132 二日
■二日■
次の朝、和人は自分の左手を枕にしたユティスが、和人にぴったりと体を寄せて眠っているのに気づいた。規則正しい呼吸がすぐそばで聞こえた。ユティスは安心しきっていた。ユティスの浴衣が乱れていた。思わず和人の目がいった。
(かー、なんて可愛いいんだよぉ・・・。浴衣の下には。ほっ。ランジェリー、ちゃんとつけてたんだ。にしても、目のやり場に困るし、着けているなんて、ぜんぜんその感触なかったもんな。天国、天国。いや、地獄かな。あーあ。オオカミさんはつらいよぉ。ワオーーーン)
--- ^_^ わっはっは! ---
和人は眠りに着く寸前のユティスの言葉を思い出した。
(そう言えば、眠りに落ちる前に確かにオレのことを大好きっていって、キッスしてきたような。えっ、でもよく覚えていない。あー、やっぱり、キッス一つ損した気分だぁ・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
(あーーー、でもわれながら情けない・・・。最後までいくチャンスだったのに・・・。いや、とんでもない。ユティスはエルフィア全権大使だってことを忘れるな・・・。なんかあったら、自分の責任どころじゃないぞ・・・。地球の支援計画は即刻中止になり、地球は時空閉鎖・・・。当然、ユティスも強制送還・・・)
和人はまた自分で蒸し返した。
(和人の意気地なし・・・。でも、怖がるユティスを手篭めだなんて、できるわけないじゃないか。結局、オレはオレだし・・・)
「うーん・・・」
その時ユティスが小さく声を漏らし、和人にさらに接近した。
(あれ・・・、左腕の感覚がない・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
和人の左腕は、ユティスの頭が載っている先は感覚が麻痺していた。
(よいしょ・・・)
和人が身体を動かそうとしても、左腕は動かなかった。
(ありゃ、ホントに動かないぞ・・・。どうしよう・・・)
ふぁさ・・・。
寝る前にポニーテールにまとめていたダークブロンドを解き、ユティスのスーパーロングの髪が甘い香りに包まれて和人の顔をくすぐった。
(か、可愛い・・・)
和人は、純粋にユティスを守ってやりたい、という気持ちが湧き上がってくるのを感じ、身体を反転させて、右手でユティスの頭を撫でようとした。
ごろり・・・。
和人が動いたので、ユティスは目を覚ました。
「か・・・、和人・・・さん?」
ユティスはゆっくりとアメジスト色の瞳で和人を見つめた。
「和人さん・・・」
にっこり・・・。
ユティスの焦点が和人に合うと、ユティスは幸せそうな笑顔になった。
する・・・。
ユティスの瞳がはっきりと和人を捉えると、ユティスは両腕を和人に回してきた。
「ユ、ユティス・・・」
和人は感覚のない左手はそのまま、右手だけでユティスの身体に優しく抱きしめた。
ぎゅ・・・。
それで、和人とユティスは抱き合った状態になった。ユティスの髪からいい香りが漂ってくる。いやがうえにも、和人はユティスの体を意識することになった。ユティスの唇はすぐそこにあった。
(いかん、自制できそうにない!)
和人は思わず目を閉じた。
「和人さん、もうしばらくこういさせてください・・・」
ユティスはそう言うと、そっと和人にキッスをしてきた。
ちゅ・・・。
「・・・」
和人は無性に嬉しくなり、体中に何度も快感が突き抜けていった。
るるー、るるー。
何分たったのか知る由もなかったが、突然二人の精神安定のための休息が、無常にも電話で中断された。
「なんだろう・・・?」
和人が右手を伸ばして受話器を取ると、フロントがモーニングコールとルームサービスの確認を聞いてきた。
「おはようございます。8時のモーニングコールのお時間です」
カーテン越しに明るい朝の日が差し込んでいた。
「あれ?そんなのした記憶ないけど」
和人はモーニングコールを依頼したことを記憶してなかったが、そろそろ起きなければと思っていたので、それを受けることにした。
「そ、それは、失礼をしました」
電話の向こうでフロントの声がした。
「ん、でもいいや。もう起きちゃったことだし・・・。そうだ。朝食って部屋でお願いできるんでしょうか?」
「はい。もちろんできます」
「どんなのがあるのかな?」
「和食とございますが?」
「洋食にしてくださいな。うふふ」
にっこり。
ユティスが微笑んで言った。
「じゃ、洋食に」
和人はそれを伝えた。
「お飲み物はいかがいたしましょう?」
「オレンジジュース、ミルク、そして・・・」
「わたくしは熱い紅茶がいただきたいです」
「リーエス」
「紅茶をポットで。ティーカップは二つお願いします」
「かしこまりました」
「いつ、お持ちしましょう?」
「うふふ」
はぁ・・・。
ユティスは、電話をかけている和人の耳元に、熱い息をそっと吹きかけた
びくん!
