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120 授業

■授業■




和人は尊敬の眼差しでユティスを見つめた。


「エルフィア人は、みんな善人なんだね」


「リーエス。少なくとも、地球人も含めて、初めから悪いという人はいませんわ。自己中心的な性悪説に基づいて、他人はみんな敵という考え方。必ず損をしないようにという等価交換の考え方。財という概念を具現化するお金という経済システム。そして、勝利者は一人、権利は勝者のみが独占する、ということを認める、ゼロサムゲームの過度の競争社会。そして、いかに自分の欲望を隠して、他人を利用し、目的を達成するかということ。個人責任の追及を逃れるために利用されるヴァーチャル人間である法人。目的指向型アソシーエーション社会。これらが、互いに自分勝手なシステムを正当化し、加速化してしまうのです」


「悲しいね、ホントに・・・」

和人は悲しくなった。


「奪うために戦うことも、正当防衛と称して戦うことも、侵された権利を主張し、抗議することも、それは、みな、相手を悪と決め付ける攻撃の一つの姿です。善と悪、二元論に基づき、戦うことしか考えないのでは、カテゴリー3にはとても進めませんわ」


「それ、まさしく地球そのものだよ・・・」


「和人さん。悲観的におなりにはならないで。どんな世界も一度は通る苦しい過程です。長いスパンで観る必要があります。それだからこそ、それを克服するための精神的、感情的、教育や訓練が必要となり、文明促進支援が、重要となるのです」


「わかったよ。それには、自ら気づいて、地道な精神的教育が必要ってわけだね」


「リーエス。いくら、わたくしたちが文明促進支援を差しあげたところで、自ら気づいて自律していただかなければ、たちまち失速してしまいます。カテゴリー1の世界には、そういう意味で、まだまだ、わたくしたちが支援できるだけの自律的な心の素地がありません。テクノロジーを与えてしまった途端、その方たちは努力を止め、さらに、より高度なテクノロジーを欲しがるだけです。そして、自己中心的な要求はもっと激しさを増します。結果、奪い合いは留まることを知らず、益々激しくなり、自ら奪い合い、戦い合い、最終的には、精神に不釣合いなテクノロジーで自らも滅びてしまいます。文明は決してカテゴリー2にへは進めないでしょう。カテゴリー2以上の世界でないと、自律した推進システムを築き、それを維持し続けることができないのです」


「じゃ、どうして、カテゴリー2ならいいの?」


「一つに、カテゴリー2の世界は、宇宙に浮かぶ自分たちの世界を見て、それを知っているからです。そして、大宇宙のすべてがそういう世界の集まりであることも。もう、自分たちの幼い考えを維持できないことを悟っているからです」


「ただ、それを認めようとしない人たちも、少なからずいるよ」


「リーエス。カテゴリー2の世界には、まだまだカテゴリー1的な人々が、大勢、勢力を持ち続けてもいます。テクノロジーだけは強大になり、周辺の時空に影響力を及ぼすようになります。この矛盾した状態は大変に由々しき状況と言えます。地球もそうですわね?」


「リーエス・・・」

和人は言葉を繋げることができなかった。


「わたくしたちは、幸せな文明世界となれるはずの美しい星を、ただ一つだって、失いたくありません・・・」


じわぁーーー。

ユティスの声は震えその目には涙があふれてきた。


「・・・」


(ユティス、前のミッションを思い出したんだ・・・)


ぎゅ・・・。

和人はユティスの手をそっと握り締めた。


「和人さん・・・」

「ユティス・・・」


「わたくしも、一つの世界が滅びるのを目の前で経験しました・・・」

「リーエス」


「もう、二度と、あのような悲劇が、この大宇宙で起きて欲しくありません」

「ユティス・・・」


ぎゅっ。

和人はユティスの両手を握り返した。


「・・・」

二人にしばらく沈黙が訪れた。




和人は、しんみりした空気を変えようと、話題を変えた。


「ところで、エルフィアには学校とかあるの?」


「リーエス。でも、みんなが一同に集まって、一日中、一緒に同じ授業を受けるというような画一的なものではありませんわ。教育は、すべての人が、その人に合ったものを望むだけ、時間をかけて受けられます」


