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116 晩餐

■晩餐■




一通り盛り付けも終わった時だった。


ぴん、ぽーーーん。


「あれ。もう6時だっけ?」

「リーエス。真紀さんがいらっしゃる時間ですわ」


ぴん、ぽーーーん。

「はぁーーーい」


どたばた・・・。


「こんばんは。和人、いるの?」

「は、はーい。すぐ出ます」


かちゃ。

玄関のドアを開けると、国分寺真紀が女性物の着替えを一式そろえて現れた。


「あ・・・」

真紀は、エルフィアの正装にエプロンをしたユティスに、見とれてしまった。そして、彼女をいっぺんに気に入った。


「あ、あなたが、ユティス・・・なの?」


にこっ。

「リーエス」


「なんて・・・、なんて、ステキなんでしょう・・・」

「まぁ、嬉しい。アルダリーム・ジェ・デーリア。真紀さん」


ぽかぁーーーん。

真紀は、口をあんぐり開けたまま、しばらく動くこともできなかった。


ぺこっ。

ユティスはひざを曲げて優雅に礼を述べた。


「あなたのようなステキな女性は、正直、見たことないわ・・・」

「まあ、随分と誇張されますのね?」

「とんでもない、素直な感想よ」

「でも、わたくしは、エルフィアではごくごく平均的なんです」


ぷるぷるっ。

真紀は真剣に首を振った。


「冗談でしょ?あなたよりキレイな女性はいないわ。それに美しいだけじゃない。とっても素直で明るくて、大らか・・・」

「そんなぁ・・。いくらなんでも、それは褒めすぎですわ」

ユティスは恥らった。


「本音。わたしも、だてに社長してるわけじゃないわよ。一目でその人間がどういう人かわかるんだから・・・」

「まあ、それは喜ぶべきお言葉ですわ。心から感謝申しあげます。それに、真紀社長、あなたもとてもお美しい方です」


「わたしにお世辞はいいのよ」

「本心ですわ。それに、わたくしは、あなたのこと、とっても好きになれそうです」


にっこり。

ユティスは微笑んで真紀を見つめた。


「うん・・・」

真紀もじっとユティスを観察した。


「ウソでも社交辞令でもないわね。あなた、真正直なのね」


ユティスは真紀に微笑んだ。

にこっ。

「アルダリーム・ジェ・デーリア(感謝しますわ)。パジューレ(どうも)」


「はあ・・・」

真紀はため息をついた。


(石橋・・・、もし、和人が真剣にユティスを好きだとしたら、分が悪すぎるわ・・・)


「あの、どうかしましたのでしょうか?」

ユティスは真紀にきいた。


「いえ、なにも・・・」


ささっ。

「真紀さん、玄関じゃなんですから、お上がり下さい。

和人は真紀にスリッパを差し出した。


「ありがとう、和人」

真紀は床に上がると、和人の方に向き直った。


「あなた、これから、ここでユティスと暮らすわけよね?」

「はあ・・・」

「はあ、じゃないでしょ?大丈夫、理性は?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「一応、そのつもりです」

「真紀社長さん、そのことでしたらご心配はいりませんわ」

「いらないったって、和人は男なのよ。ユティス」


--- ^_^ わっはっは! ---


「し、社長、まるで男を犯罪者扱いしてませんか」

和人は心外だという顔をした。


「なんといっても、和人も男、オオカミ一族だからね。安心しちゃだめよ、ユティス。ユティスを襲ったらただじゃおかないわよ、和人」

「しませんって!」


「ユティス、和人には気をつけてね、特に夜なんか」


--- ^_^ わっはっは! ---


「は、はい。真紀さん、どうぞ、こちらへ」

「ありがとう」

ユティスの案内で3人はリビングに入った。


「それから、和人。いろいろ考えた結果、ユティスは、正式にうちの社員として登録することにしたわ」

「はぁい・・・?」

和人は訳がわからなかった。


「あなたとユティスは一時だって離れちゃいけないのよ。俊介と相談したの。いつも事務所でも一緒にいるってことなら、いっそ社員にした方がいいってね。ユティスは超VIP。和人もエルフィアからすると、超VIPってことでしょ?」

