131 添寝
■添寝■
二人はたわいもない会話を続けたが、和人の頭からは今夜ユティスと同じベッドで過ごすという大問題が離れることはなかった。
「・・・ということさ」
「うふふふ」
ユティスはニコニコしながら、和人の話を聞いていた。
「今日はもう遅いです。一緒にお休みしましょ、和人さん」
ふぁっさ・・・。
ユティスはさっさと布団の中にもぐりこんでしまった。
「おいおい、オレ、これじゃ正気を保てないよ」
かまわず、ユティスは言った。
「和人さんも早くいらしてくださいな。暖かくて、ふわふわとして、柔らかくて、肌触りもステキでとっても気持ちいいですわ」
ユティスは手招きした。
「仕方ない・・・」
そうっ・・・。
(ユティスに触んないように、触れないように・・・)
すぅ・・・。
和人はユティスに触れないように端のほうに寄って入った。
きゅ。
「わあっ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
たちまち、ユティスは和人の手を握ってきて、和人の方を向いて話はじめた。まだまだ、話すことはいっぱいあった。
「わたくし、和人さんとお会いしたら、いろいろお話しようと思っていたのです」
ユティスのアメジスト色の瞳が輝いた。
「オレも、きみに話そう思ってたことが、たくさんあるんだ」
「わたくし、でも・・・」
「でも?」
「お会いした瞬間、全部忘れてしまいました・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
ユティスは申し訳なさそうに言った。
「あは。オレもさ。きみの名前以外、なぁんにも浮かんでこなかった」
「ふふふ。だから、今日は、眠るまでいっぱいお話しませんか?」
(あんなこととか、こんなこととか?)
--- ^_^ わっはっは! ---
「まぁ!」
「違うんだ、ユティス!」
「うふふふ・・・。和人さんは音楽がお好きなんでしょう?」
「リーエス」
「わたくしも大好きです」
「ユティスは歌がべらぼうに上手いもんなぁ・・・」
「そんな風におしゃられると恥ずかしいです・・・」
「本当だよ。そうだ、エルフィアの歌を一曲歌ってくれるかい?」
「歌ですか?」
「リーエス。慈愛に満ちた優しさいっぱいの歌。あるだろ?」
「リーエス・・・。んーーー。わかりました。あの歌ですね。では、まいります」
すぅ・・・。
ユティスは、大きく息を吸い込むと、ゆっくりと優しく歌いだした。
「オーレリアン・デュール・ディア・アルティアーーー・・・・」
「すごいやぁ・・・」
ゆーら、ゆら・・・。
和人は、目を閉じて、歌のリズムに合わせゆっくりと身体を揺らせた。
「・・・」
和人はそれが恋人の幸せを切に願う歌だとわかった。
「・・・」
じわーーー。
ユティスの歌が進むにつれ、和人の目から自然に涙が溢れてきた。
(あれ、オレ、どうしたんだろう・・・。涙が出てきて止まらない・・・)
ユティスは、そんな和人の頭を優しく抱きしめ、和人の頭は、ユティスの胸に埋まった。
「・・・」
さぁーーー。
さぁーーー。
「らぁーららぁーららぁーーー・・・」
ユティスは、歌いながら、子守唄のように和人の頭を優しく撫でた。
「・・・」
ぽたり。
ぽとぽと・・・。
和人は泣いていた。訳もわからずに涙が止らなくなっていた。
「ユティス・・・、ありがとう・・・」
和人の口から、自然に出た感謝の言葉に、ユティスはいっそう優しく歌った。
「らぁーららぁーららぁーーー・・・」
「・・・」
やがて、ユティスが歌い終えると、ユティスと和人は生態エネルギー場の柔らかい虹色の光に包まれた。
ぽわぁーーーん。
ぽわぁーーーん。
ゆらゆらぁーーー。
そして、二人の生態エネルギー場は交じり合い、虹色の光が波打って揺れた。
身体は触れ合ってはいないもの、和人にとって一つ布団にユティスと寝てるなんて信じれないことだった。
じんわぁ・・・。
ユティスの温もりが和人に伝わってきた。
ごろり。
和人はユティスと目を合わさないように、上を向いて話した。
(面と向かって話したら、キッスどころじゃなくなりそうだよ。でも、これ双方了解のもとにってことならいいのでは。いやいや・・・)
和人はギリギリのところで自分を押さえた。
(オレはエルフィア代表を守らないといけない立場なんだから、それが襲ってどうすんだ)
ごろ・・・。
和人は、ユティスと反対に体を向け、ユティスとは背中合わせになった。
(あーあ、ちっくしょう。こんなんじゃ、ぜんぜん眠くならないよ)
和人は、背中にユティスの体を感じて、動揺していた。
「和人さん・・・」
ユティスは少しだけ震えた声を出した。
(やばい・・・)
「あのぉ・・・」
「な、なんだい?」
「わたくし、とてもドキドキしています。和人さんと、一つのお布団の中に一緒にいて・・・」
(おいおい、ユティスったら、思いっきり意識させてくれちゃって・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
「ま、待ってよ」
「はい。よくわかっているつもりです・・・」
(な、なにをだ?)
