128 出張
■出張■
大田原の指示で、和人とユティスの乗った車は、後ろから警備の車に守られていた。
「おい、移動を始めたぞ」
「了解。追尾します」
ぶろろろ・・・。
和人のスマホのGPSは、私服警護官たちによってモニタされていた。
ぴっ、ぴっ、ぴっ・・・。
「車3台後方を保て」
「了解」
ぴっ。
「はい。こちら弁慶」
--- ^_^ わっはっは! ---
「三蔵だ。かぐや姫は、大丈夫か?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「異常ありません。現在地、高速環状Dの入り口付近」
「了解。20分後、また連絡してくれ」
「了解」
ぴっ。
「しかし、なぜ、カップルの後を追っかけなければならないんすかねぇ?」
「任務だ」
「というより、ノゾキって感じなんすけど?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「任務だ。右折するぞ」
「了解」
かち、かち、かち・・・。
「このまま、高速D環状に入る様子です」
「距離を保て」
「了解」
「エージェント・ユティス?」
「リーエス。なんでしょう、アンデフロル・デュメーラ?」
地球上空32000キロに、ステルス待機中のエストロ5級母船のCPUの擬似精神体が車の後部座席に現れた。
「お二人の後を2台分離れて、ずっと後をつけてくる車があります」
「どのような感じでしょう?」
「男性が二人。ぱっとはしない感じです・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「目つきは鋭いですが・・・」
「大田原さんが手配したという、日本の警察の方ではありませんか?」
ユティスが確認を求めた。
「思考をキャッチしました。敵意はありません」
「リーエス。わたくしも感じます」
「どうしたの、ユティス?」
和人が助手席をちらりと見た。
「どうやら、地球政府の警護の方たちみたいです」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あ・・・、正確には日本政府なんだけど・・・」
「うふ。そうとも言いますわね」
--- ^_^ わっはっは! ---
「一応、マークはしてくれてんだ」
「アンデフロル・デュメーラ、そういう訳です。ご安心ください」
「リーエス。エージェント・ユティス。わたしは引き続きお二人をウォッチいたします。なにか変化が現れましたら、すぐにお知らせします」
「アルダリーム・ジェ・デーリア、アンデフロル・デュメーラ」
「パジューレ、エージェント・ユティス」
和人たちは早速テーマパークに行った。その後ろから着いてきていた警護官たちは、落ち着かない様子でカーパークのカップルや家族連れを見た。
「部長、ホントに、自分らここに入るんですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「任務だ」
「自分ら、おっさん、二人ですよぉ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「任務だ」
「しょうがないか・・・」
きーっ。
ぴちぴちの黄色いTシャツとホットパンツ姿の健康的な若い美女が、チケットをひらひらさせて、運転席に来た。
ぽよぉーーーん。
「あ・・・」
「うふふ」
どっきん・・・。
「はい、こんにちは。普通車3000円です」
「3000円?」
(高っあ・・・!)
「大型車で入りますか?」
にっこり。
駐車場の若い女性は微笑んだ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「え、いや・・・、そういうわけじゃ・・・」
ぴっ。
ゲートの表示は、大型車5000円に変った。
「どわっ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「では5000円いただきます」
「いや、普通車でけっこうです!」
「3000円で納得していただけると思っていました。うふふ」
--- ^_^ わっはっは! ---
じじじっ。
ぴっ。
若い女性は微笑むと、領収書を渡した。
「はい。毎度、ありがとうございます」
若い女性のホットパンツからは長い足と太ももが、ぴっちりしたシャツからは胸が、はち切れんばかりに覗いていた。
「1分も眺めれないのに、3000円っすかぁ・・・?」
「任務だ」
--- ^_^ わっはっは! ---
ききーーーっ。
二人の後ろに次の車がやってき、警護官たちはバックミラー越しにその様子を眺めた。
「はい、いらっしゃいませ。普通車の一日駐車料金は3000円です」
「ええ、随分高いんですね?」
「大型車で入りますか?」
「はいっ?」
ぴっ。
「げげ・・・。5、5000円?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「はい。領収書用意しますね」
「ち、ちょっと待った。普通車でいいよぉ!」
