013 夢見
■夢見■
和人と駅で別れた後、二宮は自分の駅に着いた。そして、何の気なしにある看板に目を留めた。
(スマホのメーカー・機種変更OK。電話帳変換全面OKか・・・。ん?変換・・・)
二宮は立ち止まってそれをじっと見た。
(変換。変換・・・。そうか、わかったぞ。そのキーワード。ユティスだ。ユティス。カタカナがアルファベットに自動変換されてたんだ。早速、常務に連絡だ)
二宮は俊介に電話した。
るるるーーー。
ぴっ。
「常務っすか?オレ、二宮です」
ぴきっ。
「おまえ、何時だと思ってんだ?」
いきなり俊介の怒鳴り声に、二宮は目をつむった。
「うす。緊急なんですよ、緊急事態。常務、いつでもいいから連絡しろって言ったじゃないすかぁ・・・」
「オレは女にしかそういうこと言わんが・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「例のキーワード件すがね、アルファベットに自動で変換されてたんですよ。和人はカタカナでしか入れてないってのが本当なら、恐らく、いや、絶対にそうです・・・」
「自動変換?どんな具合にだ?」
「カタカナをアルファベットに変換するツールがあるんじゃないすかぁ?」
がくっ。
「ちっ。それじゃ、おまえの推測だろ?」
俊介は舌打ちした。
「いや、あるんすよ。それ、岡本さんに確かめてください」
二宮は自身ありげに言った。
「で、和人はそれを自分のPCに入れてるんだな?」
「ええ。あいつは外国語の翻訳をよくやるんで、ちょくちょく使ってるはずです」
「わかった。聞いてみるとしよう。それで肝心のキーワードはなんなんだ?」
「それがですね、なんとも変なんですが・・・」
いらいら・・・。
俊介はいらついてきていた。
「さっさと言えよ」
「えー、とりあえず、カタカナで・・・『ユティス』ですね」
「とりあえずだとぉ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「おす。絶対にです」
「『ユティス』か?」
「おす」
「なんの意味があるんだ?」
「意味もなにも、女の子の名前ですよ」
「女の子・・・?どこのピンサロだ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わはは。常務らしいですねぇ・・・」
「うるさい。人のこと言えた義理か。で、おまえはその娘のことを知ってるのか?」
「いいえ。まったく知りません。常務こそ、怪しいところに和人と一緒に行ったとかしてないんですか?萌えアイドルの隠れオタクなんでしょ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「なにを言うか、バカもの」
「夜の友人に、いませんか、そんな名前?」
「夜も昼も、そんな名前の女は知らん」
「明日、和人に試させたらどうです?ついでに、変換ツールのことも・・・」
「そうだな。明日、片っ端から、和人に試させた方がよさそうだ」
「じゃ、これで」
二宮は報告を終えた。
「ああ。あんまり夜更かしすんなよ」
「うーーーす」
エルフィアのユティスの部屋では、ユティスがエルドと話していた。
「そろそろ、お時間ですわ」
「ウツノミヤ・カズトの夢にご登場かい?」
「リーエス(はい)。エルド」
「眠っている時の方が、コンタクトし易いからね」
「リーエス(ええ)。では、行ってまいりますわ」
「よろしく」
「リーエス(はい)」
すすぅ・・・。
ユティスは部屋の中心に置かれたベッドのようなカプセルに横たわり、静かに目を閉じた。
しゅぅ・・・。
ぴた・・・。
カプセルの透明のフタがゆっくりと閉まり、エルドはそれを確認すると部屋を出た。
ぐう・・・。
酒が入ってるせいか、和人は床に就くとあっと言う間に寝入った。
「アステラム・ベネル・ナーディア(こんばんわ)、ウツノミヤ・カズトさん」
ユティスは和人の夢の中で呼びかけた。
「うーーーん」
