144 主賓
■主賓■
ユティスの歓迎会はどんどん盛り上がっていった。
「さぁ、恒例の本日の相場、終値当てクイズ結果発表だぁ!」
俊介が立ち上がって、全員を見回した。
「うぉーーーい」
「きゃあ!」
「で、和人、今日の相場の結果はこれよ。あなたが発表するの。わかったぁ?」
「はい、真紀社長」
和人は真紀よりメモを受け取った。
「今日はね、ドンピシャがいるわ!」
(げ、げーーーっ。当選者って、ユティスじゃないか・・・)
「これから、本日の相場の発表です。本日のターゲットは、新興市場ソフォクレスの配信業会社、Moitubeです。昨日の終値は125,000円。今朝の寄り付きは、125,300円の300円高で開始。注目の終値は、125,400円で、何と400円高で終了です」
和人は、まず終値を発表した。
ばんっ。
「ちぇ。ちっくしょう。外したか・・・・」
二宮が舌打ちした。
「相手の蹴りを外すのも上手くなれよ、二宮」
--- ^_^ わっはっは! ---
俊介がにたにた笑っていた。
にたにた・・・。
「感が悪いってのは、ビジネスマンとして致命傷だからなぁ、二宮!」
ぽんぽん。
俊介が二宮の肩を叩いた。
「どうせ感悪いっすよぉ・・・」
二宮はむくれた。
「そして、結果発表!ドンピシャの方・・・、それは・・・」
だんだか、だかだか・・・。
だだだだだだ・・・。
ぱんぱかぱーーーん。
「見事当てたのは、注目の新人、ユティスさぁーん!拍手っ!」
和人は両手の手のひらを上にし、それを何度も上げてはみんなの拍手を煽った。
ぱちぱち・・・。
「わー、わー」
「すごい・・・」
「では、株式会社セレアム、初代代表取締役社長、国分寺真紀から10,000円の贈呈!」
「こら、和人。初代だけ余計よぉ。なんか、おばあちゃんみたいじゃない!」
「あははは」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わははは」
「うふふふ」
「えー。ユティス殿、本日の相場当てゲームで、貴殿の予想値は、見事、的中いたしましたので、ここに、資本主義の真髄をさらに学び、ビジネスに大いに役立てていただくよう、賞金10,000円を教育補助金として贈呈いたします!株式会社セレアム、初代!代表取締役社長、国分寺真紀!」
にっこり。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ぱーんぱーかぱーんぱーん、ぱかぱかぱんぱんぱーん・・・」
「ぱかぱかぱんぱんぱーーんぱーーん、ぱんぱんぱーかぱーん」
和人が優勝者を称える曲を口ずさむと、みんながついてきた。
ぺこり。
ユティスは真紀に礼をすると、姿勢は真っ直ぐに優雅に膝を折って、両手で差し出された金封を丁寧に受け取った。
「うわぁ、ユティスったら優雅ぁ」
「うん。膝を曲げて受け取るって、すっごく女性らしいわぁ」
「なんか、どこかの王国のお姫様みたい」
「わたしも真似しよう」
「うん。うん」
たった一つの動作で、ユティスはみんなから賞賛された。
「どうも、社長さん、常務さん、ありがとうございます」
ユティスは再び、二人に深々とお辞儀をした。
「社長と常務のポケットマネーですもんね!」
茂木が言った。
「愛じゃ、これは愛じゃぞ!」
俊介が武士言葉になり、涙を流している振りをした。
「社長さん、常務さん、すごーーい!」
だれかが叫んだ。
「これを稽古じゃと思うて、自分で株式を実践する土台を作るのが、このゲームの目的じゃ!」
「あーあ、新人が入る度、同じこと言ってんのよぉ、俊介は・・・」
岡本がユティスに耳打ちした。
「そ、そうなんですか? わたくし、ほとんど理解できませんでした・・・」
「ユティス、今はいいんだ。少しずつ教えてあげるよ」
「はい、和人さん!」
「和人!おまえ、オレの愛について聞いてなかったなぁ!」
和人は、その瞬間、たまたまユティスを見ていたところだった。
「聞いてますよぉ、常務」
「そっかぁ。よぉーく、耳をかっぽじって聞けよ、みんあぁ!」
「うぉーーーい!」