「はい。毎度ありがとうございます。3000円で納得いただけると思ってました。うふふ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「部長、あれ、脅し商法じゃないすかぁ?」
「別に脅してはおらんだろ?価格の正当性を比較表現しているに過ぎん。大方歩合給なんじゃないか。それに、付帯サービスもついていただろ?」
「付帯サービス・・・?」
「ほれ、シャツのあたり、ホットパンツのあたり・・・」
「そうっすね・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
ぴっ。
「はい。こちら三蔵」
部長に業務連絡が入り、彼はすぐに真顔に戻った。
--- ^_^ わっはっは! ---
「弁慶だ。様子は?」
「テーマパークに入りました。駐車場で『かぐや姫』を追尾継続中」
「了解」
「・・・」
本署からの連絡がいきなり沈黙した。
「ん?。テーマパーク?」
「そうです」
「おまえら二人でそこに入ったのか?」
「任務です」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わっはっは!失礼。また連絡されたし」
「了解」
ぴっ。
和人とユティスはテーマパークに入って、最初のアトラクションに向かった。
「ここは?」
「民族人形館さ。地球のいろんなところの人々の人形が、それぞれの民族衣装をまとって、一緒になって平和の歌を歌ってるんだ。きみのミッションにも通じるテーマだし、地球のいろんな地域の人たちの様子がパノラマ展示されてるって感じかな。それに、人形たちがとっても可愛いくてさ。きっと、ユティスは気に入ると思うよ」
「リーエス。わくわくしますわ!」
「このテーマパークはいつもひどく混んでて、まともにアトラクションを楽しめないんだ。ひどいのになると、2、3時間待ちってのもあるし。でも、これは、ここで一番無難なところさ。ほとんど待ち時間もないし」
「リーエス。和人さんにおまかせいたしますわ」
「しっかし、どこもかしこもカップルだらけだね。でなきゃ家族連れ」
「そうですねぇ・・・」
きょろきょろ・・・。
「よかった、ユティスと一緒で」
「まぁ・・・」
「絶対、男同士で来るところじゃないよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ふふふ。でも、お帰りの時は違うかもしれませんわ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「それもそうだね。双子の子連れになってたりして」
「まぁ、大変!」
--- ^_^ わっはっは! ---
警護官の部下の方は、読唇術で和人たちの会話をモニターしていた。
「悪かったな、おっさん二人で!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「こちとら、あんたらのお守り役なんだよぉ!」
「任務だ。ひがむな」
「了解っす」
「また歩き始めたぞ。行くぞ」
「了解」
すたすたすた・・・。
「まいったなぁ・・・。見渡す限り、カップルだらけって感じだね?」
「ふふふ。わたくしたちも、例外ではありませんわよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「うん。助かった・・・、きみが側にいてくれて・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「じゃ、行きましょ。和人さん!」
ぴとっ。
ユティスは和人の左腕にしがみついた。
「うわっと」
和人はおっかなびっくりでユティスを見た。
「だーーーめ。ちゃんと恋人同士に見えるようにしましょ!」
「恋人って・・・」
しゅん・・・。
ユティスはわざと悲しそうにした。
--- ^_^ わっはっは! ---
「嫌なんですか、わたくしとでは?」
「と、とんでもない。女神さま・・・」
「うふふふ・・・」
いちゃら、いちゃら・・・。
むっかぁ・・・。
「あ、あいつら・・・」
警護の部下が部長を振り返った。
(あーーー、情けない・・・)
「部長。あの二人ずっとこの調子なんすかねぇ?」
「平和でいいじゃないか」
--- ^_^ わっはっは! ---
「しかしですねぇ。自分、独身っすよぉ・・・」
「独身だからといって、彼女がいないのはおまえの勝手だ。早く作れよな、彼女。オレには女房子供がいる」
--- ^_^ わっはっは! ---
「んあ、殺生なぁ、部長ぉ・・・!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「任務だ」
「でも・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「任務だ。やくざの抗争現場と、どっちがいい?」
「どっちも嫌っす・・・」
