130 初泊
■初泊■
ホテル・ベネチアン・ベルメールのロビーに警護官たちは和人たちを見守っていた。
「部長。あの二人、なんか、本当に、新婚夫婦みたいっすよ」
「そのふりをしてるだけだ」
「そうっすかぁ?自分らアホみたくないっすかぁ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「任務だ」
「了解・・・」
「部屋の番号は控えたか?」
「1202号室。ロイヤルスイートルームです」
「よくやった。行くぞ」
「二人の部屋にですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「バカもん。最上階の展望レストランで待機だ」
「了解」
ボーイはエレベータに二人を案内し、12階のボタンを押した。
ちーーーん。
「着きました、お客様」
ボーイは二人をエレベータから降ろすと、バゲージを引きながら部屋の前に着くと、キーでドアを開けた。
かち。
ボーイがキーを抜き、専用ホルダーに入れると、部屋に明かりがついた。
ぱーーーっ。
「まぁ、なんて、すてきなんでしょう!」
部屋はロイヤルスイートというだけあって、パンフのとおり広く、まったく豪華そのものだった。
「すごい・・・!」
和人も声を失った。
「お荷物は?」
「そこにお願いしますわ」
ユティスが指示した。
「かしこまりました。キーは・・・」
ボーイは部屋の一通りの説明を行うと、二人をバスルームに案内した。
「すばらしいですわね・・・」
「はぁ・・・。まるで、王侯貴族だよ・・・」
和人はため息をもらした。
が、問題はスイートルームのダブルベッドだった。
「こちらが、お休みになられますベッドでございます」
ボーイが大きなベッドを案内した。
「ベッドは一つしかないんだ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「まぁ・・・。とっても気持ち良さそうですわ」
ユティスはすっかり気に入った様子だった。
「ルームサービスは20番でございます」
「リーエス」
「はぁ?」
「了解ってことだよ」
「申し訳ございません。存じあげない外国語だったものですから」
--- ^_^ わっはっは! ---
「いいよ、気にしなくて、地球じゃ、マイナーな言葉だから」
--- ^_^ わっはっは! ---
「え?そ、そうですか。では、お客様、ゆっくりおくつろぎくださいませ」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「失礼いたします」
ボーイは静かにドアを閉めた。
「和人さん!」
ささーっ。
ユティスは和人に腕を回した。
「ちょっと待った!常務に連絡する時間だよ」
「リーエス・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
るるるる・・・。
「ありゃぁ・・・。常務だ。向こうからかかってきた」
「はい、常務、和人です」
「おう。どうだ?」
「無事です。だれも誘拐されてないし、破壊されてもいません」
--- ^_^ わっはっは! ---
「それはけっこう。既に、おまえたちの地球上の位置は、GPSで確認してある。そこはテーマパークだろ?」
「はぁ。そうです。それで、相談なんですけど・・・」
「なんだ?」
「今晩の宿なんですけど、セキュリティは抜群にいいんですが、ホテル・ベネチアン・ベルメールのロイヤルスイートしか取れなくて・・・」
「ベネチアン・ベルメール?一流ホテルだろうな?国賓を二流には泊めるなよ」
「はい。でも・・・、ここ、少し高いいんですが、よかったんでしょうか?」
「俊介?」
「あっ、ちょっと待て、和人・・・」
「なんだよ、姉貴?」
「今、和人、ベネチアン・ベルメールのロイヤルスイートって言わなかった?」
「そうかぁ?」
「OKするの?」
「当たり前じゃないか。一流ホテル、セキュリティは抜群だぞ。和人の話では・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そりゃ、そうでしょうよ」
「知ってるのか?」
「ええ。名前くらいはね。で?」
「エルフィアの全権大使に、チンケな部屋に泊めさせるわけにいくか!」
「あっ、そう。でも、そこ、とっても高いわよ。目が回るくらい」
「そんなに高いんじゃ、見晴らしもいいんだろうなぁ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「えぇ?」
「お、待たせたな、和人。で、その部屋は何階だ?」
「12階です」
「そのホテルで一番上か?」
「13階は、展望レストランですから、泊まれる部屋としては、そうです」
「姉貴のヤツ、高いっていうから、40階かそこらかと思ったぜ。なんだ、大したことないじゃないか」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あのぉ、常務、勘違いしてませんか・・・?」
