126 入社
■入社■
株式会社セレアムの朝礼は、挨拶の後、一人の女性社員の紹介から始まった。
ちょん・・・。
「茂木、ちょっと、あれ、だれ?」
岡本が茂木を突っついた。
「知るわけないじゃん。わたしだって今日初めて紹介されるんだから」
「また、俊介の気まぐれかしら?」
「超可愛いじゃん・・・」
「どこで拾ったのかしら?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「金座あたりのお持ち帰りだったりして・・・」
「あは。八本木かもよぉ?」
「うふ。どのみち、よぉーーーく、こんな可愛い娘見つけたわよねぇ?」
「ホント」
「あおの、岡本さん・・・」
「なに、石橋?」
「あの方、外国の超VIPの方じゃないんですか?」
「外国の超VIP?」
「はい・・・」
「石橋、あなたなにか知ってるの?」
「ええ。依然真紀さんがおしゃってたんですが、うちの会社で超VIPを預かることになるって・・・」
「ホント?」
「はい。なんでも、和人さんがその日本での世話役係に任命されたとかで・・・。あっ!」
「なによ?もしかして、政府の超機密事項だったりしてぇ・・・?」
「わたし・・・」
茂木と岡本は二人で石橋を挟んだ。
「詳しく話しなさいよ。どうせ言いかけたんでしょ?
「そうよ、石橋。途中で止めちゃうなんて、身体に毒よ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「い、いえ・・・。あ、真紀さんのお話し始まります!」
「さぁ、みんな、ちょっと聞いてくれない?」
ざわざわ・・・。
ぞろぞろ・・・。
事務所にいる全員が、真紀の周りに集まった。
「えーーー、みんな、今日は新人さんを紹介することになりました。こういう時期だから、新卒さんではありません。加えて、日本国籍取得申請中ということもあって、生粋の日本人でもありません。しかし、日本語は達者ですから、みなさんとのコミュニケーションにはなんら問題ないと思うわ。じゃあ、紹介するわね。ユティス・・・、あれ?なんだっったっけ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あははは」
「ふふふふ」
「きゃははは」
「なぁに、真紀、ひどいんじゃない?」
「あれ、ユティスじゃないか、うちに入ることになったんだ?」
二宮がユティスに手を振った。
「まぁ、二宮さん・・・」
「お、もう、彼女を二宮知ってるの?」
「イザベルに言いつけちゃうわよぉ」
わいわい・・・。
がやがや・・・。
「しーーーぃ!みなのもの、静まれ!静まれ!」
二宮が武士言葉で始めた。
「ここにおわす方をどなたと心得る。恐れ多くも先の・・・」
ぽかりっ。
「痛・・・」
「止めろ、二宮!ややこしい話が益々ややこしくなる!」
俊介が二宮の頭に拳骨を落とした。
--- ^_^ わっはっは! ---
「はい、はい、はい、そこぉ!そこの二人!」
真紀が二宮と俊介を指差した。
「へ、オレもかい?」
--- ^_^ わっはっは! ---
俊介が不満そうな顔になった。
「うるさいわね。ちゃんと最後まで聞きなさい!」
「うーす」
「ちぇ・・・」
「ごめんね、ユティス。じゃあ、まずは自分で名乗ってくれる?」
「はい」
にっこり。
真紀が紹介した若い女性は、身長が170センチはあるけっこうスタイル抜群の美女だった。
「わたくし、ユティスと申します。エルフィアからやってまいりました。フルネームは少し長いんですけれど、一応、申し上げます」
彼女は、スーパーロングのダークブロンドを頭の後ろで束ね、ポニーテールにしていた。
「フルネームは、ユティス・アマリア・エルド・アンティリア・ベネルディンと申します」
「うぁ、長ぁ・・・」
「さすがヨーロッパ人」
事務所の人間たちが勝手なコメントを小声で始めた。
「普段は、和人さんがお呼びになってるとうり、『ユティス』でけっこうです。セレアムのみなさん、お見知りおきください」
にこ。
そう言うと、彼女はえもいわれぬ優しい笑顔になり、一同を見渡した。
「か、可愛い・・・」
「すっごくキレイ・・・」
「わぁお、スタイルいい」
「モデルかと思っちゃった」
「ステキな声・・・。羨ましい・・・」
とにかく、ユティスは、最初の一言で事務所の女性たちを、たちまち虜にした。
「うわぉ、ホントに日本語上手だわぁ・・・」
「ねぇ、ねぇ、どこで習ったの?」
「あ、はい地球に精神体で来た時に、和人さんから少しずつ・・・」
「地球?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「精神体って、なんおことぉ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あのぉ、それは・・・」
ぱん、ぱん、ぱん!
