137 朝湯
■朝湯■
「リーエス、入りたまえ、アンニフィルド」
中では、エルド、クリステア、ディリフィスの3人がにたにた笑いながら、アンニフィルドを迎えた。
「なによぉ?」
アンイフィルドはクリステアを見つめて膨れっ面になった。
「あと1日頑張れば済むことじゃない?」
「あーそうですよぉーだ。さっさとしてよ、ディリフィス、現地人の紹介」
「リーエス。アンニフィルド、クリステア、お二人とも、そこにお座りください。そして、資料をご確認ください。空中スクリーンに同じものを投影しますので、わたしの話中は、資料を見なくてけっこうです」
にこにこ・・・。
ディリフィスは笑顔で答えた。
「はい、はい、リーエス」
反対に、アンニフィルドはやけ気味に言った。
「では、ディリフィス、始めてくれたまえ」
エルドが合図すると、空中スクリーンに地球でSSたちが係わることになる人物リストが映し出された。
ぱぁーーーっ。
ぴっ、ぴっ・・・。
「いいですか、これは、ほんの一部の人間のリストですが、ウツノミヤ・カズトに一番身近で、お二人が地球赴任後すぐに係わることになる人物です。しっかり、頭に叩き込んでおいてください」
ディリフィスは微笑んでいたが、言葉は真剣そのものだった。
ぴっ。
「人物リスト、00001。ウツノミヤ・カズト。彼はユティスのコンタクティーですから、プロフィールは重要です。お二人は、まず、なにがなんでも彼を保護しなくてはなりません」
「リーエス」
二人は同時に答えた。
「出身地、日本国、西の方の市。現在24歳・・・」
「西の方の市ってなによ?」
アンニフィルドが突っ込んだ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「日本の西の方にある市ということです。問題ありますか?」
「あ、そう・・・。リーエス、次に進んで・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ちょっと、待ちなさい、アンニフィルド。あなたそれで、納得するの?」
クリステアが呆れ顔にになった。
「これ以上覚えるもの増やしたくないのよ、優等生さん!」
--- ^_^ わっはっは! ---
べーーー。
アンイフィルドはクリステアに舌を出した。
「まるで子供ね・・・」
クリステアはそれを無視した。
「次、やって」
アンニフィルドはスクリーンを振り返った。
「リーエス。彼の外観的な情報です。身長、174センチ。体重、68キロ。髪の色、黒。髪の長さは男性の普通サイズ。目の色、濃い茶色。割と彫は深め。眉、太め。座高、90センチ。ウエスト、78センチ。やや筋肉質。体型的には体重の割にはやや細めに見えます。本人の立体画像とビデオを確認ください」
び・・・。
空中スクリーンに和人の全身像と顔のアップが並んで映し出された。
「精神体で会ってたのと同じよ。リーエス」
アンニフィルドがOKを出した。
「ふむふむ。男性としてはやや小柄。これがユティスの彼氏なのね・・・」
クリステアが頷いた。
「では、本人の内面的なものに移ります」
「やって、ディリフィス」
クリステアも右手で指示した。
「リーエス。趣味、音楽。これは聞くというだけでなく、自作自演もするということです。ギターによる作曲数、約200曲。学生時代にはバンド経験あり。嗜好、アルコール飲料はビールにスパークリングワイン。スパークリングワインのブランドとしては、シャンパン、カヴァ、にかなり通じています」
「スパークリングワインって?」
「発泡酒のことです。ビンの中で自然発酵させ、炭酸ガスをワイン内に閉じ込めたもので、5気圧くらいの勢いのあるワインですね」
「ふぅん、よく知ってるわね、ディリフィス?」
「ウツノミヤ・カズトの自己申告によるものです」
「なるほど・・・」
「特に好みのシャンパン・ブランドは、ロイ・ルデレール。かなりの高級品ですね。ユティスがウツノミア・カズトの家に着任した折、二人で開けたのがこれです。中でも最高級品とうたわれる『クリステア』を楽しんだようです」
「わたしの名前?」
クリステアがびっくりした。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あはは。あななた、和人に飲まれちゃったのよぉ!あー、可笑しい!」
「ふん。なに笑い転げてるの、アンニフィルド?最高級品だって言ってたでしょ?最高級品、わかったぁ?」
「はい。はい。あっはっは・・・」
「次は、写真。デジタルカメラで花とか人物を撮っているようですが、現在はほとんど使用していない模様」
「次・・・」
「スポーツは野球、テニス、サッカー、アーチェリー、他数種。いずれもアマチュアレベルにて、特筆すべきものはありません。テニスが一番できるようですが、ここ2年くらいはやってないようです」
「テニス?」
「拳大のボールをネットを挟んだコートで打ち合うゲームです」
「筋力の強い方が勝つってことね?」
むきっ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ご心配なく、アンニフィルド。お二人なら、地球人はだれもかないませんよ」
「次は、ウツノミア・カズトの社会的情報です。これは人間関係を掴む上でとても重要なので、本人との関係をしっかり把握してください」
「リーエス」
「まず、家族構成から。ウツノミア・カズトは、両親と、姉、妹の3兄弟です。本人は真ん中です。姉の沙羅は1年上ですが、妹の亜矢とは10年くらい離れています。父親はコンピューターの保守エンジニアです。母親はスーパーマーケットのレジで働いています」