「どんなことを習うの?」


「科学について言えば、超時空とエネルギーへの理解に基づくことを覗けば、地球とさほど変らないと思います。一方、感情、精神、理性、そういう心理的なものは、早い段階に、特に時間をかけてします。自分自身を理解することは、重要な位置づけにあります」


「まず、自分自身か・・・」


「リーエス。自分を理解し、自分を思いやることは、とても大切です。自由気ままに甘やかすということではありませんけど。他人はその次です」

「そういうことか・・・」


「リーエス。うふふ。先ほど言いましたが、通常の生活に必要なことはすべてシステムがしてくれます」

「だから、たっぷり時間が持てるんだね?」


「リーエス。労働は、お金を稼ぐものではありません。人間が最低限の体と精神の健康を保つため、そして社会に参加し、自己を確認する喜びを得るためにあります。でも、それを意識する人はいませんわ。自分が望んでしていることですもの。全てがボランティアです。義務ではありません。わたくしは、セラピスト、兼、ヒーラーです。人々の精神や心から不安や恐怖を取り除き、癒すことが喜びなのです。人々の心や精神を癒せることで、わたくし自身も癒されます。素晴らしいお仕事に携わっていると思っていますわ。それに、エルフィアの行っている他文明世界の支援活動には、欠かせない役目です」


「どうして、文明促進支援に、それが欠かせないの?」


「人々が、わたしたちや文明そのものに不安や恐れを持っている限り、どんなに素晴らしいお話をさしあげても、受け付けてはくれませんもの。まずは、ちゃんとお聞きいただける心の素地を準備することが必要ですわ」


「それで、きみはこんなに優しいんだ・・・」

「まあ、優しいですって。嬉しい。アルダリーメ・ジェ・デーリア(ありがとうございます)」


「だって、そうじゃないか・・・」

「和人さん、わたくし、ずっとずっと、和人さんを見守ります。和人さんの精神や心が、お疲れになっているのを見るのはとても辛いですから。そうなる前にわたくしが直してさしあげます」


「あ、あは、きみは、めが・・・じゃなくて、天使だね」


(危ない。危ない。また女神さまって言うところだった)


--- ^_^ わっはっは! ---


「だって、和人さんは、わたくしにとって特別な存在ですから」


「特別な存在?」


「リーエス」

ユティスはにっこり笑った。





和人とユティスはベッドに並んで座り、講義を続けていた。


「きみたち、エルフィア人は、仕事の種類で、人にコンプレックスを持ったり、人を差別したりはしないの?」


「ナナン。人間は万能ではありません。エルフィアでは、たとえ、その人がその仕事に精通して何人分もの仕事しているからといって、それを少ししかできない人を中傷することは決してありませんわ。だれもが、一生懸命やっています。その人も他の人も、自分たちの専門以外の別のことで、数え切れない人々のボランティアに支えられていることを、理屈ではなく、感情的に理解しているからです。だれもが、それをわかっています」


「どういうこと?」


「人は、目に見えない他人の手助けなしに、自分ひとりで何かをなせたということは、まずありません。エルフィアでは、たとえ一人であっても、その人に、どれだけ多くの満足感を与えたか、そして、とても重要なことですが、どれだけ多くの人に支えられたか、それで自分がどれだけ幸せに感じたか、そういうことが人々の喜びの源泉なのです。なにかを欲しいから、なにかをするという、見返りの要求、言い換えますと、価値の交換、そのためにとは考えません。そして、だれもが、それを義務として、要求したりはませんわ」


「つまり、共産主義社会?」


「ナナン。経済とは、別次元の社会です。ある意味、共産社会とはいえなくもありませんが、財とは無縁の、愛と善に基づく社会です。エルフィアでは、だれもがある程度気持ちが伝わってしまいます。本当の気持ちを隠すことはできません。本気かそうでないか、皆、たちどころにわかってしまいますわ。人々の信用はその評価に直結します。評価は各人がみんなの心で行ないます。いわゆる一般的な成績表があるわけではありませんが・・・」


