011 単語
■単語■
次の日、和人は自分の卒業した大山電子専門学校の進路担当主任を訪問していた。
こんこん・・・。
「どうぞ」
「失礼します」
「おや、宇都宮か?」
にこにこっ。
「ええ、境先生。お久しぶりです」
「1年ぶりか?今日はなんの用だ?」
「実は、オレの会社なんですが人手不足でして・・・。社長が先生にお会いしたいてことなんです・・・」
「新卒を、うちでリクルートしたいってことか?」
「そうなんです」
「・・・」
「だめですか?みんな大企業希望とか・・・」
「いや、当てがないわけではない。きみの会社、セレアムってのは一風変わった会社だったよな?」
「はい」
「独立起業を薦めているとか・・・」
「ええ・・・」
「そういう自由な雰囲気、サラリーマン的ではない部分の魅力を求めている人間もいるぞ」
「ホントですか?」
「ああ。実は、宇都宮、おまえの会社のことはけっこう評判になっていてな」
にたっ・・・。
進路主任はにんまりと微笑んだ。
「ええっ?」
「それが、女子に多いんだ。そういうのが・・・」
「女子?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「不満か?」
「いえ、関心を持ってもらえてるんなら嬉しいんです。ただ、やっぱりかって感じで・・・」
(真紀さん男子学生を採りたいって思ってるんだもんなぁ・・・)
和人は複雑な気持ちを表情に出していた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「男子学生が欲しいのか?」
進路主任はそれを察した。
「はい。うち、女所帯なもんで・・・」
「しかしなぁ。今時の女子ってのは支配されるのにウンザリしてるらしんだ。男にも、親にも、会社にもな・・・」
「なるほど・・・。肉食系ってことで?」
「どうかなぁ。とにかく、おまえがセレアムに入ったことはちょっと評判でな。宇都宮に会って詳しいこと聞きたいって女子学生が、何人かいるんだ。それも、結構可愛いのがな」
にたっ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「げげ・・・」
「喜ばんのか?」
「そりゃ、光栄なことで・・・。でも、信じられません・・・」
「おまえんとこの女社長、なんて言ったっけかな・・・」
「国分寺真紀ですが・・・」
「その真紀さんとやらに伝えてくれ。会社説明会の件承知したと」
にっこり。
進路主任は和人に微笑んだ。
「あ、ありがとうございます、境先生!」
「ああ。また、いつでも遊びに来いよ」
「はい」
しゃーーーぁ。
ドアを抜けて、和人は事務所に戻った。
「ただいま。今、帰りました」
「おかえりなさーーーい」
いつもの事務所の女性たちの出迎えコーラスが、和人には心地よかった。
和人が事務所に戻ると真紀が待っていた。
「その顔は、うまくいったようね?」
「はい」
にこっ。
「こっちに来て」
ひらひら・・・。
真紀は和人を手招きした。
「早速、報告しなさい」
「えー。・・・ってことで、来年春に卒業予定の学生が何人かが、うちに興味を持ってるとかで、女学生が何人か詳細を聞きたいんだそうでして・・・」
「いいじゃない。上々よ。よくやったわ、和人」
「どうも」
「で、いつ行くんだ、姉貴?」
真紀のそばで聞いていた俊介が、姉に目配せした。
「来週あたりは、どうかしら?」
「オレから先生にアポ入れしますか?」
「そうね。まずは、こっちの趣旨をちゃんと伝えたいわね」
「了解です」
そう言うと、和人は、席に戻っていった。
「姉貴、和人の入れたキーワードなんだけど・・・」
和人が席につくのを確認して、俊介は真紀に耳打ちした。
「なぁに?」
「あいつは、いつも使ってるのワードは6文字じゃないといってたよな?」
「そうだけど?」
「それに、『オレ』てのを2文字だといったよな?」
「ええ。なにか思いついたの?」
「ああ。和人のヤツ、漢字で文字数をカウントしてないか?」
「どういうこと?」
「だから、『6文字以上』て、オレが言ったのは半角英数字のことだ」
きらり。
俊介の目が光った。
「じゃ・・・」
「そういうこと。漢字なら3文字以上・・・」
「もう一度、聞き直した方が、いいわね」
「よし。もう一回、聞き直そう」
「ええ」
俊介は和人の席に近づいた。
「和人、ちょっといいか?」
「ええ。常務」
「あのキーワードの件だが、オレも聞き方が悪かった」