真紀は二人に言った。


「そういうことになるかなぁ・・・」

「自覚ないわねぇ」

真紀は心配そうに数とを見た。


「それでだけど、事務所では大っぴらにいちゃつかなでよ、二人とも」

「いちゃつく・・・ですか?」

ユティスが不思議そうに真紀を見た。


--- ^_^ わっはっは! ---


「だから、他の人の前で、甘えたり、お触りしたり・・・、なにしたり・・・。もう、なにを言わせるのよぉ、和人!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ええ、オ、オレですかぁ?」

寝耳に水の和人はびっくりした。


「女の子のせいにするつもり?」

「そんなぁ・・・!」


--- ^_^ わっはっは! ---



「さ、どうぞ、おかけ下さい」

和人はソファーに真紀を案内した。


「リーエス。和人さんは、エルフィアの国賓です」

「ほら、みなさい。二人を離れ離れにしてしまうと、セキュリティの不安も倍になるわ。ユティスにとってもミッション遂行ができなくなる。つまり、和人はユティスと行動を共にするのがベストなわけ。わかったぁ?」


「リーエス」

ユティスがにっこりと答えた。


「それ、了解ってことでいいのね?」


「リーエス」

和人も照れくさそうに答えた。


「地球とエルフィア、両政府公認で二人とも同棲ってわけか・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「社長、なんかひっかかる言い方ですね・・・?」

ユティスはぴったりと和人に身を寄せて座っていた。


「はぁ・・・」

真紀は二人を見て溜息をついた。


「まるで新婚さんね。わかったわ。なにもないようにって、期待する方が馬鹿だわ。ユティス、和人との相性は99.99%なんでしょう?」


にこっ。

「リーエス。真紀社長さん」


「そうだわよねぇ・・・。魂の伴侶でもなきゃ、説明がつかないわ」


(魂の伴侶?なんのことだろう?)


「そういうことなのかなぁ・・・?」

真紀は独り言を言ってしばらく考えていた。


「さっきのオオカミ宣言は撤回ね。和人、プライベートであなたたちがどんな風になっても別に驚かないわ。けど、地球のことは、絶対に忘れては困るわよ。それに、エルフィア全権大使のユティスを守る最後の砦が、あなたなんだからね。それも忘れちゃだめ」

真紀は念を押した。


「はい。わかりました」

「それから、ユティス。あなた、和人のこと・・・、好きなの?」


ずどーーーんっ。

真紀はユティスに直球をぶつけた。


(ストライーーーック!)


--- ^_^ わっはっは! ---


「リーエス・・・」


かぁーーー。

ユティスはウソがつけなかった。頬を染めながら、ユティスは真紀を見た。


「ユティス・・・。えへへ・・・」

和人はユティスを見た。


かぁ・・・。

そして、和人もみるみる赤くなっていった。


「やはり、そうね・・・。和人、あなたはユティスの弱点だわ」

「弱点?」


「そうよ。人間、一番の弱点は自分自身ではなくて、好きな人。そして、好きなもの。好きなこと。あなたになにかあったら、ユティス自身も危なくなる。それだけは自覚しておきなさい。ユティスの身の安全と同じく、自分の身の安全にも注意を怠らないでよ。あなたが狙われることになったら、一番やっかいだわ」

真紀は噛み締めるように言った。


「リーエス」

「あのね、和人。わたしには、はい、と言いなさい、はい、と」

「はい・・・。リーエス」


--- ^_^ わっはっは! ---


「バカ。まったく強情なんだから。あはは・・・!」

真紀は吹き出した。


「うふふ」

「えへへへ」

和人もユティスも笑い出した。


「あら、スープ、冷めちゃったわね。ごめんなさい」

真紀はテーブルの料理に目をやった。


「いい香り・・・。あなたが作ったの?」

「はい。半分くらいですけど。後は、和人さんと一緒にしました」


「ふうーーーん。ホントに仲がいいわね」


にやっ。


--- ^_^ わっはっは! ---


「そうだ。真紀社長も、お食事していきませんか?」

和人はテーブルに並んだ料理を指した。


「ありがとう、和人。でも、今日のところは遠慮しとくわ。これから行かなくちゃいけないところがあるの。社長業というのはとにかく忙しいのよ。それに、せっかくユティスと水入らずのところを、邪魔したくないし。またの機会にするわ。じゃぁね」