「わたくしの気持ちも考えもすべてわかっていて、エルドはわたくしを和人さんのところへ来させてくれました。和人さん・・・」
「う、うん」
「人間は、知性がありますが、理性的というより、もともと、ぜんぜん理性的ではないのです。厳しい修行や訓練に耐え、そのように教育を受けた人だけに、その可能性があるだけです。ほんのちょっとのことで、みんな、あっというまに理性的ではなくなってしまうのです」
「な、なんのことかな・・・?」
和人はわけがわからず、ユティスにきいた。
「わたくしも例外ではありません・・・」
「えっ?」
「わたくしも、ぜんぜん理性的じゃないのです・・・」
「そ、そうなの?」
「和人さんと一緒にいる時には・・・」
「ええ?」
「もっと、もっと、甘えたいのです。手を繋いでいただきたい。キッスしていただきたい。抱き締めていただきたい。でも、でも、怖いんです・・・。それ以上のことは・・・」
(あわわわ・・・。ひょっとして、ユティス、ヴァージンってことかぁ・・・?)
「だから・・・、和人さんとは、いつも向き合っていたいです・・・」
くるり・・・。
ユティスは和人の方に体を反転させた。
(げっ、やっぱり、この姿勢はまずかったかな・・・)
ぐさり。
背中を向けた和人に、ユティスの悲しそうな声が突き刺さった。
「とっても、自制なさっているのはわかります。でも、でも、お願いです。せめて、わたくしの方を向いてくださいますか?」
「ユティス・・・」
「お背中じゃ、嫌・・・」
ユティスは声を震わせ今にも泣き出しそうだった。
「ごめん・・・」
くるり。
和人は体を反転させユティスと向き合った。
「ユティス・・・」
「和人さん・・・」
ユティスはゆっくりと笑顔に戻った。
「いや、こっちこそ、本心を言ってくれて感謝するよ」
和人はユティスの言葉で、逆に心が落ち着いてきた。
「オレも本能のかたまりさ。でも、暴走させないようにするつもりだよ。理性でそれを押さえつけるのが正しいこととは限らないけど、今日のところは他に思いつかないから・・・」
「和人さん、アルダリーム・ジェ・デーリア・・・」
「あは。大好きで、最高に可愛い女の子と同じベッドにいて、なんにもない方がおかしいよね。でもさ、ここで、きみにキッスの一つでもしちゃったら・・・。オレ、きっと怖がるきみのことなんか無視しちゃって、無理矢理、最後まで・・・。そんな風になったら、オレ、自分で自分が許せなくなる・・・」
「和人さん・・・」
「オレを押しとどめているのはね・・・、思いやりとか、理性や自制心なんかじゃないよ・」
「和人さん・・・」
「それは、恐怖なんだ。きみを傷つけ、きみに嫌われるんじゃないかっていう恐怖。オレの自分勝手な感情なんだ・・・」
にっこり。
ユティスは和人に微笑んだ。
「ナナン。そんなことありません。わたくしが和人さんを嫌うだなんて・・・、絶対に、ありません・・・」
「ユティス・・・」
和人はユティスが愛しくてしょうがなくなった。
「・・・」
それが単なる欲望以上に強くなっていった。
「和人さん。わたくし、和人さんと、いつもいつも一緒にいたいと思っていました。眠る時も・・・。けれど、いざ、こんな状況になってみると、わたくし・・・」
「怖いんだね?」
「リーエス・・・」
「オレも怖い・・・」
「和人さん・・・」
「ユティス・・・」
ひし・・・。
和人は、震えるユティスを優しくそっと抱きしめた。
「おいで、きみが眠りにつくまでこうしているよ」
「和人さん・・・」
ユティスは和人に身をまかせ、その腕の中で丸くなった。
「和人さんの腕の中、暖かい・・・。とっても安心できます」
ちゅ・・・。
ユティスは和人の腕にキスした。
ちゅ。
和人は、ユティスのダークブロンドにキスした。
さぁーーー。
さぁーーー。
そして頭を優しく撫で続けた。ユティスの控えめな芳しい香りが、和人の鼻腔をくすぐり、また、ユティスの柔らかくすべすべした暖かい感触が生々しく伝わってきて、和人は信じられないくらいの幸福感に浸った。