「はぁ。それで?」
「6文字以上ってのは、半角英数字換算だ。お前が5文字と言ったのは、ひらかな漢字換算でだろ?」
「はい・・・」
「あれかなぁ・・・。ひ、ふ、みい、よぉ・・・。十分に6文字以上いってるよなぁ・・・」
俊介はある単語が気になっていた。
「まぁ、そういうことになるかも・・・」
和人もある程度予感していた。
「で、それはなんだ?」
「え、ここで言うんですか?」
つかつかつか・・・。
そこに、真紀が足早にやってきて、俊介を睨んだ。
「声が高いわよ、俊介。みんなの注目を集めちゃったじゃない。バカ」
「バカとはなんだ。バカとは?」
「ん、もう、いいから、あなたは引っ込んでなさい」
「わーった。わーった。姉貴様」
「和人、後でそれを書いて、わたしのところに持ってきて。いい?」
ぱん。
真紀は、メモ用紙を和人の机で叩いた。
「あ、はい・・・」
「必ずよ」
「はい・・・」
事務所では、そんな3人のやり取りは筒抜けだった。
「あの真紀さんのおっしゃってたキーワードってなんですか?」
石橋が茂木に小声で言った。
「さてね。なんか重要なことでも起きてるのかしら?」
「システムにアクセスできなくなっちゃったとかですか?」
「そんなところね。問題は、なんのシステムかってこと」
「うちの会社で、そんな秘密のプロジェクトやってるんですか?」
「やってるんじゃない。二宮の持ってくる仕事も相当怪しいんじゃないの?」
「確かに。『ラブリー』とかいう萌え系とか、『ビーナス』とかアダルト系のマーケティングは、ホント勘弁して欲しいわよねぇ」
岡本もからんできた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「二宮さん、そんなところのお仕事をもらってきてるんですか?」
にやり。
「石橋、やりたいんでしょ?」
「ち、違います。二宮さんのお客さまなんて・・・」
石橋は岡本に抗議した。
「はーーーん。XXさんの客なら、いいんだぁ・・」
「な、なんのことでしょうか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ラブリー、二宮から放そうかと思ってんだけど・・・」
開発マネージャーの岡本は部下に言った。
「岡本さん、ホントに怪しいんですか・・・」
「わたしにだって謎よ。今は・・・」
「はぁ・・・。ユティス、エルフィア、カテゴリー2・・・。はぁ・・・」
その日、和人は溜息をついてはユティスの話に思いを巡らせ、仕事は上の空だった。
「和人のヤツ。また、えらく沈んでいるな」
(まずいな。このままじゃ、和人、キーワードを思い出さんぞ)
俊介は和人の異変に気づくと、二宮へ合図した。
「二宮、今日は和人を頼む」
「うーす」
「ここんとこ、和人、疲れている感じだからな」
「うす。常務、まかしといてください」
「オレは今日は先客があるからな。あ、領収書は必ずもらってこいよ」
「了解っす」
「それとな・・・」
「うす・・・」
俊介は辺りを見回して、二宮の耳元で囁いた。
「和人には既に言ってあるが、キーワードを思い出したかどうか、聞いてくれ」
「キーワードっすか?」
「ああ。キーになる特定の文字列だ。おまえにもわかるな?」
--- ^_^ わっはっは! ---
俊介は真面目に答えた。
「そんな解説じゃなくて、なんのためにですか?」
「とにかく、聞いてくりゃいいんだよぉ」
俊介は、適当に誤魔化した。
「うーっす」
そして夕方になり、二宮が和人のところにやって来た。
「和人、社外で緊急ミーティングだ。さっさと片付けろ。行くぞ」
「先輩と打ち合わせって、なにをです?」
「仕事の効率化について、おまえとアイデア出し合うようにと、常務のお達しだ」
「常務が?」
和人は俊介からなにも聞いていなかった。
「打ち合わせってのはなぁ、つまり今から飲みに行ってこいってことだ、ニブチンめ」
和人は時計を見た。
「まだ、5時前ですよ・・・」
「オレの腹は6時なんだよ。デジタル男!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「常務、おまえのこと心配してるぞ・・・」
「どうも・・・。ご迷惑をおかけして。先輩こそ稽古いいんですか?」
「んなことはいい」
(今日は、イザベルちゃん、5時からの女子部に出てるはずだから、夜の第3部には絶対に来ない。よし・・・!)