わいわい・・・。
がうあがや・・・。
その時、石橋の目が空ろになったことに、だれも気づかなかった。
「わたしに従え、石橋可憐・・・」
「はい、リッキー様」
「おまえは、ユティスのそばで、その行動をつぶさに記録するのだ。ユティスが異星人であることの証拠を掴め」
「了解しました」
「ユティスをスマホに動画記録しろ。それから、彼女にべったり付いている男、宇都宮和人もマークしろ。あの二人は、ハイレベルなテレパス通信をしている。さすがのオレにも内容が、なに一つとして確認できなかった。おそらくは、ユティスだと推測できるが、オレが想像する以上の強力なテレパスだ。二人の交信内容から、日本政府との繋がりを突き止めねばならない」
「了解しました」
石橋の口は少し動いていたが、みんなの騒ぎの中、これを聞き取った人間もいなかった。
「いいか、二人に気取られるなよ」
リッキーの声は石橋の頭の中でこだました。
「了解しました」
俊介はユティスに笑いかけ、合図を送った。
「じゃぁ、ユティス。新人のご自己紹介詳細編、ご挨拶に移るかぁ」
「うーーーすぅ」
二宮と目が合ったユティスは、とっさに二宮風の答えをした。
--- ^_^ わっはっは! ---
「きゃあ、ユティス可愛い!」
「うーーーす」
「あははは、二宮そっくりだわ」
「こら、オレの真似すんなよ、ユティス」
「きゃははは、目つきまでそっくりよぉ!」
「だははは。面白ぇーー!」
真紀と俊介は笑い転げた。
「うふふふ。ごめんなさい、二宮さん」
たたたた・・・。
ちゅ。
そういうと、ユティスは二宮に走り寄り、その頬にキッスした。
「あ・・・。えへ。えへへ・・・。ユティスなら、許しちゃう」
でれでれーーー。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あーーー、ユティスが二宮にキッスしたぁ!」
「イザベルに言っちゃお!」
「和人、あなたの後輩、ほっといていいのぉ?」
岡本が和人に目配せした。
「挨拶、挨拶だってば。ユティスは外国人なんだから」
和人はそれをユティスの優しさの表現と感じた。
それから、この二宮キッス事件は、しばらくの間事務所で話題となった。
「さぁ、宴もたなわではありすが、残り時間も少くなました。本日の主賓ユティスさんに、一言お願いいたします」
「待ってましたぁーーー!」
ぱちぱち・・・。
「皆さ、今日は、本にあがとうございます。地球には、とても素らしい習慣があるんですね。ここは、地球一の会社ですわ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「こら、ユティス、宇宙一だぞ!」
「はい。だ、そうだとおっしゃられてます」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わたくしをこんなに歓迎いただいて、言葉もありません・・・・」
「あははは!」
「いいよ。ユテイス!」
「なぁに、ユティスったら、まるでよその星から来た宇宙人みたいに聞こえるわよ」
茂木が冗談のつもりで言った。
--- ^_^ わっはっは! ---
(しまった。ユティス、地球、地球って連発しちゃって。それ禁句だよぉ)
(申し訳ございません。和人さん)
--- ^_^ わっはっは! ---
うるるーーー
「いや、地球ではスケールが、小さい、小さい!宇宙一の会社、といってもらいたいなぁ!」
すっく・・・。
俊介はいきなり立ち上がり、みんなに叫んだ。
「よぉ、セクハラ俊介!」
わいわい、がやがや。
「わははは、宇宙一の会社、セレアムの初代常務をやっとります、国分寺です」
「出た、常務!」
「ひっこめ、俊介!」
「セクハラ俊介!」
わーわーわー・・・。
(ありがたい、ナイス・フォローッ、常務。でも、待てよ。ユティスは、本気で言ってるんだけど・・・。でも、さすがにヤバイということを口にした時は、いつも常務が絶妙のタイミングでフォローを入れてくれているぞ。偶然にしては、いくらなんでも、できすぎじゃないのかぁ・・・?)