「スーパーマーケットって?」
「なんでも多種多量に安く売ってる大型店のことです」
「ふうん・・・。レジって?」
「買ったものがいくらになるか算出して、買い物客からお金を受け取る係りです」
「いいわね、それ?」
「なんででしょうか?」
「だって、お金受け取れるんでしょ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そりゃあ、レジはお金を受け取る係りだけど、お金自体はその人のものじゃないんです。そのスーパーマーケットのものなんですよ」
ディリフィスは慌てて追加説明した。
「なぁんだ、つまんない・・・」
「当ったり前まえじゃない、アンニフィルド。地球はカテゴリー2なのよぉ?」
クリステアが言った。
「大丈夫だろうね、アンニフィルドは・・・?」
エルドは苦笑いしながら、ディリフィスに目配せした。
「赴任日までに、必ず仕込みます」
--- ^_^ わっはっは! ---
「うむ・・・」
それから、ディリフィスの関係者プロフィールは続いた。
地球では、和人たちが温泉旅館で朝を迎えていた。
「おはようございます」
「あっ、女将さん」
和人が顔を洗っていると、女将がにっこり挨拶した。
「お連れ様は?」
「せっかくなんで、温泉で朝湯をいただいています。あ、もちろん、湯当たりには気をつけてますよ」
「それは結構。あなたも、入らなくて、いいの?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ええ・・・」
「だめねぇ。昨晩、あれほどお教えしたのに・・・」
女将は悪戯っぽく微笑むと、ちょっと考えていた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あはは。とは言っても・・・」
和人は照れ笑いしながら、ユティスと別なのを正当化しようとした。
くいっ。
「ちょっと、こっちにいらっしゃい!」
女将は和人のシャツを掴むと、それを引っ張った。
「ど、どこへ行こうと言うんですか?」
「いいから、わたくしに着いてきなさい!」
ささささ・・・。
女将は和人を廊下に引っ張っていった。
「そこの木戸をくぐって」
「あ、はい」
きぃ・・・。
女将は廊下の先の温泉浴場に通じるところで、その右にある木戸を開けた。
「ここは?」
和人が見ると、そこには桶や清掃用の柄のついた大きなブラシやら、いっぱい入った部屋だった。
「ぐちゃぐちゃ、言ってないで、腕をおまくりなさい!」
「はい」
「足も、浴衣を膝まで、おまくりになって!」
「は、はい」
「これをお持ちになって!」
「はい」
和人は、てっきり、湯船を掃除する羽目になったのかと思った。
「ここよ。タオルを持って、入って」
きいっ。
女将は、和人にタオルを渡すと、目の前のもう一つある木戸を開けて、和人を中に連れて入った。
「どこだ、ここ?」
和人はなんだか検討もつかなかった。
「ユティスさん?いらっしゃいますか?」
「あ、はーーーい。女将さん」
ちゃぷん。
ユティスの明るい声がした。
「どぇ・・・。ユティスだって?」
--- ^_^ わっはっは! ---
和人は女将にまんまとはめられたのを知った。
「ご主人の和人さんが、あなたのお背中を流してくださるって!」
女将は和人に笑いながら、明るい声でユティスに話しかけた。
「まぁ、嬉しい!」
中からはユティスの喜ぶ声が聞こえてきた。
「ど、どういうことですか、女将さん?」
にこにこ・・・。
女将は楽しそうに微笑んだ。
「『男は黙って、混浴風呂』でしょう!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「さぁ、いってらっしゃいな!」
「うぁーーー!」
和人は木戸の中に押し込まれてしまった。それは、貸切混浴露天風呂への裏口だった。
「ユ、ユティス・・・」
和人は、ややピンクに染まったユティスの白い背中を白くにごった湯の中に見た。
ばしゃばしゃ・・・。
「和人さん、今日はご一緒していただけるんですね?」
ユティスは髪を上げて、バスタオルに身を包み、和人の方を振り向いて、お湯を掻き分けながら近づいてきた。
ちゃぷーーーんっ。
じゃばじゃば・・・。
「どぇーーーっ!」
温泉に浸かり紅潮したユティスに、和人はすっかり動揺した。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ユ、ユティス!」
ユティスは和人を振り向いて、胸を押さえながら微笑んだ。
「和人さん!」
ぽろり。
その時、ユティスのバストを覆っていたバスタオルが、突然ずり落ちた。
「きゃあ!」
「うわっ、バ、バスト!」
つるりんっ。
ずてぇーーーんっ。
どたどた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あわーーーっ!」
和人は、大いに慌てたため足を滑らせ、そのまま湯の中に浴衣を着たまま突っ込んだ。
どっぼーーーん。
--- ^_^ わっはっは! ---
ぶくぶく・・・。
「まぁ、大変。今日は和人さんですわ!」
ユティスは、すぐにバスタオルを巻き直すと、和人が沈んだところに寄ってきた。
「和人さん、大丈夫ですか?」
ぶくぶく・・・。
「ぷはぁ!」