「ひゃあ!」
和人の声がひっくり返った。
「ひゃぁ、ですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
フロントは聞き返してきた。
「くっくっく・・・・」
ユティスは笑いを押し殺していた。
「い、いえ、30分後に・・・」
「かしこまりました。30分後に洋食を2セット、ご用意させていただきます」
「よろしく」
「どうも、ありがとうございます」
ぷちっ。
「ユティスぅ、なにするんだよぉ!」
受話器を置くなり、和人は文句を言った。
「うふふふ。ひゃぁ時に朝食が来ますわよぉ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「さっさとお顔を洗って、歯磨きしましょう、和人さん。ね?」
にこにこ・・・。
ユティスの笑顔に和人は前面降伏した。
「わかったよ、そうしよう・・・。もう、恥ずかしいったっらありゃしない・・・。絶対に朝からいちゃついてると思われちゃったよぉ・・・」
「だって、新婚さんですもの、わたくしたち・・・」
「でも、恥ずかしいの」
「まぁ、だったら、もう、『はぁ』も『ちゅう』も、してさしあげませんわよ」
「なんでそうなるんだよぉ?」
「うふふ。お約束してください」
「なにを?」
「後二日・・・、出張旅行の間は・・・、わたくしとは・・・」
かぁ・・・。
たちまち、ユティスは真っ赤になった。
「リーエス。なに?」
ユティスは急に声を低くしたので、和人はその先が気になった。
「新婚さんでいてください・・・」
ユティスの最後は尻すぼみに消えていった。
「え?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ちょっと・・・、それ、どういう意味だよぉ・・・?」
「お嫌ですかぁ・・・?」
ユティスは目を伏せた。
「事務所に戻ってしまったら、みなさんがいらっしゃいます。和人さんとこんなに親密に接することなんてできません・・・。わたくしの本当の気持ちは心に留めるしかありません。ですから、今は・・・」
「リーエス。そういうことだったら、オレはかまわないよ。後二日、新婚さんでいよう」
「リーエス。和人さん!」
がばっ。
ぎゅうっ。
ユティスは和人に抱きつくと両手に力を込めた。
「あ、うん・・・」
「どうかしましたの・・・、和人さん?」
ユティスは、和人が右手だけで彼女を抱きしめて、左手は動かしていないのに気づいた。
ぶらぁり・・・。
「ああ、これね、きみを腕枕してたから、痺れちゃって・・・。大丈夫、そのうち感覚は元に戻るから」
「申し訳ございません・・・」
さぁー、さぁー。
もみもみ・・・。
ユティスは優しく和人の左手をマッサージし始めた。
「アルダリーム、ユティス・・・」
「うふふ、新妻のお努めです」
「あは・・・」
やがて、和人の左手の感覚も戻った。
「さぁ、もう起きようよ。豪華ホテルの部屋で洋食ってのもいいよ」
「はい」
顔洗いや歯磨きを終えて、二人は着替えた。
「和人さん?」
「なに?」
「ところで、洋食と和食って、どう違うのですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あはは。知らないでオーダーしたの?」
「うふ。少しだけ冒険です」
「冒険ねぇ・・・。昨日の夜の方が冒険だと思うけど・・・」
「まぁ・・・。意地悪ですわ、和人さん・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あはは・・・」
「では、宇都宮さま、ごゆっくり・・・」
ボーイは料理を並べ終えると、カートと一緒に部屋から出て行った。
朝食は、和人が見たことのないような、豪華なメニューだった。
「うわぁ・・・。すっごい・・・」
「こんなにフルーツがありますわ・・・」
ユティスはびっくりした。
「さすが、超一流ホテルだね・・・?」
「リーエス。とても食べ切れません・・・」
「よし、まずはオレンジジュースにミルクっと」
和人はグラスにそれを二人分用意した。
「では、わたくしは紅茶を入れます」