「ウツノミヤ・カズトさん。アステラム・ベネル・ナーディア(こんばんわ)」
ぽわーーーん。
和人は、目の前に昨日見た娘の姿がぼんやりと浮かび上がってくるのを眺めていた。
「あ、きみは・・・」
和人はユティスの呼びかけに応えた。
「ユティスなの?」
「リーエス(はい)。エルフィアのユティスです」
「これは夢?現実?」
「わたくしはあなたの夢の中に現れています。でも、意識としては現実ですわ」
「夢で現実?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あなたはわたくしのメッセージをお聞きになり、それにお応えいただきました。ですから、こうしてわたくしとお会いできているのです」
「じゃ、昨日の昼間のことは?」
「すべて本当に起こったこと」
「本当に本当?」
「ウツノミヤ・カズトさん、あのメッセージはあなたの世界で言う一種のビデオですわ。但し、特定の方にだけ、しかも1度きりしか、ご覧になれません。内容が内容ですから・・・。もし、悪意のある人がそれを見たなら、面倒なことになりますわ・・・」
「わかったよ」
「うふ・・・」
「けど、きみのただ1回のメッセージに、もし、オレが応えていなかったら?」
「あなたとお会いできるチャンスは、永久に失われてしまうところでした・・・」
にっこり。
「でも、ウツノミヤ・カズトさんはわたくしのメッセージにお応えくださいましたわ」
和人は、ユティスが嬉しそうに微笑んでる様子が、手に取るようにわかった。
「メッセージの有効期間はあったの?」
「リーエス(はい)。そちらのお時間で3日間」
「そんなに短かったんだ?」
「そうでしょうか。たぶん、十分なお時間ですわ」
「そうだね。あれじゃ、だれだって気になるよ」
「リーエス(はい)。自分でも良いアイデアだったと思います」
「気づいてください、なんて書いてあるんだもの」
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス」
「オレ、決断というか、その、とにかく一瞬で決めたからね」
「ええ。ウツノミヤ・カズトさんは必ずご覧になられると信じていました」
「そ、そうなの?」
「んふ。そう願ってもいましたし・・・」
ユティスは微笑んだ。
「それを・・・、願ってたの?」
「はい。もちろん。うふ」
「あはは。その幸運に感謝するよ、心から」
「あら、いつものつぶやきでしょうか?」
「ええっ。いつものつぶやっきって・・・。なんだい、それ?」
「うふ」
ユティスはそれには答えず、さらりと話題を変えた。
「ウツノミヤ・カズトさん。まず、わたくしからお願いしたいことがあります。あなたの頭脳へ活性化アプリの適用です。わたくしたちが日常的にお互いにお話したり、イメージや考えを通信したり、そして、わたくしが精神体で和人さんのところにおじゃまする時には、必須になります」
「今だって、こうして話してるけどぉ?」
「今は、まだ頭脳活性化前なんで、あなたの夢という形でお話しています。もし、あなたが目を覚ましている時にちゃんとした会話をするとなれば、どうしても頭脳の活性化はお願いしなくてはなりません」
「いったい、どうするというの?」
和人は尻込みした。
「なにも外科手術をするわけではありませんわ」
「本当?」
「リーエス(はい)。アプリですから、頭脳に適用するソフトウェアのようなものとお考えください。これから、わたくしがアプリをお送りしますので、それを頭の中で開けてくだされば、アプリはそのまま適用されますわ」
にっこり。
ユティスは和人を安心させるように微笑んだ。
「開けるったって、どうやって?」
「ただただ、頭の中で開けているようにイメージしていただければよろしいんです」
ユティスはこともなげに言った。
「できるかな?」
「うふ。心配ございませんよ。まいりますわ」
ユティスがそう言うと、和人の頭の中で文書のイメージが浮かんできた。
ぽわ・・・。
(これかなぁ?)