「もう、お帰りになるんですか?」

「ええ。じゃ」

「失礼します」


くるり。

真紀は靴をはき終えると、二人を振り返った。


「いい、和人。ユティスとは絶対に離れてはだめよ。くれぐれもユティスをよろしくね」

「わかりました」


「ユティス、今日はお会いできて最高に光栄だったわ」

「はい、わたくしもです、国分寺真紀社長さん」


「うふ、真紀だけでけっこうよ」

「はい。では、アステラム・ベネル・ナディア(おやすみなさい)、真紀さん」


ちゅ。

ちゅ。


ユティスは、真紀の頬に自分の頬を当て、優雅に感謝の意を表した。


「おやすみなさい」

真紀は帰っていった。




和人とユティスは一緒にテーブルに着いた。


「肉は一切使ってないからね」

「リーエス」


「うわぁ、きれいな盛り付け。まるで、ミシュロンの5つ星レストランみたいだよ。ユティス、きみのセンスは最高だね」


ぐぅ・・・。

和人の腹が鳴った。


「ウソじゃないだろ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「うふふふ。よぉーく、わかりましたわ」


「あはは。こりゃ、失敬」

「うふふ。お腹の鳴る音が、エルフィアまで聞こえそうです」


--- ^_^ わっはっは! ---


「あははは、そいつはいいや。アンデフロル・デュメーラが中継してくれるさ。エルドも来たがるよ、きっと」

「そうですわね。うふふふ・・・」


「あの、エージェント・ユティス。エルドにそうお伝えした方が、よろしいでしょうか?」

突然、アンデフロル・デュメーラが割り込んできた。


「まぁ、アンデフロル・デュメーラ。あなたもお腹が空いてきたの?」

「いいえ。そのジョークはエルドが喜びそうなものと思われますので」


「ははは。きみも、冗談を理解できるってことなんだね」

「リーエス。コンタクティー・カズト」

「じゃ、下品にならない程度で伝えてよ」

「リーエス」


「さぁ、シャンパンを抜くよ」

和人は、この日のために買ってきたシャンパン、それもとっておきのロイ・ルデレールのクリステアを1本持ってきた。


「クリステアを開けるよ。きみの歓迎用にとっておきの一本さ」

「まぁ、嬉しい!」


場所こそ、一流レストランではないが、二人にとってはロマンチックな最高の夕食が始まった。


ぽん。

和人は慎重にシャンパンの栓を明け、控えめな音を出した。


「はい、グラスをかしてごらん、ユティス」

「リーエス」


しゅわしゅわーーー。


「まぁ、きれいですこと・・・」


ユティスは、パカラ社のシャンパングラス越しに薄黄緑をした透明の泡立つ液体を眺めた。


(ハンプティ・ボガーロを真似て、ちょこっと気障っぽくいくか・・・)