「ワーッ」
「地球一の会社か。ユティス、それって、面白いわ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「はい、そうですよね!」
「いいぞぉ!」
「わたくし、精一杯やりますので、どうか地球の皆様、ご指導をよろしくお願いいたしまーす。和人さぁん!」
ユティスは和人に手を振った。
(あははは。またまた、地球だ・・・。ユティス、ぜんぜん、オレの言うこと聞いてない・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
「ああーーー!和人さんですって。ユティスってば!」
「和人さぁん?おまえ・・・?」
「きゃー、きゃー!」
「和人さぁん、ですって!」
「きゃあ、きゃあ!」
「和人、手が早ぁい!」
「そ、そんなことないです」
「ということで、以上でぇーす。うす」
ユティスは二宮のやっていたカラテの十字を両手で切った。
--- ^_^ わっはっは! ---
「きゃははは」
「あはははは」
「凛々しいわよ、ユティス!」
「あれ、終わり?」
「はい。そうですけどぉ・・・」
「えーーー。ユティス、それで、おしまいなのぉ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「他に何かしなくては、いけないのですか?」
「歌、歌!」
「ユティスの国の歌をやってよぉ!」
「そうそう。歌は宴会の定番でしょ、女の子の!」
真紀が煽った。
「真紀社長!」
和人は心配になった。
(大丈夫かなぁ・・・)
(ご心配はおかけしません、和人さん)
「はい、歌でしたら」
にっこり。
ユティスは快く応じることにした。
すく。
ユティスはゆっくと立ち上がり、両肘を腰の位置で止め、手のひらを上にした
すーーーぅ
女声独唱・・・・。
「らららーらーらーーーらららーーーーらららーーーーーららら」
うっとり・・・・。
「透き通っていて、とってもキレイな声・・・」
「なんてステキなんでしょう・・・」
「ホント・・・」
ユティスは歌い止めると、みんなを見回した。
「よかったわよ、ユティス」
「ホント、プロみたい」
しかし、ユティスは困った顔になった。
「あのぉ、今のは発声練習なんですけど・・・」
にっこり。
「はいっ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「いいから、本番いって、本番!」
「はい」
すぅーーーっ。
ユティスはゆっくり歌い始めた。
「オーレーリアン・デュール・ディア・アールティーアー・・・。ヨーレリデュール・ナン、テュークレーイ・セール・・・」
ユティスの身体は徐々に淡く揺れるようない虹色の光に包まれていった。
「え・・・?」
「なに・・・?」
「シルティーイ・ヴィシエール、ヨーレリデュル・ラスガデュール」
しーーーん。
(すべてを愛でる善なるものへの『祈りの歌』だ。皆を慈しむ愛の歌。なんて雄大で優しく、清らかなんだろう・・・)
和人だけがユティスの歌の意味を理解できた。
ぺこり。
ユティスは深く礼をした。
しーーーん。
ぱちぱちぱち・・・。
一瞬の静寂の後、やがて拍手が起きた。
「すっごい・・・」
「言葉ないわぁ・・・」
ぱちぱちぱち・・・。
「何か、さっぱりだけど、優さがあれてて、オレ泣いちゃいそう!」
二宮が涙を拭いた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「おーい、おーい、あなたも、二宮・・・?」
「ウァー、ウァー・・・!」
「何なの、今の。ユティスが・・・虹色の光に包まれていた気がする・・・」
「わたしも見た・・・。ユティス、天使みたい・・・」
「もしかして、ホントに・・・?」
にこっ。
ユティスはもう一度礼をした。
「歌ってる時の表情、見た?わたし、天使かと思っちゃった!」
「きれーーーい、感動しちゃう!」
「うまいなんか超越してるわ!」
「うううう・・・、わたし、涙がとまらない!」
「わたし、今日から、まじめに生きます!」
--- ^_^ わっはっは! ---
(歌が心にしみこんできて、魂が、心地よく揺さぶられるような不思議な感じだった)
わいわい・・・。
がやがや・・・。
「俊介?」
真紀は声を落として、俊介の耳元で囁いた。
「なんだよ、姉貴?」
「ユティスは、ただ可愛いだけじゃなく、とんでもない実力を持ってるわね。キレイだけど、よくある嫌味はまったくないわ。そう思わない、俊介?」
「ああ・・・」
「うちの女の子たち、皆を、あっというまに魅了しちゃったわよ。男たちは、言うに及ばずだけど・・・」