「なにをだ?」
「部屋が高いんです。ホントに高いんですよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わかってる。わかってる。階が低くてもセキュリティが高けりゃいい。よし。そこに泊まってもいいぞ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「じゃ、泊まっちゃいますよ?」
「ああ、好きにしろ。但し、領収書は、必ずもらっとけよ」
「はい」
「で、部屋はキレイか?」
「そりゃ、もう、言うことなしです。ただ、やたら大きなベッドが・・・」
「それで?」
「一つしかないんですよ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そっかぁ!わははは!寝不足にならんようにな、和人!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「常務!」
「わかった、わかった、よろしくやれよ!」
国分寺にはからかわれただけだった。
警護官の二人は、ホテルでの警護の打ち合わせをしていた。
「いいか、われわれは、これから3時間交代で二人の夜間警護に就く」
「了解」
「おまえが最初に寝ろ。2時に起こす。すぐに駐車場の車に戻れ」
「了解」
「部長は?」
「オレは13階で、二人の様子を見守る」
「了解」
ぽんっ。
「ほら、持って行け」
「サンドイッチじゃないっすか?」
「さっきの余りを包んでもらった」
じーーーんっ。
「部長・・・」
「任務だ」
--- ^_^ わっはっは! ---
じゃーーー。
きゅっ。
バスタブに湯を張り、和人はユティスを先に使わせようとした。
「バスルーム、ユティスが、先に使いなよ」
「・・・」
「どうしたの?」
「ご一緒にではないのですか・・・?」
(い、一緒に、入るつもりなのか、ユティス?)
--- ^_^ わっはっは! ---
「ダメ、ダメ、ダメ!だぁーーーめ。きみが先」
ぶるぶるっ・・・。
和人は自分の迷いを振り切るように、首を横に振りながら言った。
「きみは、地球人がカテゴリー1を、たかだか昨日卒業したということを忘れている!」
「どこから卒業証書を昨日いただいたんですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ん、もう。だから、地球人は野蛮人だってこと!」
「和人さんもですか・・・?」
「そうだよ。いつだって、本能が・・・」
ユティスは少し残念そうな悲しそうな目をした。
「地球では、お風呂には皆さんいつも一人で入るのですか?」
「そりゃ、独身者はそうさ。女性は特にね。日本の伝統的な温泉は別として」
--- ^_^ わっはっは! ---
「エルフィアは少し違います」
「どう違うの?」
「しばしば、一緒に入りますわ。家族とか、お友達とか、恋人とか・・・」
「男女混浴かい?」
「リーエス。変でしょうか?」
どっかーーーん。
--- ^_^ わっはっは! ---
和人の理性は吹っ飛びそうになった。
「きみも、しょっちゅう、そうしてるってこと?」
「小さい時にはそうでしたが、大きくなってからは・・・」
「お父さんとか兄弟じゃ、ないだろうね?」
「ナナン・・・。わたくしが、そうしたいと思うのは、和人さんだけです・・・」
(冗談じゃない。今、一緒に入ったりしたら、責任取れなくなるぞ。ユティスは、エルフィア政府の代表だ。粗相して、星間戦争にしてたまるか。正義感。正義感)
--- ^_^ わっはっは! ---
「そんなこと言ったって、ダメはダメ!」
「そうですか・・・」
かちっ。
ユティスは、少し哀しげな声で了解すると、バスルームの脱衣室のドアを閉めた。
「ふぅ・・・」
(なにを言い出すかと思えば・・・)
和人はやっとのことで誘惑を振り切った。
(テレビでも見てなきゃ、ユティスの湯浴み姿想像しちゃいそうだ)
ぷちっ。
「本日の最後のニュースアワーです・・・。本日、午後9時に臨時閣僚会議が開かれ、日本の未来を担う最新技術についての推進会議体を、内閣府に設置することが、話し合われました」
そこには、大田原太郎が映っていた。
(げげ・・・。あれは、大田原さんだぞ・・・)
「これは、従来のテクノロジーとは直接繋がらない、いわばジャンプアップしたテクノロジーを推進するためのものです。具体的には、ダークエネルギーを利用した超時空通信ならびに移動、精神感応制御機構、重力発電及び重力推進機関、そして、生体エネルギー変換、高次元・・・、云々・・・」
(どういうことだ?大田原さん、エルフィアのテクノロジーのことをしゃべってる・・・。ユティスが現れたことと、なにか関係しているんだろうか・・・?)
