145 寮生
■寮生■
ユティスの歓迎会がやっと終わった。
ばたん。
和人は、車にユティスと乗り込んだ。
「ふう。やっと終わったね・・・。車のエンジンをかけてと・・・」
ぶろろろーーー。
「帰ろうか?」
「リーエス」
「シートベルトは?」
「んふ。ちゃんと閉めましたわ」
「アルダリーム」
和人は車をスタートさせた。
「みなさんに、とっても歓迎していただいて、わたくしとっても感激です」
「それはいいとして、きみが地球人じゃないってバレるんじゃないかと、本当にヒヤヒヤだったんだよ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「うふふ。申し訳ございません」
「誤らなくてもいいんだ。でも、あの歌、さすがはユティスだね」
「和人さん、アルダリーム・ジェ・デーリア。お褒めに預かり光栄ですわ」
「パジューレ、ユティス」
「うふふふ」
さて、岡本と茂木は、会社の寮について真紀に一言どうしても言っておきたかった。
「ちょっと、真紀。どういうことよ?」
茂木が真紀の手を引っ張った。
「なんなの?」
「あんた、ユティスと和人、同棲させてるんでしょ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「寮よ。寮!男女一緒なんでしょ?」
岡本も真紀を放すつもりはなかった。
「えへ。バレちゃったか・・・」
真紀はあっさり認めた。
「バレちゃったかじゃないわよ。あの二人、どうして一緒なの?」
「よんどころない事情なのよねぇ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「誤魔化さないでよ」
岡本が真面目な顔で言った。
「あの二人、マジで恋人だってことなんでしょ?」
茂木が確認した。
「正直言うと、少なくとも、あの二人はお互い惹かれあってるわ」
「信じらんない。真紀、本気で言ってるの?」
「ええ。そうよ、茂木。同棲といえば、言えなくもないわね。和人の家、あれ、本当に会社の寮なの」
--- ^_^ わっはっは! ---
「寮?」
「そうよ。和人一人のために、4LDKなんか借り上げたりしないわ」
「4LDKって・・・、子持ちの夫婦じゃあるまいし、一組の男女、一つ屋根の寮なんて、聞いたことないわよ」
茂木は納得していなかった。
--- ^_^ わっはっは! ---
「欧米で流行ってるルームシェアよ。なにぶん、急な話だったしね」
「なにがルームシェアよ?あなた、石橋の気持ち一番知ってるんでしょ?」
岡本は石橋の上司だった。
「そうよねぇ・・・」
「そうよねぇって、だったら、なぜ、あの二人をくっつけようとしてるのよぉ?」
「そのうち話すわ、岡本。そして、みんなにも・・・」
「それ、わたしにも言えないってこと?」
岡本は真紀に詰め寄った。
「ごめん。今はね。ただ、あの二人に関して言うけど、惹かれ合ってるのは事実よ。でも、あなたたちが心配してるような、セクシャルな関係ではないわ」
「別に心配なんか・・・」
「ふふふ。羨ましい?」
「だぁーれがぁ。あなたこそ、どう・・・?」
岡本はそう言って、しまったというように口を閉じた。
真紀は遠くを見るような目をした。
「ええ。羨ましいわ・・・」
「ごめん。そんな意味じゃ・・・」
真紀の寂しそうな表情に、岡本は謝った。
「いいのよ。もう、何年も前のことだから・・・」
茂木も、そんな真紀を見て、言いたいことを途中で止めた。
寮に戻る途中の車の中で、和人とユティスは、セキュリティに関することを話題にしていた。
「和人さん、アンデフロル・デュメーラからのアラーム、お受けになりました?」
「リーエス。きみが、生体エネルギーの光に包まれて歌っているところを、ばっちり撮られちゃったみたいだね。彼女が教えてくれたよ」
「石橋にさんですね?」
「リーエス・・・。いったいどういうことなんだろう・・・?」
「大丈夫ですわ」
にこっ。
「とりあえずはね。でも、きみの生体エネルギー場が写ってるから、あれをインターネットにでも流されたら、きみの正体がばれちゃうよ」
「なんとかなると思います」
にこ。
ユティスは和人に微笑んだ。
「本当の問題は、石橋さんをどなたが操っているか、ということですわ」
「それこそが問題なんだよなぁ・・・」
和人は赤信号で車をストップさせた。
「しまった・・・!」
「和人さん、どうかしたのですか?」