和人が湯の中から顔を出すと、目の前には心配そうな顔をしたユティスが、しっかりと目を閉じた和人をのぞき込んでいた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あらまぁ!」
女将はにこにこ笑った。
「それじゃあ、もう、お二人で洗いっこするしかないですわねぇ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「和人さん、お怪我はないですか?」
「あ、ありません・・・」
「うふふ。後はよろしくね、ユティスさん」
「はい、女将さん」
「ご主人の新しい浴衣を脱衣場にお置きしておきますわね」
「はい。ありがとうございます」
「ぷはぁ!ご主人って・・・」
女将は朝食の用意に戻っていった。
「うふ。和人さん。ご一緒できて、わたくし、とっても幸せです」
ぴとぉっ。
ユティスは、バスタオルに身を包んで、和人に身体を寄せた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あわわ・・。ユティス!」
「浴衣がすっかり濡れてしまいましたわ。お取りになって」
「だ、だめだめ。そんなことしたら、オレ・・・」
「わたくし、長い間、ずっと精神体でしか、和人さんにお会いできませんでした。やっと実体になって、こうして和人さんとご一緒できたのです・・・」
「ユティス・・・」
「和人さんだから、もっと甘えたいんです・・・。もう、今日しかないんです。和人さんとこうしていれるのは今日だけなんです。会社の事務所もそうですが、SSたちが赴任すると、もうプライベートにご一緒できる機会はございません・・・。わたくしの願いは間違っていますか?」
(こらこら、色男。女の子にここまで言わせて、なにもなしかい?そりゃ失礼だろ?)
またまた、『100%煩悩』と『理性もどき』が争い始めた。
--- ^_^ わっはっは! ---
(きみは、エルフィアの全権大使、ユティスを守るべき立場だ。間違いは許されないぞ)
「あは。じゃ、ちょっとだけ。温もったら、出ようよ。朝ごはんもできてるだろうし」
(わははは。それでこそ男だよ、和人!)
今回は、『100%煩悩』が勝利した。
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス。和人さん!」
ユティスは湯に浸かったまま、和人の腕を掴んだ
「ちょっと、だめだったら、ユティス」
「どうしてですか?」
「だって、アンデフロル・デュメーラが見てる・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
和人は天を仰いだ。
「まぁ、そんなことでしたの?」
「彼女が見てくれてたから、きみがのぼせたのを警告できたんだよ」
「そうでしたわ。アルダリーム・ジェ・デーリア、アンデフロル・デュメーラ」
「パジューレ、エージェント・ユティス」
直ちにアンデフロル・デュメーラは答えた。
「ほら、やっぱり、見てる」
--- ^_^ わっはっは! ---
「彼女は、わたくしたちの健康状態とか、地球上の位置とか、近づいてくる人たちの精神のチェックとかをしたり、わたくしたちを守り、その行動に支障のある傷害を排除したりするのですわ。わたくしたちが、なにをどうしているかをモニターして、プライバシーに関わることをエルフィアに報告なんてしませんよ。あくまで、わたくしたちの行動を見守り、支援することに徹しています」
「そうなの?でも、恥ずかしいよ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス。ちなみに、彼女に、ひとつご支援をお願いしてみますわ」
「支援って?」
「うふふ。すぐにおわかりになりますわ」
「はぁ・・・?」
「アンデフロル・デュメーラ?」
「リーエス。エージェント・ユティス。なんのご用でしょうか?」
「わたくし、和人さんともっと仲良くしたいのですけど、助けてくださいます?」
「リーエス。エージェント・ユティス」
「なんだよ、それ!」
どんっ。
その瞬間、和人は背中に力を感じユティスに倒れ掛かった。
「わあ!」
ぎゅっ。
濡れた浴衣のまま、和人は無意識にユティスをしっかりと抱きついていた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ええ?」
「ああ、和人さん!」
「うわっと!え、これ・・・?」
「コンタクティー・カズト。エージェント・ユティスは、あなたを心から大切に思ってらっしゃいます。今は、彼女をしっかりお掴みください」
「あのさぁ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「それが、エージェント・ユティスへの最高のプレゼントです。言葉は必要ありませんよ。コンタクティー・カズト」
「リーエス、わかったよ」
ぎゅぅ。
和人は、そのままユティスを優しく抱きしめていた。和人は、だんだん、心が落ち着いてきて、ユティスがたまらなく愛しくなってきた。そして、まさにその瞬間・・・。
ちゅっ。
ユティスの甘いキスが和人の唇を覆った。
朝食を取った後、和人たちは温泉宿をチェックアウトし、女将に別れを告げた。
「じゃぁ、お二人さん、機会があったら、ぜひ、また来てくださいね」
「ええ、女将さん」
「もちろんですわ。いろいろとお世話になりまして、ありがとうございます」
「2人が出ますよ」
「われわれも、出かけるぞ」
「了解っす、部長」
ぶろろろろろ・・・。
和人とユティスは温泉宿を後にした。