「しかるに、わが国においては、この最先端テクノロジーは、経済戦略的にも、世界に先駆け政府主導にてすべきことと、位置づけらるわけです」
「はぁ・・・」
(キャスター、ぜんぜん理解してそうにないな・・・)
神妙な顔をしてはいるが、その実、大田原の言葉をさっぱり理解していない
ニュースキャスターに、和人は同情した。
(可哀想に・・・)
「なるほど。それで、今回の発表は異例の公式発表ということですが、随分サイエンス・フィクションっぽいんですが、本当に実現可能なんでしょうか?」
「いいご質問です。ここ、数年というスパンで見ると、現在の地球科学では不可能です。しかし、十年単位で見るなら、その一部、基礎テクノロジーくらいは実現する可能性は大いにあります。重力加速度を利用した発電だけをとっても、もし、実現すらなら、化石燃料や原子力エネルギーに代わる、無公害エネルギーの大革命になります」
「わかりました。それで、他の国々との関係は?」
「日本は、平和目的の利用以外、諸外国との交渉は一切持つつもりはありません」
「では兵器への応用は一切ないと・・・」
「無論です」
「では、ヘッドライン。次の話題です。今日、午後7時過ぎ、都内高速環状Dにて、車5台による玉突き衝突があり・・・」
(大田原さん・・・、先手を取って、動いたんだ・・・)
じーーーん。
和人は胸が痛くなった。
ばん!
(しかし、ユティスのことが頭から離れないぞ。ちっくしょう!)
--- ^_^ わっはっは! ---
和人はTVのニュースを見て気を落ち着けようとするが、隣ではユティスが湯浴みをしているかと思うと、テレビどころではなく、心中穏やかではなかった。
「だーーーっ!」
(ダメだよ。あんなこと言われちゃ、気になってしょうがないじゃないか。今からでも遅くないよなぁ。やっぱり、一緒に入ってもいいよって言おうかな・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
しかし、時は無常にも確実に進んでいった。
ちくたくちくたく・・・。
がたっ。
浴室からユティスが出てくる音がした。
ぱさっ。
「あぁ、とっとてもいい湯加減でしたわ」
バスタオルを巻いただけのユティスが戻ってくると、和人は真っ赤になった。
「ちょと、ユティス、服、服!」
「リーエス。身体をすっかり乾かしてから着ますわ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「今、着てよ。パジャマでもネグリジェでもなんでもいいから」
「うふ。お気に召しませんか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「召す。召す。召しすぎるの!」
「あ。これは・・・」
ユティスはバスローブを見つけた。
「それ、それ。バスローブでもなんでもいいから、すぐ身に着けてよ」
「リーエス・・・」
「いつまでも、そんな格好してたら、オレ、責任持てない」
「和人さん、どうかしたのですか・・・?」
「なんでもないよ。次、オレの番ね」
あわてて、和人はバスルームに飛び込んでいった。
--- ^_^ わっはっは! ---
ぴっ。
「三蔵だ」
「こちら弁慶。どうだ?」
「宿に入ってからというもの、『かぐや姫』に主だった動きはありません」
「時間も時間だからな」
「後、2時間で部下と交代します」
「うむ。きみたちも、きついだろうが、頑張って欲しい」
「了解。任務ですから」
「次は、朝、6時でいい。何事もなければな」
「何事もありません。ここは、12階ではありませんから」
「ん?」
--- ^_^ わっはっは! ---
がらっ。
和人がバス上がると、すぐにバスローブをまとった。
「ふぅ、やっと、落ち着いたよ」
ユティスはテレビを見ていた。
「あ、ユティス。テレビを見てたのか・・・」
(げげげーーーっ・・・)
テレビの番組は、今にも濃厚なキスシーンが始まりそうな、ラブロマンスだった。
「ええーーーっ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
(これは絶対にワナに違いない。オレとユティスをそそのかして得するヤツのワナだ。そう勝手に解釈でもしないと、大変なことになるぞぉ・・・)
ぷちゃんっ。
(そうだ、エルドは、アンデフロル・デュメーラ経由で、オレたちをリアルタイム・モニタしてんだからな。変なことなんか絶対できないんだ。5400万光年先から監視されてるんだぞ。しっかり、頭に刻んでおけ、和人ぉ!)