「じゃ、クビだな。辞表用意しとけよぉ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「行きますよ。行きますったら!」
「おまえはものわかりいいヤツだな。と警視総監に言っておくよ」
「とほほほ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ホー、ホッホッホ!」
「きゃ!」
また、突然後ろから肩を叩くマンガのキャラにユティスは驚いた。
「あはは、ユティス!」
「もう、和人さんったら、ひどいですわ、笑ったりして!」
二人はキャラたちと大いに楽しんだ。
「どう、地球の文明がどんなものかわかる?」
「リーエス。こういった遊ぶところは、みんなが楽しめるよう、その世界のテクノロジーがふんだんに使われています。ここでもそうですわ。施設の駆動・照明・音響システム、来場者の管理システム、アトラクションの待ち具合の管理システム、それに、会場の係りの方の連絡システム。どれをとっても、地球の最先端テクノロジーが使われています」
「そうだね。テクノロジーをこういう風な平和利用ばかりだったらいいのにね・・・」
「リーエス。立体映像システムも素晴らしかったです。わたくしたちの空中スクリーンは、時空のある一定距離と範囲で映像を結ばせるものなので、地球の3D映像システムとは方式がまったく異なりますが、それに近いものをここでは見せていただきましたわ」
「それもこれも、みんなコンピューターが発達したからなんだ」
「リーエス。その発明が地球の文明推進を加速させているのですわ」
「さ、こっちはどうかな?」
和人はユティスをゴーカートに案内した。
ばっばっばっば・・・。
ゴーカートが何台もうなりを上げている。
「まぁ、なんて小さな車ですこと・・・」
ユティスはゴーカートに見とれた。
「それに大きな音・・・。怖いです・・・」
「あは。大丈夫だよ。事故なんか起きないように設計されてるから」
「そうですか・・・」
ばっばっばっば・・・。
ユティスは、唸りを上げて目の前を過ぎ去っていくゴーカートを目を大きく開いて見つめた。
「これはね、ゴーカートといって車を極度に簡易化したものだんだ。だけど、ホントの車と同じく、エンジンもあるし、アクセルもブレーキもある。このコース自分でドライブできるんだよ。試してみるかい?」
「リーエス!」
「じゃ、先に、きみが乗ってごらん。オレはすぐ後ろからいくから」
「リーエス」
ユティスの番がきて、係員がゴーカートの乗り方を説明した。
「いいですか、ここがアクセル。踏み込むとエンジンの回転数とパワーが上がって車が進みます。ブレーキはここ。これを踏むと、車が減速し、やがて止まります。カーブや他の車とぶつかりそうになる時には、ブレーキを踏んでください」
「リーエス」
「じゃ、発進させてください」
「リーエス」
ばっばっばっば・・・。
ユティスの車は前に進み出した。
「うわぁーーー、和人さん、走ってます!」
「あははは、その調子、その調子!うまいじゃないか、ユティス!」
和人も自分のカートを発進させ、ユティスの斜め後ろに着いた。
「きゃあ!」
ユティスはハンドル加減がわからず、和人の目の前を右往左往した。
ばっばっばっば・・・。
ぼっかぁーーーん。
「きゃあ!きゃあーーー!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あははは!危ないよぉ、ユティス!」
ばっばっばっば・・・。
「うわぁ、ぶつかる。ぶつかるぅ!」
ぼっかあーーーん。
和人はわざとユティスノカートに接触した。
「きゃあ!」
「カズトさん、ひどいです!助けてください!きゃあ・・・!」
「あははは」
「大丈夫、ブレーキを踏んでごらん」
「リーエス!」
ききーーーつ。
ユティスのカートはすぐに止まった。
「はぁ、はぁ・・・」
ユティスは大きく肩で息をしたが、すぐに笑顔になった。
にっこり。
「ゴーカート、とっても面白いです!」
「あはは。そうだろ?回りもきゃっきゃ言ってるし」
「きゃあ!きゃあ!」
「わはははは!」
ユティスが見ると、確かに回りも大騒ぎだった。
「よし、ユティス、再発進だよ」
「リーエス!」
ばっばっばっば・・・。
和人たちはカートを再び発進させた。
曲がりくねった長いコースをやっとのことで元に戻ったユティスは、カートから降りるなり、和人の手を握った。
「うふふふ。和人さん、次。次。次ぎです。次に行きましょう?」
「あはは。楽しいかい?」
「リーエス!車でぶつけた時のショックが快感ですわぁ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あ、危ない性格なんだね、ユティス・・・」
「うふふふふ。和人さんにぶつかるのは大好きです」
「ちょっと、待ってよぉ!」
「えい!」
とん・・。
ぎゅっ。
ユティスは、和人にそっと寄り添うようにぶつかって、そのまま手を握った。
「ぶつけてしまいました・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あは。こういう事故なら、毎日でも・・・。えへ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