「きみの笑顔に乾杯」


にっこり・・・。

ユティスはたちまち最高の笑顔になった。


「まぁ、ステキ・・・」

ぽっ。


「あはは。気障だったかな。恥ずかしい・・・」


「そんなことありませんわ・・・。わたくしからは・・・。和人さんの真っ赤なほっぺに乾杯です」


かちんっ。


和人は真っ赤になったまま、ユティスのグラスにそっと自分のグラスを合わせた。


「うふふ」

「あはは」


かちんっ。

再び、グラス同士の鳴る音が可愛らしく部屋に響いた。


「ステキな習慣ですわね・・・」

「リーエス」


「和人さん・・・」

「ユティス、きみに・・・」


澄んだ高い音がして、グラスの中でクリステアの黄金色の輝きが、細かい泡を出して踊った。


「んーん。美味しい・・・」

ユティスはクリステアを上品に一口飲んだ。


「このシャンパン、クリステアって名前なんだよ」

「そうみたいですね。奇遇ですわ」


「あは。クリステアにも飲ませてあげたいよね」

「リーエス。すぐにお気に召すと思います」

「うん。きっと気に入ると思うな」


しゅわしゅわぁ・・・。


「ねぇ、ユティス。グラスの中のシャンパンの泡がはじける音に、耳を近づけてごらん」

「リーエス」


ユティスは、そっと耳をグラスに近づけて、目を閉じた。


しゅわしゅわぁ・・・。

ぱちぱち・・・。


「どう?天使が拍手してるのが聞こえるかい?」

「リーエス。本当に天使が拍手しているような感じですわ・・・」


「きみが、地球に来たのを祝ってくれてるのさ」

「まぁ!」


にっこり。

「アルダリーム・ジェ・デーリア。嬉しい・・・」


「あは・・・」

「でも、和人さんにも拍手してるんですわ」

「そうかもね」

和人も耳をグラスに近づけて目を閉じた。


「わたくし、幸せです・・・」

「うん。オレも・・・」

二人は微笑んで見つめ合った。


「はい、どうぞ・・・」

和人は料理をユティスにまわした。


「ありがとうございます、和人さん・・・」


もぐもぐ・・・。


にこっ。

「美味しい・・・」


ユティスは和人の手料理に感心し、美味いといって上品に食べた。和人もユティスの手さばきを目にしていたので、彼女がとても料理が上手であることを疑わなかった。和人はユティスに感謝した。


「どう、お代わりは?」

和人はクリステアのボトルを持ち上げた。


「リーエス。遠慮なくいただきますわ」


(ユティス、けっこう、お酒強かったりして・・・)


ロイ・ルデレールのクリステアもムードを盛り上げるのに一役かった。


「はい。和人さんも。お代わりしてくださいな」

「うん」


しゅわしゅわーーー。


だが、ユティスが注ぐことで、舞い上がった和人は、クリステアをいつもより早いペースで飲んでいた。


「はい、もう一杯」

「うん。いただくよ」


しゅわしゅわぁ・・・。


また、ここ2、3日の緊張がとけて、和人は心地よく酔いが回っていた。


こくん。


(あ、やばい、どうにも眠くてしょうがないぞ・・・)


「それで、和人さん、わたくしが・・・」


「ふわぁ・・・」


すとん。

和人は、ユティスと話しているうちに、自然に目が閉じて眠り込んでしまった。


「うふふ。お疲れでなんすわね、和人さん」





和人が気づくと、和人の頭は、またまたユティスのひざの上だった。


「うん?」


和人が優しく微笑みをたたえたユティスの顔を認めたが、その位置がおかしいので不思議に思った。


(なんで、ユティスの顔が横に・・・?)


「お目覚めですか?」

「ユティス?え?これ、膝枕・・・」


ユティスに膝枕されていることを理解すると、あわてて和人は頭を起こそうとした。


がばっ。

さっ。


そして、ちょうど屈みこんできたユティスの唇に、和人は自分の唇を触れさせてしまった。


「あっ・・・」


完全なハプニングではあったが、この偶然が返って、二人を動揺させた。


「あ・・・」


かぁ・・・。

ユティスも顔を赤らめたが、すぐに微笑んだ。


にこっ。


「ご、ごめん・・・」

「ナナン・・・」


偶然が、二人にいやがうえでもお互いを意識させた。


がばっ。

「オ、オレ、汗を流してくるよ」

「リーエス・・・」


たまらず、和人は身体を起こすと、シャワーを浴びにバスルームに向かった。




(だめだ・・・。こんなんで、ユティスと同じ部屋で眠るなんて、とてもできないよ。オレ、変になりそう・・・)


ぷるぷる・・・。


和人は頭を振った。

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