--- ^_^ わっはっは! ---
「ナナン。コンタクティー・カズト。プライベートタイムまでモニターはしてません。エージェント・ユティスの要請を受けております」
突然、和人の思考にアンデフロル・デュメーラが割り込んできた。
「あわわわ・・・。アンデフロル・デュメーラ、聞いてたの?」
「リーエス」
「和人さん、とっても大きなお声でしたわ。和人さんとわたくしには、ハイパーラインがありますもの。お忘れですか?」
ユティスが寄ってきた。
「アンデフロル・デュメーラとエルドへの通信は、切ってるってこと?」
「はい」
「リーエス。そのとおりです、コンタクティー・カズト」
「うわぁ、アンデフロル・デュメーラ、切れてなんかないじゃないか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「うふふ。わたくしが、アンデフロル・デュメーラにお願いしてますの」
「ご不満でしょうか。コンタクティー・カズト?」
「ない。ない。ないよ。まったく、ない」
「うふ。和人さん。お上がりになるのを、お待ちしていますわ」
にこ。
ユティスは笑顔になった。
「あ、はい・・・」
(やばいぞ。それに、浴衣の下。ユティス、なんにも着けてなかったりして。ど、どうしよう・・・)
「和人さん・・・」
ぷちっ。
ユティスは和人が戻ってくるとTVを消した。二人はキングサイズのダブルベッドの上に並んで座った。
すぅ・・・。
ユティスが少しだけ和人に身を近づけた。
ささっ。
和人は思わず緊張し身を引いた。
--- ^_^ わっはっは! ---
(とにかく会話しなければ・・・)
和人はあわてた。和人は二人の置かれた立場を理性的に正当化しようとするが、いくら理屈を考えても上の空だった。
「そうだ、いっぱい話すことがあったよね?」
「リーエス。なにからお話しますか?」
「じゃ、家族。そう、家族のことを教えてよ、ユティス」
「リーエス。わたくしには両親と姉が2人います」
「・・・」
「・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あの・・・、それで、おしまい・・・?」
「リーエス。和人さんは?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「オレは、両親と姉が一人に、妹が一人・・・」
「素晴らしく理想的な家族ですわぁ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あの、それで、中身なにも言ってないんだけど・・・。きみからもなんにも聞いてないし・・・」
「では、わたくしの家族について、なにがお知りになりたいですか?」
「そう、いきなり言われてもなぁ・・・」
「うふふ。わたくしと3人の姉は少し歳が離れてるんです。それで、わたくしが幼い頃には、みんな、うちを離れていて、毎日は会えなかったんです。ですから、わたくしは一人っ子のような感じでした。でも、アンニフィルドとクリステアという、歳が近くてとても仲の良いお友達がいたので、寂しくなんかはありませんでしたわ。よく、みんなで一緒にお泊りして遊びましたわ」
「ふうん、そうなんだ・・・」
「和人さんは、幼い頃はいかがでした?」
「よく覚えてないなぁ・・・。勉強はあまりできなかったし、スポーツもできる方じゃなかった。ただ、中学校からポピュラー音楽に興味持ってね、ギターもどきを自分で作ったりして、弾いてたなぁ・・・」
「まぁ、すてき。その頃から、歌われていたんですね?」
「歌うって言うより、叫んでいたって方が当たってるね。あはは」
「うふふ」
和人は、ユティスと風呂上り、お互い下着一枚に夜着という状況を忘れようと必死だった。ベッドはキングサイズが一つあるだけだった。