--- ^_^ わっはっは! ---
「おら、行くぞぉ」
二宮はさっさとカバンを持った。
「車は?」
「事務所においてけ。どうせ電車で帰れるんだろ?」
「そりゃそうですが・・・」
「辛いビジネスマンには気分転換する会議が必要なんだよ、毎日」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あ、はい・・・」
二人はそさくさと机の上を片付けた。
(二人して、出かけるんだ・・・、和人さん)
石橋もちらっと二宮を見て自分も行きたそうな顔をしていた。
(いいなぁ、二宮さん。いつも和人さんと一緒に居酒屋とか行けて。羨ましい・・・)
真紀はそんな石橋を見て、無性に彼女を助けてやりたくなった。
「石橋・・・」
しかし、俊介が真紀を制した。
「おっと。止めとけ、姉貴。今日は男同士の話だ。女は首を突っ込まない方がいい」
「変な理屈ね?」
「いいんだよ。男に理屈は必要ない。必要なのは屁理屈だ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「屁理屈。飲みねぇ。ふふふ。あなたそのままじゃない!」
「うるさい・・・」
「はい、はい」
がらぁーーーっ。
二宮は和人と立ち飲み屋に入った。のれんをくぐると、すぐさま威勢のいい声が飛んだ。
「へい、らっしゃい!」
「ここで、いいよな?」
「先輩の奢りだから、オレは構いませんが・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「違うぞ、会社の経費だ」
「じゃ、先輩は払わなくていいんですね?」
「そうだ。常務からのお達しでな・・・」
「どうりで、生き生きしてます・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ん、なにか言ったかぁ?」
「なんでもないです」
店員が寄ってきた。
「なんにしましょ?」
「大ナマ2つね。それに盛り合わせ2人前」
「へい、喜んで!」
すぐに二宮はオーダーした。
「はい、大ナマ2ちょ」
でん、でん。
店員は、大ジョッキを二人の目の前に置いた。
「ありがと」
「あは。まずは乾杯といこうか?」
二宮は軽く笑った。
「はい。先輩」
かちん!
ぐいっ、ぐいっ・・・。
「ぷはぁ・・・。うまいなぁ、定時前に飲むナマは!」
二宮は和人に笑いかけた
--- ^_^ わっはっは! ---
「そうですね」
どん。
「へい、盛り、塩で2人前!」
店員が焼き鳥を2人前を二人のテーブルに元気よく置いた。
「和人、どうだ・・・?最近仕事がしんどいとか・・・?」
「そういうわけではなくて・・・」
「言ってみろよ。相談にはならないかもしれないけど、聞くだけはできるぞ。ちっとは気が晴れるかもしれないだろ?」
二宮は心配そうに和人を見た。
ぱくっ。
もぐもぐ・・・。
ぐびぃ・・・。
でん。
「やっぱ、塩だよなぁ・・・。な、和人?」
二宮は幸せそうな顔に戻った。
(本当に心配してくれてんのかなぁ、この人・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
「ありがとうございます」
「おう。おまえも喰えよ」
「はい」
エルフィアのエージェント控え室で、一人の娘が楽しそうに鼻歌を歌っていた。
「ルン、ルン、ルーン・・・」
「おやおや?ずいぶんと楽しそうじゃないか、ユティス?」
優しそうな顔をしたユティスと同じくらいの背丈の若者が、そこに入ってきた。
にこっ。
「リーエス(はい)、キャムリエル。地球からメッセージが届きましたのよ」
「地球?」
「わたくし、新しい世界を見つけましたの」
「きみがかい?」
「リーエス(はい)」
「それじゃ、新規のコンタクティー候補ってことだよね?」
「リーエス(はい)」
「で、そのコンタクティー候補がきみのメッセージを承諾して、応えてくれたってわけかい?」
「リーエス(はい)」
「そいつはよかった。みんな心配してたんだ。前の件があるからね」
「前の件・・・」
ユティスは、少し寂しそうに言った。
「あ、ごめん・・・」
「うふふふ。いいんですよ。もう、あれから十分に時間は経ちましたもの」
「本当に大丈夫?」
「リーエス(はい)」
にこにこ・・・。
「やっぱり、きみはそうして微笑んでる方が似合ってるよ」
「どうもありがとうございます、キャムリエル」