和人は言われるまま、それを開けるイメージをした。
ぴっ。
ぴぴっ。
しゅわーーーん。
「うわーーーっ。なんだ、これは・・・」
しゅーーーん。
その途端、ものすごい情報が和人の頭脳に注がれ、和人は圧倒された。その瞬間、心というか精神というか、自分の思考が今までとは比べものにならないくらい広がったとこを感じていた。それに、思考のスピードが驚くべき速さになっていた。和人は迷いがなくなり、素直に自分の考えに従えるような気がした。
しゅうん・・・。
ぴっ。
にっこり。
ユティスは処理完了を確認すると、和人に微笑んだ。
「これで終了ですわ」
「終わったの?」
「はい。和人さん、ご協力ありがとうございます」
「これって、エイプリル・フールじゃないよね?」
「エイプリール・フールですか?」
きょとん・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
「なんのことでしょう?」
ユティスの声は明らかに困った調子になった。
「ごめん。きみはこっちの習慣知らないもんね」
「リーエス(はい)・・・」
ユティスは頷いた。
「エイプリル・フールってのはね、昨日のことなんだけど、地球では4月の1日にウソも大ボラも、いくらついてもいいんだ。まるで、悪徳政治家のためにあるような日さ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「まぁ!」
「だから、だれもお咎めを受けない。それで、ホラ話に騙されれば、騙された人がフール。バカ、阿呆。つまり4月バカってわけさ」
「うふ。なんて大らかな・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
ユティスは面白がった。
「一つのお祭りですか?うふふふ」
ユティスは、軽やかに笑った。
「そうだね。で、これは?」
「わたくしでしたら真実ですわ。エイプリル・フールではありません。ウツノミヤ・カズトさんの世界の風習は、わたくし、存じあげていませんもの」
「じゃ、もしかして、これは本当に現実?」
「リーエス(はい)。もちろん。んふ?」
ユティスは、にっこり笑った。
「お目覚めになったら、思い出してくださいね」
ぱちん。
ユティスは悪戯っぽく片目を閉じた。
「忘れようたって、忘れるもんか。ユティス。きみが本当に実在してたなんて・・・」
「アルダリーム・ジェ・デーリア」
「ん?それは?」」
「感謝のお言葉ですわ。和人さんの地球後に直すと、『ありがとうございますわ』でしょうか?」
「それ、女性言葉なの?」
「リーエス(はい)。語尾に『イア』と言う音が付くと、大抵の場合、女性表現になります。男性でしたら『アルダリーム・ジェ・デール』ですわ」
「あは。どういたしまして」
「それは、エルフィアでは『パジューレ』と言い、男性も女性も同じですわ」
「うん。とにかく、すっごく幸せな気分だよ。天使と会話できたような感じ」
「天使だなんて・・・。わたくしこそとても光栄ですわ」
ユティスは明らかに喜んでいた。
「ふふふ」
ユティスは和人の疲れた心をほぐしてあげようと思った。
「ウツノミヤ・カズトさん、今日はあなたの夢の中におじゃましまして、申し訳ございません。お疲れではないのですか?」
「ううん。ぜんぜん。きみと話せてもう魂は天国だよ」
和人は、心がうきうきしていた。
「まぁ、天国だなんて、そんな死んだようなことはおっしゃらないで」
--- ^_^ わっはっは! ---
「はは。それは例えだよ。夢なら覚めて欲しくない」
「それは光栄です
」
「あのぉ・・・、そのぉ・・・」
「はい、なんでしょう?」
「きみと会えるの、今日限りってことは、ないんでしょ?」
和人は、恐る恐る最大の関心事に触れた。
「ふふ」
「生きてれば、明日の晩もきみに会えるのかな?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス。もちろんですわ、ウツノミヤ・カズトさん。あなたさえお望みならば、これからもお会いしましょう」
ユティスは、快く引き受けた。
「や、やったぁ!」
「んふ。その時には、心でわたくしをお呼びください」
「もちろんだよ!」
和人は大いに幸せだった。
「それでは、本日はこれで・・・」
「消えちゃうの?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「うふふ。消えたりはしませんわ。待機です」
にっこり。
ユティスは優しく微笑んだ。
「わたくしはいつも和人さんのお側にいます。お忘れにならないで」
「うん・・・」
「あ・・・。和人さん、あなたは睡眠が十分お取りできないでいますね?」
ユティスは和人の目が疲れているのに気づいた。
「少しね。でも、きみのせいじゃないよ」
「ナナン(いいえ)。わたくしとお会いいただいてる時間が和人さんの睡眠を妨げています。ですから、それを解消しなければなりません」
ユティスはそう言うと右手を和人の目の前にかざした。
「和人さんは、これより2分以内に健やかな睡眠に入られます」
「ありがとう。じゃぁ」
ユティスは、和人の意識から消え、和人はすぐに眠りについた。