「アルダリーム、ユティス」
「パジューレ、和人さん」
ユティスはポットを傾けて、紅茶をティーカップに注いだ。
「このカップもなんてステキなんでしょう・・・」
ユティスはティーカップを眺めて微笑んだ。
「リーエス。とってもステキだね。ちょっと待って、これ、ひょっとしてハンドペインティングじゃないかな・・・?」
「それは、なんですか?」
「えーとね、こういったカップの絵柄は機械で印刷するんだけど、このカップは一つ一つ人間が手で描いてるんだよ」
「一つ一つをですか?」
ユティスは、信じられないというように、カップの絵柄を見つめた。
「リーエス。ほら、絵柄が少し盛り上がってるだろ?」
「リーエス」
「それは、印刷じゃないってことだよ。輪郭線が盛り上がって、その中に色が塗られているだろ。やっぱりそうだ・・・」
さわぁ・・・。
和人は触ってそれを確かめた。
「熱くないのですか?」
「まぁ、これくらいなら、一瞬だし・・・」
さわぁ・・・。
「リーエス。そのとうりですわ」
ユティスも自分で確かめた。
「それは、このカップ一つ一つがこの大宇宙に一つしかない芸術品ということですね・・・?エルフィアもそうですけど、こういったものには、それを作った方の愛情が注がれているんです・・・」
ユティスは、火傷をしないようにそっとカップを両手で包み目を閉じた。
「手作りのものって、暖かいよね・・・」
和人もそれに思いを馳せた。
ホテル・ベネチアン・ベルメールの駐車場では、警護官の二人が、GPSを確認しながら、和人たちを見守っていた。
「起きろ」
「ふわぁ・・・。部長・・・?」
「任務だ」
「あ・・・。了解です。二人は?」
「今、チェックアウトした。ホテルを出るとこだ」
「どこに向かうんでしょうかねぇ?」
「さてな。行くぞ」
「了解」
ぶろろろ・・・。
二人は10時過ぎにホテルを出発し、向かったのは水族館だった。
「ここは、なんというところですか?」
「水族館と言って、海や川や湖沼の生き物を集めて飼っているところさ」
ぞくっ。
ぶるぶるっ。
ユティスは身震いした。
「どうしたの?」
「それを・・・、食べるレストランなんですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あっはっは。とんでもない。子供や、恋人たちに、その生き物たちの生態を、ありのままに見せるのさ。そこの生き物を焼いたり煮たりしたりはしないよ。魚たちが水の中を泳いでる様は、とっても癒されるよ」
「まぁ・・・。そうですか。びっくりしましたわ」
ユティスは胸を撫で下ろした。
「部長、水族館に入りましたよ」
またしても、デートコースの後追いに、若い警護官は不平を言った。
「任務だ」
「ここに、入るんですか?」
「任務だ」
二人を追って、警護官たちも水族館の中に足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ」
「大人。男性二人」
「ふふふ。性別による割引はありませんよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
若い女性の受付が優しく言った。
「はい。行ってらっしゃい」
「ど、どうも・・・」
ちら。
若い方の警護官は、女性の受付を振り返りながら上司を見た。
「部長。いい娘ですね」
「任務中だ。よそ見するな。二人から、目を離すんじゃない」
「了解です」
「ここはね、ユティス。地球の赤道付近の熱帯にいる魚なんだ」
「色鮮やかで、とても美しいですね」
「リーエス。うふふふ」
「どうかした?」
「あのお魚。ご覧ください」
ユティスの言った方には、ユーモラスな顔をした魚が、目をまん丸にして、二人を見つめて、胸びれをひらひらさせていた」
「あはは。ホントだ」
きれいな熱帯魚にユティスは喜んだ。
少し暗めの大きな水槽のところには、分厚いガラス越しにラッコがぷかぷか浮いていた。
「まぁ、なんてユーモラスな・・・。うふふ、可愛いですわね」
「リーエス。これはラッコって言うんだよ」
「ラッコですね・・・。うふ、こちらを向いてますわ」
こんこん・・・。
