リーエス」




ぷるぷぷる。


「また、お電話が入りましたわ」

「リーエス」

和人はスマホを耳に当てた。


「おう、和人。オレだ。おまえたち、超スゴイことになってるぞ」

「ええ、二宮先輩。見てます。連絡、ありがとうございます。いえ・・・」


ぷっ。

ぷるるる。


「はい、宇都宮。ああ、姉さん。・・・そうだよ。騒ぐことないじゃないか。じゃあねぇ」

「ちょっと待ちなさいってば、和人!」


ぴっ。


「お姉さまですか?」

「うん、つかまると、いつも長くなるからね」

「弟思いなんですね」

「まっさか。噂好きのおせっかいなだけだよ」


ぷるるる。


「まただ・・・」

「お出になられます?」

「うん」


「和人さん・・・?」

「あ、石橋さん。どうしましたか?」

「あの、テレビ番組、NTVSの・・・。見てますよね?」

「ははは・・・。石橋さんも見てるんだ・・・」


「あの、あれ・・・。ご、ごめんなさい」

「なんです?いきなり謝られても・・・」


「今日、テレビを見て、びっくりして・・・。それで、サイトを確認したら・・・。わたし・・・、違うんです。わたし、投稿した覚え、ぜんぜんないんです・・・」


「はぁ?」

「ごめんなさい。もう、削除しましたから・・・」


ぷっ。


「石橋さん、投稿した覚えなんかないって・・・」


「なんのことでしょう?」

「さぁ・・・」

「ちょっと待てよ・・・」


和人は、TV取材に取り囲まれることを想像して、背筋が寒くなった。


「やばいなぁ。どうしよう・・・」

「まずは、社長さんに、ご連絡を入れましょう」

「リーエス」


和人は俊介たちに相談することにした。

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