「こらっ、まず、ユティスの挨拶聞きなさいってば!」
真紀がみんなを諌めた。
「はぁーーーい」
「で、挨拶続けてくれる、ユティス?」
「はい」
ユティスは
自己紹介を続けた。
「地球へは・・・」
「ユティス!」
「あ・・・、いえ、日本へは・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「地球、いえ、日本の文明促進支援の予備調査でまいりました。こちらの窓口は和人さんにお願いいただいております。ここ、セレアムでは、広報や宣伝、営業のお手伝いさせていただきます。また、技術的なことも担当いたしますので、今後とも何卒よろしくお願い申しあげます」
ユティスは、若干の問題はあるもの、まずまずソツのない自己紹介を終えた。
「質問・・・?」
茂木がユティスに手を挙げた。
「はい、茂木さん、パジューレ」
「パジューレ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あら、失礼いたしました。どうぞ、ご質問なさって・・・」
「あ、はい。エルフィアってどこにあるんですか?」
「ど、どこに・・・、ですか?」
「うん!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ずっと遠くです」
「ずっと遠くなの?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス。いえ、はい」
「リーエス?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「はい。ですから、遠くなんです、とにかく・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ヨーロッパなの?」
「もう少し遠くなんですが・・・、困りましたわ・・・」
ユティスは和人を見た。
「あー、ユティスは遠い外国の住人なんですよ。理由があって、どの国かを明らかにできません。その国と日本との二国間協定に基づき、ユティスは日本にやって来たんですよ。それで、オレ、宇都宮和人が、ユティスの世話役に任命されて・・・」
和人の説明は半分で遮られた。
「ちょおーーーと、待ったぁ!」
茂木が不満たらたらに和人を制した。
「和人、なんで、あなたがしゃしゃり出てくるのよぉ?」
「そうだ、そうだ!なぜ、あんたが口を挟むの?」
「理解できないんだから・・・」
「どうしてなんですか、和人さん・・・?」
最後に石橋が言った言葉には、表面以上の意味以上のものがあった。
ぱん、ぱん、ぱん!
真紀が大きく手を打ち叫んだ。
「はい、はい。質問はそこまで!ユティスの紹介が終わらないわ。詳細の疑問は個人的に後でして。今は、ユティスの紹介だけ。わかったぁ?」
「はぁーーーい」
「うっす」
「それで、どこまでいったっけ?」
「ユティスがエルフィアから来たってところだよ、真紀」
岡本が真紀に思い出させた。
「そ、そうよね。次、進めてくれる、ユティス?」
「はい」
にこ。
ユティスは天使のような微笑をした。
「和人、ユティスのボロが出そうになったら、ちゃんとフォロー入れろよ」
俊介が、和人に小声で指示した。
「もちろん、そのつもりです・・・」
そんな自身なさそうな和人に、俊介は心配になった。
「エルフィアと日本は友好関係にあります。そういうわけで、お世話になりますので、みなさん、よろしくお願いいたします」
「よろしく、ユティス・・・」
ぱちぱちぱち・・・。
その間、石橋は氷河期に迷い込んだ子猫のように、心が冷え切り、振るえが止まらなかった。
ぶるぶるっ。
(ユティス、ユティスさん・・・。彼女がユティスさんなんだ・・・。幽霊なんかじゃなく、本当に実在する女の子だったんだ・・・)
「・・・」
石橋は、和人が精神体でエルフィアに行っている時に、ちょうど居合わせたことがあった。そして、真紀に尋ねたことを思い出していた。
「地球の科学や技術、そしてなにより人類の精神を進化させるための大変重要なキーを握ってる人物なの。彼女は自分の精神をあんな風に飛ばしたり、逆に他の人間の精神を飛ばしたりする特殊な能力を持ってるわ。彼女の存在は、そういうことで日本政府から極秘に扱われているの。日本に呼んでくるためにね。それで、日本における主なコンタクト窓口が和人なの」
一方、石橋はユティスに魅入られていた。
(キレイ・・・、とっても。可愛くて、スタイイルも素晴らしいわ。でも、なんて優しい顔をしてるの・・・?これは、作り笑顔なんかじゃない。心の底から湧き上がってくる本物の笑顔だわ・・・)
ぺこり・・・。
ユティスは石橋と目が合うと深く礼をした。
ぺこ。
石橋も頭を下げた。
石橋は不思議な気持ちだった。普通は自分の恋敵である。嫉妬に怒り心頭、ユティスを八つ裂きにして、とう感情が石橋を支配してもなんら不思議はなかった。しかし、石橋にはそういう感情は湧いてこなかった。ただ、無性に不安になっていた。
「と、言うことで、いい、みんな?ユティスとは仲良くやってね。それと和人、あなたがユティスにいろいろ教えてね」
真紀の言葉がユティスの紹介の終わりを告げた。
「あ、はい・・・」
(え・・。和人さんが、ユティスさんと一緒に・・・?)