「うん。もし、そうなら・・・、会社の全員を巻き込んじゃった・・・」
「ええ・・・。申し訳ございません」
「きみが悪いんじゃない」
「一刻も早く常務に報告しなくちゃ」
「戻りますか?」
「その前に電話しよう」
「リーエス」
二次会の会場では、自覚のない酔っ払いが増殖中だった。
「こらぁ、真紀!ちゃんと飲め!」
でーーーん。
茂木は真紀の大学時代の同級生で、同じチアリーダーだった。
「キャプテンの言うことは聞くものよぉ!」
茂木は3年の時にキャプテンだった。そういう訳で、茂木が真紀に遠慮するようなことはなかった。特に、飲み会になると・・・。
「そうだ。そうだ」
「一気。一気!」
「なんで、ユティスを帰したのよぉ?」
「罰、罰」
「しょうがないわね。茂木、あなたには倍返しするわよ」
真紀がジョッキを片手にした。
「よぉーーーし、受けてたつ。いくわよぉーーー!」
真紀はビールジョッキを傾けた。
ぐびぃ、ぐびぃ、ぐびぃ・・・。
「おーーーっ!」
「おおーーー!」
でんっ。
ぱちぱちぱちぱち。
ぷっふぁあ!
「次は、あなたの番よ、茂木」
「その前に、真紀、あなたに質問!」
「はいはい。なぁに?」
「なんで、ユティスの相手が和人なのよ?」
「そうだ、そうだ。納得いかなぁーーーい!」
「ユティスったら、来た初日から、和人に一緒にくっついて、既に恋人みたいじゃない?」
「えーーー、うっそぉーーー!」
「隠し妻だったりして?」
「それ、本当なんですか?」
石橋は不安で胸がつぶれそうな顔をした。
「よし、石橋、突っ込め!」
(茂木ったら、なんてことしてくれるの。まずいことになっちゃったわ。どうごまかそうかしら。まだ、真相をみんなに言うわけにもいかないし・・・)
(お困りですか?)
(アンデフロル・デュメーラ、あなたなの?)
(はい。コンタクティー・カズトが、ユティスと一緒に帰ろうと言ったことを、全員の記憶から消しますか?あまり気が進みませんが・・・)
(いいえ。そんなことしちゃ、絶対にダメよ)
(リーエス)
「あーーー、そういうプライバシーに関して、とやかく言うわけにはねぇ・・・」
「やっぱり、なんか隠してるわね、真紀?」
「真紀社長、ご存知なんですね・・・」
「なにを?」
(まだ、打ち明けるには、早すぎる。みんなを混乱させたくないわ。けど・・・)
真紀はきっぱりと言うことにした。
「オレ、知ってるぜ、訳を」
ところが、その時先に二宮が口を出した。
がくっ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「こら、二宮!また、あなたねぇ・・・。ん、もう!」
真紀は二宮に苦笑いした。
(二宮のヤツ、なんてタイミングで、会話に入ってくるのよ・・・)
二宮の絶妙の割り込みに、皆は当然のように注目した。
「ま、言ってみりゃ、用心棒さ」
「用心棒?」
皆は訳がわからず首をかしげた。
「後は、オレが続ける」
すぐさま、俊介が、二宮だけにわかるようにウィンクし、フォローした。
「どういうこと、俊介?」
「ユティスは、ある国のVIPって訳さ」
「それで、なんで、和人なの?」
「遠い親戚らしい」
「うそ!」
「信じられない!」
「ぜんぜん、似てないじゃないの?」
「あいつの父方ってのに、若い頃、一時期ヨーロッパに住んでた人が、いたらしい」
「それで?」
「現地の美人と結婚して、子供が生まれた」
「ところが、でしょ?」
「そう。ところが・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「よく知ってるなぁ。なんだってわかるんだぁ?」
「いいから、次!」
「ところが、しばらくして、彼は交通事故で、奥さんと子供を残し天国に行っちまった」
「なによ。でっち上げ話のお決まり文句じゃない!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「バレたのなら仕方ない。騙されたと思って、聞いてくれ」
「なによ、それ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「とにかく、二人は残され、路頭に迷った」
「そりゃ、むごい」
「ああ。それで、現地の親戚が奥さんと子供の面倒を看たんだ」
「そんで?」
「幸い、親戚の中には、経済的に裕福な男がいた」
「そいつと再婚したってわけね?」