水面にラッコが仰向けに浮かんで、お腹に載せた貝を小石で叩き始めた。
「あれは、なにをされてんでしょうか?」
「お腹に貝を載せて、硬いからを小石で叩いて割ってるのさ。割って出てきた中身を食べちゃう・・・。ぺろり」
「きゃ・・・。ラッコって、お顔に似合わず、残酷で怖い動物なんですね・・・」
「あはは。そんなことないさ、ラッコはあのとうり可愛いもんさ。地球にはもっともっと残酷な生き物がいるよ」
「本当ですか・・・?」
ささっ。
ユティスは怯えたように和人に身を寄せた。
「ライオンやシャチ、それになったって人間だろうね。他の動物たちは自分たちの食い扶持分しか動物を殺さないけど、人間は違う、一度に多量に、じゃまだと理由で同胞も殺しちゃう。やっぱり、カテゴリー1かなぁ・・・」
和人は地球人の残酷さをユティスに思い出させてしまった。
「・・・」
ユティスは急に静かになった。
「ごめん。ごめんよ、ユティス・・・」
「ナナン、いいんです。もっと事実を直視しないと。謝るのはわたくしの方です。もっと、ありのままの地球を見たいです」
「ユティス、大丈夫かい?」
「リーエス。次にまいりましょう?」
「そろそろ、常務たちに連絡しないと・・・」
「リーエス」
ぷるるル・・・。
「はい、国分寺です」
「あ、常務、オレです」
「おう、で、どんな様子だ」
「今日はホテルを出て、水族館に来ています」
「それで、そこが地球文明とどう関係あるんだ?」
「それなんですが、こういったアミューズメント施設はけっこう最先端のテクノロジーが当たり前に使われていて、それを一般人が利用できるところだって、ユティスが言ってって・・・」
「なるほど。言われてみりゃ、そうかもしれん。また変ったことがあれば、連絡してくれ」
「はい。了解です」
ぴっ。
「常務さん、なんておっしゃってました?」
「テーマパークや水族園は、いいアイデアだって」
「うふふ。次はどこにしましょうか?」
「この近くには温室植物園があったと思ったけど・・・」
「植物ですね?そこにしましょう、和人さん」
「わかった。じゃ、車に戻ろう。GPSで調べればすぐにわかるさ」
「リーエス」
温室植物園では色とりどりの花にユティスは驚嘆した。
「すごい、すごいです・・・」
色とりどりの花に、ユティスは夢中になった。
「エルフィアもいろんな花があるでしょ?」
「リーエス。でも、ここのお花もとても美しくてステキですわぁ・・・」
二人は花園を抜けて、熱帯植物の茂る温室に入った。
むっ・・・。
「うわぁ、なんて息苦しいんだ・・・」
「とっても暑いですわ・・・」
「リーエス。上着は取った方がいいね・・・」
「リーエス」
二人は上着を脱いだ。
ユティスは白っぽい薄着になり、身体の線がくっきりと浮かんでいた。
「ありゃ・・・」
かぁ・・・。
和人はユティスに釘付けになってしまった。
「どうかしましたか?」
「どうかしたって・・・。あははは・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「まぁ、和人さん!こういうのがいいですの?」
ひらり・・・。
ひらひら・・・。
ユティスはゆっくりと回って、スカートが上にめくれるにまかせ、形の良い長い足を和人に見せた。
「し、しょうがないじゃないかぁ・・・。オレだって健康な男なんだし、目の前に涼しそうな格好したステキな女の子がいれば・・・」
「女の子ですか・・・?」
ユティスは不満そうな顔になった。
「え?」
「わたくしたちは、新婚さんです・・・」
ぽっ。
ユティスは上目遣いに和人を見つめた。
「そ、そうっだたよね、奥さん・・・」
「もう、知りません。お忘れになって・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
和人にしてみれば、ユティスのちょっと拗ねたような表情も、それはそれで文句のつけようがなく可愛かった。
「ご、ごめん、忘れたわけじゃないんだけど・・・」
「うふふ。許してさしあげます。旦那さま!」
とっとっと・・・。
ちゅ。
ユティスはそう言うと、和人に駆け寄りキッスした。