「その人、一人一人に、人間としての愛と信用度が、大切なんだね」

「リーエス」


「エルフィアにも、愛や信用のない人間はいるの?」


「残念ですけど、ゼロではありません。極めてまれですが・・・。自分の実力以上の自分勝手な望みを抱きながら、自ら行動してステップを踏むのではなく、それを行うふりをして、目上の方には、いかに忠誠心があるかを演じ、正論ではありますが極論を好み、当たり前のことや小さな努力を馬鹿にして、同僚、後輩、隣人には、自分がなすべきことすら押し付けて、自分では一切しない。しかも、その方々を非難し、嘲笑し、攻撃することで、いかに自分が正当で、頭が良く、価値があるかを周りに訴え、口先だけで、たちまちすべてを得られると信じて疑わず、それが叶わないとわかれば、手のひらを返すように、破壊的手段に訴えることをためらわない。もちろん、言論、行動共に、一切の責任は取られません」


「なんともはや・・・」


「いますわ。そんな生き方をするカテゴリー1的な方が・・・」

「リーエス。いるよね、そういう自覚のない人間」


「リーエス。善なる精神や愛するということが、どうしてもご理解できない方、とでもいいましょうか。本来、カテゴリー3以上の世界には、そのような考えの人は、いるはずもないのですが、たまには、そういう人が現れます」


「彼らは、決して気づかないんだよね。自分のそういう考えや行動に」

「リーエス。知らないこと自体が悪いのではありません。知らないという自覚がないことこそ、恐ろしいことなのです」


「デルフォイの神殿にあったという、『汝自身を知れ』ってことだね?」


「リーエス。デルフォイがなにかは存じあげませんが。例えて言うならば、人を殺めてしました。しかし、人を殺めるが悪しきこととは知らなかったので、わたくしは無実です。という主張になりましょうか。地球なら、知らないで、許されますか?」


「論外だね」


「リーエス。そのような、心の貧しい人は、エルフィアだけでなく宇宙のどんな世界においても、もちろん、地球でも、決して信頼されないでしょうし、歓迎、優遇されることもないでしょう。そうではないのですか?」


「大いに賛成だね」

「うふふ。和人さんは、とてもご熱心ですわ」


「えへ。長話しちゃって、ごめんよ」

和人はユティスに謝った。


「いいえ、地球の現状について、とてもよい意見交換ができましたわ。わたくしも、大変勉強になりました」


「そうだ。いっぱい話したから、お腹空かないかい?」

「ナナン。先ほど取りましたから」


「じゃ、ちょっと、車で出かけてみようか?」

「今からですか?」

ユティスは窓越しに外の灯りを見た。


「そろそろ授業をサボリたくなっちゃった・・・」

「まぁ!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「あのさぁ、ユティス。きみに、夜は夜で、地球の夜景も見てもらいたいんだ」

「まぁ。そういうことですか」


「気に入ってくれるといんだけど・・・」

「うふ。ご心配いりませんわ。和人さんとご一緒ですもの」


「あは。そう言ってくれるととっても嬉しいな。そうと決まれば、早速、行こうよ」

「リーエス」


「お飲み物でもお持ちしますか?」

「リーエス。冷蔵庫から好きなものを選んでよ」


「シャンパンは、ロイ・ルデレールとシャエ・エ・モンポンがありますけど、どちらがよろしいですか?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「そりゃ、どっちもダメだね。飲むんだったら、きみだけになるよ」


きょとん・・・。

ユティスは不思議そうに尋ねた。


「どうしてですか?和人さんは、どちらもお好きだったんじゃないのですか?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「あは。大好きだよ。でもね、ユティス。地球じゃ、運転する時、アルコールの摂取は重大な法律違反になるんだ。ライセンスを即刻取り上げられちゃうよ」


「まぁ。せっかく、和人さんと、車の中で、楽しめると思ってましたのに」


--- ^_^ わっはっは! ---


「そりゃ、光栄だね。でも、オレはダメ。きみだけでも楽しんでよ」


「そうですか。残念ですわ。わたくしだけいただくなんて、楽しくありません」


「申し訳ない。地球には、法律を作る下戸がたくさんいてね、彼らが、そう決めたんだよ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「本当ですか?」

「ウソ」


「まぁ!ご冗談ばっかし」


「あははは」

「うふふふ」


「仕方ない。ミネラルウォーターでも買いに、コンビニに寄ってくか」

「リーエス」


二人は車に乗り込んだ。

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