「ああ。でも、ユティスはそいつの末裔じゃない。残された女の子の末裔だ」
「何代前の作話?」
「さぁ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「和人に外人の親戚なんて、聞いたことないわよ!」
「二宮、それホント?」
「オレもそこまでは知らなかった」
「真紀社長・・・」
「わたしだって、知るわけないじゃん」
「俊介、ウソじゃないでしょうね?」
「常務・・・」
「ま、そういうわけで、和人に外人の親戚がいたっておかしくはない。だろ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
るるるー。
「ちょっと待て。噂をすれば影。和人だぞ・・・」
俊介は席を立って外に向かった。
「逃げる気?」
くいっ。
茂木が俊介のシャツを引っ張った。
「ああ。うるさくて、聞こえやしない」
「話し終わったら、すぐに戻りなさいよ」
「わかったってば・・・」
電話の主は和人だった。
「常務?」
「和人か。ああ。なんだ?」
「オレたち、会社のみんなを巻き込んじゃったみたいです」
「なんのことだ?」
「その、ユティスが、歌って生体エネルギーを放射しているところを、ばっちり撮られちゃったんです。もし、それが、動画投稿サイトにでもアップされたら・・・」
「正体が、知れてしまうだな?」
「その通りです。どうしたら、いいんでしょうか?」
「だれが撮ったんだ?会社のだれかだろ?」
「ええ。でも、まだ、証拠がないので・・・。それに、その人は、Z国に操られているような節が・・・」
「Z国に操られているだと?」
「ええ。だから、その人は悪いわけじゃないんです」
「わかった。当座、様子見といこう。オレは、じいさんにこの件を報告する」
「お願いします」
「じゃあな」
「ええ。失礼します」
俊介は外から戻ってきた。
「戻ったぞ」
「おかえりなさぁい!」
どかっ。
俊介は自分の席に座った。
「俊介、なんで、ユティスが日本に来たのよぉ?」
「飛行機かなぁ・・、いやUFOかなぁ・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わたしが聞いているのは、なんで違い。どうやって来たかじゃなくて、どういう理由で来たかってことよぉ!」
「そう、怒るなよ岡本ぉ・・・」
「ホントのことを言うのよ、俊介」
茂木も念を押した。
「ああ・・・。2年間、留学というか、日本を視察というか、ま、そういうことだよ」
「なにそれ?和人はお遊びのお守り役ということぉ?」
「違う。これだけは言っておくが、ユティスはただの外国の金持ちの娘という訳じゃない」
しゃき・・・。
俊介は急にトーンを下げて、まじめな顔になった。
「・・・」
「なんなのよ・・・?」
「国賓だ・・・」
「国賓?」
「そうだ」
「日本政府の?」
「ビンゴ」
「まっさかぁ・・・」
「茂木、おまえが疑うんなら、この先はなしだ」
「わかったわよぉ・・・。それで?」
「とにかく、どっかの大統領と同じ待遇ってわけね?」
「ああ。オレの首にかけて言うが、ユティスを粗末に扱うと日本国首相の首が飛ぶ」
俊介はタカのような鋭い目つきで、一同を見回した。
ごっくん。
「そんなに重要人物なの・・・?」
「ああ。ユティスの言葉、話し方、歌、物腰、表情。どれ、一つとったって、高い教養に裏づけされている・・・。そうは思わんか?」
「そう言えば、そうね・・・」
岡本が同意した。
「外国人にしては、妙に、日本語がうまいし・・・」
「言えてるわ」
「でもさ、本人は『地球語』って言ってなかったっけ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そうそう。それ、思いっきり変よねぇ・・・?」
「うん。うん」
「でだなぁ。ユティスは、実はある分野のとんでもない権威なんだ。日本の未来に欠かせない分野のな。それで、政府が秘密裏に招待するいう形で、その実、彼女の身の安全を確保しかくまうことにした」
「どうしてですか?」
石橋がきいた。
「そうよ。それなら、そうと、もっと堂々と招聘すりゃいいじゃない」
「そう言うわけにもいかないのよ」
真紀が困ったような顔をし俊介を見た。
「諸外国、ぶっちゃけた話Z国が、ユティスを狙っている。だから、地球で一番安全な日本に行くことを、ユティス自身が希望した」