「あーーー、キッスを人前で白昼堂々と・・・」
二人を見守る警護官たちは、大きな熱帯植物の陰から、その様子を見ていた。
「人前といってもな、オレたちは好んで木陰に隠れてるんだぞ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「それじゃあ、立派なノゾキじゃになってしまうじゃないっすかぁ?」
「任務だ。われわれは監視と呼ぶんだ。言い方を間違えると犯罪だぞ」
「くぅ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ホント、自分、情けなくなってきますよぉ、部長・・・」
「おまえは、早く、嫁もらった方がいいなぁ・・・」
植物園を出ると、次に二人は海辺のハイウェイを飛ばした。
「なんてステキな景色でしょう・・・」
「うん・・・」
にこ。
にっこり。
二人は微笑み合った。
「窓を開けようか?」
「リーエス。風が気持ちよさそうです」
じーーー。
「んーん!」
ふわふわ・・・っ。
窓を開けると心地よい風にユティスの髪がなびき、和人を抜き去る車の搭乗者たちがユティスに目を奪われていった。
「ユティス・・・」
「リーエス」
「とってもキレイだよ・・・」
「本当ですね。空も青くて、目が痛いほどですわ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「空じゃなくて・・・」
「海ですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「き、きみだよ、奥さん・・・」
「まぁ・・・!」
ぽっ。
ぴとっ。
「ダ、ダメ!運転中だよ、事故っちゃう!」
「うふふ。大丈夫ですわ。オートパイロットに切り替えましょう?」
「オートパイロット?」
「アンデフロル・デュメーラ、お聞こえになったぁ?」
「リーエス。コンタクティー・カズトの地上輸送機のシステムを把握しました。いつでもオートパイロットに移れます」
「へ・・・?」
「うふふ。手と足を制御装置よりお放ししてみてください」
「ハンドルとアクセルかい・・・?」
「リーエス・・・。うふふ」
--- ^_^ わっはっは! ---
和人がそれらを放したが、車はまっすぐそのままの姿勢で、海沿いのハイウェイを走り続けた。
「すごい・・・。どうなってるんだぁ・・・?」
「わたしが、コンタクティー・カズトの『車』という地上輸送機を制御しています。このまま道なりにわたしが制御を継続しますので、コンタクティー・カズトはご安心して運転をお任せください」
「アルダリーム・・・」
「パジューレ、コンタクティー・カズト」
車はアンデフロル・デュメーラの言うとうり、一定のスピードを保ったまま、安全にハイウェイを走っていた。
ぴとぉ・・・。
ユティスは右手をシフトレバーを掴んだ和人の左手に重ねた。
「この車を追い抜いていく車が、みんな、きみを見ているよ」
「そうなんですか?」
「事故にならなきゃ、いいんだけど・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ご冗談ばっかし・・・」
ぽっ。
ぎゅっ。
ユティスは頬を染めて和人の手を握った。
「ホントだよ・・・」
和人は事故がおきないようにと祈った。
「リーエス。了解しました。コンタクティー・カズトの『車』の走行に影響がありそうな『車』すべての車間とスピードを制御します。もう、ご心配は無用です」
「あはは・・・。アルダリーム」
「パジューレ、コンタクティー・カズト」
ぽわんっ。
「あれ、なんだ、これ・・・?」
和人のすぐ後ろの車を運転しているドライバーは、フロントガラスに浮き出たメッセージを見た。
「『安全運転制御履行中。安心してドライブをお続けください』だってぇ・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
メッセージは3、4回点滅して消えた。
和人の前後左右を走る車、数十台は、エストロ5級母船の制御下に入っていて、みな、フロントガラスに同様のメッセージを受け取っていた。