(やっぱり、あせるのはよそう。自然にお互いを受け入れる心になるまで)
きゅ・・・。
和人は少しだけ腕に力を入れた。
「きみを放したくない・・・」
「はい・・・」
ユティスは腕を和人に巻きつけた。ユティスの胸の感触に和人は頭がくらくらした。
「大好きだよ、ユティス・・・」
和人は、無意識にそう言った。もう、今日一日の疲れが、眠気となって襲ってきていた。
とろぉ・・・。
かくん・・・。
「ユティス・・・」
「はい・・・、和人さん・・・」
とろーーーん。
とろーーーん。
そのうち二人の声が低くなり、二人とも眠りに落ちていった。
「和人さん・・・」
「ん・・・?ユティス・・・?」
和人は眠りに落ちる寸前、ユティスの声を聞いたような気がした。
「和人さん、好きです。好きです。大好きです」
ちゅ・・・。
ユティスの唇が和人の唇にそっと触れた。
「今日はごめんなさい。そして、本当にお疲れさま。わたくしのために。アルダリーム・ジェ・デーリア(ありがとうございます)。和人さん・・・」
そして、和人は眠りに落ちていった。
惑星ケームはカテゴリー3の世界だった。超高層ビルの林立する様は、地球のいかなる都市も及ばなかった。
「あんたは、いったいだれだ?」
「エルフィアの分促進支援委員会、参事、ブレストと申します」
「トルフォから聞いている。で、わしに、なにをしろと?」
「単刀直入に申し上げると、あなたがおられるケームから、遠隔操作で、エルフィア本星の転送システムを3機、自動稼動するセッティングをしていただけないかと」
「なんでまた?」
「地球と言うカテゴリー2に成りたての世界に、エルドの末娘、ユティスがエージェントして、予備調査に仮派遣されています。ところが、その地球という世界は、とんでもないところで・・・、かくかく、しかじか・・・、という訳です」
ブレストは彼に説明した。
「ふむ。一応、筋は通っているようにはみえるが・・・。なんで3機も?しかも、その2機は、本命の8号機を自動制御するためのものだ。8号機のメンテナンスを利用して、ことを進めるというのは、いかにも、なにか臭うぞ・・・」
「ま、そういうことです。別に隠し立てしても、仕方ありませんからね。知っての通り、あなたの甥、トルフォは既に委員会の理事で、次期最高理事の座を狙っています。それには、末娘のユティスは、欠かせない存在。地球でもしものことがあれば、損失は甚大です」
「委員会にとってか、トルフォにとってか?はたまた、おまえにとってか?」
「いずれも、リーエスとお答えしましょう。ミューレスの二の舞になることだけは、絶対に回避せねばなりません」
「ユティスの身の安全確保のため・・・、そういうことか?」
「リーエス。あなたの甥のトルフォは、それを一番気にしておられます」
「トルフォ・・・。ふん。そういうことか・・・」
「ご同意は?」
「リーエス。異論はない。わたしには関係のないことだ」
「委員会は、地球の支援は次期尚早として、エルドの先急ぎを快く思っていません」
「最高理事権限の発動か?」
「そこまでは・・・。しかし、委員会は、地球の時空封鎖を遅からぬ将来、決定するでしょう」
「では、そこまで待てばよいではないか?」
「どちらが早いでしょうか?」
「委員会の決定と、地球の破滅か?」
「リーエス・・・。遅かった・・・では、後はありません」
「ふっふっふ。交渉が上手いな、ブレストとやら」
「お世辞は入りません。わたしが、望むのは・・・」
「いいだろう。トルフォは、わたしの甥に違いない。それに、その報酬とかもいらん」
「本当にいいんですか、それで?」
「くどい。手順、対象、時期、その他を教えてもらおう」
「リーエス。ありがとうございます。では、かくかくしかじか・・・」
ブレストは、トルフォの叔父に計画の詳細を話した。