「あは。日本が地球で一番安全?」
茂木は二宮を見て半笑いした。
--- ^_^ わっはっは! ---
「もとい。世界でだ」
「オレを見て笑いましたね、茂木さん?」
「うるせい」
「日本は、他国に比べ、拉致の危険性が最も低い!」
俊介は断言した。
「なるほど・・・」
「一応、筋が通ってそうね」
「それで、ある分野って?」
「まっさか、超能力とか、魔法とか、言い出さないでよね」
「ある意味、それを超えたところさ」
俊介は真面目に答えた。
「は、人が真面目に聞いてりゃ、なんなのよ、俊介?」
「まぁ、もうちっと聞けよ、茂木」
「あいよ」
「おまえら、光速の壁。そういうの聞いたことあるか?」
「世の中で一番早いのが光で、それより早いものはないってことでしょ?」
「ご名答」
にやり。
俊介はわらった。
「それが?」
「高次元で考えると、光速云々する以前に、時空そのものにあたかも光速を越えるような通信方法や、移動方法が、存在するんだ。それが地球でも立証されつつある」
「だから?」
「その鍵を、ユティスが握っている・・・。としたら?」
「まさか、光速を超えるロケットができるなんて、言わないでしょうね?」
「いいや、それどころか、ロケットなんてチンケなもんじゃないぞ」
俊介は、岡本を見て反論した。
「どういうことよ?」
「そうなったら、直接人間を、火星に送り込むことも可能になる」
「えーーーっ?」
一同は、あまりに突拍子もない話に、信じることができなかった。
「『ボラレモン』の『どこでも出入り口』じゃあるまいし」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そんなことになったら、えらいことになるわ・・・」
「ほんとに、そんなことってあるの?」
「信じるかどうかは、おまえらの問題だ」
俊介は静かに言った。
「それをユティスが・・・?」
「ユティスは、アインシュタイン並みの脳ミソを持ってるってわけ?」
「それ以上かもしれん・・・」
「とても、物理学者って風には見えないけど」
「だが、アホには見えないだろ?」
「常務、なんでそこでオレを見るんですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「偶然だよ、二宮。偶然・・・」
「そりゃ、そうだけど・・・」
「そう言えば、ユティスの言動、ちょっとズレてると思わない?」
「そう言えば、そう」
「うん」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ははははは・・・」
「馬鹿な・・・」
「なにが、可笑しい?」
俊介は真顔だった。
「だって、そんなの信じれるわけないわよ」
「じゃ、月曜日に、本人に最先端科学のことを質問してみろよ。大抵のことなら、即答するぜ」
俊介はにやりと笑った。
「で、なんで、あなたがそんなことまで知ってるの、俊介?」
茂木が俊介に突っ込みを入れた。
「そりゃ、経営者だからな。社員のことは、知っとくべきだろうが?」
「怪しい・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「うん。怪しい」
「ゲロを吐け!」
「お嬢さん方、下品ですぞ」
「そりゃ、みんなして、俊介にゲロをはかせろ」
みんなが一斉に俊介を取り囲んだ。
「止めろ!止めろってば!二宮、こいつらを止めてくれ!」
「うっす。オレ、女には手を出さない主義でして」
--- ^_^ わっはっは! ---
「裏切り者!」
「うっす」
「それーーーっ」
こちょこちょ。
「わははは・・・!は、腹に触るな!」
「まいったか!」
こちょこちょ。
「わははは。ウォップ。あ、ホントに吐きそうだ」
「きゃ、汚い!あっち行け!」
「うぉ、うぉ・・・」
「きゃあ、きゃあ!」
俊介と会話し終えた和人に、ユティスがきいた。
「和人さん、どうでした?」
「うん。様子見しようって」
「そうですか。でも、それが一番よろしいですわ」
「そうだね。変に弁解すればするほど怪しくなるからね」
「リーエス」
「でも・・・」
和人はユティスの歌う姿を思い出して夢見心地になった。
「なんですの?」
「あは。ユティスって、すっごくき綺麗だった。いや、今も、とっても綺麗だけど・・・」
「まぁ・・・。和人さん。嬉しい・・・」
ぎゅっ。
ユティスは和人の左手を握った。