次に、二人は大きな外輪船に乗った。
「これは?」
「200年前くらいの船を再現したもので、船の後ろにある大きな水車みたいなもので前に進むんだ。当時は蒸気の力で動いたんだよ」
「ステキ・・・。ゆったりしていて、わたくし好きですわ・・・」
ユティスの顔に船の進む方から空気がそよ風となって吹いてきた。
ゆらぁーーーり。
ほわん・・・。
ユティスの長いダークブロンドのポニーテールがゆっくりと揺られ、なんとも女の子らしい甘い香りが漂ってきた。
「ユ、ユティス・・・」
くらくらぁ・・・。
「あ、和人さん・・・?」
「だ、大丈夫、きみに見とれてただけだから・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「まぁ・・・!」
にっこり。
ぴとぉ。
ユティスは和人の側に寄り添った。
その後、二人は蒸気機関車にも乗り、ジャングルクルージングにも参加した。
「そろそろ、お腹が空いたね?」
「リーエス。どこかお食事できるところがあるんですか?」
「うん。あるにはあるんだけど、どこも混んじゃって・・・」
「わたくしはどこでもけっこうです」
「でも、お肉のない料理じゃないとダメなんだろ?」
「基本はそうですけれど、他に選択肢がないのでしたら、それでもかまいませんわ」
「わかったよ。じゃ、あそこにしよう」
「リーエス」
二人が入ったレストランはイタリア料理のカフェだった。席が空くまで列ができていて、二人の前には5組くらいの待ちがあった。
「お席に着くまでにお料理を承ります。メニューをお渡ししますので、お選びくださいね?」
にこにこ・・・。
レストランの店員は笑顔で、ユティスにメニュー冊子渡した。
「まぁ・・・。ステキな彼女だこと・・・」
にこっ。
店員はユティスの美しさと可憐さにびっくりした。
「ありがとうございます」
ぺこり。
ユティスは丁寧に礼をした。
「えへ・・・」
「どうされました、和人さん?」
「ユティスと一緒にここでいるなんて、いいなぁ、と思って・・・」
「まぁ・・・」
ぽっ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「さぁ、どれがいいでしょうねぇ?」
二人はメニューを見ながら話し合った。
「うーーーと、お肉のないものと・・・。あ、これ、モッツアレラチーズとトマトのサラダ、そしてきのこのクリームパスタ。これなら、乳製品だし、お肉は入ってないよ」
「リーエス。それにしてくだいさい」
「うん」
「和人さんは?」
「オ、オレはきみと同じでいいよ。後は飲み物だね」
「リーエス。わたくしは紅茶でけっこうですわ」
「じゃ、オレも紅茶。お水ももらおうよ。ペロエのスパークリングでいいかな?」
「リーエス」
「えーと、これで全部でいいんだっけぇ・・・?デザートのフルーツとかスイートとかは欲しくないのかい?」
じぃ・・・。
ユティスはじっと和人を見つめると、幸せそうに微笑みかけた。
にこっ・・・。
「リーエス・・・。後は、和人さんの笑顔で十分です・・・」
ぽっ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あは・・・。あははは・・・」
「部長ぉ・・・、イタリアン・カフェに入るんすっかぁ?」
「任務だ・・・、が・・・」
(随分と並んどるなぁ・・・)
店に並んだ行列を見て、部長は意見を翻した。
「もとい。外に待機」
--- ^_^ わっはっは! ---
「へぇ?」
ぐうぅ・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
「部長、自分ら6時間なんもなしっすよぉ・・・」
「わかった、ファーストフードでも買ってこい」
ささっ。
部長は千円札を部下に渡した。
ぴらっ。
「足りますかねぇ・・・?」
「足りるさ。それはオレの分。おまえの分はおまえが払う」
「・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ぶちぶち・・・」
「なんか言ったか?」
「いいえ。買ってきまぁす・・・」
「おう。賊に襲われんようにな」
--- ^_^ わっはっは! ---
和人たちが席につくと、数分もしない内にメニューがテーブルに並んだ。
「事前にオーダーを取ってたからだね?」
「リーエス。お客様をなるべくお待たせしないというのは、とても立派なお心がけですわ」
「うん。入るのに待たされて、料理が来るまで待たされて、なんてえらく興冷めだもんね」
「リーエス。では、いただきます」
ユティスは両手を胸の前で合わせ、小さくお祈りの言葉をつぶやいた。
「美味しいです」
にこっ。
ユティスは上手にフォークを使いパスタを一口にした。
「ホントだね」
和人も頷いた。
イタリアン・カフェで食事した後、ここのテーマパーク最大の楽しみ、夜のイルミネーション・パレードが待っていた。