「ぼくの方は、残念ながら、当てがはずれちゃって、エージェントのコンタクトの許可が下りなかったんだ。委員会にカテゴリー1だと判断された。でもって、ぼくの現地サポート派遣もなしというわけ・・・」
「それはお気の毒に・・・。ごめんなさい」
「いいんだよ、ユティス。きみが元気になってくれて、嬉しいよ」
「パジューレ(どうも)」
「あの、ユティス・・・」
「リーエス(はい)?」
「んーと、そのぉ・・・」
「なんでしょう?」
ユティスは、にっこり微笑んだ。
「いや・・・。やっぱり、きみはすごくキレイだよ・・・」
「まぁ、嬉しい。ありがとうございます」
「うん・・・。じゃ、ぼくは報告があるから・・・」
「リーエス(はい)」
「またね」
「リーエス(はい)」
このエルフィアの若者は、エージェントとコンタクテーの安全を守るのが役目だった。エージェントが支援世界に派遣される時、一緒にそこに赴くのであった。
「はぁ・・・」
「キャムリエル?」
「リーエス(うん)・・・」
「ユティスのことね?」
「うん、エルゼ姉さん・・・」
「はっきり言うけど、今のあなたではユティスは高嶺の花よ」
「そうだろうな・・・」
キャムリエルは肩を落とした。
「理事の有力者のトルフォ、知ってるでしょ?」
「リーエス(うん)」
「彼が、ユティスを追っかけているの。そりゃもう大変な噂よ」
「知ってるよ・・・」
キャムリエルはやるせないように姉を振り返った。
「わたしが言いたいのはね、トルフォはあらゆる相手に容赦はしないってことよ。あなたが心配なの」
「姉さん、どういうこと?」
「身震いするくらい恐ろしいことになるわ」
「なに?言ってよ、姉さん・・・」
「早い話が、ユティスに近づく男性には命の保証をしないってこと。あなたも、名乗りをあげたら・・・、その対象よ・・・」
「そ、そんな、乱暴な。エルフィアはカテゴリー4で自由恋愛じゃないのかい?」
「ええ。でも、トルフォはエルフィア人に違いないけれど、心はカテゴリー1よ」
「それを知ってて、みんな黙って見てろっていうの?」
「いいえ。エルドは違うわ」
「エルド、最高理事のエルドが?」
「リーエス(そうよ)。エルドは口に出して言わないけど、トルフォがユティスに相応しいとは思ってないわ。ユティスの幸せのために、トルフォに真正面切って勝負を挑むような男性を待ち望んでいると思うの」
「そうか・・・」
「リーエス(ええ)。彼は、ユティスがトルフォを連れ合いに選ぶなんて、微塵も考えてはいないはずよ。キャムリエル、あなたにその勇気はあって?」
「姉さん・・・」
「こういうことは気持ちの問題なの。あなたがどのくらいユティスのことを望んでいるかではなくて、どのくらい彼女に笑顔をしていてもらいたいかよ・・・」
「笑顔を見ていたいか、なの?」
「リーエス(そう)。ユティスがみんなと幸せそうに微笑んでいる。もちろん、あなたも含むのよ。それって、あなたにとって重要なことじゃなくて?」
「そりゃ、そうだけど・・・」
「ただただ、ユティスの幸せを望む。そういうことよ」
「できるかな・・・」
「キャムリエル。あなた正直でいいわ」
「姉さん、そんなこと言ってもらっても、ちっとも嬉しかないよ」
キャムリエルは姉を恨めしそうに見つめた。
「もし、ユティスと今以上に仲良くなりたいなら、忘れないことね。もっと、もっと、ユティスを好きになって、愛することよ。欲しがるんじゃなくて、ひたすら、彼女が笑顔を振りまいている姿を望むことね。それしか、ないわ。それができないなら、あなたはまだまだユティスを愛する資格がないってこと。わたし思うけど、ユティスのような娘は、エルフィアにだってそうそういるわけじゃないわ。ユティスと連れ合いになりたいなら、覚悟しなさい」
「連れ合いだなんて・・・」
「じゃあ、今までどおり、お友達のままでいいの?」
「そりゃ、もっと・・・」
「あは。キャムリエル、あなたはとってもステキよ。あと、ほんのちょっと勇気を持つことだけ。恐れてはだめ。ユティスの笑顔を見ていれる幸せについて、トルフォと対決できることよ。気持ちで負けていちゃだめ。女性はね、たとえどんな不利な状況であろうと、自分のために真にそういう勇気を持った男性には、キュンとくるのよ」
「ほんとなの、姉さん?」
「失礼ね、キャムリエル。わたしも一応女性なのよ」
「そうだね。あはは」
「ふふ。そうだねは、ないでしょ?」
「姉さん、恋人いるの?」
「こらっ!」
ぽかり。