「エルフィアが選んで、わざわざ、よこした超A級エージェントだぜ。見てくれだけで、来るわけないさ」
「そうよね・・・」
「お、石橋。今の撮っていたの?見せて、見せて」
茂木がユティスに向けていたスマホを見て言った。
「・・・」
石橋は茂木は目をくれずに、ユティスにレンズを向けていた。
「はぁ、石橋。あなた、聞いてるの?」
「・・・」
「ま、いいか」
「おぉい、茂木ってばーーー」
「はぁーーーい」
茂木は茂木に呼ばれて、石橋のことは忘れた。
「そろそろ、時間ね」
「ああ、早いうちに、あの二人を帰さないとな」
「ええ」
俊介は真紀との内緒話を終えると、和人とユティスにウィンクをして、立ち上がった。
「よーし、これにてユティスの歓迎会は、お開きとする。これで、いいな、和人?」
「は、はい、常務。皆さーん。宴たけなわではございますが、これにて、ユティスの歓迎会はお開きとします!」
「で、二次会は有志でやること!」
わいわい・・・。
「あのぉ、申し訳ございませんが・・・」
ユティスがみんなに礼をした。
「あら、ユティス来ないの?」
「うっそぉ!それ、反則、反則!」
「あ、はい、申し訳ございません。お誘いいただきまして、大変嬉しいのですが、本日は、どうしても・・・」
「えーーー、信じらんない、二次会に、主賓が来ないのぉ?」
「そんなのありぃ?」
「申し訳ございません。どうしても用事があるもので・・・」
「和人、あなたも逃げる気・・・・?」
「オレ、ユティスの運転手ですよ。かんべんしてください、茂木さん」
「じゃ、貸しだからね」
「では、みなさん、本日は本当にありがとうございました。おやすみなさい」
「ユティス、一緒に帰ろう」
「はい」
「おーーーお、つまんねぇの」
二宮が愚痴を言った。
「すみません、二宮さん。うす・・・」
「あははは。いいって、いいって」
二宮は、ユティスが自分の真似をするのが嬉しくなっていた。
「ここ、ここ・・・」
二宮はユティスに頬を向けた。
「もう、ダメです・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あー、二宮、自分から要求するのは、絶対セクハラだよぉ!」
茂木が叫んだ。
「きゃあ!」
「そうだ。そうだ。セクハラ男!」
女の子社員達が騒いだ。
ぱんぱんぱん・・。
「はーい、はーい、終わり。終わり。みんな終わりよぉ。仕方ないわねぇ。二人とも、おやすみ!」
「主賓がいないから、みんな、ヤケ酒、次のお店でやるわよーーーぉ!」
茂木が音頭を取った。
「で、真紀のおごりだよね?」
「そうだ、奢れ、奢れ、真紀!」
岡本もすっかりテンションが上がっていた。
「和人はいいよなぁ・・・。それにひかえ、このオレは・・・。イザベルちゃん・・・」
二宮は急に寂しくなった。
--- ^_^ わっはっは! ---
「しょうがないわねぇ、二宮。あんたの心のキズとやらを癒しにいくか?」
茂木が、二宮の肩を叩いた。
「うっす」
「リーエス」
かちゃ。
和人は車のドアを開けて、ユティスを待っていた。
「行くよ。ユティス」
「はぁーーーい」
にこにこ・・・。
「みなさん、また、来週」
ぺこり。
ユティスはまた礼をした。
「ええ。おやすみ、ユティス」
「みなさん、おやすみなさい」
「で、ユティスの家ってどこだっけ?」
岡本が重要な質問をした。
「はい。和人さんと同じ家です」
「ええ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
みんなが我が耳を疑った。
「同じって・・・」
「そう、聞こえたわよねぇ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「どうか、されましたか?」
ユティスはきょとんとした。
「どうかって、・・・、わたしの聞き間違いかしら・・・?」
岡本が眉をひそめた。
「和人さんのお家がですか?」
「それ、同棲してるってこと?」
「同棲?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「要は、一緒の家に住んでるってこと・・・。男女が・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「はい。会社の寮ですから・・・、当然だと思いますけど・・・」
「ええ?」
「真紀社長さんから、そう聞いてます」
「会社の寮・・・?」
「はい。和人さんは寮長なんです」
「寮長・・・、和人が・・・」
「変でしょうか?」
「十分にね・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「後で、真紀に問いただすわ・・・」
岡本と茂木はお互いに頷き合った。