とは言え、石橋は目の前の二人に不安がいっぱいだった。
「おーっと、言い忘れるところだった。今週の金曜にユティスの歓迎会をする。6時半ごろからだ。全員参加、いいな?」
「はぁーい」
「うーす」
「はい」
俊介の一言で、ユティスの歓迎会は金曜日に開催が決まった。
その翌日だった。
「入社早々、宿泊出張させるだとぉ?」
「仕方ないじゃない、俊介。ユティスの日本国籍取得にあと3日かかるんだってば。わかんないの?」
「そりゃ、出張は認めたが、入社翌日に泊りがけ、しかも和人と二人・・・。どんな噂が立つか、考えるだけでも冷や汗が出てくるぜ・・・」
「とにかく、あなたから指示しなさいよ。和人もユティスもマーケ担当なんだから、あなたの部下だわ」
「へいへい。了解しましたよ、姉貴」
「和人、ユティス」
俊介は和人とユティスを自席に呼びつけた。
「はい、なんでしょうか?」
「二人とも、金曜日まで一緒に出張だ」
「出張・・・、ですか?」
ユティスはポカンとした。
--- ^_^ わっはっは! ---
「仕事でね、お泊り旅行することだよ。ユティス」
俊介がにやりとして、ユティスに解説した。
「お泊り旅行・・・。和人さんと一緒に・・・ですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
ユティスは和人と見合った。
「リーエス」
「どこへ、なにをしに?」
--- ^_^ わっはっは! ---
和人は俊介を見た。
「こらこら。まずは、聞いてくれよ」
「はい」
「これは、会社、そして日本政府がユティスとSSの受け入れ準備期間を確保するための処置だ。会社はともかく、ユティスは、政府にとってあまりにも重要な人物だし、かつ、予想外に早く現れたんで、受け入れ準備がほとんどできていない。その間、和人が休み続けたら、変に勘ぐりを入れるやつらが出てくる」
「だったら、事務所にユティスと一緒に出てくれば・・・」
「石橋の目の前で、堂々、いちゃつくつもりか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そ、そんな、いちゃつくだなんて。挨拶だけですよ・・・」
「挨拶?」
「毎日のご挨拶を、してはいけないのですか?」
「もちろん、いいにきまってるさ」
俊介は不安そうにユティスを見た。
「なにか、ありますか?」
「んんっ?挨拶って、そのぉ・・・、抱擁して、接吻とかじゃないだろうな?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「どこか変でしょうか?」
ユティスは当然という顔をした。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あ、あの、ユティスさぁ・・・」
「あー、もう、いい。ユティスが和人、どっちか一人にすると、怪しまれる」
「どうすれば、いいのですか?」
「まぁ、オレを含めて全員にすりゃ、問題ないだろうな」
「全員にですか?」
「そう、ここ、ここ」
俊介は唇を突き出した。
「きゃ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「俊介!」
きっ!
真紀は俊介を睨んだ。
「わははは。冗談、冗談」
「リーエス。新人ですものね。毎朝、みなさんのほっぺに、ちゃんとご挨拶しますわ」
--- ^_^ わっはっは! ---
ユティスはにっこりと微笑んだ。
「ユティス!」
「わはは・・・」
「冗談になってません!」
「うふふふ」
ユティスは気にもしてない様子だった。
「ユティス、事務所にいるだけだと、きみも地球の日常文化を調査できんだろう。きみは、エルフィアに報告する義務があるんだろ?」
「はい」
ユティスが答えた。
「とにかく、二人して、地球文明の現地調査をしろ」
「といっても、なにを?」
「エルフィアの委員会がなにを知りたいのかは、オレは知らん。行き先は、自分たちで決めろ。人の集まるところはいっぱい文明の利器がある。出張報告は出さなくていい。それより、大いに楽しんで来い。ユティス、地球人の生の生活に触れてくるんだ」
「リーエス。アルダリーム・ジェ・デーリア(ありがとうございます)」
ユティスは俊介に微笑んだ。
「酒場に、パチンコ、競馬場に、ピンクサロン。デリバリーヘルスに、ストリップ。ソープに、変体秘密クラブ。面白いところなら、いくらでも教えてやるぞぉ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そこは、けっこうです!」
「和人、おまえに話してるんじゃない」
「はい。とてもよい機会だと思いますわ」
「却下します!」
「ユティス」
「リーエス」
俊介は和人を無視した。
「ということで、さっそく出かけてくれ」
「でも、着替えとか準備が・・・」
「すぐに取りかかれ」
「はい」
「で、朝10時から夜10時までの6時間毎の連絡を入れること。マイフォンのGPSは、なにがあっても切るなよ。いつでも、スクランブルをかけれるように、居場所をリアルタイムでモニターさせてもらう。政府の警護スタッフが、まだ確保できてないようだからな」
「わかりました」
「そして、スマホのバッテリーは必ず毎日チェックし、切らさないようにしろ」
「了解です」
「和人、宿や食事は、セキュリティが第一だ。けちって、変なところに泊まるなよ。少々高いところでもいい。ユティスが好むなら、それをためらうな。領収書は全部もらってこい。じいさん、いや、政府に請求してやる」
「了解」
(あは。これは、滅茶苦茶ラッキーかも・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
和人はウキウキ気分だった。